「病院に行くほどではない体の不調」を甘く見てはいけない…医者が病気にならないために毎朝やっている習慣
プレジデントオンライン / 2024年11月20日 17時15分
※本稿は、小林弘幸『病院に行くほどではない不調に医師がしたこと』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■不調は「体重」にあらわれる
体重の増減が生活習慣病と深く関係していることは、さまざまなデータを見てもあきらか。
今、病名のつかない不調を抱えている人は、診断名のつく病気にならないように、最低でも現在の体重を維持することが重要。生活習慣病など病気の予備軍にかかっているならば、今より少し体重を減らすようにしたいところだ。
実は、私が体調復活の兆しをしっかり感じられたのは、体重がきっかけだった。私のベスト体重は65kg。しかし、不調を感じながら過ごしたおよそ3年間は、どれほど暴飲暴食をしても63kgより太ることがなかったのだ。
最初こそ、食べすぎても体重が増えないのでラッキーだと思っていたけれど、途中からさすがにこれはおかしい、歯車が噛み合っていないようなモヤモヤとした体調の悪さが自分を太らせないのだ、と考えるようになっていった。
そして、2022年の年末に腕の手術をし、年明けからはリハビリも兼ねて新しい習慣も取り入れ、体調が上向いてきているのを実感し始めたころ、なんと体重が67kgまで一気に増えた。
食べすぎたら、その分だけ体重が増える。当たり前のことが当たり前に起こる体に戻ったのが嬉しかったし、体重が増えたことを喜ぶという経験は、人生で初めてだったと思う。その後、毎朝1時間ウォーキングをするなどして、1カ月かけてベスト体重まで戻した。
体重を減らす努力が成果としてきちんと表れる。これも、体が健康だからこその反応で、自分の体は元気に向かっている。そう確信を持てる嬉しい出来事だった。
■毎朝、体重計に乗るだけでいい
現在は、ベスト体重の65kgをキープできている。私は長年体型が変わらないので、それを羨ましがる人はとても多いのだが、私の感覚では体重をキープすることはそれほど難しいことではない。
多くの病院で「体重管理」なんていう言葉が使われるから難しくなる。私なら患者さんに「毎朝、体重計に乗るだけでいいですよ」と伝えます。体重計が示す数字が、自然と自己管理能力を高めてくれるからだ。
気づいたら体重が増えている人は、「最近、食べすぎているな」とか「この一週間あんまり動いていないな」という、自分の感覚を頼りにしていませんか? それが、気づいたら2kgも3kgも体重が増える原因なのです。
毎朝、体重を測れば、数字があなたの体の状態をはっきりと教えてくれます。「今日は500g増えている。やっぱり、ここ2、3日食べすぎていたからな」と、結果と感覚がきちんとリンクする。
これが、意識づけとして大きな効果を発揮するのです。私は朝の計測でベスト体重であれば、その日の食事は何も気にせず好きなものを食べます。ベスト体重を500g以上上回っていたら、昼食や夕食を軽めにしたり早めの時間に食べ終えるなどのちょっとした工夫で調整をする。
たったこれだけのことで、体調不良の時期を除いた何年間も体重維持ができています。不調にはいつも気づかぬうちに陥っていくことが多いので、自分では見逃しがちな心身の変化を把握するためにも、体重という数字はとてもいい判断基準になりますよ。
■「スマホで調べて自己診断」はやめたほうがいい
今はスマホを持っていれば、よくも悪くもなんでもすぐに調べられます。私は腰がウィークポイントで、毎年春には決まってぎっくり腰をやってしまうし、ふいに腰痛に悩まされることもあります。
腰痛対策を知りたいと思ってネットで検索をすると、内臓疾患やがんの可能性を指摘する記事を目にすることになるでしょう。これらの言葉を目にして、不安になるなというほうが無理。
「もしかしたら病気かも⁉」という不安感は大きなストレスですし、自律神経のバランスも崩れ、不調をさらに深刻なものにしたり、長引かせたりする要因になります。
便秘外来の患者さんでも、「3日おきにしか便が出ないし、お腹が痛いのは悪い病気じゃないだろうか」と不安な気持ちを抱えて来院する方が少なくありません。
「大丈夫ですよ。3日に1回便通があるならそれは便秘じゃないですよ」と私がお伝えしただけで、お腹の痛みも便秘も解消してしまう人は、一人や二人じゃありません。不安を解消しただけで自律神経のバランスが整い、体調もあっさり回復してしまうのは、本当によくある話なのです。
実際、不調の沼をどんどん深くしてしまっているのは自分自身だったりします。自分自身は不調を感じていても他人から見てそうではないときは、自分の思い込みである場合が少なくありません。
実のところ、医師の私でもそうでした。本書(『病院に行くほどではない不調に医師がしたこと』)の序章でもお話ししたように、不調の底にいたころ、何人かに「小林、大丈夫か?」と声をかけられ、自分の健康にすっかり自信をなくしかけていました。
■不安が増幅して“悪いほう”へ流される
その当時、滑舌の悪さや声のかすれが気になっていて、これは何か病気のサインではないかと思い耳鼻科にも行きました。そうしたら、「小林先生、それはただの老化ですよ」と言われてしまった(笑)。
病気ではないことに安心はしたけれど、やっぱり、気になる。だから、私が普段いるオフィスと同じ階にいる、今は漢方医学の指導医をしている大学の同級生の女性に、「滑舌が悪くなっちゃったんだけど、何かいい漢方薬はない?」と相談したんです。
そうしたら、ニヤッと笑って、「小林君、滑舌が悪いのは昔からだよ。別に前と変わってないよ」だって(笑)。
同級生のこの言葉で、自分にまとわりついていた不安が一気に吹っ飛びました。そうそう、私は昔からモゴモゴと喋るクセがあって、けっして滑舌のいい人間ではなかった。
