「50代からの新NISAデビュー」は手遅れなのか…経済評論家が「まだ間に合う」と力説する理由と投資先の選び方
プレジデントオンライン / 2024年11月14日 16時15分
■今のタイミングで初心者が新NISAを始めてもいいのか
株式投資の世界には常に、遅れてやってきた人が訪れます。
「いままで様子を見ていたけどやはり興味があって」
という訳です。そういった人たちに投資の基本を教えるのは経済評論家の役割です。
ちょうど今、アメリカではトランプ氏が大統領に再選され、日本では自民党が選挙に大敗し政局は混迷しています。世界の分断も始まり、経済に関しては何が起こるか不透明なこのタイミングで、初心者が新NISAを始めてもいいのでしょうか?
この記事では、老後資金が心配で今からでも新NISAを始めてみたいという50代の読者をイメージして、アドバイスをしてみたいと思います。いろいろな話をしますが、先に結論を言っておきますと、
「50代の老後資金形成なら、人気のS&P500投資で大丈夫ですよ」
というのが今回の記事のアドバイスです。
では、株式投資をとりまく状況を見ていきましょう。
■新NISAで人気が集まった「オルカン」「S&P500」
今年、2024年1月に新NISAが始まりました。当時の岸田総理がアピールしていたのは「預金から投資へ」という言葉です。資産形成のためには銀行にお金を預金しているよりも、株式市場に投資をしたほうがいいということです。
この制度を作ったのは、日本人が日本の株式に投資をしてくれれば経済がもっとよくなるということなのですが、皮肉なことに人気が出たのは海外株式投資でした。一番人気と二番人気はそれぞれ、世界の株式市場全体に投資をするオールカントリー型投資信託(通称オルカン)と、米国株式市場の主要500社に投資をするS&P500インデックス連動型投資信託でした。
仮に1月の初めに新NISAを始めた人の場合、投資は今頃どうなっているでしょうか? オルカンとS&P500それぞれ2024年11月11日時点での損益を見てみましょう。
オルカンの代表的商品であるeMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)を1月の頭に100万円購入した人の場合、11月11日現在での残高は123万円(四捨五入、以下同じ)です。新NISAなので解約を申し出れば利益分の23万円が無税で手に入ります。
S&P500連動型の代表的なインデックス投資商品であるeMAXIS Slim米国株式(S&P500)の場合は100万円が127万円に増えています。こちらは利益が27万円とさらに大きいです。どちらもたった1年弱でずいぶんな儲けですね。銀行に預けていたら利息は1250円程度ですから、投資が人気になるのもうなずけます。
そもそも今年新NISAを始めた人だって新参者です。ビギナーズラックだと思うかもしれませんから、2年前の旧NISAから始めていた人はどうだったかも見ておきましょう。
■2023年1月に「100万円のオルカン」を買った人は…
2年前の2023年1月の頭に旧NISAで100万円のオルカンを買った人の直近の残高は162万円で利益は62万円。S&P500なら179万円で利益はなんと79万円です。滅茶苦茶儲かっていますよね。実際、この1~2年で株式投資を始めてみて、世の中の多数派であるオルカンと米国株インデックスのどちらかまたは両方を選んだ人は、みんな儲かっているのです。
そこで、5つの疑問を頭に浮かべてみましょう
1 なぜ株式投資はこんなに儲かるの?
2 なぜトヨタやソフトバンクじゃなくて投資信託が人気なの?
3 なぜ日本株じゃなくて外国株なの?
4 今から始めても、去年や今年のように儲かるの?
5 50代の人が今から投資をするとどうなるの?
この5つの疑問の答が理解できたら、50代の人がこれから新NISAを始めてもいいかどうか、その答が見えてきます。ひとつずつ経済の知識を解説していきましょう。
■銀行預金よりも株式投資が儲かる理由
1 なぜ株式投資はこんなに儲かるの?
