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「地震で命を落とす確率」は算出できる…災害が頻発する地域の住民はわかっている「自然災害の本当のリスク」

プレジデントオンライン / 2024年11月19日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SteveCollender

自然災害には、どのように備えればいいのか。科学者のバーツラフ・シュミル氏は「災害による被害は大きく報道されるので、リスクが過大評価されることがある。しかし、正確なリスクを理解するためには、印象ではなく数値に基づいて考えるべきだ」という――。

※本稿は、バーツラフ・シュミル『世界の本当の仕組み』(草思社)の一部を再編集したものです。

■自然災害の「正確なリスク」は計算できる

普通に暮らしているのと比べて、繰り返し起こる致命的な自然災害はどれほどリスクがあるのか? そして、エクストリーム・スポーツは? あまり頻繁にではないにせよ、1種類か2種類の壊滅的な出来事にだけ何度も見舞われる国もある。たとえば、イギリスは洪水と極端な強風の害を受ける。一方、アメリカは毎年、多くの竜巻と広範な洪水、頻繁なハリケーン(2000年以降、1年当たり2つ弱のハリケーンが上陸している)や豪雪に対処しなければならず、太平洋岸の州は、大地震と、場合によっては津波にも襲われるリスクが常にある(※60)

毎年、竜巻で人が亡くなり、住宅が壊される。これに関しては過去の詳細な統計があるので、正確な曝露リスクを計算することができる。1984~2017年に、破壊的な竜巻に襲われやすい21の州(ノースダコタ州、テキサス州、ジョージア州、ミシガン州と、この4州に囲まれた州で、人口の合計は約1億2000万人)では1994人の死者が出ており、そのうち約80パーセントは、3~8月の6カ月間に亡くなっている(※61)

■なぜ「災害が頻発する地域」に住み続けるのか

これは曝露1時間当たり約3×10-9(0.000000003)人の死者という計算になり、普通に暮らしているときのリスクよりも3桁小さい。アメリカの、竜巻に襲われやすい州の住民で、この割合を知っている人はほとんどいないが、繰り返し自然災害に見舞われる他の地域の人と同様、彼らも竜巻に命を奪われる確率が十分小さいことを認識しており、だから、そのような地域に暮らし続けるリスクは依然として許容できるのだ。

強力な竜巻による破壊の爪痕の画像は広く報道されるので、大気の状態がそこまで荒々しくない地域に住む視聴者は、被災地の人がなぜ同じ場所に家を再建すると言うのか、不思議に思う。だが、そのような判断は不合理でもなければ、向こう見ずなまでにリスクが大きいわけでもない。そして、その判断があるからこそ、テキサス州からサウスダコタ州まで延びる「竜巻街道(トルネード・アレー)」に、何百万、何千万もの人が住み続けるのだ。

■「曝露リスク」は世界で共通している

注目すべきことに、世界各地でよく出合う他の自然災害に対する曝露リスクを計算すると、やはりみな10-9という同じ桁か、それよりもなお低い割合になる。そしてまた、致命的な現象へのそうした曝露率を考えると、いつ起こってもおかしくない地震のリスクと多くの国が折り合いをつけている理由もわかってくる。

国土のどこで被害が出てもおかしくない島国の日本では、1945~2020年に、約3万3000人が地震で亡くなった。その半数以上が、2011年3月11日に東日本を襲った地震と津波の犠牲者だ(死者1万5899人、行方不明者2529人(※62))。だが、1945年の7100万人から2020年には1億2700万人へと人口が増えたことを踏まえると、これは曝露1時間当たり約5×10-10(0.0000000005)人の死者という計算になり、日本の全死亡率よりも4桁小さい。0.0001を1に加えても、人生のリスクの全体的評価を変えるような決定的要因には、とうていなりえないことは明らかだ。

■ハリケーンの死亡リスクは「落雷程度」だが…

ほとんどの地域では、洪水と地震の曝露リスクはおおむね1×10-10から5×10-10の間に収まり、1960年以降のアメリカのハリケーン(テキサス州からメイン州までの沿岸諸州で約5000万人に影響を与え、平均で1年当たり約50人の命を奪う)のリスクは、約8×10-11(※63)

ハリケーンの余波
写真=iStock.com/Jodi Jacobson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jodi Jacobson

これは著しく低い割合であり、雷に打たれて死ぬという、ほとんどの人が並外れて低い自然リスクと考えるだろうものに非常に近いか、それより小さくさえある。近年、落雷で亡くなる人は、アメリカでは毎年30人に満たない。そして、落雷の危険は、落雷の90パーセントが発生する4~9月の6カ月間に、屋外にいる1日当たり平均4時間にしかないと仮定すると、そのリスクは1×10-10となり、曝露期間を10カ月まで拡げれば、7×10-11(0.00000000007)まで下がる(※64)

今や、アメリカのハリケーンはせいぜい落雷程度の死亡リスクしかもたらさないという事実からは、人工衛星や高度な公的警告システムや避難措置によって、どれほど死者数が減ったかがわかる。同時に、新たな懸念を抱く理由もある。1年当たりの自然災害の頻度とその経済的コストの両方が、世界中で高まり続けているのだ。かなりの自信を持ってそう言うことができる。なぜなら、地震やハリケーン、洪水、火災の予想不能の発生に損益がかかっている世界の大手再保険会社がみな、自然災害の傾向を何十年にもわたって注意深く監視しているからだ。

