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おやつなのに「ご飯のおかず」として人気…受刑者200人の声を料理研究家が再現した「刑務所ごはん」のリアル

プレジデントオンライン / 2024年11月23日 16時15分

朝食メニューの再現例。(右から時計回りに)魚の缶詰など既製品を主としたおかず二品と味噌汁、麦飯、お茶が基本。高菜漬けと甘いピーナッツ味噌、卵風味ソースに鶏そぼろ、高菜漬けと納豆(写真=名和真紀子 料理=田内しょうこ)

罪を犯して刑務所に収容されている人々は、日々どんな食事をとっているのか。受刑者の更生支援を手掛ける団体「ほんにかえるプロジェクト」が、獄中の200人に行ったアンケートから浮かび上がる“塀の中”の食事事情とは――。

※本稿は汪楠、ほんにかえるプロジェクト『刑務所ごはん』(K&Bパブリッシャーズ)の一部を再編集したものです。料理の写真は、同書の調査を基に料理家が再現したものです。

■刑務所での一日の食事スケジュール

たとえば、処遇指標“LB”(刑期が10年以上の、犯罪傾向が進んでいる男性)を収容する宮城刑務所での朝食であれば、午前6時50分に起床、点検ののち、7時10分に配られる。

麦飯と味噌汁に、わずかばかりの副菜が二品つく。漬物類、佃煮の缶詰、ふりかけといった既製品が中心だ。

納豆、ねり梅、ピーナッツみそ、菜物のおひたし、厚焼き玉子なども献立に見られるが、“きな粉”が副菜の一品として登場することが多いのに驚く。宮城で20年を過ごしたという元受刑者によれば「大さじ山盛りほどのきな粉に砂糖を混ぜたもの」だそうだ。これを米7:麦3で炊いた麦飯にまぶして食べる。服役したことのある者にとっては馴染み深い味だろう、と彼は言う。

彼は、と書いたが、もちろん受刑者は男性ばかりではない。ただ、男性が圧倒的多数なのは事実だ。「ほんにかえるプロジェクト」の200名ほどの会員の大半が長期受刑者だが、そのうち女性会員は現在4名しかいない。

■昼食はボリュームしっかり

忙(せわ)しなく朝食を終え、平日であれば出房して刑務作業の工場へと移動する。作業開始は7時50分だ(※これは夏季処遇であり、冬場は全体的に時間が若干早まる)。ただし、刑務所の食事を用意する炊事工場の受刑者は早朝4時過ぎには起床し、朝食の支度に取りかかるという。

わずかな人数で、数百名から千名ほどの受刑者の食事を整えるのだから力のいる大仕事だ。時間までに全受刑者の配食を間違いなく終えてしまわなければならない。熱を使う調理場の夏場の暑さは苛酷を極め、冬場の早朝は凍てつく寒さだ。「炊場(すいじょう)に回されるのは、若くて真面目な受刑者であることが多い」と前出の男性は語る。

12時の昼食はそれぞれの工場に配られる。パンや麺類が出されることもあり、副菜のバリエーションも豊富で、ボリュームも充実している。昼食が一番の楽しみという受刑者は多い。

昼食後の短い休憩ののち12時半には刑務作業が再開する。14時半から10分の休憩をはさみ、作業終了は16時半だ。

■夕食は16時50分、夜の空腹がつらい

まだ日の残る16時50分に夕食となるが、それからの夜は長く、空腹に襲われる。食料を隠し持つことは許されていない。もし見つかれば懲罰の対象となってしまう。

夕食の再現例
夕食の再現例(左)。フライは冷凍食品をスチームで解凍したものが基本で、サクサク感はない。昼食(右)はもっともバリエーションが多く、写真の再現例のように麺類が出されることもある。(写真=名和真紀子 料理=田内しょうこ)

懲役を終えて外の社会に出たなら食べたいものがたくさんある。長期の受刑者には特にそのような思いが強まる。

無期懲役に服して25年目を迎えた受刑者は、「私がここに来た当時は今よりも断然“味が濃くて”美味しかった!」と言って在りし日を懐かしむ。今と比べれば味付けもしっかりとしていて量も多く、料理のバリエーションも豊富で、満足感が味わえた。しかし、今日ではそのようなことも減ってしまった。食中毒などが起きるたびに規制が加わり、かれこれ10年くらい生の野菜や果物は食べた記憶がないと嘆く声もある。

■三食を作るのは「炊事工場」の受刑者

「刑務所の食事」を作るのは炊事工場で働く受刑者たちだ。料理のプロではなく、むしろ不慣れな素人の手によって、数百人から千人以上の胃袋に収まる膨大な量の食事が毎日3度、欠かすことなく用意されている。

