まともな性能の住宅なら「床暖房」は必要ない…海外では違法建築レベルの「寒い家」を許す日本の政策の大問題
プレジデントオンライン / 2024年11月19日 17時15分
■断熱はセーターなら、気密はウィンドブレーカー
日本の住宅の性能は優れていると思っている方が多いようですが、冬暖かく夏涼しく健康・快適に過ごすために重要な断熱・気密性能は、諸外国に比べて日本の住宅は極めて劣っているのが現状です。特にすきま風のない家である気密性能に関する取り組みは、非常に遅れています。
筆者は、高気密・高断熱住宅の住まいづくりをサポートする会社を経営しています。本稿では、その専門家の立場から、住宅の気密性能がなぜ大切なのかについて説明したいと思います。
まず、断熱と気密の基本概念について触れておきます。断熱と気密は、よくセーターとウィンドブレーカーに例えられます。真冬にどんなに分厚いセーターを着ても、セーター1枚で外出すると風を通してしまうので、寒いですよね。寒さを防ぐためには、風を防ぐウィンドブレーカーが必要です。
住宅も同様です。断熱材をどんなに分厚くして、断熱性能を高めても、隙間だらけの家では、冬はすきま風で寒いですし、夏も冬も冷暖房の効率が悪く、冷暖房光熱費が高くつきます。本来、断熱と気密は、セットで考えるべきものなのです。
日本の住宅の断熱性能はまだまだ諸外国に比べて劣っていますが、少しずつ改善されています。それに対して、圧倒的に取り組みが遅れているのが気密性能向上への取り組みです。
■諸外国は断熱性能に厳しい基準を設けているが…
気密性能について説明する前に、断熱性能の制度面の現状に触れておきます。先進国は、住宅の断熱性能について基準を定めています。諸外国では、基本的にこの基準を満たしていないと新築することができません。
住宅の断熱性能は、外皮平均熱貫流率(UA値)で示されます。UA値は、住宅ごとに断熱材の厚さや窓の断熱性能から計算して求められます。
図表1は、国土交通省のホームページに掲載されている住宅の断熱性能基準の国際比較です。縦軸の外皮平均熱貫流率(UA値)は、値が小さいほど、高断熱であることを意味します。
横軸の暖房デグリーデーは、地域の寒さを表す指標です。暖房に必要な熱量で、冬の寒さがだいたい同じ気候の地域ごとに括っているもので、同じくらいの寒さの地域で住宅に要求されている断熱性能(UA値)を比較したものです。つまり、おおむね同じくらいの寒さのエリアにおける断熱性能の基準の国際比較です。
■日本の基準は“違法”レベルで緩い
日本の6地域というのは、省エネ地域区分における東京・横浜・名古屋・大阪・福岡などの人口が集中する温暖な地域です。6地域の日本の省エネ基準は、図にある通り、0.87[W/m2・K]です。
それに対して、同じ気候区分の他の国の基準値は、韓国は0.54、スペインは0.51、米国カルフォルニア州は0.42、イタリアは0.40です。同じくらいの寒さの他の国・エリアに比べて、日本の断熱性能基準が圧倒的に緩いことがおわかりいただけると思います。
日本の基準は非常に緩いだけではありません。多くの他の国々では、以前から新築時にこの断熱性能への適合が義務化されています。それに対して、日本では、0.87という極めて緩い基準への適合が現時点では義務化されていません。やっと2025年4月から建築物省エネ法の改正により省エネ基準への適合が義務化されます。
また、日本のZEH基準のZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の略で、現在の日本では、省エネ住宅として補助金の交付対象になる高断熱住宅に位置付けられている基準です。
ところが、図表1を見ていただければわかるとおり、国際的にみて、他国の義務基準にも満たないレベルですから、高断熱と言える断熱レベルではないのです。このように断熱性能に関する基準が諸外国に比べて、極めて緩い基準にとどまっています。
■気密性能の取り組みはさらにお粗末
ちなみに、省エネ基準レベルの断熱性能は、断熱等級4で、2022年までは最高等級でしたが、この年に一気に断熱等級5、6、7と上位等級が3つも設定されました。高断熱住宅について明確な定義はありませんが、専門家の間では、断熱等級6以上が高断熱住宅と言われています。
気密性能についての取り組みは、さらに諸外国に比べてお粗末な状況です。図のように諸外国では、気密性能に関する厳しい基準が定められています。気密性能は、C値という値で示され、値が小さいほど高気密であることを意味します。
