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子育て世帯で大流行のマイコプラズマ肺炎…家族ドミノを起こしがちな「やっかいな理由」を感染症医が解説

プレジデントオンライン / 2024年11月14日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

全国で患者が急増しているマイコプラズマ肺炎。8年ぶりの流行ゆえに、どんな感染症なのか把握していない人も多い。小児科医として感染症を研究する笠井正志さんは「マイコプラズマ肺炎は、子どもの感染をきっかけとして家庭内で広がりやすく、重症例はまれなものの長引いてやっかい。その原因は潜伏期間にある」という――。
マイコプラズマ肺炎について誤解されがちな3つのこと
1)新型コロナのような「ウイルス」ではなく「細菌」
  抗生物質で治療できる
2)肺炎にまでなる症例はまれ、感染しても8割は自然治癒
  死亡例は極めて少ない
3)潜伏期が2~3週間、咳が収まるまでに4~6週間と長引く
  発熱などがある急性期を過ぎたら、マスクをして出勤・登校可能

■2016年以来の流行、家庭内感染が広がるマイコプラズマとは?

2024年、患者数が過去最多を更新しているマイコプラズマ肺炎。私の勤務する「兵庫県立こども病院」でも、現在、入院に至る症例が最も多いのは、マイコプラズマに感染し、肺炎や脳症などを起こした子どもたちです。

一部で「4年ぶりの流行」とも報道されていますが、正確には2016年以来の流行。たしかにオリンピックイヤーの4年ごとに流行する傾向がありましたが、コロナ禍で、みんなが感染症対策を徹底していたため、しばらく流行がなく、今年どっと増えた形になります。

新型コロナやインフルエンザのウイルスとちがって、マイコプラズマは細菌です。ブドウ球菌や大腸菌と同じですが、マイコプラズマのサイズは半分か4分の1ほどと非常に小さく、ちょうど細菌とウイルスの中間ぐらい。小さいので、飛沫感染だけでなく、ウイルスのようにエアロゾル化し、空気感染に近いうつり方もします。

そして、潜伏期間が2~3週間と長い。インフルエンザは1~3日間ほど、新型コロナの潜伏期間は3~5日という症例が多いですから、それと比較すれば、いかに長いかがわかるでしょう。かかった人がもう治ったかな?と思っていると、次の人が感染していて発症する。この特徴によって、「家庭内感染を避ける」ことが難しくなるのです。

例えば、こんなケースがありました。4人家族で、10月上旬、最初に下のお子さん(4歳女児)に軽い咳が見られ、熱は37度台の微熱しか出ませんでした。お母さんが様子を見ていたところ、2~3日で症状が治まり、安心していた中旬になって、上のお子さん(9歳男児)が発熱。今度は38度5分を超える熱が出たので、小児科を受診し、4日間、熱が続いた時点で、検査キットは使わず、「見なしマイコ」として抗生物質を処方されたそうです。さらに、その1週間後、お母さん(30代)も発熱。11月上旬になっても、お母さんの咳は完全には治らないまま。お父さん(50代)だけが現在のところ、症状がないということです。

■幼児が最初にかかり、軽症だが細菌をまき散らすパターン

これは典型的なパターンで、家庭内で最初の症例となるのは幼児ということが多い。しかも、幼児は軽症で、無症状に近いケースも多いのです。この例の4歳の子のように、これまでマイコプラズマに感染したことがなく免疫がついていない人は、軽症のわりにたくさん細菌をまき散らすことに。そして、家庭にバーッと広がってしまいます。

現実的に考えて、4歳の子の症状があやしいと思っても、ずっとマスクを着けさせるわけにもいきませんよね。もうひとつ、家庭にマイコプラズマが入り込むルートとしては、学童が学校で感染し、家に持ち込むパターンがあります。

娘にマスクをつける母
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

そうなると、医師としては申し訳ない気がしますが、二次感染は予防のしようがなく、子どもがかかった時点で、兄弟や親も一蓮托生というか、うつることはある程度覚悟するしかないと思います。

■潜伏期間が異常に長く、スローだが確実に感染を広げる

そうして、いったん細菌が家庭に入ると、低い感染率で約30%として、3人家族で1人感染、5人家族で2人感染。高い感染率で80%の場合、3人家族はほぼ全員感染、5人家族で4人感染すると見られています。これはそれぞれの免疫量や健康状態によって変わってきますが、感染力はかなり強い。

さらに潜伏期間が長いので、4人家族が年齢順にかかっていって、一番年上のお父さんが治癒するまで2カ月かかるなんてことも……。スローな感染症と言うべきか、いつまでも終わった感じがしなくて、残念すぎる結果になることもあります。

