コロッケでも餃子でもハンバーグでもない…受刑者200人が答えた「刑務所ごはん」人気No.1メニューとは
プレジデントオンライン / 2024年11月24日 16時15分
※本稿は汪楠、ほんにかえるプロジェクト『刑務所ごはん』(K&Bパブリッシャーズ)の一部を再編集したものです。料理の写真は、同書の調査を基に料理家が再現したものです。
■煮物のように水っぽい「炒め料理」
写真(右)はある日の昼食の再現イメージ。キャベツと鶏肉のレモンバター炒め、野菜のチーズサラダ、缶詰のみかん、という副菜の献立だ。
衛生面を配慮してのことだろうが、肉は調理前に必ず一度茹でることになっているという証言があった。大きな鍋に湯を沸かしたとしても、直前まで冷蔵庫に保存されていた大量の肉を投入すれば、湯の温度は一気に下がる。茹でるあいだに脂も肉汁も抜け出てしまうだろうから、旨みが損なわれるのは避けようがない。炊場での調理は基本的に大きな蒸窯を使っておこなわれるため、「○○炒め」というメニューであっても高温の火力で勢いよく炒められたものではないし、そもそも炒められていないような気がする。
野菜類は冷凍のカット野菜が使われることが多いが、これも調理の過程で水が出やすい。価格が安定している、下処理が少なくて済む、衛生的であるなど、さまざまな利点があるのだろうが、「歯ごたえがない」などといった不満につながる一因だろう。炒め物とは名ばかりで、実際は「水気が多くて煮物のようだ」と嘆く声もあった。
『刑務所ごはん』では一般的な家庭用の調理機器を使って、刑務所の味の再現を目指した。複数の元受刑者に試食してもらい、食感や盛り付けについてもアドバイスを受けた。家庭で再現する際には「水を多めに加える」、「長時間じわじわと過熱する」、「とにかく薄味に徹する」ことを意識することで、多少は刑務所の味に近づけられるかもしれない。
■三食のうち最もバリエーションが多い昼食
刑務作業に従事する受刑者にとって、最大の活力源となるのが昼食だ。主食の中心が麦飯であることは変わらないが、パンや麺類といった食欲をそそる変化が期待できる。三食のなかで最もメニューのバリエーションが多い。
パンといえば獄中ではコッペパンだが、これは市販のものより大型だそうだ。炭水化物のカロリーが生む熱量が、一日の労働の糧となる。パン食の日が嬉しいという声は多く、出所後はパン屋になりたいと夢想する受刑者も珍しくないようだ。
刑期を終えればまた、外の社会でどうにかして生計を立てていかなければならない。その後の生活の手段を不安視する受刑者が多いのは想像に難くないが、では一体どうすればいいのか? さまざまな理由から前科を持つに至った者にとって、その不安が小さくないであろうことは想像に余りある。
社会に受け入れられなければ、またなにか過ちを犯してしまうのではないか。長い服役生活のなかでそんな不安が募る。社会復帰に向けた教育をもっと充実させてほしいという受刑者の意見は切実だが、実情は及ばない。
生まれ落ちた家庭環境、経済状況、そのようなあれこれを悔やんでも、いまさら自分ひとりではどうすることもできない。出所できたとしたところで、過去の人間関係を頼るほかないのだとすれば、またこの道に引き戻されてしまいかねない。
■「○○風」というメニューに期待してはいけない
ポテトコロッケ、鶏肉野菜炒め、ハンバーグ、いわしハンバーグ、メンチカツ、オムレツ、春巻、麻婆春雨、鶏肉と里芋の炒り煮、白身魚のフライ、餃子、豚汁、コンソメスープといった華やかなラインナップが供されることもある。
麺類を挙げればラーメン、うどん、スパゲティ、蕎麦、焼きそばとメリハリがある。ミートソース、五目、天ぷら、ジャージャー、きつね、南蛮……、いずれもこころ沸き立つような響きだが、名前どおりの期待が満たされるとはかぎらないと受刑者は言う。
特に身構えておきたいのが、洋風・和風・中華風、柳川風、すきやき風、さらにはハワイアン風、ガパオ風、ビビン麺風といった、○○風の献立だという。献立を組む立場としては少しでもと工夫を凝らしたい。給与される側は想像力をかきたてられ、そして裏切られる。切ないといえば、あまりに切ないやりとりだろう。
喜ばれるのが“ぜんざい”だ。甘く煮た小豆の餡は、コッペパンとマーガリンとの抜群の相性を誇る。アルコール類やスパイスといった刺激物から遠ざかって久しい受刑者たちにとって、“ぜんざい”にかぎらず甘味の魅力は絶大だ(味醂(みりん)もアルコールだから使われない)。
「甘しゃり」を味わい英気を奮い立たせ、今日の活力とする。
■「味があるから」受刑者に一番人気のメニュー
千葉刑務所に服役中の受刑者は言う。「たいていの人は(好きなメニューは)カレーと言います。理由は、味があるからです」
大分の受刑者も「結局一番となるとカレー」と同意見だ。「基本的に毎週1回食べられるのも嬉しい」と、その理由を語っている。
それと分かる味があり、また必ず定期的に食べられる。カレー人気の高さの所以(ゆえん)だ。
平日の昼食は、それぞれの従事する刑務作業の工場に配られる。「おい! 俺のカレーに肉2個しか入ってねーぞ!」と怒号を上げる受刑者がいる。すると、各テーブルから「○○さん、みんな1個しかないよ、それ当たりだから」などとたしなめる声が聞こえる。肉といっても小さな肉片であって、大きな塊ではない。これは千葉の受刑者から寄せられた手紙のなかで描かれていた、ある日の昼食の情景だ。
宮城の受刑者は、「カレーの日の副菜に必ず”福神漬”がつくのですが、これも一品扱いですよ!」と不満を訴える。副菜の品数は限られている。以前は3、4粒ほどの“らっきょう”が添えられることもあったそうだが、大きさや個数が喧嘩の原因となるため、今では姿を消したという。熊本からは「カレーにジャガイモが入っているのに、付け合わせがポテトサラダ」と問題視する声も届いた。
人気メニューのカレーだが、今では具材も寂しくなっているという。冒頭の写真は“生揚げ”のカレーだ。肉類を中心に使われる食材が減るなか、大豆由来のタンパク質が存在感を増している。
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(汪 楠、ほんにかえるプロジェクト ライター=田内万里夫 写真=名和真紀子 料理=田内しょうこ)
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