若返りホルモンが分泌され、前頭葉がメキメキ元気に…和田秀樹が「逃げずに取り組むべき」と説く"健康習慣"
プレジデントオンライン / 2024年11月18日 17時15分
※本稿は、和田秀樹『逃げ上手は生き方上手』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
■「楽しいから」という理由だけでOK
ある程度の年齢になると、「今から始めても……」と思うことが増えてきます。
でも、そう思ういちばんの理由は、高いレベルをめざそうとするからでしょう。
「今さら初心者に混じって習うなんてみっともない」とか「若い頃に比べれば、覚えも悪くなっているし、体だって昔のようには動かない」などと考えて、新しいことを始めたり習ったりするのをどうしてもためらってしまいます。
でも、そう考えてしまうと、ふと「面白そうだな」とか「やってみたいな」と思うことがあっても、「やめておこう、恥をかくだけだ」などと自分からセーブすることになります。
こうした傾向は、私の見るところ、女性より男性のほうが強いようです。男性はどうしてもプライドや面子にこだわるからでしょう。
女性は、たとえば70歳を過ぎてユーチューブを始めたり、絵を習ったり俳句を習ったり、大学の公開講座に通って諦めていた勉強を始めたりといったことをわりと気楽に始めます。「楽しいから」という理由がいちばんで、とくに高いレベルにこだわっているわけでもありません。
■年齢に関係なく人生を楽しむコツ
でも、「楽しいから」という動機は強いです。夢中になって続けているうちに、どんどんレベルアップしていく例は多くあります。
ふと興味を持った世界に気軽に一歩踏み込んでみるというのは、好奇心に揺り動かされる生き方になりますが、高齢になっても好奇心を失わない人は、年齢に関係なく人生を楽しむことができます。
どうしてそうできるかというと、性急に結果や成果を求めないからでしょう。「好きなことを続けられるだけでうれしい」「好きなことができるというだけで幸せ」という気長な人生観の賜物ですね。
「結果を出さなくては」とか「高いレベルに達しないと」といった性急な人生観は、逆に多くのものを諦めさせてしまうだけのような気がします。
そうならないためには、結果を気にしない、つまり結果から逃げるというのも、ひとつの方法だと思います。
■人の心のありようは「外側」から規定される
お洒落をして街に出かけるだけで、なんとなく心が浮き立つような気分になるのは、よく経験することではないでしょうか。
スーツを着てネクタイを締めると心が引き締まるという男性や、メイクをすると気分が前向きになるという女性はたくさんいます。
反対に、日曜日などに一日中パジャマのままゴロゴロして家ですごすと、リラックスを通り越してかえって体調を崩したりします。
このように、人の心のありようは、内面から湧き出るというよりも、外側から規定されるものだという考え方が、現代の行動療法や認知科学の世界では強まってきています。
行動によって人間の心のありようは変わり、体の状態も変わります。ということは心が浮き立つような行動をすれば、自然に脳や身体の調子もよくなるわけです。
「見た目」「外見」からも逃げずによくしようと取り組むのも、そういった行動のひとつです。
たとえば、少し若めの格好をしていると、気分まで若返ります。
逆に「見るからにおじさん」「いかにもおばさん」という格好をしていると、心まで「おじさん」「おばさん」になってしまいます。
不思議なことですが、そのように自己規定していると、姿勢や仕草、表情なども年齢以上になります。さらには体形までずんぐりむっくりしてきたり、肌がくすんできたりするのです。
■見た目が若返れば、「心・脳・身体」も若返る
「形から入る」という言葉がありますが、老化予防はまさにそれです。ですから「見た目」「外見」からも逃げずに取り組むことをおすすめしているのです。
ホルモンや前頭葉の機能は、心のありようで大きく変わります。心が浮き浮きしていると、ホルモンの分泌や前頭葉の働きは活発になりますが、どんより沈んでいると、停滞します。若く見られたいという気持ちは、想像以上に大切です。
超高齢社会になって、くすんだ色合いのしょぼくれた老人ばかりが目立つようになってはまずいことになります。
趣味でも服装でも、美容や化粧でもなんでもいいので、形や見た目から若返れば、心・脳・身体も若返ります。これがアンチエイジングの第一歩です。
アクティブな生き方を大事にして、見た目も若く保つことを心がけてください。
■理想や正しさにこだわるのは、自分に自信がないから
