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「築浅のマイホームの床が突然抜け落ちた」間違った断熱で壁内と床下をボロボロに腐らせた驚きの正体

プレジデントオンライン / 2024年11月22日 17時15分

国別住宅平均寿命(国土省 平成8年度「建設白書」より)

■家の寿命がこんなに短いのは日本だけ

日本の住宅は、欧米の国々に比べて、極端に短寿命です。図表1は、少し古い資料なので、近年はもう少し長くなっているかとは思われますが、平成8年(1996年)時点では、日本の住宅は30年程度で建て替えられてしまっています。

耐久性で寿命を迎えてしまっているものもあれば、冬が寒いなどの他の性能面で建て替えられているものもあると思われます。

筆者は、高気密・高断熱住宅の住まいづくりをサポートする会社を経営しています。最近でも築30年程度の家を建て替えたいというご相談は結構いただいているので、欧米に比べて短寿命であることには変わりがないものと思われます。

ちなみに、欧米の家は石造りだから、長寿命なのは当然で、木造中心の日本と比較するのはどうかと言われることがありますが、欧米も戸建住宅は木造が中心です。

2×4工法が米国から入ってきた工法であることはよく知られていることかと思います。日本の住宅が、欧米に比べて短寿命であるのには、構造の問題ではなく、他にいくつか理由があります。

■中古住宅に価値がつかない

第一に、欧米に比べて、住宅マーケットで中古住宅の価値が評価されないということです。

図表2は、国土交通省が公表している少し古い資料ですが、既存住宅流通シェアの国際比較です。赤の三角の折れ線グラフが欧米と日本の住宅マーケットにおける既存住宅流通シェアの割合を示しています。

欧米の既存住宅流通シェアがおおむね70~85%程度であるのに対して、日本では14.5%にとどまっています。

最近は、日本でも中古マンションや中古戸建住宅の人気も高まってきているので、もう少しこのシェアは高まっているものと思われますが、欧米に比べて日本は極端に新築が中心で、既存住宅が取引されていないことがわかると思います。

現在も売りに出されている築30年前後の住宅の多くは、中古住宅としてではなく、古家付きの土地として、解体の上、新築することを前提に売買されています。

【図表】既存住宅流通シェア国際比較の図
国土交通省「既存住宅流通量の推移と国際比較」より

■高気密住宅は「日本の気候に合わない」は本当?

第二に、既存住宅の性能面の問題です。1981年以前の住宅は旧耐震と呼ばれ、耐震性能に不安があります。また古い住宅は、断熱・気密性能が低く、夏暑く、冬寒く、快適ではないということもあり、解体されて、最新の性能の住宅に建て替えられる傾向が強いのです。

第三の理由は、劣化対策が十分ではないということです。震災で倒壊・崩壊した住宅は、もともとの耐震性能不足だけでなく、構造材が腐っていたり、シロアリの被害により耐震性能が低下していたりしたことが要因になっているケースも少なくありません。構造材の劣化への不安から、リノベーションではなく、建て替えを決断するケースも多いようです。

住宅の長寿命化のためには、劣化対策が重要であることは、論を俟ちません。

そのためには住宅性能を高気密・高断熱にすることが大切ですが、高気密住宅については、日本の気候に合わない、また高気密化することで住宅が短命になるといった誤解をよく耳にします。

■「世界最古の木造建築」は風をよく通すが…

高温多湿の気候の日本では、「気密性をいたずらに高めず、スカスカの通風のいい家にするとよい」と力説する方がいます。

その際によく持ち出されるのが法隆寺です。日本の高温多湿な気候では、カビや木材の腐朽やシロアリ被害を防ぐために、伝統工法の家はすきま風をよく通し、湿気を逃がす構造にすることで、1000年以上も持っているのだ、と。

法隆寺
法隆寺(写真=Nekosuki/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

確かにそれは間違っていません。ただし、それは室内外の室温差がほとんどないという前提の場合に成り立つことです。昔の家や寺社仏閣等の建物では、冷暖房をあまり行わないため、室内外での温度差が少ないですよね。

