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「オレンジの吉野家」より「黒い吉野家」のほうが従業員の歩数が30%少ない…儲かる店舗の意外な秘密

プレジデントオンライン / 2024年11月26日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ake1150sb

材料費や人件費が上がる中、小さな飲食店が赤字から脱却するにはどうしたらいいのか。飲食店を専門とする中小企業診断士の難波三郎さんは「着目すべきポイントの一つが人件費。売上に対して適正な人件費かどうかを見る必要があり、レイアウトやメニュー構成を変えることで作業の効率化を図ることも重要だ」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

■「人時売上高」で確認する

人件費を考えるときに役立つ、「人時売上高」という考え方があります。「売上を総労働時間で割る」が公式です。

総労働時間とは、お店を運営するために働いた、社長や家族、パートの労働時間の合計のことです。簡単にいえば、「店員が1時間働いて、得られる売上」です。ここに、経理作業の時間などは含めないのが一般的です。

使い方としては、特定の時間の売上に対して、適正な人件費になっているかを確認することが多いです。

大きなお店の場合は、人員が多いので労働時間を簡単に調整できますが、小さなお店の場合は人員が少ないので、調整が難しいです。ランチタイムを例に、あまり忙しくないお店と、ピークはウェイティングがかかるお店に分けて説明します。

まず、あまり忙しくないお店の場合ですが、人時売上高はかなり悪いはずです。あと数カ月で忙しくなると思える状況なら、今のまま続けてもいいですが、まだ赤字が続きそうなら根本的に人数を見直すのも一案です。

「いや、減らすと運営できないんだよ」と思われるかもしれませんが、逆の発想をしてみてください。「減らした人数で今の売上をキープするには、何をすればいいか?」と考えるのです。

ホール側であれば、水とライスのおかわりをセルフにすることもできます。キッチン側だと、アイテム数を減らしたり、提供商品の見直しも可能です。

■人件費削減は値上げよりずっと楽

私は年に3回、飲食店の創業者向けの連続セミナーを行っています。その中には「1人でお店を運営したい」という方が、少なからずいます。

1人で運営して、月商100万円を超えられるパターンは決まっています。

まず、たこ焼き店、ケバブ店のような単品商売のお店です。このタイプは、同じことの繰り返しなので生産性が高いです。

次に、仕込みに時間はかかっても、提供時間は短い商品で構成された、具体的にはバルやオーブン料理のお店です。このタイプは、トゥーオーダー(オーダーが入ってから行う業務)の負荷が低いので、少人数化が可能です。

キッチン業務を「繰り返しだけ」に近づける。トゥーオーダーの負荷を下げる。ホールをセルフ化する。これらはきっと、ヒントになるはずです。人件費の削減は、そのまま利益に乗っかるので、下手をすると値上げよりずっと楽です。ぜひ検討してください。

■提供スピードを上げて時間当りの売上を増やす

次に、ウェイティングがかかるお店の場合ですが、人時売上高をよくするには、人件費を下げるより、時間当りの売上を増やす方法を考えるといいでしょう。

売上は、「客数×客単価」です。最近、大手のファストフードチェーン店が成功している理由は、持ち帰り増加による客数(出数)増加と、季節商品による客単価アップです。

ここでは、客数の増加について説明します。

ウェイティングがかかるお店の場合、提供スピードを速くすれば1時間当りの売上が増えて人時売上高が良くなります。あるラーメン店の例を紹介しましょう。

そのお店のラーメンは、どのSNSでも高評価でした。

社長は中華の料理人出身なので、調理の知識も豊富です。

メニューはラーメンの他に、チャーハンがあります。

麺の湯切りもチャーハン作りも、社長がやります。

あるときから、高菜チャーハンを導入したら、とても売れたそうです。

さらにお客からのリクエストを受けて、キムチチャーハンも導入しました。おかげで、ピークタイムには行列ができます。

いかがでしょう、売上増加のヒントが見えましたね?

そうです、チャーハンが3種もあると、バラバラに鍋を振るようになるので、時間を取られ、時間当りの売上が下がるのです。

マーケティングという言葉があります。

アメリカ・マーケティング協会が定義した、元々の言葉の意味は、「商品を創造し、双方が満足する交換を行うための、計画と運営のプロセス」です。ざっくりいえば、「お客を喜ばせながら、お店に利益が残る方法を考えること」です。

つまり、お客だけを見ていてはダメで、自店の利益も考えながらメニュー組み、オペレーション組みをする必要があるのです。

商売はバランスです。もし、お客の目線に寄りすぎているなら、少しだけ自社の都合に引き戻してください。

■都会のキッチンは狭くて使いやすい

私は、住民票のある岡山市と東京を行ったり来たりしながら仕事をしています。その他にも北陸、九州と出張はあるのですが、行った先のお店のキッチンを見て感じるのは、人口密度の高い都会のキッチンは狭くて使いやすく、そうではないエリアのキッチンは広くて使いにくい傾向があることです。

人口密度が高いほど、坪当りの家賃が高くなるので、キッチンを狭くして席数を増やさないと、必要な売上を確保できなくなります。逆に、坪当り家賃が低いエリアはその必要がないので、広くなっていることが多いです。

■広いキッチンは歩数が増える

キッチンが広いと、仲間との距離も保たれますし、移動するとき仲間の動きを気にする必要も減ります。ただ、広いキッチンは、歩数が増えます。

たとえばキッチンで、サラダの盛り付けをしたとします。きれいに見えるように丁寧に飾れれば、価値を付加したこと、つまり「付加価値」が生まれたことになります。

ソテーをするためにフライパンで調理すれば、生の食材を加工していますし、上手に焼ければさらに価値が付加されます。しかし、何かを取りに行くために歩いても、何の価値も付加されません。これは1円にもならない、ムダな労働です。

