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「愛情が冷めても離婚しない」のは日本人だけ…和田秀樹「食生活、運動不足より深刻な中年の体を蝕むもの」

プレジデントオンライン / 2024年11月16日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nuttawan Jayawan

健康で長生きするにはどうすればいいのか。医師の和田秀樹さんは「ホルモンバランスが変わってくる40代以降は、食事や運動よりも優先的に対策すべきことがある」という――。

※本稿は、和田秀樹『逃げ上手は生き方上手』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。

■「逃げてはいけない」はウソである

「自分が会社に行かないと仕事が回らない」と思い込んでいる人がいます。

そんな人に休むことをすすめても当然、拒否します。

本人は責任感もあって、「逃げてはいけない」と思い込んでいるのでしょうが、そもそも会社という組織に「自分がいないと回らない」仕事なんてありません。常に代わりの誰かがいる。でなければ経営は成り立たないでしょう。

それなのに、自分が行かなくては仕事が回らないと勝手に考え、「逃げてはいけない」と、休まず働いて心身を壊してしまったら……。

損するのは自分だけだと思いませんか。

「つらい」と思ったら、会社を休むなりして、さっさと逃げ出せばいいのです。

今いる場所から、一時的にせよなかなか逃げ出せないというのは、多くの人に共通しているようです。「逃げるのはよくないこと」という思い込みがあるのでしょう。

いじめられて自殺する子が後を絶ちませんが、私に言わせれば、いじめられているのにどうして学校に行くのだろうと思ってしまいます。

たしかに、いじめるほうが悪いのは言うまでもありません。しかし、だからといって、逃げずに正面から向き合うというのはいかがなものでしょう。逃げればいい場面で逃げないで、最終的に自殺するなんて、あまりにも悲しすぎます。

その意味でも、「逃げるのはよくないこと」「逃げるのは卑怯なこと」という考えから抜け出すことをおすすめします。「逃げる」というのは自分を守るための武器なのです。

■40代以降は「いかにうつ病から逃げるか」

40歳を過ぎた頃から気になってくるのが血圧や血糖値といった健康診断の数値です。また、その頃からは体重が増えたりウエストが太くなったりしてくるので、「メタボにならないようにしなくては……」とも気になってくるでしょう。

食事に気を使う人もいれば、スポーツジムに通う人もいるでしょう。カロリーの摂りすぎと運動不足から動脈硬化が起こり、これが糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞へとドミノ倒しのようにつながっていくと説明されますが、食事と運動は、要するに生活習慣病対策です。

この年代の人がそれ以上に対策が必要なのはうつ病です。

というのも、日本人の死因で、40代でがんに次いで多いのが自殺です(男性に限れば自殺が死因の第1位)。50代では、がんや心疾患・脳血管疾患が増えてくるものの、それでも自殺は死因の第3位です。

自殺者の5~8割はうつ病だといわれていることを考えると、40代以降はいかにうつ病から逃げるかが、健康や長寿をめざすうえでのポイントになります。

■患者数が多い年代は、男性が50代、女性が40代

実際、40歳以降は、うつ病にかかる人が増加します。厚生労働省の調査によると、うつ病患者がもっとも多い年代は男性が50代、女性が40代です。

40代以降のうつ病は、ホルモンバランスが変わってくることが大きく関係しています。自身の性ホルモンの分泌量が低下することで、自律神経のバランスが乱れやすくなるからです。実際、うつ病があると更年期障害の自覚症状が悪化するともいわれています。

しかもこの年代は、仕事でも家庭でも環境が変わってきます。

人間関係に疲れ果てていても、成果主義や実力主義なので精神的に追い込まれるまで頑張ってしまう人もいるでしょうし、家に帰れば帰ったで、子供が受験や就職で苦労していたり、親の介護が必要だったりする人もいるでしょう。