おおむね、C値1.0以下であれば、まあまあ高気密といっていいかと思います。諸外国では、例えば、ドイツではC値0.3以下、ベルギーでは0.4以下というようにかなり厳しい基準が定められています。
■基準が厳しければ床暖房は必要ない
それに対して、現在の日本では、気密性能に関する基準は定められていません。つまり、どんなに隙間だらけの家でも、違法ではないですし、新築住宅がどんなに「隙間だらけで寒い」といっても、クレームの対象にはなりません。
日本では、かつてC値5.0以下というとても緩い基準が存在していましたが、現在は不思議なことに、この緩い基準すらなくなってしまっています。
日本の住宅は、足元が寒いため、床暖房に人気があります。高気密・高断熱住宅では足元が寒くなりません。そのため、床暖房がなくてもとても快適に過ごすことができます。
高気密・高断熱住宅では足元が寒くならないのには、2つの理由があります。
1つ目は、断熱性能を高めると、「コールドドラフト」という現象が起こらなくなるためです。「コールドドラフト」というのは、断熱性能が低い家では暖房で暖められた空気が軽くなり上昇しますが、壁や窓が外気の影響で冷えているため暖気が壁等に触れて冷やされて重くなり、足元に降りてくる現象です。これではどんなに暖房を使っても足元は暖かくなりません。
断熱性能を高めると、室内側の壁や窓が外気の影響をあまり受けなくなるので、コールドドラフトが起こらなくなるのです。
■サーモカメラで撮影すれば一目瞭然
もう一つの理由は、気密性能が低いと、暖められて軽くなった空気が上昇し、天井や屋根の隙間から逃げていき、その分の空気が床下や足元の隙間からすきま風として入ってくるため、足元が冷えるのです。
高気密の家は、当然、すきま風がほとんど生じないため、すきま風で足元が冷えることはありません。
高気密・高断熱住宅ではこれらの現象が起こらないため、足元が冷えなくなります。そのため床暖房がなくても、とても快適に過ごすことができます。図表5は、断熱性能の異なる部屋をサーモカメラで撮影したものです。真ん中の省エネ基準レベル(一般的な分譲住宅・注文住宅レベル)の家に比べて、断熱等級6レベルの家は、足元が冷えていないことがよくわかると思います。
高気密・高断熱住宅の暮らしが快適なのは、他にも、壁や天井からの輻射熱の影響が少ないことや、エアコンが必要以上に頑張る必要がないため、エアコンの風を感じにくくなるなど、さまざまな要因があります。それらについては別の機会に詳しく説明したいと思います。
■「高気密住宅は息苦しい」のウソ
高気密住宅に対する根強い誤解として、気密性能が高くなると、隙間からの換気が行われなくなり、息苦しくなるというものがあります。これも完全に誤解です。
むしろ、高気密住宅のほうがきちんと換気が行われ、家中の空気が新鮮な状態が保たれます。ちょっと不思議に思う方も多いかと思いますが、次のような理由によります。
前提として、現在の新築住宅は、機械換気による24時間換気が大前提になっています。2003年に、シックハウス症候群が社会問題になっていたことを受けて、改正建築基準法が施行され、新築住宅では、0.5回/h以上の機械換気設備(24時間換気システムなど)の導入が義務付けられました。
つまり、現在の新築住宅は、窓を開けることやすきま風による換気ではなく、24時間換気システムによる換気が前提なのです。つまり、気密性能が高いから、換気されず息苦しいということはありません。
実はむしろ逆で、気密性能が低い家では、24時間換気システムによる計画換気がきちんと機能しません。
■隙間だらけの家はむしろ空気がよどむ
図表6上の図のように、換気は、家の全体で、給気口から排気ファンに空気が流れるように計画します。ところが下図のように、排気ファンのそばに隙間があると、隙間から給気されてしまい、本来の計画換気の空気の流れが起こらなくなります。
そのため、気密性能の低い家では、計画換気が機能せずに、空気がよどんだり、結露が生じたりするのです。
図表7は、横軸が気密性能(右側ほど低気密)、縦軸は給気口から給気される割合を示しています。例えば、C値5.0(一般的な戸建住宅の気密性能)では、17%程度しか給気口から給気されずに、83%は隙間から給気されるのです。
C値が1.0になるとやっと50%が給気口から給気され、0.5になると約67%が給気口から給気されるようになります。不思議に聞こえるかもしれませんが、計画換気をきちんと機能させるためには、高気密にすることが必要なのです。
気密性能を確保していないのに、凝った換気システムを導入している家が散見されますが、それはあまり意味がないことであることがおわかりいただけると思います。
■「木造、鉄骨、RC造」どれを選ぶべきか?
