知らないことを「ググる人」は時代遅れ…東大教授が毎日使っている「無料で高性能の検索サービス」
プレジデントオンライン / 2024年11月15日 8時15分
※本稿は、池谷裕二『生成AIと脳 この二つのコラボで人生が変わる』(扶桑社)の一部を再編集したものです――。
■仕事以外でも役立つ「回答エンジン」
「Perplexity」や「Genspark」や「Felo」を使っているでしょうか。
私は使わない日はないというほど、よく利用しています。これらは「回答エンジン」と呼ばれます。質問を投げかけると、生成AIがインターネット上のコンテンツを効率よく要約してくれます。便利で、仕事はもちろん、勉強や趣味にも大いに役立っています。
とくにGensparkは高性能なだけでなく、全サービスが無料で利用できます(いずれ有料化される可能性は十分にあります)。また、和製の回答エンジンであるFeloも高性能で、この2つが二大巨頭になるかと思います。
2024年10月末には、「ChatGPT search」という回答エンジンが実装されました。これに対抗するように、同日にはGoogleも「Grounding」という名称で、新たな回答エンジンを出してきて、熾烈な争いをしています。エンドユーザーである私は急に便利になって喜んでいます。
回答エンジンには、回答の正しさを確保するために、偽情報かどうかを確認しやすいように、根拠となる文献を提示してくれるという特徴があります。また、最近では、AI側でも自動でダブルチェックする機構を備えていることもあります。
■ネット検索と違い、最短で情報にたどり着く
結果的に、従来型のインターネット検索を使う機会が減り、一部では「ググるのは時代遅れ」と言われるようにもなりました。
インターネット検索で表示される結果は、関連のあるホームページのリストです。利用者は、そのリストのうちから「これぞ」と思ったURLをクリックして、該当するホームページを読み、また検索結果のリストに戻っては、別のホームページに飛ぶ、といった作業を繰り返します。つまり、検索したとしても、その後に、何度もクリックする必要があり、それ自体が面倒なわけです。
一方、回答エンジンは、そのリストの先のホームページの内容をまとめてくれるため、欲しい情報に一回の検索でたどり着くことが多いのです。この簡便さに慣れてしまうと、もはや古典的な検索エンジンに戻ることはできなくなります。私はまさにこれです。
■Googleはオリジナルサービスで対抗
ただ、回答エンジンの利用が広がれば、困るのは企業です。要約で事足りてしまえば、自社サイトへの訪問者が減少するのは目に見える話。そのため、現在、世界のトップ企業の約35%が、回答エンジンによる自動検索(スクレイピング)をブロックしているそうです。こうなると、回答エンジンの万能性は下がってしまいます。
もちろん、当のGoogleにとっても、回答エンジンの登場は大問題です。自社の主力サービスである「インターネット検索」が脅かされることになります。危機感を抱いたのか、同社が2024年に発表したのが、自社オリジナルの回答エンジン「Search Labs」です。これも無料で利用できるサービスです。
Search Labsの設定をオンにしておくと、いつも通りGoogle検索をするだけで、画面上部にコンテンツの要約が表示されるため、便利です。要約部だけで必要な情報が得られるため、わざわざオリジナルのウェブサイトを閲覧する機会が少なくなりました。
■企業のインターネット戦略は転換期にある
Googleが回答エンジンに参入したことは、ちょっとした事件です。なぜなら、企業側としては回答エンジンをブロックし続けるのは得策ではなくなるからです。
多くの企業はGoogle検索で上位表示されることを目指してSEO(Search Engine Optimization、検索エンジン最適化)対策を行っています。しかし、もしGoogleの回答エンジンによる利用をブロックすれば、当然ながら、グーグル検索の結果にも表示されなくなるリスクがあります。
Search Labsの登場によって、企業はインターネット戦略を大きく変える必要性に迫られています。インターネット検索の上位表示ではなく、回答エンジンに効果的に要約されるように、自社コンテンツの作成を工夫する必要が出てくるかもしれません。
■「どの生成AIを選ぶか」が求められる時代
生成AIは、開発企業のポリシーが反映され、それぞれに個性があり、特徴があります。「GPT-4o」、「GPT-o1」、「Gemini 1.5 Pro」、「Claude 3.5」、「Grok-2」などの優れた生成AIが並ぶ中で、自分が何を生成AIに求めるかが大きなカギとなります。
加えて、フランスの「Mistral AI」のように、コード生成に強みを持つAIもあります。また、Meta社が提供する「Llama」のように、研究者が独自のAIを開発するうえで転用しやすいものもあり、幅広い選択肢があります。
