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空気が読めない、いつも会議に遅刻する…職場の「グレーゾーン部下」に上司が絶対に言ってはいけない一言

プレジデントオンライン / 2024年11月16日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gremlin

学生時代はうまくやっていたのに、就職してから職場環境になじめない――。ストレスマネジメント専門家の舟木彩乃さんは、「近年、社会に出て初めて、グレーゾーンを含む発達障害が自分にあることが分かったという人が増えています」という――。

※本稿は舟木彩乃『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■「自分はグレーゾーンでは」と社会に出てから気がつく

近年、社会に出てから初めて発達障害を疑い、精神科や心療内科を受診する人が増えています。企業でカウンセリングをしていても、「自分は発達障害かもしれない」という悩みを抱えて相談にくる人が少なくありません。メディアなどで頻繁に発達障害が取り上げられることも影響しているでしょうが、社会構造が複雑になり、適応できない場面が増えてきたことも一因ではないかと思われます。

筆者のところに発達障害を疑ってカウンセリングにくる人は、比較的若い世代が多いように感じます。学生時代は環境に適応できていたけれど、社会に出てから適応が難しくなり、ネットなどで調べると発達障害の特性が自分に当てはまるので心配になったという人が多いです。

発達障害は脳機能の発達に関する障害で先天的なものとされています。それまで気づいていなかっただけで、社会人になって初めて発達障害を発症することはありません。専門医が見ても診断名がつかない、いわゆる「グレーゾーン」のケースではなおさら、社会に出てから発覚することが多いといえます。

■事例1:学生時代は「できる人」キャラだったのに……

Bさん(男性20代)は、電子工学系の一流大学院を出て、主にシステム開発の仕事を担当しています。システム開発は、頭を使って黙々と作業することが得意なBさんに合っていましたが、慣れていくにつれて担当するパートが多くなり、会議でのプレゼンや発言の機会も増えていきました。

明るく、開放的な会議室
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

しかし、それはBさんにとって、歓迎すべき事態とはいえませんでした。なぜなら、Bさんは周囲の空気を読むことが苦手で、社の内外を問わず知らないうちに相手を苛立たせてしまうからです。

Bさんは、会議で、自分が開発した案件のこだわりのある箇所についてだけ長々と説明したことがありました。当然、周囲は白けた反応でしたが、会議が終わってからも、忙しそうにしているメンバーに何度も同じ箇所を説明に行ったりしました。顧客へのアフターフォローでも、簡単な質問に対しマニアックな長文メールで回答して、クレームがきたことがありました。

次第に周囲から厳しく指摘されることが増え、Bさんは、コミュニケーションが上手くいかないと悩み出しました。

Bさんの“こだわり”や“空気が読めない”というのは、社会人になって始まったことではありません。学生の頃も、クラスで“浮いている”と感じたことはあるそうですが、成績優秀だったので特に問題にはなりませんでした。しかも、大学院では彼の“こだわり”によって緻密な論文を完成させることができ、学会で賞を獲ることもできました。担当教授から褒められることも多く、研究室では「できる人」というキャラで通っていたということです。

しかし、最近では、同僚から「そこは全然重要じゃない」などと相手にされなかったり、一生懸命回答した取引先からクレームがきたりして、自信を失うことばかりで、会社に行くのがつらいと思うようになってきたそうです。

■言語外のメッセージが受け取れない

Bさんは自分の特性をネットで調べ、発達障害の1つである“自閉スペクトラム症(ASD)”に行きつきました。そして、「自分は自閉スペクトラム症ではないか」と筆者に相談にきたのですが、その後受診した精神科では「その傾向がある」と言われました。

診察する男性医師
写真=iStock.com/AmnajKhetsamtip
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AmnajKhetsamtip

自閉スペクトラム症の特徴としては、言語以外のメッセージであるメタメッセージ(表情や声色、ジェスチャーなど)が受け取れない、固執傾向(こだわりが強い)、相手の立場に立つといった想像力が働きにくいなどがあります。言葉によるコミュニケーションは、言葉自体によって20%、メタメッセージによって80%伝えられるといわれており、メタメッセージの読み取りが上手くいかないと“空気が読めない”ということになってしまいます。

近年、Bさんのように社会に出て初めて、この障害(グレーゾーンを含む)が自分にあることが分かったという人が増えているのです。このほか、管理職になった途端に職場環境への適応が難しくなるケース、異動により環境への適応が難しくなるケースも見られます。

■「部下がグレーゾーンかも?」と思ったら

発達障害に関して、カウンセラーである筆者のところに相談にくる人は、本人が「自分は発達障害かもしれない」と思っているパターンのほか、「部下が発達障害かもしれない」と部下の発達障害を疑う上司も少なくありません。後者の場合、上司は、部下の仕事ぶりや言動に悩まされていることが多く、すでに両者の人間関係に問題を抱えている場合がほとんどです。