さて、戸建住宅で高気密住宅に住みたいと思ったら、構造は何を選ぶべきなのでしょうか?
戸建住宅の構造は、基本的には、木造(在来軸組工法、2×4等)、鉄骨造(S造)、鉄筋コンクリート造(RC造)のいずれかです。ただし、鉄筋コンクリート造は建築コストが高いため、あまり一般的ではありません。コスト面から、木造か鉄骨造のいずれかが一般的ですが、気密性能にこだわるのであれば、木造の一択になります。
鉄骨造は、気密性能の確保が苦手なのです。鉄骨造は、温度による伸び縮みが大きいために気密性能を維持しにくいためではないかと言われていますが、少なくとも鉄骨造のハウスメーカーで、気密性能を売りにしている会社はないと思います。
気密性能は、C値で示されると説明しましたが、C値はどのように算出するのでしょうか?
断熱性能のUA値は、図面を基に机上の計算で算出できます。ところが、気密性能は、現場の気密施工のレベルに依存します。そのため、現場で写真のような機器を使用し、気密測定を行い、C値を算出します。
■目標値に届かなければ隙間を埋めていく
窓に目張りして取り付けられたこの機械の筒部分には、強力なファンがあり、室内の空気を排出します。すると、室内外に気圧差が生じ、室内が負圧になります。そのため、隙間から風がぴゅーぴゅーと入ってきます。その気圧差の変動を基にC値を算出します。
気密測定を実施している住宅会社の場合、一般的には、C値の目標値を設定しており、目標値の性能が確保できていなければ、隙間を探して埋めていく作業を行います。これはかなり手間のかかる作業であり、気密性能の確保には、それなりにノウハウが必要です。そのため、気密測定を全棟で実施している住宅会社はかなり限られるのが現状です。
■優良ハウスメーカーかがわかる「いい質問」
冬暖かく、夏涼しく、結露の生じない、健康・快適な家を建てたいと思ったら、工務店・ハウスメーカー選びの際に、ぜひ、気密測定を全棟実施しているかどうか聞いてみてください。
通常は行っていないが、施主の要望があれば実施するという会社もありますが、気密性能の確保にはノウハウが必要なので、基本的には、気密測定を全棟実施している会社を選ぶことをお勧めします。
工務店・ハウスメーカー選びの際には、「気密測定は全棟実施していますか?」「C値の目安はいくつくらいですか?」と聞くことは、性能にこだわっている工務店・ハウスメーカー選びにとても有効な質問だと思います。
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住まいるサポート代表取締役/日本エネルギーパス協会広報室長
千葉大学工学部建築工学科卒。東京大学修士課程(木造建築コース)修了、同大博士課程在学中。リクルートビル事業部、UG都市建築、三和総合研究所、日本ERIなどで都市計画コンサルティングや省エネ住宅に関する制度設計等に携わった後、2018年に住まいるサポートを創業。著書に、『元気で賢い子どもが育つ! 病気にならない家』(クローバー出版)、『人生の質を向上させるデザイン性×高性能の住まい:建築家と創る高気密・高断熱住宅』(ゴマブックス)などがある。
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(住まいるサポート代表取締役/日本エネルギーパス協会広報室長 高橋 彰)
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