だけど、体調が底の状態で、人から「大丈夫?」と心配されて、勝手に滑舌の悪さを不調と結びつけていたのは自分だったんだと、ようやく目が覚めた。
医療知識を持つ医師でも、悪い流れにいるときや体調不良のときにこうなるのだから、あなたも自己診断は危険です。
どんどん不安が勝手に増幅して、思考も体も悪いほうへ悪いほうへと流されてしまいます。そうなる前に、不安が大きいようなら受診をして、医師の診断を仰ぐことも視野に入れましょう。
あきらかにいつもとは違う痛みや、直感的にこれはマズイなと感じる症状があるときには、すぐに受診を。痛みなど症状が日増しにひどくなる場合には3日以内をめどに受診を。我慢できないほどではなくても同じ症状が2週間続いている場合にもやはり受診を。
基準を明確にしておくと、取り返しがつかない事態になる前に、解決へと舵を切ることができます。
■“いつもの通勤道”でタイムトライアルレースをしてみる
体調の回復・維持を目的に、毎日、タイムトライアルレースを実践しています。オフィスのあるビルから最寄りの御茶ノ水駅まで、普通に歩くと5分30秒ほどかかります。このタイムから今日は何秒縮められるかを自分自身と競うのです。
この話をすると、みんな驚きます。「小林先生、本当にそんなことやっているのですか? 本当に?」と本書(『病院に行くほどではない不調に医師がしたこと』)の編集者も取材中なかなか信じてくれなかったのですけど、本当です。
信号に引っかかると大幅なタイムロスなので、目の前で赤信号に変わって悔しい思いをすることもありますが、それも含めてレースに挑み続けています。いいタイムを出すため、そして姿勢よく歩くために、長年使っていた通勤用のトートバッグもリュックに変えたほど。
5分20秒なんていうタイムが出た日には、ニッコニコの上機嫌。手帳を使った自己採点(『病院に行くほどではない不調に医師がしたこと』136ページ参照)では5以上の点数をつけることでしょう。
たとえば、いつものスーパーまでの時間を測ってタイムトライアルをするのはどうでしょう。それ以外にも、1回も休まずに階段で3階まで行こうと決め、そのタイムを測ってみるとか、自分の生活圏内でできそうなことを探してぜひ実践してみてください。
1、2秒でもタイムが縮まると嬉しく感じられますし、先月や先週や昨日の自分から前進していることを実感できます。
■たまには「遠回り」をして楽しんでみる
御茶ノ水駅−オフィス間のタイムトライアルとは正反対に聞こえるかもしれませんが、それ以外の時間で外に出るときは、あえて遠回りをすることが多いです。
私が実践しているのは、駅の乗り換えで面倒なほうを選ぶ、というもの。東京の地下鉄は複数の路線が複雑に交差していて、同じ駅名でも乗り換えには数百メートル歩かなければならないようなところもあれば、駅名は違っても実は地下道でつながっている場所もあります。
普段、電車移動をしているのですが、スムーズで最短距離の乗り換えよりも歩く距離を稼げる乗り換えをあえて選択しています。ここで、少しでも体を動かす時間を増やしているのです。
また、オフィスがあるビルから順天堂医院までの距離は近いのですが、複数の経路があるので、毎回変えています。
この方法なら、出かけたついでに歩数を稼ぐことができ、見る景色も変わってくるので、決まった時間に散歩に出るのがなかなか習慣にならないという私のようなタイプの方にもおすすめです。
普段の買い物でも、いつも同じ道を歩くのではなく、ぐるりと遠回りをして行ってみてはどうでしょう。
自宅の周辺の一区画をぐるりと一周してから目的地に向かうのでもいいですし、歩道橋を2回渡ってからじゃないとスーパーやコンビニに入らない、などと決めて挑むのも楽しいものです。
オフィスや自宅がマンションで2階以上にある人なら、エレベーターを使わずに階段を利用すれば、平地を歩くよりいいトレーニングになります。
■「負荷が億劫」と感じたら不調の兆し
私は電車の乗り換えのときは、とにかくエスカレーターとエレベーターは使わないと決めています。これだけでも運動量が増やせますし、それ以上に自分の体調のバロメーターとして役立っています。
すんなり階段に足が向かう日と、エスカレーターの誘惑に負けそうになる日があり、それが自分の心模様を知るきっかけにもなっています。
気持ちが前向きじゃないと、階段を上るのすら大きな決断になってしまう日があるんですよね。階段を上っていても、足取りが軽くて一段飛ばしで上れる日もあれば、途中で足が止まりそうなくらい体が重く感じる日もあります。
そういうときは、何が自分にとって疲れやストレスになっているのだろう、とか、不調を招く原因はどこにあるのだろうと自問するようにして、改善への一歩を踏み出すことにしています。
よく、一日8000歩歩こう、1万歩歩こうと言われますが、私はその考え方にはあまり賛成できません。
一日に歩く歩数を決めるとそれをストレスに感じてしまうし、達成できない日が続くと、なし崩し的に歩くことをやめてしまうかもしれない。そうなるくらいなら、大きすぎる目標は掲げずに、生活の中で歩数を増やしていくことを習慣にできたほうが、長い目で見たときにいいんじゃないでしょうか。
もちろん、目標とする歩数を達成することが毎日のモチベーションになっているのなら、それをやめる必要はありません。自分がこれならストレス少なく続けられるというほどほどの負荷ですむ習慣を選択していきましょう。
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順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。
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(順天堂大学医学部教授 小林 弘幸)
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