室内外で温度差があまりなければ、確かに、通風(正確にはすきま風)のいい家は木が腐らず、シロアリも発生せずに、長い間使うことができるのはその通りです。

ただ現代の住宅では、冬は暖房、夏は冷房をつけます。我慢の生活ではなく、きちんと冷暖房して、家全体を快適な室温を保つことは居住者の健康にとってとても重要です。

ちなみにWHO(世界保健機関)は2018年に公表した「住宅と健康に関するガイドライン」において、「健康を保つ最低室温は18度以上」これを強く推奨すると提言しています。

■海外と日本では「部屋の暖め方」が違う

残念ながら、日本では冬に18度以上を保てている家はまだまだ少なく、消費者庁によるとヒートショックに起因する死亡者数は毎年1万9000人程度に上っています。これは交通事故死者数の7倍以上にも上る人数です。

特に、これからの冬、寒い浴室での入浴はとても危険ですので、ぜひ気を付けてください。ヒートショックをはじめとして、寒い家に暮らすことで、かなりの健康被害を引き起こしています。

一昔前は、室内は「暖房」せずに、こたつ等で「採暖」するというような生活が一般的でした。ここで、「暖房」と「採暖」の違いに触れておきます。「房」は空間を示しており、「暖房」というのは本来、家全体もしくは部屋全体を暖めることです。それに対して、「採暖」というのは、人がいるところだけを局所的に暖めることです。こたつがその典型ですが、ストーブで部屋全体を暖めるのではなく、ストーブにあたるというのも「採暖」です。

欧米では、部屋全体を暖める「暖房」が一般的ですが、日本では、いまだに多くの家で「採暖」の生活が営まれています。

【図表】日本は「採暖」、欧米は「暖房」
出典=近畿大学岩前篤教授

■築浅住宅の床が次々と抜けた「ナミダタケ事件」

最近は、徐々に室内全体を暖める「暖房」に暮らし方が移行しつつあります。これは、健康で快適な暮らしという観点からは望ましいことなのですが、その結果として、どうしても室内外の温度差が大きくなります。

その結果として、室内外の温度差がほとんどない法隆寺とはまったく異なる現象が生じます。それは、壁の中で起こる結露です。特に、「中途半端な断熱・気密性能」の家において結露が大きな問題となります。なぜでしょうか?

結露というと、冬の窓等、目に見えるところで生じる「表面結露」をイメージする方が多いと思います。実は、結露は、「表面結露」の他に、壁の中で生じる「壁内結露」(内部結露)があります。「壁内結露」は、目に見えないだけでなく、「表面結露」よりも住宅を劣化させ、家の「耐久性」に悪影響をもたらす、とても厄介なものです、

「ナミダタケ事件」をご存じでしょうか? 「ナミダタケ事件」とは、1970年代に北海道で築1~2年くらいの築浅の住宅の床が次々と抜けてしまった事件です。オイルショックを契機に暖房のための灯油代の負担が重くなり、北海道では断熱材を厚くして断熱効果を上げることで灯油の消費量を減らそうと考えたそうです。

■暖房、加湿で壁内や床下で結露が発生し…

ところが、当時は高気密・高断熱住宅に関する知見があまりなく、気密をとらず、また壁の中の水蒸気を逃がすための通気層も設けていませんでした。暖房・加湿された暖気が壁内に侵入しても、水蒸気の逃げ場がないため、壁内や床下で結露が起こりました。

壁内や床下が湿った環境になったため、カビやキノコが繁殖し、特にナミダタケというキノコが大量に繁殖しました。ナミダタケが土台を腐らせ、多くの住宅の床が抜ける事態が起こりました。当時、北海道では相当問題になったようです。

「ナミダタケ事件」を知っているかどうかにかかわらず、この時の苦い記憶が、「日本の気候には高気密・高断熱住宅は合わない」という誤解が根強く残っていることにつながっているように思われます。

【図表】ナミダタケ
出典=Shutterstock

壁内結露は、冬に暖房加湿された湿った暖気が壁の中に侵入し、外気によって冷えている壁面側で温度が下がることで生じます。

■喘息やアレルギーを引き起こすことも

壁内結露は、ナミダタケのような腐朽菌を発生させて、構造材を腐らせるだけでなく、湿った環境を好むシロアリ被害のリスクも高めます。シロアリ被害は、当然、耐震性能も劣化させます。

