なぜ大谷翔平は超一流のプレーを維持できるのか…限界まで自分を追い込む「セルフブラック」の効能
プレジデントオンライン / 2024年11月24日 16時15分
2024年10月28日、ニューヨーク市ブロンクス区のヤンキースタジアムで行われた2024年ワールドシリーズ第3戦、ニューヨーク・ヤンキース戦の4回、打席に立つロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平#17。 - 写真=AFP/時事通信フォト
■ホワイト企業では物足りない若者たち
「こんな環境では成長できない」――。働きやすい環境に優しい上司、誰もが羨むようなホワイト企業に入社したにもかかわらず、そんな理由で退職していく若者がいます。なぜ彼らは「楽な職場」にいながら、わざわざ会社に見切りをつけ退職の道を選ぶのでしょうか?
それは、成長のためには「負荷」が必要だと知っているからです。筋肉も精神力も脳も、負荷をかけることで強くなります。逆に言えば、負荷をかけなければ進化も変化もしないのです。
自分を成長させたいと強く願う人たちの中には、いわゆるプレッシャーの少ない“ホワイトな職場”では物足りず、もっと高い目標を追えるような環境や、挑戦できる環境を求める人も少なくありません。
■ブラック企業は淘汰されつつあるが…
とはいえ、もちろんそんな感性を持つ人は全体から見ればごくわずかです。20代でも30代でも40代でも、大半の人は上司には怒られたくないし、楽して給料がもらえるならそちらのほうが嬉しいし、休日には趣味や遊びを満喫したいはずです。その感覚を「怠け者」だと私は思いません。むしろ、人間として当たり前の感覚です。
2000年代中頃から、「ブラック企業」という言葉が使われるようになりました。日本企業特有の長時間労働やパワハラが横行する企業を揶揄したこの言葉は、あっという間に市民権を得ました。
働き方改革の号令の下、ブラック企業を根絶しようとする動きは加速する一方で、個人のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方やワークライフバランスの改善に向けた動きも加速しています。
こうした変化は、一見すると従業員にとって好ましいことだと捉えられますが、本当にそう言えるのでしょうか?
■楽する人と努力する人の分かれ道
もちろん、暴力や暴言といった行為や、法令違反の長時間労働、従業員の心身の健康を損なうような職場環境などはあってはならないという大前提の上ではありますが、従業員にとって“働きやすい”、“やさしい”環境が、必ずしも本人たちのためにもなっていないのではないか、と思えてなりません。
会社から強制的にやらされることがなくなった今、ビジネスパーソンは「やる人」と「やらない人」に大きく分かれるようになりました。
前述の通り、自らやれる人はほんの一握り。ほとんどの人は環境に流され、より楽な選択をし続けることになるでしょう。結果的に自ら努力できる人は青天井に伸び続けて圧倒的な結果を出し、その他の人と大きな差がつくようになっています。
■「今どきの若者」は劣っている?
人材育成の業界に身を置いていると、毎年「今年の新人は~」というお声を耳にします。ゆとり世代やZ世代といった世代論が語られるときには、往々にして前世代よりも劣っている(と思われる)点にばかり焦点があたりがちです。
「電話応対など当たり前のことができない」「基本的な礼儀が身についていない」「コミュニケーションがとれない」など、こうした声を素直に受け取ると、年々人材の質が低下しているようです。
しかし一方で、若い世代の方々の中には、これまででは思いもよらなかった偉業を成し遂げる人も続々と出ています。
14歳でプロデビューし、圧倒的な勝率で将棋界の記録を次々と塗り替えてきた藤井聡太棋士。極めて珍しい「二刀流」としてメジャーリーグで活躍するだけでなく、米大リーグ(MLB)史上初めて1シーズンで50本塁打と50盗塁を達成するなど圧倒的な成績を出し続けている大谷翔平選手。
スポーツの世界に限らず、一般企業の中でも、前人未踏の圧倒的な成績を出し活躍してる20代、30代の人がさまざまな業界にいます。AI技術が発達し、あらゆる分野の研究が進み、さらに学習のコストも下がり、選択肢も無限にある現代では、学び、努力できる人はどこまでも成長し、圧倒的な結果を出すことができます。
一方で自ら動かない人は、教えられる機会や、強制的にやらされることを含めたやる機会が減っている分、成長のスピードは鈍化します。この二極化こそが、現代の最大の問題だと私は考えています。
■一流アスリートが実践する「セルフブラック」
そんな中で、近ごろよく耳にするようになったキーワードの1つが「セルフブラック」です。「ブラック企業」のように他人から一方的に強制される過酷な労働とは異なり、個人が自主的に自分に負荷をかけ、自己の限界を押し広げるために行う努力のことです。
ブラック企業が淘汰されようとしている現代において、仕事で高い成果を出したり、高い目標を達成したりするためには、自分で自分を鍛える「セルフブラック」的な価値観が必要不可欠となりました。
圧倒的な結果を出す一流アスリートは、試合で最高のパフォーマンスを発揮するために日常的に自己鍛錬を積んでおり、「セルフブラック」はもはや当たり前です。
以前、テレビで大谷翔平選手のオフシーズンの1日が紹介され、SNSで話題になりました。1日の半分を睡眠にあて、残りの12時間のうち半分以上は筋力トレーニングなどの練習。さらに食事などの時間を除いた時間も、体のメンテナンスや1日の反省など野球に関する「やるべきこと」に費やしているそうです。さらに食事や睡眠もストイックを極めています。
大谷選手に関するインタビューや記事などを拝見していると、野球選手としての「本番」である試合の数時間だけでなく、その他の時間も含めて1日の時間のほとんどを野球のために使っているのだと分かります。
