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「てりたまバーガー」「大人様ランチ」…繁盛店が投入する"季節感のない"期間限定メニューの本当の意図

プレジデントオンライン / 2024年11月28日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bonchan

小さな飲食店が値上げをしようとするとき、メニュー全体の価格を上げる以外にどんな方法があるのか。飲食店を専門とする中小企業診断士の難波三郎さんは「期間限定商品として高価格帯の商品を加えるという方法もある。これは多くのチェーン店が行っており、大きく8つのメリットがある」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

■客単価をどう伸ばすか

値上げは2段階、そして2階層で行うべきだと考えています。まずは仕入れ代、人件費、光熱費など、増えた経費をまかなえるように、全体の値上げを行う。

そして2段階(2階層)目が、高価格帯の商品を加えることです。これを、期間限定商品としてとりあえずやってみる方法です。

チェーン店の例を交えながら、そのメリットを8つ紹介します。

メリット①失敗してもいい

グランドメニューの中に、新たな商品を加えるのは勇気がいります。しかし、期間限定商品であれば、失敗したらやめて、次の商品と交換すればすみます。

期間限定商品と書きましたが、その期間を書かずに始めるといいでしょう。

また、ヒットしても一定の期間が来たら、次の商品と交換しましょう。

これを繰り返すうちに、商品企画と試作、ネーミング、宣伝といった流れがわかってきて、実力と自信がついてきます。

私は2006年に『メニューが飲食店を救う!』という本を出版しました。そのため、いただくお仕事はメニュー関連ばかりでした。

上場企業から「季節メニューの商品企画を手伝ってほしい」という依頼を受けたこともあります。

100店舗を超える企業だったので、かなりプレッシャーを感じました。

しかし、そんな気持ちはすぐになくなりました。担当チームの皆が、「全部ヒットするわけではない」と知っていたからです。

このお店は居酒屋でしたが、季節メニューを年に80アイテム以上も作っていたため、失敗もヒットもあるし、いろんなアイディアを出してチャレンジすることだけが重要だと知っていたのです。あなたにも、気楽に始めていただきたいです。

メリット②利益額が増える

お店の売上は、「客単価×客数」です。平均より高価格帯の商品を加えて売れれば、客単価が上がって利益額が増えます。

「でも、値上げして客数が減ったら、利益額は減るのでは?」といった心配は、いりません。

なぜなら、高価格帯の商品を食べないお客は、来なくなるわけではなく、いつもの商品を食べに来てくれるので、客数は減らないからです。

■インフレになり各社が積極的に活用

この方法は、多くのチェーン店が導入していて、インフレになってから、以前より積極的に行っています。

たとえば丸亀製麺だと、「かけうどん(並)かしわ天」は580円ですが、夏季限定の「とろけるチーズのトマたまカレーうどん」は920円です。

すき家で「牛丼(並)」は430円ですが、冬季に人気の「炭火焼き ほろほろチキンカレー」は750円です。

すき家「炭火焼き ほろほろチキンカレー」 プレスリリースより
すき家「炭火焼き ほろほろチキンカレー」 プレスリリースより

ふだんは並盛の牛丼だけを食べる人でも、この商品を注文するときは、200円の「サラダセット」も注文しそうな気がしませんか? そうなると、客単価は2倍以上になります。

そして、こういうお客が20%いると、全体の客単価が20%上がります。

■季節感はなくていい

最近は、期間限定商品という言葉が使われるようになりましたが、和食やイタリアン出身の方だと、季節商品という言葉で覚えている方が多いと思います。言葉はどちらでもいいです。

季節商品と思って企画してもいいですが、すべてに季節感が必要なわけではありません。

マクドナルドは秋になると「月見バーガー」を販売します。その半年後、春には何を販売していますか? CM風に言うと、「春はてりたま」です。秋の月見に季節感はありますが、春のてりたまには何の根拠もなく、半年たったからイベントとして売っていて、それが売れるからずっと続いているわけです。

次のメリットは、松屋とかつやで説明します。

24時間営業のマクドナルドの店舗
写真=iStock.com/tupungato
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tupungato
メリット③来店頻度を高められる可能性がある

期間限定商品で成功していると感じるのが、松屋とかつやです。ざっとですが、松屋は月に2アイテム、かつやは3週間1アイテムのペースで期間限定商品を売り込んできます。

松屋で話題になったのは、ジョージアの郷土料理をアレンジした「シュクメルリ鍋定食」「カットステーキのビーフストロガノフ」「ごろごろチキンのバターチキンカレー」などでしょう。肉料理というジャンルからは離れませんが、お国柄は広範囲、味は濃いめでニンニクの効いた商品が印象的、というイメージです。

一方のかつやは、オムカレーに海老フライ、タルタルチキンカツなどを盛り付けたお子様ランチのような「大人様ランチ」「トンテキとチキンカツの合い盛り丼」「タレカツとうま煮の合い盛り丼」などが記憶に残っています。揚げ物を中心にして複数の肉料理が食べられる、自由奔放に発想された商品、というイメージでしょうか。

■今しか食べられない「別の顔」を見てもらう

期間限定商品も、この2社ほどヒットすると、それを目的に来店するお客が生まれます。

すると、「今日のランチどこにしよう。牛丼じゃないな。松屋の限定商品、もう1回食べよう!」といったことが起こります。1つのお店に行く理由が2店舗分になり得るのです。

この2社のように短いスパンで入れ替える必要はありません。自分のペースでいいです。

期間限定商品は、あなたのお店の、今しか食べられない《別の顔》を見せるチャンスです。

その売上比率が伸びてくると、来店頻度は必ず高まります。あなたの頭の中にある、お店の定番以外の商品案を探してみてください。そこにきっとヒントがあります。

メリット④原価率を下げやすい(価格がわかりにくい)

あなたがマクドナルドの月見バーガーが好きで、毎年買っていたとします。

昨年、一昨年の価格を覚えているでしょうか?

