ついに国連が「男系男子限定」に勧告…宗教学者が断言「皇室典範改正→愛子天皇実現への初手はこれしかない」
プレジデントオンライン / 2024年11月13日 8時15分
■愛子天皇実現に連なる国連の勧告
思わぬ形で、日本は愛子天皇実現の方向にむかわざるを得なくなった。
10月29日、国連の女性差別撤廃委員会は日本政府に対する勧告を含めた最終見解を公表した。
その勧告では、夫婦が希望すれば結婚前の姓を名乗ることができる「選択的夫婦別姓」を可能にするよう民法改正を進めるとともに、皇位継承における男女平等を保障するため、皇位は男系男子が継承すると定めた皇室典範を改正することが求められている。
現在の皇室典範では、第一条で、「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と規定されている。この規定が女性差別にあたるというのである。
国連が選択的夫婦別姓導入のための民法改正を勧告するのはこれが4回目である。皇位継承のことについては初めてになる。2016年にも、そのことを勧告に盛り込もうとする動きがあったものの、日本政府が抗議することで、それは削除された。しかし、今回は勧告に含まれることとなった。
■女系天皇容認論への強い反対
これに対して、林芳正官房長官は同月30日の記者会見で、勧告において「皇位継承にかかる記述がされたことは大変遺憾だ」と述べ、同委員会に強く抗議し、削除を申し入れたことを明らかにした。
政府は勧告が出る前にも、同委員会において、皇室の問題をそうした形で取り上げることは適切ではないと反論していた。
また、「皇統を守る国民連合の会」の会長である葛城奈海(なみ)氏は、同委員会でスピーチを行い、「天皇は祭祀(さいし)王だ。ローマ教皇やイスラムの聖職者、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ法王はみな男性なのに、国連はこれを女性差別だとはいわない。なぜ日本にだけそのように言うのか」と発言した。この会は任意団体で、女系天皇容認論に強く反対し、戦後に臣籍降下した11宮家の皇族復帰を求めている。
勧告は法的拘束力を持つものではないので、ただちに日本が皇室典範の改正を行う必要はない。だが、その方向にむかわなければ、同委員会は、次の機会にも同じ勧告を行うはずである。それは、一定の圧力になる。
勧告が出た後、葛城氏は、産経新聞の取材に対して、「毅然と『国家の基本』を継承していく姿勢を貫くべき。勧告はスルーして構わない」と述べている。
■ローマ教皇を引き合いに出すのは妥当か
しかし、彼女の反論については、それが有効なものなのかどうか、そこに大きな疑問をいだかざるを得ない面がある。
葛城氏は、ローマ教皇やダライ・ラマ法王のことを反論の材料にあげている。たしかに、ローマ教皇はこれまですべて男性である。しかも、カトリック教会では、女性が神父になることを認めていない。それは、プロテスタントとの決定的な違いで、プロテスタントでは女性の牧師がいくらでもいる。
ダライ・ラマも、現在で14世になるが、こちらもすべて男性である。チベット仏教では尼僧もいるが、女性がその最高位につくことはない。
その点で、葛城氏の反論はもっともなものに思えるかもしれない。けれども、国連の委員会が、この二つのケースを女性差別の実例として問題視することは考えられない。というか、制度的にあり得ないのだ。
というのも、勧告の対象となるのは、「女性差別撤廃条約」を批准している国連の加盟国にかぎられるからだ。日本はその対象になっているが、ローマ教皇の居住するバチカン市国は国連の非加盟国である。常任のオブザーバーの地位にはあるが、投票権は認められていない。それに、カトリック教会は世界に広がった宗教組織であり、国連と直接に関係を持っているわけではない。
■皇室を政治の問題として扱う国連の立場
ダライ・ラマの場合には、かつてはチベット政府の元首であったものの、現在ではチベットから追い出され、亡命政権となっている。チベット亡命政権は国連には加盟していないし、チベットは中華人民共和国の領土となっている。
したがって、国連の委員会が、ローマ教皇やダライ・ラマが男性ばかりである点をとらえて、それを女性差別として、その是正を勧告することは、そもそもあり得ないのである。
果たして葛城氏は、その点を理解しているのだろうか。
日本の天皇をローマ教皇やダライ・ラマと並べて論じることは、葛城氏が、それを宗教の問題として扱っているという印象を他の国に対して与える可能性がある。
国連は、それをあくまでそれぞれの国の政治の問題として扱っているのであり、そこにはどうしてもズレが生じてくる。それは、複数の委員から「国連は他の王室がある国にも言ってきたので、日本にも言っているだけ」という声があがったところに示されている。皇室も、王室一般ととらえられているのだ。