自分がどのような仕事をしているのか、どのような用途で生成AIを使いたいのか。場面に応じて、どのAIを使うべきかを判断することは、今後の我々が求められるスキルの1つになるでしょう。
どのAIがリアルタイムで性能が良いのか。それを比較するために、私の場合、1つの質問に対して、ChatGPT、Gemini、Claude、Metaが提供するLlamaの4つのモデルが同時に回答してくれる独自のシステムを開発し、研究室のメンバーに提供しています。私自身も日々利用しています。
■長い文章の要約はGeminiが優れている
どのAIが一番適した答えを返してくれるかがわからなくても、4つ同時に共通の質問を投げかけて、4つの回答を比較しながら、自分が求める最適な答えを探すことができます。同時に入力すると、どのモデルの回答速度が一番速いか、どのモデルが最も精度の高い回答を提供するかも見えてきます。
たとえば、「あなたは大学の薬学部の教授です。このテーマで薬理学の期末テストの問題を作ってください」と入力すると、それぞれがテスト問題を作成してくれます。
個人的には、問題文の作成はClaudeが最も得意だと感じています。一方、長い文章の要約はGeminiが最も優れていると感じます。また、論理的な思考や、数学的な思考は、o-1が圧倒的に優れているようです。
■小学生レベルの算数が正しく解けないことも
たとえば、次の質問を読んでみてください。
「マラソンで4位の人を追い抜いた。今何位になったか?」
皆さんの答えはどうでしたか? 以前、この質問を投げかけた際、Gemini、Claude、Llamaは「3位になりました」と回答したが、唯一「4位になりました」と回答したのがChatGPTです。正解は、ChatGPTが回答した「4位」です。
人間でも「3位」と答えそうになるかもしれませんが、前に4位の人が走っているということは、あなたは現在5位にいるわけで、目の前にいる人を抜いたということは、現在は4位に上がったことになります。
一般的に、この問題では文系の人ほど「3位」と答える傾向があることが知られています。生成AIは文系的な性質を持っているといわれ、このような小学生レベルの算数を正しく解くことも、ときに難しいのです。
ただし、生成AIの精度は日々向上していて、2024年9月の時点では、Gemini、Claudeでも、この問題を解決できるようになっていることを確認しています。
■生成AIそれぞれに「個性」がある
ほかにも生成AIには回答が難しいとされる問題は、「strawberryという単語にrはいくつあるか(正解:3つ)」「6頭の馬のうちどの馬が一番早いかを調べたい。どうしたらよいか(正解:6頭で一斉に競争させればよい)」などがあります。このように生成AIが間違いやすい問題を調査した論文があるほどです。
いずれにしても、ある問題を解決したい場合、「どの生成AIに質問すべきか」を事前に知っていると作業効率は大きく向上することは言うまでもありません。
私が研究室のメンバーに提供している「生成AI比較システム」のようなサービスを、有料で提供している会社もあります。そのなかでも「チャットハブ(ChatHub)」は性能が高く、安心して推薦できます。検索画面の一例を示します。
ここでは「日本で一番有名な観光地はどこですか?」と質問したときの、ChatGPT4o、Claude 3.5、Gemini 1.5 Proの回答を比較した画像を載せておきます。それぞれに個性があります。皆さんはどの回答が好きでしょうか。
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東京大学薬学部 教授
1970年生まれ。静岡県藤枝市出身。薬学博士。2002~2005年にコロンビア大学(米ニューヨーク)に留学をはさみ、2014年より現職。専門分野は神経生理学で、脳の健康について探究している。主な著書はに『海馬』(糸井重里氏との共著 朝日出版社/新潮文庫)、『進化しすぎた脳』(朝日出版社/講談社ブルーバックス)、『ゆらぐ脳』(木村俊介氏との共著 文藝春秋)、『脳はなにかと言い訳する』(祥伝社/新潮文庫)、『のうだま』『のうだま2』(上大岡トメ氏との共著 幻冬舎)、『単純な脳、複雑な「私」』(朝日出版社)、『脳には妙なクセがある』(扶桑社新書/新潮文庫)、『脳はみんな病んでいる』(中村うさぎ氏との共著 新潮社)、『メンタルローテーション』(扶桑社)、『脳は意外とタフである』(扶桑社新書)などがある。
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(東京大学薬学部 教授 池谷 裕二)
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