「お前じゃ話にならないから上司を出せ!」「誠意を見せろ!」と怒鳴る悪質クレーマーを撃退するスマートな返し
プレジデントオンライン / 2024年11月17日 9時15分
※本稿は、津田卓也『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
■その場しのぎの共感は事態を悪化させる
【ケース①】
自分勝手な主張を繰り返された
自分勝手な主張を繰り返されたポイントカードをつくったばかりのお客様から「今まで商品を購入した分のポイントもさかのぼってつけてもらえないか」と言われました。お店のルールに則って、「できません」とお断りすると、ヒートアップしてしまい、「いつも来ているのだから、店のスタッフ全員に確認すれば分かるはずだ」「今までポイントカードを勧めなかったのは、店側の落ち度だ」と、自分勝手な主張を繰り返して、一向に納得してくれません。
・NG対応
「そうですよね。私からも掛け合ってみます」と共感し、その場しのぎの約束をしてしまう。
・解説
相手の気持ちに共感してしまうと、さらなるクレームに発展する恐れがある
無理な要求を繰り返すお客様の場合でも、まずは部分謝罪から対応を始めましょう。怒っているお客様の態度の裏には正当な要求が隠れているかもしれません。このときのポイントは、決して共感しないことです。その場しのぎで相手の気持ちへの共感を示してしまうと、「そう思っているならお前がなんとかしろ」と相手の怒りに吞み込まれてしまいます。
共感するのではなく、「ご不便をお掛けしてしまい、申し訳ございません」という点にのみ部分謝罪をして、相手の心情に寄り添っているという姿勢を見せつつ、相手にクレームの内容を話してもらいやすい状況をつくります。
■感謝の気持ちを伝え、相手の気持ちを落ち着かせたほうが良い
その上で相手の要求を6W3H(6W=いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・誰に、3H=どのように・いくらで・どれだけ)を使って把握しながら、事実確認をしていきます。ただし、「お客様のおっしゃる通りです」「お気持ちよく分かります」などの言葉は、相手の話をよく聞いてから使わなければなりません。
場合によっては全面的に要求を認めたと捉えられて、「さっきは非を認めていたじゃないか!」と状況が不利になるからです。そうして、対応者側に非があるのか、組織の判断基準に照らして対応が可能かどうかをしっかりと見極めて判断します。もし対応する必要がないと判断すれば、“3つのK”(感謝→簡潔な結論→感謝)を使いつつ要求には応えられないことを伝えましょう。
「ご不便をお掛けし申し訳ございません。ただし、ご要望にはお答えできません」
「お忙しい中ご意見をいただき、ありがとうございました」
今回のケースはお客様も最初はダメ元で「つけてもらえないか」と買い物ポイントの付与を要求したところ、従業員が「できません」とあまりに機械的な返答したことでお怒りになってしまいました。
このような場合、怒りの引っ込みがつかなくなってしまっているだけということもあるので、「貴重なご意見をいただき、ありがとうございます」と部分的に感謝の気持ちを伝えると、相手も気持ちが落ち着きます。何度も同じ要求を繰り返してくるお客様には、対応者はきちんと説明しており、これ以上は同じ内容の話に付き合うことはできないと理解してもらいましょう。
■「5000万円を補填しろ」
弁護士によると、こういったケースで「きちんと説明はした」と、裁判で認められる目安は3回以上です。お客様の話を一度聞いただけでは、重要な要求を聞き逃してしまうこともあります。同じ内容を繰り返しお話しいただくことになったとしても、最低でも3回は相手の話を聞き、そのたびにこちらからもきちんと説明しましょう。
はじめから相手の気持ちに共感するのはNG。「ご不便をお掛けし申し訳ございません」という点にのみ部分謝罪をし、相手に寄り添う姿勢を見せつつ、要求の内容をよく聞いて事実確認を進める。
【判断が難しいクレームの対応法】
「賠償」を求められた
ある鉄道会社で車両の整備不良によって電車が停止し、乗っていた利用客は降りることもできず、2時間ほど車内に閉じ込められてしまいました。この事故に巻き込まれたという中小企業の経営者の男性から、鉄道会社に対して後日、クレームが入りました。
