どんな屈強な男でも必ず子猫のような弱音を吐く…米最強部隊を作るパワハラ、モラハラ当たり前の地獄の訓練
プレジデントオンライン / 2024年11月19日 7時15分
■米海軍最強部隊をつくる「ヘルウィーク」とは
シールズの選抜訓練BUD/S(基礎水中爆破訓練)は、6カ月の総合錬成訓練で、3つの段階に分かれている。
「フェーズ1」は体力錬成訓練(PT)。「フェーズ2」は潜水訓練で、水中で移動する方法や、特殊な潜水装置を操作する方法を学ぶ。この装置は「閉鎖回路型潜水システム」といって、敵に検知されないように気泡を放出せず、ダイバーが吐いた息から二酸化炭素を除去して、呼吸可能な空気に再生するものだ。「フェーズ3」は地上戦訓練だ。
でも、「BUD/S」と聞いてふつう想像するのは、フェーズ1だ。新しい訓練生をなじませ、約120人のクラスを、海神(ネプチューン)の三叉矛(トライデント)をかたどったネイビーシールズの金章──ナメちゃいけない相手だということを世界に知らしめる印──にふさわしい、25人から40人ほどの精鋭たちに絞り込むのが、この段階だからな。
BUD/Sの教官は俺たち訓練生を鍛えるために、心身の限界を超えてしごき、勇気を試し、体力、持久力、敏捷性の厳しい身体的基準を満たすよう迫る。
フェーズ1の最初の2週間は、たとえば10メートルのロープを登る、スポーツ番組『サスケ』風の半マイル(800メートル)の障害物コースを10分以内にクリアする、4マイル(6.4キロ)の砂浜を32分以内に完走する、といった訓練をやる。
だが俺に言わせりゃ、そんなのは子どもだましだ。フェーズ1の最大の試練、「ヘルウィーク(地獄週間)」とは比べものにならない。
■例えるなら中世の拷問
ヘルウィークはまったくの別物だ。それは中世の拷問に似た訓練で、BUD/Sが始まってすぐの第3週に行われる。筋肉と関節をナイフで刺されるような痛みが高まり、肺が魔物に握られた布袋のように勝手に収縮して過呼吸になる状態が、昼も夜もなく130時間ぶっ通しで続く。
それは身体の限界をはるかに超えた、心と人格をあらわにする試練だ。何より、俺たちの無意識の思考や行動のパターンをむき出しにするためにつくられた試練なんだ。
BUD/Sが行われるのは、海軍特殊戦センター。南カリフォルニアの観光地ポイントローマ半島の内側の、サンディエゴ・マリーナを太平洋から隠すように広がるコロナド島に置かれた施設だ。
うれしいことに、カリフォルニアの黄金の太陽だって、グラインダーを美しく見せることはできない。醜いままがいいんだ。あのアスファルトの錬成場こそ、俺が求めていたすべてだった。苦しみが好きだからじゃないよ。シールに必要な素質が俺にあるかどうかを、ここでやっと知ることができるからだ。
■教官の役割は「鍛える」ではなく「間引く」
ただ、ほとんどの人はその素質を持っていない。ヘルウィークが始まるまでに、もう40人以上がやめていた。BUD/Sでは、やめる者は真鍮の鐘まで歩いていって、鐘を3回鳴らし、ヘルメットをアスファルトの地面に置いて去る、って決まりがある。
鐘を鳴らす習慣が始まったのは、ベトナム戦争の時代だ。当時はその場を離れて兵舎に行くだけだったが、強化訓練中にやめる訓練生が多すぎて、誰が残っているかがわからなくなった。そこで鐘を鳴らす方式が始まり、それ以来この鐘は「やめる」って事実を訓練生自身が受け入れる儀式になっている。
やめる者にとって、鐘の音は「ケジメ」だ。でも俺にとっては、自分が「前進している」証しに聞こえた。
俺はサイコ(編註 担当教官の一人)を嫌っていたが、やつの仕事にケチをつけるつもりはないよ。サイコたち教官は、群れを「間引く」ためにいる。彼らは弱いやつらに用はなかった。
サイコはいつも俺や、俺よりデカい訓練生を目(め)の敵(かたき)にして、弱みをあぶり出そうとした。小柄な訓練生のタフな強者(つわもの)たちもだ。クラスには、アメリカ東部や南部、西部の労働者階級や富裕層の精鋭たちに交じって、俺みたいな中西部の田舎者が少しと、テキサスの牧場育ちがたくさんいた。
■パワハラ、モラハラの狂騒曲
BUD/Sのどのクラスにも、テキサスの力自慢が大勢いたね。シールズにこれだけの人材を送り込む州はほかにない。バーベキューに秘密があるんだろうな。でもサイコは誰もひいきしなかった。どこの出身のどんな訓練生にも、影のようにしつこくつきまとった。俺たちをあざ笑い、怒鳴り散らし、人前でなじり、脳内にまで潜り込んで内側から壊そうとした。
それでもヘルウィークの始まりは楽しかったよ。「ブレイクアウト」(ヘルウィーク幕開けの、爆破を伴う派手な演習)の狂気の爆発と銃撃、怒声の中では、誰も迫りつつある悪夢のことなんか考えない。戦士の聖なる通過儀礼に投げ込まれて、アドレナリンでハイになっている。舞い上がったままグラインダーを見回し、「おお、ヘルウィークだぜ!」と喜ぶ。ああ、でも現実は、全員がここでとんでもない目に遭わされるんだ。
「これで頑張ってるつもりだとぉ?」と、サイコは吐き捨てた。
「おまえらはBUD/S史上最低のクラスになりそうだな。せいぜい恥をかくがいいさ」
サイコはしごきを堪能していた。俺たちをまたぎ、間を歩き、俺たちの流す汗や唾液、鼻水、涙、血の上に、ブーツの靴跡を刻みつけた。やつはタフであることを自負していた。ほとんどの教官がそうだ。なぜって、彼らはシールズだからだ。それだけで優越感に浸っていた。「おまえらは俺のヘルウィークの成績の足下にもおよばんぞ、それだけは言っておく」
■「絶対におまえをやめさせてやる」
サイコがそばを通りながらそう言うのを聞いて、俺は内心ほくそ笑みながらワークアウトを続けた。サイコは小柄だが頑丈で、俊敏、強靱だ。でもヘルウィークを無双したって? そんなの信じられないぜ、教官(サー)!