株式投資はなぜ銀行預金より儲かるのでしょうか。それを理解するには、そもそも株に投資をする意味を理解する必要があります。株を買うということは、ある会社そのものの部分所有者になることを意味します。トヨタの株を買った人は、トヨタという世界的な大企業の一部を買ったことになるのです。
ではトヨタの株が上がるのはなぜでしょうか。5年前、2019年3月期のトヨタの営業利益は約2兆4700億円でした。そしてその後トヨタはコロナ禍で苦しい時期もありましたが、5年後の2024年3月期の営業利益は約5兆3500億円と倍以上に増えました。
この利益は誰のものかわかりますか?
会社の利益は実は株主のものです。あなたがトヨタの株を買えば、あなたにこのトヨタの利益を分配してもらう権利が生まれます。
そこで考えてみてください。「2019年の2.47兆円を稼ぐトヨタ」と「2024年の5.35兆円を稼ぐトヨタ」のどちらが魅力がありますか。トヨタ株はトヨタの部分所有権であり、利益を分配してもらう権利です。ですから当然、最近のようにたくさん稼ぐトヨタの方が株を所有する魅力が高いですよね。
だからトヨタの株が上がるのです。実際に2019年の11月頃はトヨタ株は1500円ぐらいで買えましたが、今買おうとしたら2700円ぐらいします。利益が増えれば会社の株価が上がるというのはこういうことなのです。
■「株は分散して投資すればするほど、リスクを減らすことができる」
2 なぜトヨタやソフトバンクじゃなくて投資信託が人気なの?
さて、この基本的なところを理解すると、
「じゃあトヨタやソフトバンクのように成長しそうな会社の株を買えばいいじゃないか?」
と思うのではないでしょうか。しかし株式投資にはリスクがあります。
利益が増えれば株価が上がるのであれば、その逆に利益が減れば株価は下がります。同じ自動車産業では直近で日産が90%を超える減益を発表しました。トヨタと違い、成長戦略が描けていない日産の株は5年前の11月には680円ぐらいだったのですが、直近では420円まで値下がりしています。
このように株は利益が期待できる一方で、リスクも大きいのです。
このリスクについて1980年代以降、経済学者の研究が進みました。それらの研究の結論としてわかったことがあります。それは、
「株は分散して投資すればするほど、リスクを減らすことができる」
ということです。
具体的には100万円で日産の株を買うのと比べて、50万円ずつトヨタと日産の株を買ったほうがリスクが小さくなります。ところがどちらも自動車業界ですから、自動車業界自体が不況になればダブルパンチになるかもしれません。だったら25万円ずつ、トヨタ、日産、NTT、ソフトバンクを買えば業界が違いますからさらにリスクを分散できます。
こうやってリスクを分散させていくことで、日本株だったら日経平均のように225社にリスク分散をした投資信託や、アメリカ株だったらS&P500のように500社にリスク分散をした投資信託の方がリスクが小さくなるのです。
このように大企業の株主となって儲ける魅力がある一方で、リスクも十分に分散できることから、新NISAでは投資信託が人気なのです。
■TOPIXが「ちょっとしょぼい」と見えてしまう理由
3 なぜ日本株でなく外国株なの?
さてリスク分散をした投資信託がいいのであれば、アベノミクス以降絶好調の日本株の投資信託でいいと思いますよね。でも実際は新NISAの人気ランキングには上位にほぼ外国株投信が並び、ようやく9位に東証の株式全体に分散したTOPIX連動型の投資信託がランクインします。日本株よりも外国株の方が人気なのです。その理由は何でしょうか?
