「朝起きると、隣で妻が亡くなっていて」絶望した60代夫が徐々に再生…生きててよかったと思える"飲み物"とは
プレジデントオンライン / 2024年11月15日 11時15分
※本稿は、坂口幸弘、赤田ちづる『もう会えない人を思う夜に 大切な人と死別したあなたに伝えたいグリーフケア28のこと』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■悲しみのうずのなかで
大切な人と死別したばかりのあなたはもう会えないことが信じられなくひとりで苦しんでいるかもしれません。
心細く、いつまでも夜が続くかのように感じている人もいるでしょう。
そのようなとき、私どももかける言葉が見つからず、ただ隣に座って、心を寄せることしかできないことがよくあります。今は悲しむだけ悲しんでいい、大切な人を想う時間を大事にしてほしい、そう思っています。
■悲しみは人それぞれ悲しみとの向き合い方に正解はない
死別の悲しみには個人差が大きく、その想いや程度は人によって本当にさまざまです。うまく言葉にできない感情に胸が締めつけられ、心が押しつぶされるように感じる人もいます。
一方で、目の前の現実を受けとめきれず、何も感じないような感覚となり、涙も出ないこともあります。悲しみ方に正解があるわけではありません。
同じような経験をしたからといって、抱える感情はみな同じではないのです。あなたの悲しみはあなただけの悲しみであり、ほかの人には十分に理解されないかもしれません。
母親を肺がんで亡くした60代の男性は、死別から半年がたった頃、さみしそうにこう話してくれました。
「周囲の人が、母の死を大往生だったね、寿命をまっとうしたねと言うんです。母は92歳でした。周囲の人が大往生だと思っても、私にはどうしてもそうは思えないのです。私にとっては、たったひとりの母でしたから」
家族の中でも、悲しみの大きさや表現、向き合い方は違います。ある50代の女性です。妹さんの態度をこころよく思っていないようで、次のよう打ち明けられました。
「母が亡くなってしまったのに、どうして妹は平気そうで、今までと変わらない生活をしているのでしょうか。母は死んでしまって、もういないのに……。妹と母の話をしたり、一緒に泣いたりしたいと思っていたけれど、全然できなくて……。妹のほうが母にかわいがられて育ってきたのに、薄情だと思いませんか?」
姉妹で気持ちを共有できないことが、この女性の悲しみをさらに深めているようでした。
同じ家族のメンバーであったとしても、各々にそれぞれの想いがあります。
「家族だからみんな一緒」とは考えないほうがいいと思います。ほかの人と違ったり、理解されなかったりしたとしても、自分の気持ちを大事にしましょう。一人ひとりの感情や想いに優劣はありません。みずからの悲しみを、あなた自身が認めてあげることが大切なのだと思います。
■悲しみ方に正解はない
どのように悲しみに向き合うのかは、これからの人生をどう生きるのかに通ずるところがあります。
生き方に一つの正解がないのと同じように、悲しみにどのように向き合うかも正解はないものです。
ほかの人の考えやアドバイスに従わなくてもいい、自分なりの悲しむ方法を見つければいいのです。見つけるほかはないといってもいいかもしれません。
亡き人とのそれまでの関係や、死を迎えた状況など、死別という経験にも人によって大きな差異があります。違う背景のもとで、亡き人の死を悲しめなかったり、解放感や安堵感を経験したりすることは、ごく自然なことです。
どのような感情や想いであっても、自分だけがおかしいのではないかと無理におさえこんだり、自分を責めたりする必要はありません。
遺された人は死を嘆き、悲しみに暮れるものだとの遺族に対するイメージが暗黙のうちに描かれがちです。
しかし、死別に伴う感情や想いは人それぞれでいいのです。
涙は必ずしも頬を伝うわけではありません。見えない涙が流れることも悲しみのありようの一つです。
「来月が父の三回忌になります。私は父の死に対して、これまで一度も泣けないのです。当然悲しいのですが……。自分はなんて冷たい人間だと情けなくなります」
ある40代の男性は、このように話されました。
その言葉に対して、「泣けないことも悲しみの表現の一つなのかもしれませんね」とお伝えすると、「泣けなくてもいいんだ……」と少し安心したようにつぶやかれました。
■「もっとつらい人がいる」と我慢しなくていい
「泣きたいときには泣いたらいい」といわれるように、悲しみを無理におさえるのではなく、十分に経験し、悲しみきるほどに悲しむことも大切です。
まわりの人の目を気にして元気さを無理によそおったり、自分よりも過酷な状況の人と比べて、「もっとつらい人がいるのだから」と、自分の気持ちにブレーキをかけたりしている人もいるでしょう。
あふれでる感情、流れる涙をおさえる必要はありません。あなたの悲しみはあなただけのもの。ほかの人があなたの代わりに泣くことはできないのです。
気持ちを受けとめてくれる人が身近にいれば、人前で泣くこともいいことだと思います。いなければ、人目を気にせず思いきり泣ける場所を探してみるのもいいかもしれません。あなたの悲しみのいろや形は、あなただけのもの。
「悲しみのいろは人それぞれ」と考えると、人にはさまざまな悲しみがあり、自分なりの悲しみ方でいいことに気がつきます。
人によっては、自分の悲しみであっても、その大きさや表現、向き合い方に、自分でも驚くことがあります。
ただ、どんな悲しみでも、そのときどきの気持ちをおさえこまずに、ありのままを表現することが、気持ちを少しラクにしてくれるでしょう。ひとしきり泣くだけ泣いたら、一旦は気持ちが少し晴れるかもしれません。
あなたの悲しみのいろや形は、あなただけのもの
■とにかく今日を生きる自分のペースでゆっくりと
これからどう生きていけばいいのだろう。大切な人を亡くしたとき、まるで暗闇の中にひとりでいるようで、どこに向かえばよいのかわからないと感じることがあります。