■時間当りの売上アップにつながる

また地方には、「段取り替え」という方法が浸透していない気がします。

段取り替えとは、時間帯によってキッチンのレイアウトを変更することです。

狭いキッチンの場合、トゥーオーダーの速度を高めようとすると、とにかく余分なものを目の前から除き、なるべく動かず単純作業を繰り返そうと考えます。逆に、仕込みのときは、やりやすいように機材や食材を並べて効率よくしたいと考えます。

そこで、仕込み時間には包丁、まな板、大きな機材を自分がやりやすいように移動して、トゥーオーダーが増える時間には、それらを除いてレイアウトを変更します。もちろん、トゥーオーダー用のレイアウトは、歩数が減るようにします。

こう考えると、台下冷蔵庫というのは、上下の動きですむようになっていますし、自分が調理しているとき目線より上にある食器棚も同じで、理にかなっているわけです。

この意識がつくと、トゥーオーダーの対応能力が高まる、つまり時間当りの売上を増やすことができます。

地方だと、「そんなに急がなくても」と思う社長も多いですが、ピークの対応能力が高まると、売上は自然に増えます。

■歩数までこだわる「黒い吉野家」

あなたの近くに、「黒い吉野家」は出店していますか?

黒い吉野家とは、「クッキング&コンフォート」という業態の吉野家のことで、看板が黒いことから、そう呼ばれています。おしゃれな外観でテーブル席が多く、ドリンクバーもあるので、郊外の家族連れを狙うタイプのお店です。

価格はオレンジの吉野家と同じですが、事前会計になっていて、牛丼はすぐに出るので自分で席まで運び、揚げ物などを頼むとブザーが鳴るベルを渡され、仕上がったら自分で取りに行くスタイルです。

お気づきのように、ホールの人件費をなくして価格を維持しています。儲かるモデルなので、郊外型、ロードサイド型の店舗を少しずつ「黒い吉野家」に変えているようです。

そこに興味を持っていたら、新聞の記事に目がとまりました。記事によると、この店舗はオレンジの吉野家と比べて従業員の歩数が30%ほど減ったそうです。数字にも驚きましたが、それを計っていることにも驚きました。

このように、大手も歩数に注目しています。あなたもキッチンを、営業時間中の歩数に注目して見直すと、対応能力が高まるかもしれません。

吉野家 阿波座店
吉野家 阿波座店(写真=Tokumeigakarinoaoshima/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

■タッチパネルや券売機の導入はアリか

人時売上高をよくするために、タッチパネルや券売機を導入するという方法もあります。

タッチパネルは追加オーダーが多いお店、券売機はオーダーが一度だけのお店に向いています。

これらをすすめるとよく、「お客様との接触回数が多いほど、親近感を持ってくれたり仲良くなれるチャンスが増えるって聞いたことがあるんですけど?」といった質問を受けます。

たしかにご指摘のとおり、それが定説、基本です。

ただ、接触回数が多くても、お客に何も感じてもらえていない接客なら、機械化もありだと、私は考えています。

■スシローのDX化に見る「うまい接客」

先日、10年以上ぶりにスシローに行きました。

入り口にタッチパネルがあり、カウンターかテーブル席かを選ぶようになっていました。

難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム) 
難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム) 

戸惑っていたら、店員が近づいてきて丁寧に教えてくれました。高齢のお客には代わりに入力していました。

座る席番が書かれたシートを見ながら席につき、タッチパネルで商品注文の始まりです。

約100席ほどのお店ですが、ときどきホールの店員が見えなくなることがあります。奥から出てきたなと思ったら、サービスワゴンを持っていて、「空いているお皿、お下げします」などと巡回します。

久しぶりだったので驚いたのですが、タッチパネルになったため、会計時に皿を数える必要がなくなっています。

また、ピークの終わりに一気に皿が戻らないので、洗い場の負荷が均等になります。

平日の昼、住宅街のお店に入ったので高齢客が多かったですが、皆タッチパネルが使えます。会計はセルフレジですが、店員にも頼めるようでした。お客の様子を見ながら店員が1人で対応していました。

私が考える「接客の重要ポイント」は、「入店時」「退店時」「質問対応」です。

ここがよければ、評価が高くなります。

このお店でそれを担当していた2名の店員は、テンション、笑顔、目配り、会話と、どれも素晴らしく、今年もっとも記憶に残る見事な接客でした。

スシローの場合、かなりの設備投資費がかかっているでしょう。

また、重要ポジションを担当する人の技量、コンディションによって満足度に差が出るでしょう。

ただ、私の満足度は、満点でした。

機械化、省力化しながら重要ポイントは押さえて満足度を保っている、大成功例だと思いました。

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難波 三郎(なんば・さぶろう)
中小企業診断士(飲食店専門)
1967年生まれ。ながらくフリーターとして多くの店で修業した後、1999年に渋谷区で飲食店を開業。2006年に中小企業診断士の資格を取得し、『メニューが飲食店を救う!』(こう書房)を出版。希少なメニュー関連の本としてヒット。これを機に全国で活動するようになる。現在は出身地である岡山市に所在し、近隣県の商工会議所、銀行などから依頼を受けて中小・個人の飲食店を中心に利益増加のアドバイスを行う。同時に、週の半分は東京など都市部からの依頼を受けて全国で活動。年に約30社と向き合いながら、年に約50回のセミナーを開催している。日本調理製菓専門学校経営学非常勤講師。

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(中小企業診断士(飲食店専門) 難波 三郎)

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