「結局、一番トクする働き方はどれか」パート収入6つの"○万円の壁"損益分岐点の最終結論【2024編集部セレクション】
プレジデントオンライン / 2024年11月9日 16時15分
※本稿は、黒田尚子『お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか「自然に貯まる人」がやっている50の行動』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。
■103万円の壁にいつまでもこだわる人は損をする
パートで働く妻が大きな関心を寄せるのが「103万円の壁」問題。これは妻の年収が103万円を超えると、妻自身に所得税が発生。夫の年収についても、配偶者控除から配偶者特別控除に切り替わり、妻のパート収入が141万円以上になるまで段階的に減少したり、配偶者手当などの優遇がなくなったりして、かえって損をするというものです。
それが、2018年分(住民税は19年度分以後)から、配偶者控除・配偶者特別控除の改正が行われ、所得控除額38万円の対象となる配偶者の年収の上限が103万円から150万円に引き上げられました。新たに「150万円の壁」ができたのです。
ただし、150万円を超えても、妻のパート収入が約201万円まで段階的に配偶者特別控除が適用されるので、これまでと同じように一気に手取りが減るわけではありません。
実は、この改正が議論されている間、配偶者控除等を廃止にする案も検討されていました。これらの“恩恵”が妻の就労意欲を阻害し、控除というメリットがなくなれば、もっとバリバリ働く妻が増えるに違いないと考えられたからです。
ところが、蓋を開けてみると、現行制度は維持。控除対象となる妻の年収の上限が引き上げられ、ちょっとだけ額を高くした新たな壁が増えただけでした。国としては、「バリキャリとまではいかずとも、150万~170万円くらいで働くパート妻を増やしたい」という思惑なのでしょう。
ただ、納税者本人である夫の年収によっても、控除適用の可否が変わるという要素が加わり、しくみは複雑に……。改正では、夫の年収が1120万円を超えると段階的に配偶者控除・配偶者特別控除の額が減らされ、1220万円を超えると、配偶者特別控除だけでなく、その手前にある配偶者控除も受けられなくなります。
■税金よりも会社の手当のインパクトの方が大
税金以上に大きいのが配偶者手当の存在です。人事院の「令和2年職種別民間給与実態調査」によると、家族手当制度を実施する企業の割合のうち、配偶者対象のものは79.1%で、半数ほどの企業では支給対象の条件が対象者の年収103万円以下に設定されています。
また、厚生労働省「令和2年就労労働条件総合調査」によると、家族手当などの支給額は月平均1万7600円。企業規模別にみると1000人以上が月2万2200円に対して100~299人が月1万5300円など、大企業ほどその額は大きくなります。
はっきり申し上げて、税金は、壁を超えた分に対してのみかかるので、みなさんが気にするほど負担が増えるわけではありません。年収103万円程度であれば、所得が1万円増えても、支払う税金は500円程度。たかがしれています。
それよりもインパクトが大きいのは会社からの手当で、「これがもらえる間は、働きに行かない!」という人も少なくありません。
そして、壁問題で注意すべきなのは税金ではなく、社会保険料です。つまり、夫の扶養から外れ、社会保険料の負担が生じる「130万円の壁」です。
ここにも改正が行われ、16年10月から、社会保険の適用範囲が拡大。一定の条件を満たしたパート等は、年収106万円以上で厚生年金保険料や健康保険料(40歳以上は介護保険料も)を負担しなければなりません。新たな「106万円の壁」の出来上がりです。
ちなみに、妻(39歳以下)のパート収入130万円の場合、社会保険料(協会けんぽ)は月額約1万5500円。年間約18万6000円になります。極端な話、129万円で、社会保険料を払っていないほうが手取りは多くなり、逆転現象が起きてしまうわけです。
これを整理すると、実は壁は6つもあります。「いろいろな壁があって、結局いくらで働くのがオトクなの?」という悲鳴が聞こえてきそうです。
夫の年収や配偶者手当等の有無によって変わりますが、目安として、1円たりとも税金を払いたくないなら100万円以下(自治体によっては課税される場合もある)。税金よりも社会保険料の負担が大きくなりがちなので、社会保険加入のボーダーラインが130万円で、育児や介護等で働くのが難しくできるだけ手取りを減らしたくないなら129万円以下に抑えて夫の扶養の範囲内で働く。それ以上は140万~150万円を超えるくらいまで逆転現象が続きます。
なお、150万円を超えると、配偶者控除を受けられなくなるため、今度は夫の税金が増えてきますが、これもそれほど気にする必要はなし。社会保険料を負担するのなら、おおよそ155万円前後で手取り回復の分岐点がくるので、それを目指すのが良いでしょう。
■目先の小さな損よりも、将来の大きな得を考える
この損益分岐点については、みなさんの関心が高いのも承知の上ですが、おそらく、私のようなFPの立場では、「もし働ける環境であるのなら、社会保険料の負担や控除を気にせずにしっかりと働いた方が良い」という意見が大多数で、私も同感です。
その理由は、
2 公的年金やiDeCoで税制優遇の恩恵を受けながら、「自分年金」を増やせる
3 夫の年収が高く適用外の医療費を高額療養費の対象にできる
4 病気やケガで休業した場合の傷病手当金が受けられる
5 パート先が組合健保で付加給付があるなら手厚い保障が受けられる
6 失業した場合の雇用保険が受けられる等々。
若い世代にとっては、これらのメリットの多くはちょっと先のお話。今現在の年単位の観点でいえば、税金や社会保険料を負担する方が損に感じられるかもしれません。
でも、私は病気になった時、自営業で公的保障が薄い大変さを痛感しました。社会保険加入のメリットは多くの方が想像するより大きいのです。
また、60歳以降、年金生活に入ると世帯収入は激減します。夫に先立たれると収入はさらに減ります。そのとき妻に「自分名義」の貯蓄や年金があると、心強いものです。
目先の小さな損よりも、将来の大きな得を考えてみてください。長い目で見れば、「○万円の壁」を意識して働き方を制限することが、実は損をする行動につながっていると考えるのですが、いかがでしょうか。
×「○万円の壁」を意識し、そこを超えないように頑張る
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ファイナンシャルプランナー
CFP認定者、1級FP技能士。一般社団法人「患者家計サポート協会」顧問、城西国際大学・経営情報学部非常勤講師もつとめる。日本総合研究所に勤務後、1998年にFPとして独立。著書に『親の介護は9割逃げよ 「親の老後」の悩みを解決する50代からのお金のはなし』など多数。
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(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子)
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