3年前に母親をくも膜下出血で亡くした30代の女性は、「深い海の底で迷子になったかのようでした」と当時の心境を振り返ってくれました。
母が一番の理解者だったと話すこの女性は、母親を失い、だれも私の気持ちをわかってくれず、いつもひとりぼっちだと感じていたといいます。そして、「こんなにつらい思いをしているのは私だけだろう」とずっと思っていたそうです。
身近な人の死に出会った経験は過去に何度かあったとしても、亡き人との関係性や死の状況などによって、受ける影響は大きく異なります。かつて体験したこともないほどの喪失感に押しつぶされそうで、このまま生きていてもしかたがないと思うことさえあります。
認知症の母親を5年間にわたって在宅にて介護し、看取った60代の女性は、こう話してくれました。
「毎朝目覚めると、また一日が始まるのか……と絶望的な気分になります。母の寝ていた部屋でベッドを眺めながら、何もできずにただ時間だけが過ぎていくんです。母のいない一日をどう過ごしていいのかわからない。生きていることがとてもつらいんです。本当に情けないです」
大切な人を亡くしたあと、遺された人は、亡き人が物理的には存在しない人生の時間を過ごすことになります。この60代の女性のように、母のいない時間をどのように過ごせばいいのかわからず、途方に暮れる人もいます。
一日をとてつもなく長く感じるときもあれば、何もできないまま気がつくと一日が終わってしまうこともあります。
人によっては、あたかも時間が止まってしまったかのように感じるでしょう。あるいは自分には世界が一変するほどの出来事が起こったにもかかわらず、現実の世界が何ごともなかったかのように動いていることに戸惑う人もいます。
■取り残された気持ちに
夫を肝硬変で亡くした40代の女性は、「周囲の人は自転車で走っているのに、私は道の真ん中にひとり取り残されたように感じて、どうしていいかわからなかった」と話されていました。
いつもと変わらぬ社会の時間の流れのなかで、自分だけが置いてきぼりになっているように感じられるのです。
このような状態に陥ることは、けっして特別なことではなく、大切な人と死別したあとにみられる自然な反応であり、だれもが経験する可能性があります。
もし自分がこのような状態になったときには、早く元気にならなければとあせる必要はありません。何より大切なことは、あなたが生きていることです。
今はまだ、何もできなくてもいい、とにかく生きていればいいのです。自分を責めたければ責めてもいいし、亡くなった人のことだけを考えていてもいい。自分の気持ちに身をゆだねて、時間の流れにしばられなくてもかまいません。朝になったから起きなくてはいけないと思う必要もないのです。
どうしようもない悲しみを抱えているときは、自分のペースで「ゆっくり、ゆっくり」が合言葉です。今日一日だけ生きてみよう、そう思いながら一日を過ごしてみるのもいいかもしれません。
ある60代の男性は、こう話してくれました。
「妻を亡くして、とてもつらいとき、先のことは考えず、とにかく今日一日を生きようと思って過ごしてきました。一日一日を積み重ねて、もう7年になります。悲しみは変わらないけど、生きていてよかったと思う時間も増えました
この男性と出会ったのは死別後まもなくの頃です。号泣しながら、「朝起きると、隣で妻が亡くなっていてね……」と話されていました。
当時は食べることも寝ることもままならず、私たちもずいぶんと心配しました。
■「今日を生きる」をくり返す
言い知れぬ不安や絶望感におそわれ、自分の人生が終わったように感じることもありますが、それでもなお自分の時間は続いていきます。
「今日を生きる」を3回続けると3日間が過ぎ、7回続けると1週間が過ぎていきます。それをくり返していくなかで、人生への新たな気づきや生きがいが見えてくることがあるかもしれません。
死別の悲しみは時間がたてば解決するというものではないと思いますが、時の流れのなかで気持ちのありようは変わっていったりします。苦しみながらもなんとか今日を生きることが、その先を生きることにつながってくものです。
先ほどの60代の男性に「最近、生きていてよかったと思ったのはどんなときですか?」と尋ねてみたら、「露天風呂に入りながら熱燗を飲んだときだなあ」とうれしそうに話してくれました。
深い悲しみの中にあっても、なんとか今日を生きてみる。
つらく苦しい日々を積み重ねていく過程で、これからを生きていくために、何が本当に必要なのかを見いだせるかもしれません。
今はまだ、生きる意味がわからなくていい。何もできなくても、あなたがただ生きているだけでいいのです。
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関西学院大学「悲嘆と死別の研究センター」センター長
同大学人間福祉学部人間科学科教授。専門は臨床死生学、悲嘆学。30年近くにわたり、死別後の悲嘆とグリーフケアについて研究・教育にたずさわる一方、ホスピスや葬儀社、保健所、市民団体などと連携し活動してきた。
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関西学院大学「悲嘆と死別の研究センター」客員研究員
上智大学グリーフケア研究所、関西学院大学大学院人間福祉研究科で学んだのち現職。研究のかたわら、主に関西を拠点として、グリーフケアの実践活動や支援者の養成に広く取り組む。
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(関西学院大学「悲嘆と死別の研究センター」センター長 坂口 幸弘、関西学院大学「悲嘆と死別の研究センター」客員研究員 赤田 ちづる)
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