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焼肉店の倒産が止まらない…チェーン店との競争が激化しても"元気な個人店"が提供している「安さ以外」の価値

プレジデントオンライン / 2024年11月19日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/corp_aandd

焼肉店の倒産件数が過去最多を記録している。焼肉業界に何が起きているのか。特定行政書士の横須賀輝尚さんは「背景には円安による輸入牛肉の価格高騰、光熱費や人件費の増加がある。特に深刻な影響を受けているのは個人経営の焼肉店だ」という――。

■円安により輸入牛肉の仕入れ価格が大幅に上昇

2024年、焼肉店の倒産件数が過去最多になっています。帝国データバンクの「『焼肉店』の倒産動向(2024年1~9月)」によると、2024年に発生した焼肉店経営事業者の倒産は2023年から倍増し、過去最多を更新しているのです。

背景には、円安による輸入牛肉の価格高騰、光熱費や人件費の増加があり、特に個人経営の焼肉店が深刻な影響を受けています。焼肉業界は輸入牛肉への依存度が高く、特にアメリカやオーストラリアからの輸入肉が焼肉店で多く使用されています。しかし、2022年からの急激な円安によって、輸入牛肉の仕入れ価格は大幅に上昇しました。為替が1ドルあたり110円台から150円台へと急変し、この変動が焼肉店の仕入れコストに直接影響を与えています。

こうした経済的背景の変化に対し、焼肉店の経営者は厳しい対応を迫られています。従来の価格での経営が難しくなったことで、仕入れ価格の上昇をメニュー価格に反映させざるを得ません。しかし、焼肉業界は特に価格競争が激しいため、安易な値上げが売上に直結するリスクも伴います。個人経営の焼肉店は、大手チェーン店と異なり、価格を上げることで客足が遠のくリスクが高く、価格転嫁が難しい立場にあります。

■夜営業が中心の焼肉店ではスタッフ確保が困難

さらに、円安や物価高騰に加え、光熱費の負担増も焼肉店の経営に大きな打撃を与えています。焼肉店は炭火やガスコンロを使った高温での調理を行うため、一般の飲食店と比較して光熱費の負担が大きくなります。電力価格やガス価格が2022年に急激に上昇したことにより、店舗の光熱費が経営を圧迫しています。エネルギーコストが予測不能なレベルで上昇する中、利益を確保するために運営効率の見直しを進める店舗も増えているものの、根本的な光熱費削減が難しいため、こうした状況に対応するのは非常に困難です。

また、人件費の負担増も、焼肉店の経営を難しくしている要因です。コロナ禍を経て、飲食業界では人手不足が深刻化し、特に夜営業が中心の焼肉店ではスタッフ確保が難しくなっています。こうした人材不足の状況下で、スタッフの賃金を上げないと求人が集まらないため、結果的に人件費が増加しています。特に深夜勤務や高温調理を伴う業態では、賃金の割増が必須であり、これが経営にとって大きな負担となっています。加えて全体的な賃上げの空気も再度高まっており、経営にとってはさらなる影響を与えていると言えます。

このように、焼肉店が抱える経営問題は多岐にわたっており、経済環境の変化によってその影響は加速しています。輸入牛肉の価格高騰や光熱費、人件費の増加といったコスト増により、倒産件数が過去最多となることは、避けがたい結果だったと言えるでしょう。特に円安による仕入れコスト増は、日常的な経営努力では簡単に解消できない問題であり、今後も同様の経済環境が続くと見込まれる中で、焼肉店の経営環境はますます厳しくなっていくでしょう。

■チェーン店の攻勢、苦戦を強いられる個人店

焼肉業界において、コロナ禍後に顕著になったのがチェーン店と個人店の二極化です。特にチェーン店は、コロナ禍の経済変動を乗り越え、資本力を活かして出店攻勢を強めています。大手チェーンは、膨大な資金力により、食材の一括仕入れや多店舗展開によって、経済的な効率化を図ることができます。これにより、消費者に対して「安定した価格」「品質の均一性」「店舗数の多さ」という付加価値を提供しやすくなり、消費者もこうした安定性に信頼を寄せ、選択する傾向が強まっています。

