「高齢でもヨボヨボにならない人」は絶対に言わない…和田秀樹が警鐘「老人性うつ」になりやすい人の口グセ
プレジデントオンライン / 2024年11月17日 17時15分
※本稿は、和田秀樹『逃げ上手は生き方上手』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
■60代以降は「年齢を気にする」ことが多くなるが…
「年齢を気にする」というのは、じつはどんな年代にもあるように思います。
一般的には50代以降の“専権事項”と考えられているようですが、10代の人は20代を目前にして「もうすぐハタチか。時の流れって早いな……」などといった感慨を持つかもしれないし、20代も後半になれば30代を意識し、40代になれば50代を意識し……といった具合に“年代の壁”があるのは各世代共通なのです。
そしてそれは70代、80代になるまで延々と続きます。
とくに「先行きがそれほど長くない」と考えている人が多いかもしれない60代以降の人は、「年齢を気にする」ことが多くなるように思います。
そんな人たちのなかには「もうトシなんだから」と、健康診断の数値ばかりを気にして、食事制限をあれこれ設け、その挙句に心が塞ぎ込んでしまうという人は意外に多いようです。
その結果、健康診断の数値は悪くなくても、自他ともに若さや元気が感じられなくなっていくこともあります。
それでは本末転倒というものです。私の経験上、心が元気で気分が明るければ、数値が多少悪くても生活や仕事上は問題ないものです。元気な自分に意を強くして、数値などあまり気にせず、伸び伸びと暮らしたほうがはるかに健康的で、若々しい人生を送ることができます。
数値は多少悪くても、心は健康なのですから、60代以降は年齢をあまり意識せずにすごしたほうが、結果的に長生きできると思います。
■「老人性うつ」に陥りやすい思考パターンとは
また、これといって具合の悪いところもないのに、自分から「もうトシなんだから」と、何事も年相応で考えるのもよくありません。そういう考えの人は得てして、食事だけでなく暮らし方全体に制限を加えたりするので、結果として老いを加速させることになります。
高齢者専門の精神科医の立場から言わせてもらえば、そもそも「もうトシなんだから」と考えること自体が、老人性うつに陥りやすい思考パターンなのです。
「もうトシなんだから」という考えのあとに続くのは「60歳を過ぎたら△△をしてはいけない」とか「70歳になったら○○であるべきだ」という「かくあるべし思考」になる場合が多いからです。
さらに言えば、「トシ」=「老い」という言葉の使い方もよくありません。「トシ」は「トシ」でしかないのに、自分から「老い」に結びつけてしまっています。
でも、「トシ」というのも単なる年齢以外の何者でもありません。自分から「老い」を早める必要もありません。若く見られる人ほど、いくつになっても元気で、トシのことなど忘れているものです。
トシのことなど、「考えない」「口にしない」。つまり、年齢から逃げる。たったこれだけのことで、アンチエイジングであれこれ試みるよりも若さを保つ効果が得られるかもしれません。
■「年齢の壁」から上手に逃げる技術
では、いわゆる高齢者の人が、前述の“年齢の壁”からうまく逃げるにはどうしたらいいのでしょうか。
「ちょっとした好奇心」を大事にする。それだけでいいのです。
具体的に言うなら、「さあ、何を食べようかな」とか「ちょっと、外を歩いてこようかな」といった程度の好奇心でOKです。
こうした「ちょっとした好奇心」「前向きな気持ち」が、こころの健康の「素」になるからです。心が健康でいる限り、明るい気分を忘れることもありませんし、何よりも毎日の暮らしのなかで老け込んでしまうことはありません。
また、何を食べるにせよ、外出するにせよ、夫婦一緒でもいいし、別々でもいい。60代以降はお互い、そのときの気分に従って生きるのがいちばん。こうした毎日を過ごしていれば、後のことなど考えないですみます。
しかも、人生はまだまだ続きます。
元気でいる限り、そして気持ちの若さも失わない限り、人生には楽しいことがたくさん待ち受けているはずです。
たとえば、思いもしなかった人から「また集まろうか」と声がかかることもあります。その声を聞いただけで、気分はたちまち数十年も若返ってしまったということさえあるでしょう。
「老い」からうまく逃げていれば、なつかしい人たちの集まりに、若々しい気分のままで参加することができます。
そのとき、その顔も、昔と同じ笑顔を浮かべていたらどうでしょう? あなたもきっと、たちまちいちばん輝いていた時代に戻ることができるでしょう。
「老い」からうまく逃げれば、必要以上に追いかけてこないものです。
■「別のルート」でも目的地にたどり着くことは可能
日本人の心の中には「この道ひと筋」「一本道で歩んできた」といった人へのリスペクトが潜んでいるように思います。たしかに「これしかない!」と脇目もふらずに生きてきた人たちは尊敬に値しますが、だからといってまだまだ先が長い人に、まるで「多様性」を否定するかのように「一本道の生き方」をすすめたり、当の本人がそれをめざしたりするのはいかがなものかと思います。
もし、あなたの車のナビが、一つしかルートを示してくれないタイプのものだとしましょう。
「コノ道シカアリマセン」というアナウンスに従ってドライブした結果、事故で道路が遮断されていたら、立ち往生してしまいませんか。
ですが、ルートをいくつも表示してくれるナビならどうでしょう。ひとつの道路が封鎖されていても、別のルートを使って目的地にたどり着くことができるはずです。
「いい大学に行かないといけない」「大企業や公務員など安定した職業につくべき」「周りから認められるいい人と結婚しないと」といった「正しさ」が行き詰ったときも同様です。
■考えるときは思いつきでも、あやふやでもいい
そのとき、いつまでも立ち往生していないで、別のルートに切り替えられるかどうかが重要なのです。つまり、常に一本道ではなく、「そこから逃げる」ことを意識しておく必要があるのです。
たとえば次のような感じです。
「A社で採用されなかったら、B社で働くのもアリかもしれない」
「子供がほしくて不妊治療を続けているけれど、夫婦二人ですごす人生だって楽しいかもしれない」
もちろん、第一志望の会社に受かることや、念願の子供を授かるように頑張るのが悪いと言っているわけではありません。目標や理想、信念を持って努力するのは素晴らしいことです。
でも、残念ながらどんなに頑張ってもそれがかなわない可能性はあります。
そんなときのために「別の人生もある」と別ルートを考えておくことは大切です。代替案を用意しておくということです。
人生で行き詰ったときに、別ルートや代替案という逃げ道があるかどうかで、立ち直り方やその後の生き方が大きく変わってくるのです。
なかには、「そんな逃げるようなことはしたくない」と思う人もいるかもしれません。
そんな方には何度でも申し上げますが、「逃げる」というのは卑怯なことでもズルいことでもなく、生きるために必要な知恵なのです。
また、生真面目な人は、別ルートや代替案を真剣に考えてしまいがちです。それだと、“本線”の結論が出ないうちに、気持ちが別ルートや代替案に流れてしまいがちです。ですから、これらのことを考えるのは思いつきでもあやふやでもいいのです。しっかり頭に入れておくというよりも、あくまでも頭の片隅に置いておく程度でかまいません。
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精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
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