「かくあるべし」という理想、「~でなくてはならない」という「正しさ」にこだわる人は、実は自分に自信がない人なのかもしれません。
「粘り強く理想や正しさを持ち続けているのだから、むしろ自分に自信があるのでは?」と思う人もいるでしょう。
しかし、実際は逆なのです。自分に自信がないからこそ、「これまで信じてきた理想や正しさから逃げてもやっていける」とは考えられないのです。
だからこそ、自分の理想や正しさに固執してしまうともいえるでしょう。
たとえば、東京大学合格をめざして5年も6年も浪人している人がいるとしましょう。浪人を続けること自体は悪いことだとは思いませんが、もし自分に自信があれば、他の大学に行って社会で活躍できるように頑張ろうという選択肢だってあるはずです。
自分に自信がないからこそ、「東大出身」という肩書を手に入れることに固執し続け、東大を受験し続けることから逃げることができないのではないでしょうか。
こうした自分の「正しさ」が通用しないときに大切なのは、「しかたがない」とあきらめることです。あきらめることで、別の豊かな人生が開けてくるということもよくあります。
■「あきらめずにがんばる」は大間違い
「生きる力」は、生きることでしか身につきません。
自分でつくってしまった「~でなくてはいけない」に固執して逃げることができずに人生を停滞させるより、あきらめて別の人生を生きるのも大切なことです。逃げること、あきらめることで初めて見えてくる景色もあるのです。
あなたは、今までの人生であきらめた願望がいくつありますか。
希望した学校、入りたかった会社、結婚したかった相手、住みたかった家、めざしていた役職、親や子供にしてあげたかったこと……。
大なり小なり、あきらめたことがいくつかあるのではないでしょうか。
「この学校に入るべき」「この会社で働くべき」「こんな相手と結婚すべき」など、「~すべき」を持っていても、それが叶わないことは人生で何度もあるはずです。
つまり、人生とはあきらめの連続なのです。
「あきらめる」というと、悪いイメージを持つ人も多いかもしれません。
「すぐにあきらめてはいけません」
「目標を決めたら、あきらめずに頑張りましょう」
などと、子供の頃から家庭や学校で教わってきた影響もあるのかもしれません。「あきらめる」は、とかく悪いことのように感じられがちですが、私はあきらめることこそが人生を気持ちよく生きるために必要なことだと思っています。
「あきらめる」ことは、自分の失敗を受け入れ、自分を変えるためのファースト・ステップなのです。そして「逃げる」ことは、新しい人生を手っ取り早く実現させるために必要なことなのです。
■筆者が「老年医学」の道に入ったワケ
私は高校2年生の春に、ある映画を観たことをきっかけに映画監督を志しました。
ところが、その年に、大手の映画会社のうち唯一助監督試験を行っていた日活がそれをやめると発表しました。大学を出て試験を受け、映画の助監督になり映画監督になるという王道が断たれてしまったのです。
それをあきらめて映画を撮るにはどうしたらいいかを、あれこれ考えました。
その当時、さまざまな自主映画の名作が作られていたこともあって、自分でお金を作って映画を撮ろうと今度は考えました。そのために、収入も多く、映画を撮るために仕事をやめてもまた雇ってもらえそうな医者の道を選ぶことにしました。
そして、受験勉強法を工夫して医学部に合格したのです。
東大の医学部時代も、バイトにあけくれ、自主映画を撮ろうとしましたが、段取りが悪く借金だけが残り、当分は映画監督の道をあきらめ、医者として生きていこうと思いました。
医者になってからも、学生時代にバイトにあけくれていたツケで、とても周りの医者に勝てそうもありません。だから医局に残って教授をめざす道をあきらめ、別の世界で成功をめざすために老年医学の道に入るという選択をしました。
このようにして私も、いろいろな場面で「あきらめる」ことを選び、他の道に「逃げる」ことをしてきたのです。そうやって、世間の荒波にもまれているうちに、しなやかな自信を持てるようになった気がします。
ちなみに「あきらめる」を漢字で書くと「諦める」となります。この「諦」には、「物事を明らかにする」といった意味合いがあります。つまり、もともと「あきらめる」にはネガティブな意味はなかったのです。
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精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)
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