こうしたチェーン店の攻勢により、個人経営の焼肉店は苦境に立たされています。消費者の多くは、コロナ禍の不安定な環境を経たことで「安定」を重視するようになり、資本力のあるチェーン店に流れる傾向が強まっています。特に、低価格で安定した品質を提供できるチェーン店は、集客面で優位に立ちやすく、価格競争に巻き込まれがちな個人店は経営の厳しさが増しています。加えて、チェーンは大規模なデジタルマーケティングを駆使し、SNSや広告、アプリの利用で顧客の囲い込みを行うため、消費者の認知度でも個人店は苦戦を強いられています。

チェーン店の多くは、店舗運営の効率化にも注力しており、人件費や光熱費のコスト削減も徹底しています。例えば、仕入れや物流、さらには人材の配置に至るまで、全てを本部が統括するため、店舗運営コストの最適化が可能です。こうした効率的な運営が可能なことから、経済的に厳しい局面でも競争力を保つことができ、個人店に比べて柔軟に価格を抑えた施策を展開することができるのです。

さまざまな部位の肉やキムチなどがテーブルに
写真=iStock.com/Kohei Shinohara
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kohei Shinohara

■「効率的な店舗運営」を好むようになった消費者

一方で、個人経営の焼肉店は、こうしたチェーンの強みと戦うために、後述する「独自の価値」をいかに提供するかが問われるようになっています。個人店は、チェーンにはない地域性や店主のこだわり、地元食材を使った料理など、ユニークな価値を生み出すことで差別化を図るしかありません。しかし、安定供給が難しいため、円安や物価高騰の影響を直接受けやすく、また資金が限られているため店舗改装や設備投資のタイミングも慎重にならざるを得ません。

さらに、コロナ禍で消費行動が変化したことも、個人店の集客に影響を与えています。消費者はコロナ禍のときにお店選びの基準として感染リスクを意識するようになり、大手チェーンのように衛生管理や感染防止策が確立された店舗を好む傾向がありました。チェーン店の多くは、早期からデジタル化による予約管理や顧客情報管理を行い、感染対策を強化していますが、個人店ではこうした対応が遅れがちで、予約管理システムや決済システムを整えることが難しかったと言えます。

結果として、効率的な運営や感染対策を重視する消費者は、こうした対応が整ったチェーン店を選びがちになっていました。現在は、以前のような感染対策をお店選びの判断基準に置く人は減少したと言えますが、変わった習慣を変えるのは決して簡単なことではありません。

■生き残る個人店は「特別感」を提供している

焼肉業界が厳しい競争にさらされる中で、大手チェーンとの価格競争を避け、独自の価値を生み出して生き残っている個人経営の焼肉店が存在します。こうした個人店の多くは、地元産の食材を活かしたこだわりメニューや、地域密着型の経営に徹することで、大手チェーンにはない「特別感」を提供する戦略を打ち出しています。大手チェーンが資本力と効率化で市場のシェアを広げる一方で、個人店は「ここでしか味わえない」体験を提供することで、顧客の支持を得ているのです。

まず、生き残る個人店の多くが採用しているのが「独自商品の開発」です。焼肉は、ともすれば「値段と量」にフォーカスされがちです。安いお店を選ぶ、あるいは食べ放題などで量を食べる。「同じ肉を食べるならば、よほどの高級肉でない限り、どこのお店に行っても変わらない。それなら安いチェーン店で十分」そう考える顧客は多いものです。そこで、「そのお店にしかない」独自商品を開発することで、顧客がお店に行く理由をつくるのです。

■SNSの投稿やレビュー依頼の積み重ねが売上をつくる

次に、SNSや口コミサイトなどを活用した「デジタルマーケティング」の強化が、個人店にとって欠かせない手段となっています。特にInstagramやTwitter、食べログといった口コミサイトを通じて店舗の魅力をアピールすることで、個人店は低コストで多くの顧客にリーチしています。SNSでは、料理の写真やお店の雰囲気、スタッフとのやり取りなど、消費者が親しみを感じやすいコンテンツを発信することで、ファンを育成し、固定客の確保につなげています。さらに、常連客の口コミを活かして新規顧客を呼び込むことで、大手チェーンに負けない集客効果を生み出しているのです。

スマートフォンで星5つの評価をしている男性の手元
写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chainarong Prasertthai

