"友達親子"は子供の自立を妨げる…親と距離を置きたがる思春期の子に響く"声かけフレーズ"
プレジデントオンライン / 2024年11月14日 6時15分
※本稿は、舩渡川智之『思春期の子の「うつ」がよくわかる本』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■思春期の心身の発達
思春期は心身の発達過程によって、10歳頃から14歳頃までの前半と、14歳頃から18歳頃までの後半にわかれます。
14歳くらいまでに母親と距離を置くようになる思春期前半は、親から離れていく時期です。
小学校高学年から中学校にかけて、それまで母親べったりだった子どもが急に行動をともにしなくなり、母親を驚かすことがあります。友だちといるときに親に声をかけられるのをいやがったり、外で会っても気がつかないふりをして通り過ぎたりします。
この時期、子どもにとってなにより大事なのは同性の仲間です。親との関係よりも同性の友だちとの関係を重視し、遊びや活動に没頭します。
親の価値観より仲間の価値観が優先されるので、多くの親は「言うことを聞かなくなった」と嘆きます。
子どもは親と距離を置きたがり、友人関係に介入されることを嫌います。また、仲間から脱落することを極度に恐れ、トラブルを避けようとする回避行動がひきこもりや不登校につながることもあります。
■他者の視線を気にする高校生
高校生になるとさらに「私」に過敏になる思春期後半は自我の確立期です。いわゆる「自分探し」をしながら自分の土台を形作っていきます。同時に社会と渡り合う能力を身につけるために、自分が信頼できる友だちを求めます。
この年代はまだ確固たる自己が確立されておらず、身体は親の身長を越えていても、非常に脆弱な自己を抱えて生きています。このため「私」に対する感覚に過敏で、つねに他者の視線を気にしています。
人からちょっと批判されたり、大切にしている友だちとの関係がうまくいかなくなったりすると自己愛が大きく揺らぎ、孤立感や無力感が増大します。
さらに自己の独立性に対する自信が失われると、自分の考えや感情が自分独自のものでなく、他者から強いられたように感じる「被影響感」や、他者から嫌われているように感じる「疎外感」など負の感情が生じてますます内に閉じこもりがちになります。
■思春期の親子の距離
日常的な会話のやりとりはありますか?
思春期は、親に対して距離を置きたがる時期です。でも、親がコミュニケーションを諦めてはいけません。子どもに無関心になったり、無視したりしたくなる気持ちは分かりますが、ポジティブな表現を心がけつつ声掛けを続けるようにしましょう。
ふり返りポイント:直接対話以外の声掛けも検討
直接の会話が減りがちなら、LINEなどを通じて声掛けをしてみるのもよい。親子の会話のチャンネルが増える。子どもにとってはかえって話しやすいことも。
ポジティブ声掛けリスト
<日常の声掛け>
「おはよう」「いってらっしゃい」
「気をつけて」「今日は~な日だね」
「いってきます」「おかえり」「お疲れさま」
「待っていたよ」「お茶いれたよ」
「ごはん食べよう」「お風呂わいたよ」 など
<ほめの声掛け>
「ありがとう」「うれしい」
「楽しいね」「助かったよ」
「いてくれるから安心だよ」
など
<感謝の声掛け>
「すごいね」「やったね」「さすがだね」
「がんばったね」「上手だね」
「あなたならではだね」
「もうかなわないな」「うまくなったね」
「えらいね」 など
■子どもに手をかけすぎない
子どもが自立する機会を奪っていませんか?
親の正論や心配が、子どもの自立心をくじいてしまうことがあります。過干渉になっていないか注意しましょう。ただ、神経発達症の傾向がある子の場合、親が手をかけざるを得ない場合もあります。年齢と子どもの発達の程度を考えながら関わることが大切です。
<過干渉>
心配で放っておくことができない。本人が自己表現する前に感情を言葉になおす。よかれと思って、本人の状態をよく観察せず一方的に励まし続ける。
■失敗させまいという気持ちを抑えることも大事
人は経験から先を予測します。子どもに対して「好きな道を選べばいい」と言いつつ、子どもが決めたことに反対し、無理やり「失敗しない道」「親がよかれと思う道」を選ばせたがります。しかし人は自分で選択し、失敗することで自分の限界や能力を知り、困難を乗り越えていきます。そして挫折から立ちなおるレジリエンスも高められます。
親にも、子どもの失敗を前向きに受け止める姿勢が欠かせません。
<感情の混同>
本人の感情を尊重せず、自分の感情をまるで本人の感情のように口にする。
<先回り>
本人を急かし、先回りしてやることをすべて指示する。思考ややる気、自己効力感を奪ってしまう。
<自己の押し付け>
自分の方法論を自明のことのように本人に伝え、それ以外の選択肢を許さない。
■親子関係が自立の妨げになることがある
親子関係はうまくいっていますか?
友だちのように仲の良い親子は、一見理想的かもしれません。しかし、養育する側とされる側、それぞれの立場は同じではありません。その立場の違いが、自立したいという気持ちを促します。一方、親に対して絶対服従を強いる、逆に親が子どもの言いなりになるという関係も、自立の妨げになります。
NGな親子関係
<対等>
友人のように仲良しで対等な存在だと、子どもは親に反発し、距離を置き、自立することができない。
<子が絶対上>
子どもの機嫌をとり、要求に応じ、自主性に任せきりは、たんなる過保護。
規範を示すのも親の役割。
<親が絶対上>
親が子どもを尊重せず、一方的な態度で接する。
子どもは自立の機会を奪われる。
■困ったときに、相談に乗れる親子関係をつくる
子どもの抑うつ・不安が強いとき、子どもの感情に同調したり、ふり回されたりしていると、子どもの気持ちも安定しません。どっしり構え、見守り、不安を受け止めるよう心がけてください。子どもが、家なら休める、家族は自分を見ていてくれる、困ったら相談に乗ってもらえると思えれば、家庭が安全地帯になっているといえるでしょう。「なにがあってもあなたの味方だから大丈夫」というメッセージを伝え続けることが大事です。
OKな親子関係
<一貫性のある態度で接する>
世間や常識ではなく、親自身がよいこと、わるいことの判断に一貫性をもたせる。親への信頼につながる。
<わかったふりをしない>
親でもわからないときは「わからない」と言って、子どもに伝える。わかったふりをすると、問題を先送りにしてしまう。
<不安があっても本人にぶつけない>
子どもの前ではうろたえないようにする。不安があっても子どもにぶつけない。
自分自身のメンタルコントロールが大事。
<いつでも味方でいる>
どんな困難な状況におちいっても、子どもの安全を守り、子どもの味方でいることを示し、伝えていく。
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子どもこころ専門医・指導医
日本精神神経学会指導医・専門医。日本児童青年精神医学会認定医。子どものこころ専門医・指導医。栃木県出身。2004年山形大学医学部医学科卒業。2年間の初期臨床研修を経て、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室に入局。同医局の関連病院等での研修の後、東邦大学医学部精神神経医学講座の助教に就任。以来、東邦大学医療センター大森病院メンタルヘルスセンターにて一般精神科臨床の傍ら、児童精神科医として臨床、精神病の予防・回復のためのデイケアの診療にも携わる。児童精神医学、学校精神医学、予防精神医学、精神科リハビリテーションが専門。
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(子どもこころ専門医・指導医 舩渡川 智之)
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