■保険会社は「予想不可能なリスク」にどう対応するのか

保険は昔からある仕組みであり、さまざまなリスクに対して、それぞれ異なる補償を提供する。生命保険は十分に予想可能な生存率に基づいている。一方、主要な自然災害は予想不可能なので、保険会社はそのような災害に関連したリスクを、自ら保険を掛けることで分かち合う。

そのため、スイス・リーやドイツのミュンヘン再保険とハノーヴァー再保険、フランスのSCOR、アメリカのバークシャー・ハサウェイ、イギリスのロイズといった世界有数の再保険会社は、正しい判断を下すことに会社の存続そのものがかかっているので、自然災害をこの上ないほど入念に調べている。これらの企業は、保険金支払いによる損失が増えるのを防ぐために、将来のリスクを過小評価するような時代後れの数値に基づいて保険料を決めるわけにはいかない。

■災害による「経済的損失」が急増している理由

ミュンヘン再保険が記録した自然災害の総数は、当然見込まれるとおり年ごとに変動してはいるものの、上昇傾向は見逃しようがない。年間の頻度は、1950~80年はゆっくりした増加、80~2005年には倍増、2005~19年は約60パーセント増となっている(※65)。大災害から生じる例外的な負担を反映する経済的損失の総額は、それに輪をかけて大きな毎年の変動と、さらに急激な上昇傾向を示している。

2019年のドルの価値に換算すると、1990年以前の記録は約1000億ドルだったのに対して、2011年には過去最高の3500億ドル強に達し、17年もそれに迫る勢いだった。全体の損失のうち、保険が掛かっているものはおおむね30~50パーセントの幅で推移してきた。そして、17年には1500億ドルに迫った。

バーツラフ・シュミル『世界の本当の仕組み』(草思社)
バーツラフ・シュミル『世界の本当の仕組み』(草思社)

1980年代までは、災害被害者の増加は主に、人口増加と経済成長の結果として曝露が多くなったことに帰せられた。この傾向は持続しており、災害に見舞われやすい地域に、以前より多くの人が暮らし、以前よりも多くの資産に保険を掛けているが、過去数十年間には、自然災害そのものが変化してきた。以前よりも温度の高い大気には、含まれる水蒸気も多く、極端な降水の可能性が高まっている一方で、旱魃が長引いて、並外れて長く続く猛烈な火災が繰り返し起こる地域もある。

こうした傾向がさらに強まることを予想するモデルも今や多くあるが、立ち入り禁止区域を定めたり、湿地帯を復活させたりすることから、適切な建築法規を施行することまで、その影響を和らげるために取れる、多くの効果的な措置も知られている。

原注

60:西海岸の地震の危険に関する優れた概括については、以下を参照のこと。R. S. Yeats, Living with Earthquakes in California (Corvallis, OR: Oregon State University Press, 2001)[邦訳『多発する地震と社会安全 カリフォルニアにみる予防と対策』(太田陽子/吾妻崇訳、古今書院、2009年)]. 西海岸の地震の、太平洋の反対側への影響については、以下を参照のこと。B. F. Atwater, The Orphan Tsunami of 1700 (Seattle, WA: University of Washington Press, 2005).

61:E. Agee and L. Taylor, “Historical analysis of U.S. tornado fatalities (1808-2017): Population, science, and technology,” Weather, Climate and Society 11 (2019), pp.355-368.

62:R. J. Samuels, 3.11: Disaster and Change in Japan (Ithaca, NY: Cornell University Press, 2013)[邦訳『3.11 震災は日本を変えたのか』(プレシ南日子/廣内かおり/藤井良江訳、英治出版、2016年)].; V. Santiago-Fandino et al., eds., The 2011 Japan Earthquake and Tsunami: Reconstruction and Restoration, Insights and Assessment after 5 Years (Berlin: Springer, 2018).

63:E. N. Rappaport, “Fatalities in the United States from Atlantic tropical cyclones: New data and interpretation,” Bulletin of American Meteorological Society 1014 (March 2014), pp.341-346.

64:National Weather Service, “How dangerous is lightning?” (accessed 2020), https://www.weather.gov/safety/lightning-odds; R. L. Holle et al., “Seasonal, monthly, and weekly distributions of NLDN and GLD360 cloud-to-ground lightning,” Monthly Weather Review 144 (2016), pp.2855-2870.

65:Munich Re, Topics. Annual Review: Natural Catastrophes 2002 (Munich: Munich Re, 2003); P. Low, “Tropical cyclones cause highest losses: Natural disasters of 2019 in figures,” Munich Re (January 2020), https://www.munichre.com/topics-online/en/climatechange-and-naturaldisasters/natural-disasters/natural-disasters-of-2019-in-figures-tropical-cyclones-causehighest-losses.html.

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バーツラフ・シュミル(ばーつらふ・しゅみる)
マニトバ大学(カナダ)特別栄誉教授
エネルギー、環境変化、人口変動、食料生産、栄養、技術革新、リスクアセスメント、公共政策の分野で学際的研究に従事。カナダ王立協会(科学・芸術アカデミー)フェロー。2000年、米国科学振興協会より「科学技術の一般への普及」貢献賞を受賞。2010年、『フォーリン・ポリシー』誌により「世界の思想家トップ100」の1人に選出。2013年、カナダ勲章を受勲。2015年、そのエネルギー研究に対してOPEC研究賞が授与される。日本政府主導で技術イノベーションによる気候変動対策を協議する「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」運営委員会メンバー。

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(マニトバ大学(カナダ)特別栄誉教授 バーツラフ・シュミル)

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