サイコは、上司であるフェーズ1の監督官と目を合わせた。監督官はどこからどう見ても優秀な人物だ。あまりしゃべらず、しゃべる必要もなかった。身長185センチだが、それよりずっと大きく見えた。そしてもちろん、筋骨隆々だった。
冷酷非情な、鋼(はがね)のように硬い102キロの筋肉の塊。その風貌はシルバーバックゴリラ(SBG)〔ボスゴリラ〕そっくりだ。彼はつねに状況を静かに分析し、頭の中でメモを取りながら、苦痛の親玉のように俺たちの前に立ちはだかった。
「あいつらがガキみたいに泣きベソをかいてやめていくと考えただけで、興奮しますよ」とサイコは言った。SBGは軽くうなずき、サイコは突き刺すような目で俺をにらみつけた。「ああ、おまえはやめるだろうよ」と、サイコは声を落として俺に毒づいた。
「絶対にやめさせてやる」
サイコの脅しは、こういうさり気ない口調のほうが怖かったね。でもあいつは暗い目で眉をつり上げ、顔を真っ赤にして、つま先からはげ頭のてっぺんまで全身を震わせて、金切り声を上げることも多かった。
■最もキツイ「波責め」
ヘルウィークが開始して1時間ほどたった頃、サイコは腕立て伏せをする俺の横にひざまずき、すぐそばまで顔を近づけてわめいた。
「波打ち際(サーフ)へ行け、この惨めなクソ野郎ども!」
BUD/S開始からもう3週間ほどたっていたから、俺たちは砂浜とBUD/S施設(オフィスとロッカー室、兵舎、教室のあるコンクリートの建物の集まり)を隔てる、4.5メートルの土堤(どてい)を、すでに数え切れないほど乗り越えていた。
「波打ち際に行け」と命令されたら、作業着を着たまま波打ち際に寝転んで全身を濡らし、それから砂を転げまわって、頭からつま先まで砂まみれの状態で、グラインダーに戻る。体から海水と砂がしたたっていると、懸垂はめちゃめちゃ難しくなる。これが「濡れて砂まみれになる」って儀式で、耳と鼻はもちろん、体中の穴という穴に砂が入った。でもこの時は、「波責め」という、特別なしごきが始まろうとしていた。
俺たちは命令された通り、空手マスターみたいに叫びながら波打ち際に突進した。作業着のまま腕を組みながら、砕け波の中を進んだ。この日の波打ち際は荒れていた。頭ほどの高さの波がゴウゴウと鳴りながら、3重、4重になって激しく押し寄せ、砕け散る。冷たい水でタマが縮み上がり、波に呼吸を奪われた。
■過酷な演習はまだ始まったばかり
これは5月初めのことだ。コロナド沖の海水温は、春は16、17度ほどにしかならない。俺たちは数珠つなぎになって、水面を浮き沈みしながら水平線を見張り、波が俺たちを呑み込む前にうねりを見つけようと必死だった。
俺たちのボートクルーのサーファーがいち早く先触れに気づいて「波が来るぞ」と叫んでくれたおかげで、ギリギリのところで潜って波をやり過ごすことができた。
10分ほどすると、サイコが「陸に戻れ」と命じた。俺たちは低体温症になりかけていた。急いで砕波帯(サーフゾーン)〔波が白く砕けるところから岸までのエリア〕を離れ、気をつけの姿勢を取って、メディカルチェックを受けた。これを何度もくり返した。
夕焼け空はくすんだオレンジ色で、夜が近づくにつれグッと冷え込んだ。
「諸君、太陽に別れを告げろ」とSBGが言った。俺たちは夕日に向かって手を振った。体が凍えかけているという、不都合な真実を受け入れるための儀式だ。
1時間後、体は完全に冷え切っていた。俺たちボートクルーの6人は、少しでも暖を取ろうと身を寄せ合ったが、全然温まらなかった。寒くて歯がかみ合わなくなり、ガタガタ震えて洟(はな)をすすった。
それは俺たちの心が乱れ、揺らいでいることの表れだ。過酷な演習がまだ始まったばかりだという現実を、俺たちはやっと理解し始めたところだったんだ。
■屈強な男たちに起きた変化
ヘルウィークの前は、フェーズ1のロープ登りや腕立て伏せ、懸垂、バタ足でどんなに心が折れそうになっても、逃げ場があった。どんなにつらくても、夜になったら兵舎に帰り、友だちと飯を食って映画を見たり、外に出てナンパしたりした後、自分のベッドで眠れるとわかっていた。つまりどんなにつらい日でも、目の前の地獄から逃れることだけを考えていればよかった。