■学生時代、自主練をした人は多いはず
このように、一流アスリートを例にとると「彼らと私は違う」「スポーツ選手と一緒にしないでほしい」という反応もあります。しかし一般のビジネスパーソンであったとしても、本質は同じです。
大谷選手が毎日努力を積み重ねるように、ビジネスパーソンも高い成果をあげる人は「成長のための習慣」としてセルフブラックを取り入れています。
休みの日まで仕事のことを考えたくない、家に帰ったらゆっくりしたいという人も、一度、学生時代のことを思い返してみてください。特に部活をやっていた人は、家に帰ってから「自主練」をしていた人も多いのではないでしょうか。
試合で良い結果を出すために、練習を頑張るのはもちろん、チーム練習以外にもルーティンを設定したり、弱点を克服する方法を考えたり、と努力をしていた人がたくさんいるはずです。
■社会人になるとなぜか「ぶっつけ本番」に
ところが、社会人になった途端、多くの人が「自主練」をしなくなります。一般企業で働くビジネスパーソンにとって本番は就業時間です。就業中に最大のパフォーマンスを発揮するためには、心身の健康を整えることはもちろん、準備や自主練の時間が必要なはずです。ところがほとんどの人は「ぶっつけ本番」で仕事に取り組んでいます。
2022年にパーソル総合研究所が発表した「グローバル就業実態・成長意識調査」によると、勤務先以外で学習や自己啓発などの活動を「なにも行っていない」と答えた日本人の割合は52.6%。つまり日本では5割以上の人が、仕事の時間以外には何も勉強していない、という結果が出ました。
これは諸外国と比べても圧倒的に多い割合です。同じ質問で「(勤務先以外での学習や自己啓発を)何も行っていない」と答えた人の割合は世界平均で18.0%。もっとも低いインドでは3.2%。インドでは残りの96.8%の人が、仕事の時間以外にも自己成長のために学んでいるということです。
■1日10分が1年で60時間の差に
日本では、仕事の時間以外に自己啓発を行う人が圧倒的に少ないということは、セルフブラックの重要性を浮き彫りにしていると言いかえることができます。
休日にゴロゴロと寝だめをするだけの人と、意欲的に学ぶ時間に充てている人のパフォーマンスが同じはずはありません。1日勉強しただけ、1日サボっただけではその差は目には見えません。しかし1日10分の「自主練」が、1カ月で5時間分、1年では約60時間分もの差を生むのです。
今は昔のようにみなが等しく長時間労働をする時代でもありませんし、会社が休日の過ごし方を強制することもできません。だからこそ、セルフブラックで「自らやる」人と、何もやらない人の間に大きな差が生まれ、二極化が進んでいくのです。
■若い頃にさぼったツケは人生の後半にやってくる
「若い時の苦労は買ってでもしろ!」と言う通り、ぜひ20代、30代の方々には若いうちに仕事に没頭する経験をしてみてほしいと思います。若いときは無理が効きます。体力勝負で、多少睡眠時間が短くても仕事もできるし、その後に遊ぶこともできます。
もちろん、だからといって自社の社員に対して「寝ないで仕事しろ!」なんてことは言いませんが、私自身の仕事観や経験では、若いうちこそとことん仕事をしたほうがいい、と確信しています。
若いうちは未熟でいいのです。たくさんチャレンジして、たくさん失敗して、たくさん恥をかきながら、経験を積み、学ぶことができます。しかしここで楽に流れ、努力を放棄すると、そのツケは後からやってきます。
■頑張りたくても頑張れない厳しい現実
「今」の姿は、過去の自分の行動の積み重ねです。今の自分に満足しているとすれば、それは過去の自分の努力の結晶です。そして、未来の自分をつくるのは、今の行動の積み重ねしかありません。今の努力を怠ったら未来はどうなるか? 想像に難くありません。
さらに厳しい現実をお伝えすると、年齢を重ねるにつれて、心身ともに無理が効かなくなります。周囲から口うるさく注意指摘を受けることもなくなります。仮に「これから頑張ろう!」と思ったとしても、そんな中で、自分で自分を律し努力を続けるのは想像以上に大変なことです。ましてや、これまで努力の習慣がなかった人はなおさらです。
だからこそ、若いうちにとことん仕事をする経験を積んでおくことが、とても大事なのです。目的意識を持って思いっきり仕事をすると、これまではただ面倒くさいだけだと思っていた作業にも面白味を感じるようになります。
不思議なことに、没頭すればするほど、仕事をすることが楽しくて仕方がないと思えるようになってきて、仕事に対する考え方もガラリと変わります。こうして身につけた仕事観は、年齢を重ねてからも大切な礎となります。
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新規開拓社長/「トップセールスレディ育成塾」主宰
1962年大阪生まれ。小学校教師、税理士事務所、証券ファイナンス会社などの勤務を経て、人材育成の企業に営業職として入社。営業未経験ながら、礼儀礼節を徹底した営業スタイルを確立し、3年で売上NO1、トップセールス賞を受賞。その後、自身の営業ノウハウを広く伝えるべく独立。2004年6月、株式会社新規開拓設立、同代表取締役に就任。女性の真の自立支援、社会的地位の向上を目指した、「トップセールスレディ育成塾」を主宰。開講から20年経ち、卒業生は延べ3800名を超える。これまでに著作は41冊(累計約48万部)刊行され、近著に『運を整える。』(内外出版社)がある。
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(新規開拓社長/「トップセールスレディ育成塾」主宰 朝倉 千恵子)
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