ただ、症状はそれほど恐れることはありません。感染しても8割の人は風邪かなという程度で自然に治癒しますし、悪化したとしても、マイコプラズマは細菌なので抗生物質(マクロライド系の抗菌薬)が効きます。処方されて、早ければ翌日には熱が下がり、症状が改善していきます。ワクチンはないものの、新型コロナが発生したときや2009年に流行した新型インフルエンザに比べれば、治療法は確立されているのです。

ですから、感染が疑われる場合は、なるべく早めに受診して、薬をもらってください。

■抗生物質を処方されたら、最後まで飲みきることが重要

ただ、「抗生物質の適正使用」という問題があって、抗生物質は処方時に渡される注意書きのとおり、最後までちゃんと飲み切る。いったん熱が下がったら、薬を飲むのをやめてしまおうと判断する傾向がありますが、マイコプラズマはけっこうしつこく菌が残るので、気をつけてほしいですね。

熱が下がっても、体の中に菌は残っていて、咳などを介して他人にうつる。しかも、抗生物質を飲んだ後なので、それが、抗生物質が効きにくくなる耐性菌になってしまう可能性もあります。正しく飲み続けなければ、お母さん、お父さんにうつる頃には耐性菌になっているかもしれない。

ちなみに同じマイコプラズマという名ですが、性感染症のマイコプラズマとはまったく違う病気です。両方とも細菌の分類でマイコプラズマ属ではあり、治療薬は同じですが、交差免疫はなく、性感染症のマイコプラズマになった人がマイコプラズマ肺炎になりにくいということはありません。

マイコプラズマは妊婦さんが感染しても抗生物質が投与できますが、咳などの負担が体にかかるので、パートナーや周りの人が気をつけて、なるべくうつさないようにしてほしいですね。

一方、高齢者は比較的発症にしにくいと考えられています。つまり、マイコプラズマは子どもから40~50歳ぐらいまでの人に多い感染症で、まさに子育て世代を直撃しているわけです。

■熱が下がれば通勤・通学可能になるが、マスクは必須

もう1点、気をつけてほしいのは、感染後、学校や職場に行く場合は、「咳エチケット」を守ってほしいということです。学校保健安全法では明確な出席停止はなく、発熱などの症状が治まれば登校して構わないと思いますが、当然、マスクは着けていく。不織布のものが現実的だと思います。もし、着けていないときに咳をして、手でガードしてしまったら、その手で電車のつり革などを触らないこと。

電車の中のマスクをつけた人々
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

完全に治るまで数週間、もしくは数カ月かかるので、ずっと休んでいるわけにもいかないですよね。周囲の人たちも「マイコプラズマでも、出勤できる」ということを理解する必要がありますが、逆に「出勤して当然」というふうにも思わないでほしい。

症状がひどい人は「ボーンブレーキング」(肋骨が折れるぐらい)と呼ばれるぐらいの強い咳が出ますし、咳をしながら吐いてしまう場合もある。気がついたら肺炎になっていて、胸のレントゲンを撮ると白い影が映るということになります。

ただ、肺炎を起こした人がみな入院しなければならないわけではありません。薬をもらって自宅で療養していればOKという場合が多いですね。

■次のパンデミックに備えるため、働き方の多様性を保つ

そんなふうに症状がしんどいときは、仕事をゆっくり休める環境であってほしいですし、治まってからも、リモートワークなどを上手く利用しつつ、できるだけ感染を広げないようにする。それが、私たちがコロナのパンデミックで学んだことではないか、と思います。

新しいウイルス、もしくは細菌によるパンデミックは、いずれまた起きると考えられています。そのときには、新型コロナ発生時のように「受診できない人」や「入院できない人」が出るという地獄のような医療体制にはしたくありません。

そのためには、平常時から、いかに感染症のリスクをリダクション(縮小)するか。働き方でも、在宅でも仕事ができるという多様性を作っていく、もしくは保っていくということが大事になってきます。たとえ、他人にうつさないように出勤しなくても、会社からの評価や給料は下がらないという仕組みも必要ですよね。

ですから、現在、流行しているマイコプラズマ肺炎でも、流行期に入ったインフル冤罪でも、社会全体の感染リスクを少しでも減らしていこう。そう、皆さんが考え実行してくれたら、感染症の医師としては、うれしいですし、次のパンデミックのときにこの考え方が浸透していれば、みんながパッと素早く行動を切り替え、適切な対処ができると思います。

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笠井 正志(かさい・まさし)
兵庫県立こども病院感染対策部長
小児科医。1998年富山医科薬科大学医学部卒業。淀川キリスト教病院、千葉県こども病院、長野県立こども病院などを経て、2016年より兵庫県立こども病院感染症内科の立ち上げにかかわり現在に至る。一般社団法人こどものみかた副代表理事。編著に『こどもの入院管理ゴールデンルール』(医学書院)、『HAPPY! こどものみかた第2版』(日本医事新報社)など。

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(兵庫県立こども病院感染対策部長 笠井 正志)

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