「あの事故のせいで、大事な商談がパアになった! 時間通りに客先に着いていたら、5000万円の売り上げが立ったはずだ。天災なら仕方ないが、車両の整備不良は、お前たち鉄道会社が完全に悪い。車だと渋滞に巻き込まれると思って、わざわざ電車を選んだのに。この責任をとってくれ! 損失分の5000万円を補填しろ」高額な要求なので、悪意クレームと判断してしまいそうな事案です。
■「謝罪する相手が本当に実在するのか」を確認すべき
ここでまず冷静に考えてほしいのは、このお客様が訴訟に持ち込んだところで、鉄道会社側が裁判で負けることは、ほぼあり得ないということです。
この男性も会社の経営をされているので、内心では無理な要求だと分かっていたのではないでしょうか。ただ、怒りの矛先をどこに向けるべきか分からない状態だったのでしょう。
一般クレームのように、丁寧に話を聞き続けることで怒りが収まる可能性も想定できましたが、対応していたスタッフは一計を案じ、次のように伝えました。
「○○様、それはご迷惑をお掛けし、申し訳ございませんでした。今回、ご商談の時間に間に合わなかったのは、○○様がおっしゃる通り、弊社の整備不良に原因があります。そこでご提案なのですが、私共がお客様のご商談先に、弊社の車両故障のせいで、○○様がお約束の時間に間に合わなかったことをご説明に上がります。つきましては、ご商談先とご担当者様の連絡先を教えていただけないでしょうか?」
いかがでしょう。ここまで言われたら、溜飲も下がりませんか?
もちろん、実際に商談先を聞くことができたら、宣言通りお詫びに行きましょう。先方に話を聞いてみたら「破談になったのは、遅刻のせいではなかった」などの真相が分かるかもしれません。
■悪意のあるクレームかどうかを見極めることが重要
6W3Hの聞き方を実践すると、お客様のクレームが次のどちらに分類されるのかが明らかになります。
本音ではその賠償を望んでいない(一般クレーム)
具体的な賠償額を持ち出すことで「俺はこんなに怒っているんだ」と表現しているのです。お怒りの原因を丁寧にひもといてください。上手く解消できれば、顧客満足へとつなげることができます。
その賠償を本気で望んでいる(悪意クレーム)
賠償が正当なものかどうかを考えます。不当要求であれば、この時点でお客様対応を切り上げることもできます。実際に裁判になっても、組織側が負けることはほぼないでしょう。
お金をせしめることが目的の悪意クレームであれば、商談先などの情報は決して開示しないはずですし、そもそも商談自体が嘘だという可能性もあります。クレーム対応は見極めが肝心です。特に、「賠償」など、強い言葉でクレームを伝えられた時は、判断が難しいものです。強い言葉に惑わされることなく、お客様からの要求は6W3Hで、しっかり聞き出して事実確認を行いましょう。
一般クレームかハードクレームか、また、ハードクレームなら悪意クレームかどうか、その見極めを真摯に行うことが組織を守ることになるのです。
■「誠意」を要求されたら、代替案を提示してはいけない
【ケース②】
誠意を見せろ! と言われた
お客様のコートに、うっかりコーヒーをこぼしてしまいました。すぐに謝罪し、クリーニング代をお渡ししたのですが、お客様の怒りは収まらず「誠意を見せろ」と繰り返されます。具体的な要求ではないため、このあと、どのように対処したらいいのか困ってしまいました。
・NG対応
「ご迷惑をお掛けした分、補償いたします」と、商品を新品に取り替えたり、金銭を払ったりする。
・解説
「誠意」を求めてくる場合は金品の要求であることがほとんどなので、対応者側から解決策を提案してはいけない
「誠意を見せろ!」とだけ繰り返し、その内容を具体的に示さない場合、相手の本心は金品の要求である場合がほとんどです。
常習の悪意クレーマーは、「お金を払え」などと、ストレートに表現してしまうと、脅迫罪に該当することを知っているので、あえて「誠意」のような曖昧な言い方で相手に詰め続け、金品での解決という提案を引き出そうとするのです。
曖昧な言葉でクレームを受けた場合は、「誠意とは、具体的にどういうことですか?」と尋ねましょう。するとたいてい、相手は「それはお前が考えろ」などと、明確な表現を避けて返答します。このようなときに困ってしまわないよう、「自分なりの誠意とは何か?」の答えを組織として決めておく必要があります。
■「誠意とはなにか」を問いなおすのも効果的
こちらに非がある場合、組織としての「誠意」は、謝罪であり、きちんと説明をすることです。例えば、
「誠意をもってお詫びいたします」
「説明が不足しまして申し訳ございません」