「たかがSNS、たかがレビュー」と言う人もいますが、SNSやレビューサイトは現在の消費者にとって、極めて重要な判断要素です。仕入れ価格の高騰など、個人でどうにもならないこともありますが、こうしたSNSでの投稿やレビュー依頼などは個人店でも努力できるもの。こういった努力の積み重ねが売上をつくっていきます。

また一方で、生き残る個人店は、「価格競争からの脱却」を目指している点も共通しています。資本力のあるチェーンと同じ土俵での価格競争に参加すれば、個人店にとっては利益率の低下を招きかねません。そのため、あえて価格帯を高めに設定し、品質やサービスにこだわりを見せることで「高付加価値」を提供する店舗も増えています。例えば、客席数を抑えた高級感ある内装や、じっくりと肉の焼き加減にこだわる接客スタイルを取り入れ、焼肉という食体験を楽しむことを重視した経営に力を入れています。

■「価格以外の軸」で顧客の支持を集めることが重要

さらに、サービスの柔軟性を高める取り組みとして、「ビジネスモデルの多様化」も注目されています。特にコロナ禍以降、テイクアウトやデリバリーサービスを導入する焼肉店も増えており、これにより昼間の需要や家庭向けの需要を取り込むことができています。また、大手だけでなく個人店でも月額制の「サブスクリプションサービス」を導入する店舗も見られ、定期的に特典を提供することで安定的な来客を促す取り組みが進んでいます。こうした柔軟な営業形態を取り入れることで、経済環境が変動しやすい現代においても、一定の収益を確保できる工夫を施しているのです。

個人店が生き残るためには、顧客との信頼関係を築き、店舗への愛着を高める努力が不可欠です。チェーン店の持つ安定性にはない「特別な価値」を提供し、消費者にとって唯一無二の存在となることが重要です。地元の特色を活かし、デジタルマーケティングを通じて積極的に店舗の魅力を伝えること、そして競争の激しい市場の中でも、価格以外の軸で顧客に支持される戦略をとることが、個人経営の焼肉店が今後も生き残っていくための鍵となるでしょう。

焼肉をご飯の上に
写真=iStock.com/Hanasaki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hanasaki

■個人経営の焼肉店の苦境はしばらく続く

繰り返しになりますが、焼肉業界が抱える経営課題は、円安や物価高騰による仕入れコストの増加、人件費の上昇、光熱費の高騰と多岐にわたります。特に個人経営の焼肉店にとって、これらのコスト増に対応することは容易ではありません。しかし、こうした厳しい経済環境の中でも、持続的な経営を実現するための工夫は可能です。今後、個人経営の焼肉店が生き残り、さらなる発展を遂げるためには、前述のような独自性のある商品の開発やデジタル化を活用した効率化が重要な戦略となるでしょう。

最後に、個人経営の焼肉店が生き残るための提言として、「差別化戦略」にも注力することが挙げられます。大手チェーンが資本力を活かして価格競争を仕掛ける中で、個人店が同じ土俵で競争するのは現実的ではありません。そのため、価格に頼らない付加価値をいかに提供できるかが重要です。具体的には、希少部位の提供や、地元産の肉や野菜を使ったメニューなど、他店とは異なる「ここでしか味わえない」体験を提供することで、顧客にとっての魅力を高めることができます。

このように、焼肉業界が直面する厳しい経営環境においても、個人経営の焼肉店には生き残るための工夫が残されています。とはいえ、経済状況や人手不足の現状を踏まえると、個人経営の焼肉店の苦境はしばらく続くと考えるのが自然なのかもしれません。

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横須賀 輝尚(よこすか・てるひさ)
特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。パワーコンテンツジャパン株式会社代表取締役。特定行政書士。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設し、独立。2007年に士業向けの経営スクール「経営天才塾」(現:LEGALBACKS)をスタートさせ、創設以来、全国のべ1700人以上が参加。士業向けスクールとして事実上日本一の規模となる。著書に『小さな会社の逆転戦略 最強ブログ営業術』(技術評論社)、『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、『会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業』(さくら舎)共著で『合同会社(LLC)設立&運営 完全ガイド はじめてでも最短距離で登記・変更ができる!』(技術評論社)などがある。

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(特定行政書士 横須賀 輝尚)

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