心が強ければうつにならない、というわけではありません。

心身が大きく変化する時期に、そんな社会的・環境的な要因が加わると、人間は案外簡単にうつ病にかかってしまいます。うつ病は決して治らない病気ではありませんが、かかってしまうとやはりつらい。

悪化すると治りにくくなるので、悩みがあるときは抱え込まずに、家族なり友人なり、誰かに愚痴をこぼすことです。

つらいときは無理をせずに休み、医者やカウンセラーに相談することも覚えてほしいと思います。

それがうつからうまく逃げる第一歩となります。

医師から問診を受ける男性
写真=iStock.com/Chinnapong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chinnapong

■「デキる人はスピード感がある」の真偽

近頃、よく耳にする言葉に「スピード感」があります。

組織はもちろん、業務の流れや実行にまず求められるのが「スピード感」です。すばやい判断と対応がなければ、世の中の変化や要求に応えることができないからでしょう。

そのせいなのでしょうか、世の中では早いのがいいこと、遅いのはよくないことというイメージが定着しつつあります。それが一人ひとりの人間に当てはめられると、どうなるのでしょうか。

「できる人にはスピード感がある」
「できない人にはスピード感がない」

そんなイメージはないでしょうか。

こうしたイメージを持ってしまうと、今度は万事に早めの準備や実行、あるいは計画や達成が大事なような気がしてくるかもしれません。

たとえば、自分の夢や願望を実現させたいといったときでも、「そのうちに」とか「いつか」ではなく、「1年後」とか「明日から準備にかかろう」と決心するようになりがちです。

「そのうちいつかでは、結局、何もしないまま時間が過ぎていく。本気で実現をめざすのなら、早め早めのスケジュールにしないといけない」

そう考える人がスピード感のある人です。

でも、できる人はそうでなければいけないのでしょうか。だからなのか、どこかピリピリしています。

■「世間の価値観」に振り回されてはいけない

一方、「そのうちなんとかなるだろう」とのんきに気長に構える人は、はっきり言ってあまりできる人のイメージはありません。のんびりゆったりしています。

あなたがどちらのタイプかはわかりませんが、大事なのは、自分のペースを守ることです。スピード感のなさが自分の弱点だと自覚しているのなら、それの克服に努めるのもいいかもしれませんが、世間の価値観に惑わされて、無理にスピード感を出そうとするのはいかがなものでしょうか。

また、もともとスピード感が備わった人でも、「ちょっと疲れたな」とか「イライラが溜まってきたな」と感じるようなら、スピード感にこだわる必要はありません。

世間の価値観からは逃げるに限ります。

とくに最近、「なんだか追い立てられるように暮らしているなあ。以前はもっとゆったり暮らしていたのに……」と感じるようになった人は、もうちょっと気長に生きてみませんか。

■日本人はもっと「逃げる」を活用したほうがいい

日本人には、夫婦関係や人間関係でも、逃げずにじっと我慢という傾向が見られます。

欧米人は愛情が冷めたら素早く離婚してしまいますが、日本では我慢するのがふつうのことですから、離婚というのは「よほどのこと」として選択肢から外されます。

総務省統計局「世界の統計2018」によると、日本人の離婚率は1000人当たり1.7組で、世界で10番目。トップのロシアの4.7組、2番目に高いアメリカの2.5組を下回っています。

和田秀樹『逃げ上手は生き方上手』(実業之日本社)
和田秀樹『逃げ上手は生き方上手』(実業之日本社)

人間関係に悩んでいる人の8割くらいは、その人間関係から逃げられないと考えていますから、職場や学校、友人やママ友まで、多くの人が「我慢」を選択しているのです。

「我慢する」という考え方は、ある意味では日本人の「美徳」と見ることもできますが、ストレス対策という面で考えると、必ずしも最良の選択とはいえません。

日本人が「逃げる」と考えるのは最後に自殺するときだけ……というのでは、最悪の逃げ方しかできないことになります。

これではあまりにも悲しすぎます。もっともっと「逃げること」を活用したいところです。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)

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