汪楠、ほんにかえるプロジェクト『刑務所ごはん』(K&Bパブリッシャーズ)
汪楠、ほんにかえるプロジェクト『刑務所ごはん』(K&Bパブリッシャーズ)

ただし、その献立を考え、調理工程を組み立てているのは専門の管理栄養士だ。総カロリー量や栄養バランスの計算も管理栄養士が責任をもっておこなっている。予算や食材ばかりでなく、調理機器や調理方法にも大きな制約が課されている環境で、調理経験に乏しい素人でも大量に作ることのできるメニューを考案するというのは、想像するだけで気の遠くなるような仕事だ。

日中の調理では、ときに栄養士の指導が入ることもあるようだ。しかし早朝4時台に起床して作業を開始し、遅くとも7時頃には配食を終えてしまわなければならない朝食の準備は、炊場の受刑者たちに委ねられている。味噌汁を除く副菜は、ほぼすべて既製の加工食品やふりかけ類などの組み合わせとなっているようだが、それも無理からぬことだろう。納豆や漬物類も朝食の定番だ。

本記事冒頭の写真は、受刑者たちから寄せられた手紙や献立表にもとづき再現した、ある日の朝食のイメージだ。味噌汁には一種類ないし二種類の具材が使われるが、これは施設によって方針が異なるようだ。ただし、少量の味噌を湯で溶いた程度の薄味という点だけは、多くの施設で変わらない。

■再現メニュー! 朝食編:麦飯と味噌汁で腹を満たす

刑務所の朝食は簡素だ。麦飯と薄い味噌汁、そしてわずかばかりの副菜二品という内容が基本形といえる。これが受刑者が従事する刑務作業の支えとなる。

刑務所の塀
写真=iStock.com/toranagasama
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/toranagasama

米7:麦3の割合で炊かれた「麦(ばく)しゃり」とも呼ばれる麦飯が朝昼晩の主食で、これは全国の刑務所で共通している。「米といっても保存期間が過ぎた備蓄米の、さらに古くなったような米ですよ」と、四国と東北の2カ所の刑務所で計20年以上の服役を終えた元受刑者は苦笑する。

「味噌汁はとにかく薄い」とその元受刑者は言うが、とはいえ各地の献立を見るかぎり、具材はバリエーションに富んでいる。管理栄養士が心を砕いた結果だろう。チンゲン菜や小松菜といった菜物、キャベツや白菜、長ねぎ、玉ねぎ、ニラ、もやし、油揚げ、高野豆腐、わかめ、麩、カボチャ、インゲン、大根葉、揚げ玉など、たいてい二種類の具材が組み合わされ、単調に陥らないように工夫が凝らされている。

■副菜二品は市販品をちょっぴり

副菜の二品は既製品を小分けにした物であることが多いようだ。鰹や鰯、鮪、秋刀魚といった魚類のフレークや味付の缶詰が目立ち、そこに海苔や昆布の佃煮、えびみそやねり梅、のり玉・鮭・鰹・たらこ等のふりかけ、野沢菜やキュウリや大根の漬物、納豆、ピーナッツみそ、なめ茸、きんぴらごぼうや菜物のおひたしなどが小さく盛られる。朝食の定番ともいえる卵はどうやら食中毒を避けるために生で出されることはなく、既製品の“厚焼き玉子”はさておき“クリーンエッグ”や“たまご風味ソース”といった耳慣れない製品が供されている。

■きな粉の食べ方いろいろ

特筆すべきは先述した“きな粉”だろう。麦飯にまぶして食べたのち、残りを味噌汁に加えたりすることもあるという。貴重なタンパク源であるため、無駄にはできない。「水を足してペースト状にする者、お茶に入れて飲む者、飯を一生懸命スプーンでつぶし餅状にしておはぎを作る者とさまざま」だ。スプーンはプラスチック製である。

副菜はそれぞれ、刑務所の食事を知らない私たちが想像する量の、よくて半分程度ではないかということだ。それでたっぷりと分量のある麦飯をかき込む。

朝昼晩、総じて言えることのようだが、作られてから支給されるまでそれなりの時間が経過しているため、湯気の立つような味噌汁ではない。

それでも、「最も美味しく感じられるのが朝食です。そう感じている懲役は多いと思います」といった声もある。

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ほんにかえるプロジェクト 2015年9月、受刑者の更正支援団体として設立。今までに約400名の面識のない受刑者に約1万冊の書籍を送り、受刑者が有意義に刑期を過ごせるよう支援してきた。本を送った受刑者会員と文通することでひとりの人間として接し、寄り添うことで社会との接点を作れるよう努力している。

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(汪 楠、ほんにかえるプロジェクト ライター=田内万里夫 写真=名和真紀子 料理=田内しょうこ)

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