また、断熱材が湿ることによって、断熱性能が低下しますし、さらには壁の中でカビが発生し、カビはダニの餌になり、カビ・ダニはアレルゲンになり、喘息やアレルギーを引き起こすリスクを高めますから、居住者の健康にも悪影響を及ぼします。

【図表】壁内結露
出典=住まいるサポート
【図表】壁内結露が生じている壁
出典=Shutterstock

最近は、壁内結露は冬だけでなく、夏も問題になっています。35℃以上になる猛暑日が増え、高温多湿の夏の外気が壁の中に侵入し、エアコンで冷やされた室内側の壁面近くで結露になるのです。

特にコロナ禍以降、リモートワークの定着等で在宅時間が長くなり、冷房の使用時間も長くなっているため、より夏型結露が生じやすい状況になっているので、注意が必要です。

■壁内結露を防ぐための3つのポイント

では、壁内結露を防ぐためには、どうしたらいいのでしょうか?

第一に、十分な断熱性能を確保することです。できれば、「結露計算」を行い、結露が生じる可能性について計算を行うことが望まれます。「結露計算」とは、壁の構造(断熱材の厚みや熱伝導率、各材料の透湿率)や、室内外の温度・湿度等に基づいて、壁内結露が生じる可能性を計算するものです。

ただ、「結露計算」をきちんと行っている工務店はまだ少ないのが現状です。

高橋彰『「元気で賢い子どもが育つ」病気にならない家』(クローバー出版)
高橋彰『「元気で賢い子どもが育つ」病気にならない家』(クローバー出版)

第二に、壁の中に湿気をなるべく入れないことです。そのために、室内側に防湿気密シートを貼り、気密性能を確保すると同時に、湿気の侵入を防ぎます。

第三に、壁内に侵入した湿気を外に排出できるようにすることです。そのために、外壁材と断熱層の間に「通気層」という湿気の逃げ道を設けます。「通気層」は、長期優良住宅の認定を取る場合には、原則として必要になります。

このように、十分な断熱・気密性能を確保することが、壁内結露を防ぐためには、とても重要なのです。

現代の暮らし方を前提とするならば、中途半端な断熱・気密性能が日本の気候においては、住宅の耐久性にとってよくないことがご理解いただけたでしょうか?

男の子と添い寝しているチワワ
写真=iStock.com/kohei_hara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

■家を建てる際は「気密測定しているか」を聞く

ただし、日本の住宅マーケットにおいて、気密性能確保に関する取り組みは、著しく遅れています。

それは、断熱性能の確保に比べて、気密性能の確保は、より高いノウハウが必要であること、そして手間暇がかかることが大きな要因です。そして、気密性能を表すC値は、現場の気密施工のレベルに依存するために、図面から計算することはできず、現地で「気密測定」を行うことが必要です。

現場で写真のような機械を使用し、気密測定を行います。かなり手間のかかる作業であり、気密測定を全棟で実施している住宅会社はかなり限られています。

【図表】気密測定風景
出典=サーモアドベンチャー

工務店・ハウスメーカー選びの際には、ぜひ、「気密測定を全棟で実施していますか?」と質問して、工務店・ハウスメーカー選びの選択基準にしてみてください。

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高橋 彰(たかはし・あきら)
住まいるサポート代表取締役/日本エネルギーパス協会広報室長
千葉大学工学部建築工学科卒。東京大学修士課程(木造建築コース)修了、同大博士課程在学中。リクルートビル事業部、UG都市建築、三和総合研究所、日本ERIなどで都市計画コンサルティングや省エネ住宅に関する制度設計等に携わった後、2018年に住まいるサポートを創業。著書に、『元気で賢い子どもが育つ! 病気にならない家』(クローバー出版)、『人生の質を向上させるデザイン性×高性能の住まい:建築家と創る高気密・高断熱住宅』(ゴマブックス)などがある。

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(住まいるサポート代表取締役/日本エネルギーパス協会広報室長 高橋 彰)

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