仮にこの日本株のインデックスに連動するeMAXIS Slim国内株式(TOPIX)という商品に今年の1月に100万円を投資していたら、直近では110万円と10万円の利益が出ています。2年前に始めた人は145万円で45万円の利益です。
これは定期預金と比べてまったく悪くない。いい結果です。しかしTOPIXの10万円の利益は、さきほど紹介したオルカンの利益23万円やS&P500の27万円と比較するとちょっとしょぼいと感じます。
■その国の経済成長率<その国の株式インデックスの成長率
この差は何かというと、本質的にはその国の経済成長が高いか低いかが関係してきます。日本の大企業の成長は日本経済の成長に関係しますし、アメリカの大企業の成長はアメリカ経済の成長に連動します。日本経済は30年間成長できなかったうちに、いつのまにかひとりあたりGDPでG7の他の先進国とは倍近い格差が生まれています。最近では韓国や台湾がひとりあたりGDPではわが国を追い抜く勢いです。
ちなみに国の経済成長と株価の成長の関係をもう少し正確に言いますと、「その国の経済成長率<その国の株式インデックスの成長率」という形で、株式インデックスはGDPの成長を上回る傾向があります。
この理由を簡単に説明すれば、大企業の方が中小企業や零細企業・個人事業主を加えたその国の産業全体よりも儲かっているということです。ですから日本株のTOPIX連動の投資信託も1年弱で10%も儲かるのですが、それよりも全世界の経済成長と相関するオルカンは23%、絶好調のアメリカ経済に連動するS&P500は27%とより収益が高いのです。
ちなみにオルカンには日本株だけでなく中国株も組み込まれています。今、中国経済には暗雲が漂い始めていて、その意味で、オルカンではなく米国株のS&P500連動型の投資信託のほうが「ある意味リスクが少ない」と考える人も多いのです。
■AIバブルへの懸念、為替レートへの懸念
4 今から始めても、去年や今年のように儲かるの?
さて、ここまでの話を聞いて、遅れて株式投資に興味を持ち始めた方も、
「自分もやってみようかな」
という気持ちになったかもしれません。
それで周囲にアドバイスを求めてみると2つのタイプの、
「やめたほうがいいかもしれないよ」
という意見を耳にすると思います。
ひとつは今、世界の経済がAIブームで加熱しすぎていてこの先いつAIバブルが弾けるかわからないという意見。そしてもうひとつが今、日米の金利差のおかげで円安が進んでいるけれどもいずれ金利差がなくなって元の円高水準に戻るという意見です。
ひとつめの株式市場が過熱しているというのは先ほどのS&P500連動型投信の利益の大きさからわかります。100万円投資した利益が1年で27万円、2年で79万円です。長い歴史でみれば株式の収益率は年利で10~12%あたりが適切だと言われますから確かに上がりすぎです。
■マグニフィセント7が牽引するS&P500
実は過去2年のS&P500の上昇はマグニフィセント7と呼ばれる、アップル、アマゾン、グーグル、メタ、マイクロソフト、エヌビディア、テスラの7社の株価の上昇が大きく寄与しています。そしてこの7社を差し引いたS&P493で見れば株式の収益率は昨年は年率で5%程度、直近では年率13%程度と過熱しているわけではないのです。
この先、マグニフィセント7の株価はAI期待が終われば下がるかもしれません。さらにはトランプ大統領の再登場で来年は関税が引き上げられるなど貿易摩擦が増えることで、経済全体にはマイナスの動きも出るでしょう。短期的には株価が乱高下するリスクがあります。とはいえ500社に分散投資していれば、長期的にはアメリカ株のインデックス投資の利回りは年利で10%程度の適切なレンジで収まると考えられます。これが覚えておくべきひとつめの教訓です。
ふたつめに為替レートは、この先、アメリカの高金利政策が終わることでいずれ1ドル=110円といった以前の水準に戻る可能性があります。そうなれば今1ドル=150円台の時期に米国株を買った人は、それを売却するときには1ドル=110円で円に替えることになるでしょう。150円でドルを買って110円で売れば財産は▲27%も減ってしまいます。この▲27%を覚悟しておくべきだというのがもうひとつのポイントです。
このふたつが意味することは、この後、まとめて考えます。
■50歳なら25年後、59歳なら16年後の老後資金を準備する
5 50代の人が今から投資をするとどうなるの?