ヘルウィークは、そんななまっちょろいもんじゃない。とくにつらかったのは、初日が始まって1時間後に、みんなで腕を組んで太平洋に向かい、海から出たり入ったりを何時間もくり返した、この時だ。
その合間には教官たちに、「体を温めてやろう」と言われて、柔らかい砂を体中にまぶされた。俺たちはたいてい硬いゴムボートか丸太を頭上に担(かつ)いでいた。たとえ体が温まったとしても、それはほんの一瞬だった。なんせ10分ごとに海の中に戻されたからな。
初日の夜は、時間の進みがとくにゆっくりに感じられた。寒さが骨の髄までしみ渡ると、走っても走っても体が温まらなくなる。その夜はもう爆弾も射撃もなく、叫び声もほとんど聞こえなかった。代わりに不気味な静けさが広がった。やる気は地に落ちた。
海の中で聞こえるのは、頭にかぶる波の音と、うっかり飲み込んだ海水が胃の中でゴロゴロする音と、歯がガチガチ鳴る音だけだ。
■極限のストレスにさらされた人間に起きること
極限までの寒さとストレスにさらされると、残りの「120時間」を頭で理解できなくなる。睡眠なしの5日半は、小さく分割できない。これだけの長い時間を、「手際よく」攻略する方法なんかありゃしない。だからシール志願者は初めての「波責め」の間に、必ずこの素朴な疑問を自分に投げかけることになる。
「なぜ俺はここにいるんだ?」
真夜中に低体温症になりかけ、怪物みたいな波に呑み込まれるたび、混乱した俺たちの頭に、この単純な疑問が浮かんだ。なぜって、誰もシールになる「義務」なんかないからだ。
俺たちは徴兵されたんじゃない。シールになるっていうのは、「自分で決めたこと」だ。そして試練のさなかに、このたった1つの小さな疑問について考えながら、俺は悟った。俺が訓練を受け続ける1秒1秒が、「俺の選択」なんだ、と。
シールになる、という考えそのものがマゾみたいに思えてきたよ。俺は自分から志願して拷問を受けている。それはまともな頭には理解できないことだ。だからこそ、この疑問はあれだけ多くの男たちを押し潰すんだ。
■地獄はまだあと5日も残っている
もちろん教官は全員このことを知っていた。だから、訓練生をどやしつけるのをすぐにやめた。代わりに、サイコ・ピートは夜が更けると、思いやりのあるアニキみたいなやさしい言葉をかけてきた。
熱々のスープや温かいシャワー、毛布はどうだ、兵舎まで車で送ってやるぞ、と。これはやめたい者が飛びつきたくなる罠(わな)で、そうやって何人もの訓練生にヘルメットを置かせてきた。サイコは屈した者たちの魂を奪ったんだ。
彼らはこの素朴な疑問に答えられなかった。なぜなのかは俺にもわかる。金曜までこれが続くというのに、今はまだ日曜で、すでに一生で一番寒い思いをしている。
こんなことは自分にも、誰にも耐えられない、と思いたくなる。結婚しているやつらは、「凍えて苦しむ代わりに、今頃美しい嫁さんと家で抱き合っているはずなのに」と考える。独身のやつらは、「今頃かわいい子をナンパしているはずなのに」と考える。
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米軍でシール訓練、陸軍レンジャースクール、空軍戦術航空管制官訓練を完了した、たった一人の人物である。これまでに60以上のウルトラマラソン、トライアスロン、ウルトラトライアスロンを完走し、何度もコース記録を塗り替え、トップ5の常連となっている。17時間で4,030回の懸垂を行い、ギネス世界記録を更新した。講演者としても引っ張りだこであり、全米の大企業の社員やプロスポーツチームのメンバー、数十万人の学生に、自らの人生の物語を語っている。
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(退役海軍特殊部隊員(ネイビーシール) デイビッド・ゴギンズ)
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