ヨーロッパの王室でも、かつては男性しか国王になれないところが多かった。ところが、第2次世界大戦後、男女同権の考え方が広まることで、第1子が男女を問わず王位を継ぐ「長子相続制」をとる国が増えてきた。今なお、女性の王位継承を認めないのはリヒテンシュタインだけになった(朝日新聞2024年10月30日)。国連の委員の念頭には、こうしたことがあるわけである。
■天皇を男性に限定したのは明治時代
それに、カトリック教会もチベット仏教も宗教であり、いくらその組織の規模が大きくても、それは民間の団体である。そうした宗教団体に対して、国連という政治組織が介入することは、近代社会で確立された政教分離の原則に反することになる。
そうした点で、葛城氏の国連に対する批判は的を射たものにはなっておらず、かえって日本側の認識の誤りを露呈する形になってしまった。日本政府の反論も、国連の勧告を軽視するものとしか、他の加盟国には受け取られないだろう。
しかも、日本の歴史を振り返れば、飛鳥時代から奈良時代にかけては、多くの女性の天皇があらわれ、江戸時代にも女性が天皇に即位している。天皇を男性に限定したのは、明治時代になってからで、法的には旧皇室典範からである。その点で、皇統は男性男系に限るという考え方は、近代に生まれたものである。果たしてそれをもって「伝統」と言えるのかどうか、そこがどうしても疑問になってくる。
もし皇室典範の改正がなされなかったとしたら、国連の委員会は、ふたたび同じ勧告を行うだろう。選択的夫婦別姓に対する勧告が4回に及んでいるわけだから、事態が変わらなければ、勧告はくり返されるはずだ。
■女性宮家創設で生まれる新たな女性差別
懸念されるのは、その間に、今、皇族の確保のために模索されている女性宮家が実現されたときである。
女性も宮家の当主になれるという点では、女性差別の解消に一歩前進したように受け取られるかもしれない。ただそこで問題になってくるのが、宮家となった皇族女性と結婚した配偶者や、その間に生まれた子どもの扱いである。
現在のところでは、女性宮家の配偶者や子どもは皇族とはしないという考え方が有力である。仮に愛子内親王が結婚した後、女性宮家に皇族として残っても、その夫や子どもは皇族ではなく、一般国民にとどまることになる。
となると、男性宮家の妻や子どもとの間に格差が生まれる。男性宮家の妻や子どもは、そのまま皇族になるからである。
これは新たな女性差別ではないか。
国連の委員会はそれを問題にするだろう。となると、さらに勧告は厳しいものになるかもしれない。
そうなれば、政府も勧告に対して反論することが、今以上に難しくなっていく。そもそも、皇統を男系男子に限定した明治以降の考え方は、家父長制を基盤においており、現代の感覚からすれば、完全に時代遅れのものなのだ。
■女性・女系天皇実現に必要な初手とは
なぜ皇統は男系男子に限るのか。その根拠は極めて薄弱である。
日本の歴史のなかで、多くの女帝が誕生してきたことを踏まえるならば、その根拠は、明治時代に「そのように決めた」というところにしか求められない。
しかも、それを規定している皇室典範は、現在では一般の法律とかわらないもので、国会の議決でいつでも改正が可能である。
戦前の旧皇室典範は、皇室にのみかかわる「家憲(かけん)」とされ、官報にも掲載されず、発表も非公式のものであった。その一方で、「典憲(てんけん)」ということばがあり、大日本帝国憲法と同格と見なされた。
したがって、帝国議会によって改正ができないものであった。そこが、戦後の新しい皇室典範とは決定的に違うのだ。
保守層、あるいは男系固執派には、いまだに旧皇室典範の考え方が受け継がれているように見える。本来なら、戦後に今の皇室典範が生まれたとき、「皇室法」と改称すべきだった。そうなっていれば、いつでも改正が可能な法律のイメージが生まれていたことだろう。
皇室典範を皇室法と改称する。手初めに必要なのは、その着手かもしれない。
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宗教学者、作家
放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)、『教養としての世界宗教史』(宝島社)、『宗教別おもてなしマニュアル』(中公新書ラクレ)、『新宗教 戦後政争史』(朝日新書)など著書多数。
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(宗教学者、作家 島田 裕巳)
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