さて、ここまでの話で、まだ新NISAを始めていない読者がこれから投資を始めるべきかどうかの手掛かりはほぼ出そろいました。「ほぼ」というのは、最後のピースが残っているからです。
それは、何のために投資をするのか? という話です。
ここ1~2年では「AI株、めっちゃ上がっているから」ということで預金を株に替え、それで「何もしていないのに27万円も儲かっちゃった。しかも無税!」というようなギャンブルのような楽しみ方もありでした。
しかしそのようなAIブームは近々終わるかもしれません。ではこれから投資を始める人の目指すべきゴールは? 政府がもともと推奨しているように、それは老後資金の形成であるべきだと私は思います。
50代の人は働けるとしてもあと20年程度、75歳まで働いた後はわずかな年金だけでは暮らせずに老後資金を取り崩す生活になります。それまでの間に生活資金を増やしておくことが新NISAの本来の目的です。
50歳の人なら25年後、59歳の人なら16年後にまとまった老後資金を残す。このような目的の長期投資は新NISA向きです。そしてこれから説明するように実は長期投資は、心配な為替リスクをなくしてくれます。
■50代からの投資戦略を考えてみよう
これまでの知見をまとめて、50代からの投資戦略を考えてみましょう。繰り返しになりますが長期的にリスクの少ない形で資産形成をするためには株式の分散投資が最適です。TOPIXやアメリカのS&P500のように多くの株式に分散投資をする投資信託を買うというのが人気なのはこの理由からです。
その際に、日本株よりもアメリカ株や世界全体のオルカンが人気な理由は、海外の方が経済の成長率が高いからです。
実際に試算してみましょう。仮にアメリカ株がドル建てでこれまでの歴史と同じように年率10%で上昇すると仮定してみます。一方で日本の経済成長がアメリカよりも低いことから日本株の上昇率を年率5%とやや低く見積もって計算してみましょう。
50代で投資した100万円は引退年齢の75歳のときにどうなっているでしょう?
59歳のときにアメリカ株の投資信託を買ったお金は、上記前提では米ドル建で約4.6倍に増えます。複利の効果で、投資信託は雪だるま式に増えます。とはいえそのときに1ドル=110円の円高に戻っていたとしたら為替差損が生じます。それも含めて計算してみると投資した100万円は337万円と、約3.4倍になります。
一方で日本株の投資信託の場合、上記仮定のように日本経済の成長率の低さを反映すると想定すれば、59歳で投資して75歳で受け取れる金額は218万円、つまり約2.2倍です。
このように利回りの違いは、複利のおかげで長期投資になればなるほどどんどん利いていきます。一方で為替のリスクは元に戻すときの一度だけ。このことからわかることは長期投資では外国株投資の為替リスクは小さくなるのです。
59歳ではなくもっと若い50歳から資産形成を始める場合はさらに差がでます。同じ100万円が75歳になるころには、米国株なら795万円、一方で日本株なら339万円という計算です。
■59歳から新NISAを始めても遅くはない
老後の蓄えについては、政府の試算では2000万円の資金が必要だとされています。
「2000万円なんて無理だよ」
とお考えかもしれませんが、もし50歳から新NISAを始めるのであれば、最初の年に新NISAの上限である240万円の投資をしたものが、75歳には約1900万円に化け、ほぼその金額に到達することが期待できます。
59歳とかなり引退に近づいた方でも、もし今年、上限の240万円から始めてこれから3年で合計600万円を株式市場に投資すれば、75歳の老後資金はやはり約1900万円まで増えます。つまりまだ老後に間に合うということです。
新NISAは長期投資ですから、トランプ大統領誕生や世界分断リスクといったこの先の変化も、15年、20年という時間が減らしてくれます。そして新NISAで増やした老後資金には税金がかかりません。
そのことを考えたら、すでに株価がずいぶん上がってしまったと感じる2024年末時点であっても、そしてかなり年齢が上がってしまったと感じている人でも、今から新NISAを始めることは遅いとは言えないのです。
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経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。
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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)
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