そう、一定の期間をおいて販売されると、価格の記憶があいまいなのです。

しょっちゅう買う商品の価格は、よく覚えているお客も多いですが、たまに買うものは覚えていません。また、季節の食材を取り入れた商品であれば、季節限定の価値があるので、価格を気にしにくくなります。

そもそも、なぜ値上げをためらうかというと、「あれ、値上げしてない?」「また値上げしたわけ?」と思われるのが怖いのが大きな理由でしょう。その心配がないのですから、しっかり原価計算をして、がまんしない価格にしましょう。

メリット⑤勝ちパターンを作れる可能性がある

期間限定商品は、チャレンジの場です。メイン食材の調理方法や味付けについてじっくり考えることが多いでしょう。これは、コース料理も同じです。外しても数カ月です。今までになかった商品への思い切ったチャレンジを続けてください。

こうしてガヤガヤやっていると、たまに自分でも「あれ?」と思うようなヒット商品が出てきます。そうなったら、このヒット商品から派生した商品を考えるのです。ヒットしたのですから、一定の客層には受けることが証明されています。そのターゲットに刺さる商品を連続させるのが、勝ちパターンです。

先ほど、松屋とかつやの期間限定商品について、私なりの感想を書きました。そういう自分のお店の《カラー》が出せれば大成功ですが、そこまでいかなくて大丈夫。当たったら、そこからさらにイメージをふくらませて、次の商品を考える。これを続けましょう。

■お客が帰ってくるしかけ

メリット⑥間隔の空いたお客が戻ってくる理由になる

一年中、ずっと途切れずに来てくださるお客というのは、とても大事ですが、数が限られます。また、新規客の数が、毎年減っていく離反客の数を上回れば売上が減りませんが、これが難しいことは、ご存知だと思います。足が遠のいたお客にお店を思い出してもらえて、久しぶりの来店を期待できる。これも大きなメリットです。

難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム) 
難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム) 

マクドナルドでは、月見バーガーだけでなく、夏のハワイバーガーシリーズや冬のグラコロバーガーがあります。

吉野家だと夏の牛皿麦とろ御膳、冬の牛すき鍋膳がありますし、ロイヤルホストは1983年から夏のカレーフェアを続けています。これらの商品についているファンが、店外のポスターやノボリを見ると帰ってくるのです。

そう考えると、「冷やし中華、始めました!」というキャッチコピーを考えた人は偉大です。「夏に食べやすい商品が、今年も帰ってきましたよ!」と、離れていたお客に呼びかけているわけです。

このように、季節感のある期間限定商品は強いです。

しかし、吉野家で不定期に登場する黒カレーや親子丼のように、時々しか売らないけれど、確実に売れる商品も有効です。

ちなみに吉野家の親子丼は、牛丼(並)より15%ほど高いです。そう、鳥を牛より高くできるのが季節商品なのです。

メリット⑦宣伝しやすい

期間限定商品は、売り込みやすいです。ずっと変わっていないグランドメニューの中に差し込みメニューを入れて、期間限定だと訴えると、目立ちます。

高額帯の商品は、その日には売れなくても、「おいしそうだな。よし、給料日の後には食べてみよう!」などと思ってもらえる可能性があります。

■バズる宣伝ネタになる

また、写真を、店外に設置しているA看板に飾っても、窓に貼っても目立ちます。この写真がしょっちゅう変化すると、より目立ちますし、活気が出ます。

先日のランチで行ったお店は、店外のA看板に「東京ウォーカーにのりました!」というPOPと、おそらく数年はたっている色あせた誌面を飾っていました。過去の栄光より、未来への一歩。商品も情報も新しいほうがいいです。

期間限定商品があると、SNSでの投稿も楽になり、反応も良くなります。グランドメニューの中の商品について投稿するより、気持ちが入りますし、視聴者も新鮮な情報を喜ぶからです。

しょっちゅうやっているとフォロワーが増え、拡散されやすくなります。

メリット⑧活気が生まれる

継続して期間限定商品を販売していると、常連さんは「そろそろ次の限定品が出るかな。楽しみだな!」と、思ってくれるようになります。店外の窓に貼られた写真がしょっちゅう変わるのを見て、「1回、入ってみようかな?」と思う人も出てくるでしょう。

長く続けるには努力が必要ですが、ガヤガヤやっていると、自然と活気が生まれてきますし、人が集まってきます。

【図表】人が集まる9カ条
難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム)

図表1にあるのは「人が集まる9カ条」というもので、大阪の釈迦院に伝わる言葉です。

期間限定商品を販売するメリットは、ここがゴールです。楽しみながら続けて、この状態を目指してください。

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難波 三郎(なんば・さぶろう)
中小企業診断士(飲食店専門)
1967年生まれ。ながらくフリーターとして多くの店で修業した後、1999年に渋谷区で飲食店を開業。2006年に中小企業診断士の資格を取得し、『メニューが飲食店を救う!』(こう書房)を出版。希少なメニュー関連の本としてヒット。これを機に全国で活動するようになる。現在は出身地である岡山市に所在し、近隣県の商工会議所、銀行などから依頼を受けて中小・個人の飲食店を中心に利益増加のアドバイスを行う。同時に、週の半分は東京など都市部からの依頼を受けて全国で活動。年に約30社と向き合いながら、年に約50回のセミナーを開催している。日本調理製菓専門学校経営学非常勤講師。

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(中小企業診断士(飲食店専門) 難波 三郎)

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