筆者は、上司のメンタルケアなども視野に入れながら、どのような言動から部下の発達障害を疑うに至ったのか、そのエピソードを丁寧に聞くようにしています。

それと同時に、部下を発達障害と決めつけているような上司に対しては、疾病性(診断名)にこだわるのではなく、事例性(仕事に出ている影響)で検討していくよう促すことを心がけています。そのうえで、「どのようなことで具体的に困っているのか」「上司や同僚でフォローできそうなことはあるか」について話し合うようにしています。

当然ですが、上司の話だけで部下が発達障害か否かをジャッジすることは不可能で、そもそもASDとADHD(注意欠如・多動症)の診断基準ではカテゴリーが重なり合っていたりすることもあるため、医学的な分類が無意味というケースもあります。

■安易に診断名と結びつけるのは禁物

ただ、発達障害についてネットなどで調べ、少し知識がある上司は、部下の特異な言動を取り上げて「こんなことがあったのでADHDだと思う」とか「記憶力だけは抜群なのでASDだと思う」など、安易に診断名と結びつけるような発言も少なくありません。さらに、この考えを本人に伝えたという上司もいましたが、これはもってのほかです。不用意に本人を傷つける恐れがあるだけでなく、ハラスメントに該当する可能性も高いといえます。

では、部下の発達障害を疑うエピソードと、事例性からサポート方法を検討する例をいくつか紹介します。

■事例2:ほぼ毎回、会議に遅刻してくる新人

新人のDさん(女性20代)は、会議で使用する資料を配布したり、議事録を作成する役割を任されています。しかし、必ずといっていいほど、10分程度遅刻します。上司や先輩から注意されるたびに謝罪の言葉を述べ、次回からは気をつけますと言いますが、直りません。

[どのようにサポートしていくか]
舟木彩乃『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)
舟木彩乃『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)

Dさんのような人は、段取りなどが苦手で、時間感覚を保ちながら自分の行動を管理していくことが不得意な場合があります。一度、会議前の資料準備から会議に参加するまで具体的にどのような準備が必要で、どのくらい前から着手すれば間に合うのかを一緒にシミュレーションしてみると良いでしょう。

シミュレーションによって、Dさんが会議前からの流れやコツを把握し、1人でできるようになればいったんはゴールとなります。何度シミュレーションしても1人で実施することが難しい場合や、本人が苦痛に感じているようであれば、上司から事情を詳しくヒアリングしたり、場合によってはカウンセリングなどを勧めてみると良いでしょう。

繰り返しになりますが、ヒアリングの際に「発達障害かもしれないから……」などという声がけは絶対にしてはいけません。

■事例3:曖昧な指示が理解できない

Eさん(男性20代)の所属する部署は忙しく、いろいろな指示が飛び交っているようなところです。「あの件、まとめておいて」とか「さっきの件は、適当に処理しておいて」など曖昧な言葉がよく飛び交っていますが、Eさんにとっては、「あの件」とはなにを指しているのか、「適当に処理」の適当とはどの程度なのかなどを、想像するのが難しいようです。

指示してきた人に聞くこともありましたが、「そんなこと自分で考えてよ!」などという言葉がかえってくることが多く、分からないまま着手していました。その結果、指示された内容と違う期待外れの仕事しかできず、叱責される機会が多かったようです。

[どのようにサポートしていくか]

Eさんは、イマジネーションやコミュニケーションが得意ではないといえます。分量や納期が不明確な仕事は、イメージがしにくいのでしょう。そもそもEさんのようなタイプは、自分で想像しながら仕事を進めていかなければいけない部署では、環境への適応が難しい場合が多いです。部署を変えてもらうことも1つの方法となりますが、ある程度のルールがあればマニュアル化しておく、指示する人には具体的に伝えるようにしてもらうなど、環境調整も必要となります。

このように、部下の特異な言動から発達障害を疑うよりも、まずは事例性に即したサポート案を試してみることが重要です。それでも難しいようであれば、遅刻の回数や叱責される内容などの客観的な事実から、受診やカウンセリングを勧めるのも方法の1つです。さらに詳しい事例や対応方法は、『発達障害グレーゾーンの部下たち』の3章以降で紹介しています。

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舟木 彩乃(ふなき・あやの)
公認心理師、メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長
一般企業の人事部で働きながらカウンセラーに転身、その後、病院(精神科・心療内科)などの勤務と並行して筑波大学大学院に入学し、2020年に博士課程を修了。博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」。これまで一般企業や中央官庁、自治体などのメンタルヘルス対策や研修に携わり、カウンセラーとしての相談人数は、のべ約1万人以上。ストレスフルな職業とされる議員秘書のストレスに関する研究で知った「首尾一貫感覚(別名:ストレス対処力)」に有用性を感じ、カウンセリングにとり入れている。Yahoo!ニュース エキスパート オーサ-として「職場の心理学」をテーマにした記事、コメントを発信中。著書に『「首尾一貫感覚」で心を強くする』(小学館)、『過酷な環境でもなお「強い心」を保てた人たちに学ぶ「首尾一貫感覚」で逆境に強い自分をつくる方法 』(河出書房新社)がある。

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(公認心理師、メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長 舟木 彩乃)

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