など、説明不足であった点や不快な思いをさせてしまった点、ご要望に沿え添えないついて部分謝罪をします。相手が納得せず、「詫びなんていらない」「そんなものは誠意ではない」などと、さらに求めてきた場合は、「私の誠意はお詫びをさせていただくことです。それ以外の誠意は分かりません」
「お客様のおっしゃる誠意とは何かを具体的にお聞かせください」と毅然とした態度で応答し、対応者側から金品での解決を提案する気がないことを示しましょう。
「誠意を示せ」を繰り返すだけの人は、金品での解決を狙う悪意クレーマーの可能性が高い。こういう客がいつ現れてもいいように、事前に「誠意とは何か」の明確な答えを用意しておき、対応者側から金銭の支払いは提案しない。
■すんなりと上司にクレーム対応をさせるべきではない
【ケース③】
上司を出せ! と詰め寄られた
マニュアルに沿って、丁寧に商品説明をして対応したのですが、「お前じゃ話にならないから上司を出せ」「責任者を出せ」と言われてしまいました。「ご不快な思いをされた点についてお聞かせください」とお願いしても「上司(責任者)が来るまで話さない」と取りつく島もありません。
・NG対応
「すぐ交代します」と、上司や責任者を呼びに行く。
・解説
上司をクレーム対応の現場に出すことは基本的にしない
「上司を出せ」と言われたからといって、すんなり上司に対応を交代するのはやめましょう(ただし、対応しているのが新入社員や部署移動してきたばかりで業務のことがよく分からないというスタッフの場合は、ベテランスタッフに迅速に交代しましょう)。
「上司を出せ」と繰り返す人の多くは、決裁権を持つ責任者には、現場スタッフにはできない特別な対応(金品での解決など)をしてもらえると知っているため、より悪質な要求をしようと考えているからです。上司は、現場の判断では対応しきれない、特殊な事情があるときにのみ、お客様の対応をすることとし、基本的に現場スタッフで対応しましょう。
クレームが発生するたびに上司を呼び出していたら、管理職としての本来の仕事ができなくなりますし、現場スタッフのスキルアップになりません。
■可能なかぎり、現場スタッフで対応を完結させるべき
「上司を出せ」と言われたら、
「私が責任をもってお話をお伺いします」
「上司が参りましても私と同じご説明になるかと思いますが……」
と伝え、交代しない姿勢を示します。お客様がダメだと言っても、「私がお客様のご意見を伺い、責任をもって上司に報告いたします」と伝え、現場スタッフが対応を続けます。最低3回は繰り返して説明するようにしましょう。
それでも、「いいから、上司を出せ!」と言い続けるようなら、責任者を出さなければならない理由を聞き出し、上司に伝え、指示を仰ぎます。なかには管理職など、役職の高い人間に謝罪をさせることで納得されるという場合もあります。反対に、組織としてしっかり対策を立てなくてはならないような要望を出してくることもあります。
いずれにしろ、対応は、基本的に現場のスタッフ同士で助け合いながら完結させることを徹底しましょう。
上司はクレーム対応の現場に出さないのが原則。「私が責任をもってお話をお伺いします」「私がお客様のご意見を伺い、責任をもって上司に報告いたします」「上司が参りましても私と同じご説明になるかと思いますが……」と現場スタッフが対応させていただくという旨を最低でも3回は伝える。
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クレーム研修担当講師
キューブルーツ(Cube Roots)代表。1965年生まれ。京都府出身。1995年ブックオフコーポレーション株式会社に入社し、2000年にはブックオフコーポレーションの年間MVP獲得。2005年にセミナー&研修会社キューブルーツを設立。メディアでも活躍し、フジテレビ『バイキングMORE』、テレビ東京『解禁!暴露ナイト』、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」、NHK「あさイチ」等に出演。執筆活動にも力を入れており、雑誌では『日経ビジネスアソシエ』等にも寄稿。著書に『どんなクレームも絶対解決できる!』、『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』(ともにあさ出版)、『なぜか印象がよくなるすごい断り方』(サンマーク出版)などがある。
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(クレーム研修担当講師 津田 卓也)
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