「風邪をひいていないのに咳が続く」40歳以上は要注意…"うつ症状"を伴う患者もいる「呼吸器の病気」の名前
プレジデントオンライン / 2024年11月21日 8時15分
■症状を自覚したときには進行しているケースが少なくない
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを経て、今年はマイコプラズマ肺炎が8年ぶりに大流行するなど、呼吸器の健康に対する関心が高まっています。近年、世界的にも呼吸器疾患は増加しており、その中でも特に注目されているのが、慢性閉塞性肺疾患(COPD)です。
COPDはタバコの煙(副流煙を含む)を主とする有害物質を長期間吸入することなどにより肺に炎症が起き、肺胞が破壊され呼吸がしづらくなる疾患です。初期には症状がなくゆっくりと進行するため、咳や痰、息切れなどを自覚した時には病気がかなり進行しているケースも少なくありません。一度壊れてしまった肺胞は再生することができません。そのため、息苦しさや痛みから日常の活動が制限されることが多くなります。
さらに、症状が長く続くと食欲や免疫力も低下し、心血管疾患や腎疾患などの合併症のリスクが高まるとともに、症状や生活の質の低下等の影響から20〜50%の患者にうつ症状が合併すると考えられています。進行すると、酸素吸入が手放せなくなることもあり、自立した生活が難しくなることがあります。
今回はCOVID-19やマイコプラズマ肺炎に罹患するとリスクが高まると言われている、COPDに注目してお話ししたいと思います。
■長年の喫煙によって発症する病気
世界保健機関(WHO)によると、COPDは2020年には世界で3番目に多い死因であり、日本においては近年死因としての順位は下げているものの、2022年の死亡者数は1万6676人に及んでいます。COPDは主に長年の喫煙によって発症する病気で、特に20年以上の喫煙歴がある場合にリスクが高まります。過去の喫煙率の影響を受け、2010年以降COPDは日本の死因ランキングで9位になりましたが、喫煙者数の減少に伴い、2014年からは順位が下がっています(「COPDに関する統計資料」COPD情報サイト)。
2001年に発表された大規模疫学研究NICE studyの結果によると、日本人の40歳以上におけるCOPD有病率は8.6%、患者数は約530万人と推定されています。しかしながら、病院でCOPDと診断された患者はわずか22万人程度にとどまっており、多くの方がCOPDであることに気づいていない、あるいは正しく診断されていない現状が浮き彫りになっています(「COPDに関する統計資料」COPD情報サイト)。
■「風邪をひいていないのに咳が続く」には要注意
COPDの症状にはCOVID-19やマイコプラズマ肺炎と共通するものもありますが、見極める際に、発熱は1つの判断材料となります。COVID-19やマイコプラズマ肺炎は、いずれも発熱を主な症状とするのに対し、COPDにおいて発熱はみられません。しかしながら、COVID-19やマイコプラズマ肺炎も症状が表れる時期などによっては発熱を伴わないこともあり、病気を見分けるためには症状の詳細な観察と適切な検査が必要です。
特に40歳以上で喫煙歴があり、以下のような症状が見られる方は、COPDの可能性を疑い、医療機関での検査を検討してみてください。COPDは、呼吸機能検査(スパイロメトリー)やCT検査によって診断することが可能です。
1.風邪をひいていないのに咳が続く
2.粘り気のある痰が出る
3.階段の昇降時や歩行で同世代に比べて息切れが見られる
4.呼吸をするとき、ゼイゼイ、ヒューヒューと音がする
■「加熱式たばこならCOPDへの影響は少ない」は本当なのか
2020年に施行された改正健康増進法により、公共の場での喫煙が厳しく制限されるようになりました。昭和40年以降のピーク時には83.7%あった成人の喫煙率は、2022年には14.8%と大幅に減少しています。2014年頃から、加熱式たばこが普及し始め、現在も喫煙者の主流は紙巻タバコですが、男性で30.1%、女性34.4%の方が加熱式たばこを使用しています。特に、20歳~30歳代の喫煙者では約40%以上が加熱式たばこを使用しているというデータがあります(厚生労働省「令和4年国民健康・栄養調査結果の概要」)。
加熱式たばこは、紙巻たばこよりもCOPDへの影響が少ないと予測されますが、実際のところはどうでしょう。関連する研究データの1つに、紙巻たばこから加熱式たばこに切り替えることで、紙巻たばこの喫煙をやめた又は大幅に減らしたCOPD患者の健康パラメータを3年間にわたって観察した追跡調査があります。
1日20本程度の紙巻たばこを吸っているグループと、加熱式たばこに切り替えて紙巻たばこを1日数本吸うグループに分け、年間の疾患増悪回数、肺機能指数、患者報告アウトカム(CATスコア)、6分間歩行距離(6MWD)のベースラインからの変化を、12、24、36カ月時点で測定しています。結果、加熱式たばこに切り替えたグループにおいては、呼吸器症状、運動耐容能、QOLおよび疾患増悪回数の一貫した改善が見られました[Riccardo Polosa et.al “Health outcomes in COPD smokers using heated tobacco products: a 3-year follow-up” Intern Emerg Med. 2021 Apr;16(3):687-696.]。
■医師としては禁煙を推奨したい
今まで喫煙によって得られていた楽しみが奪われることなく、健康被害を減らすことができるのであれば、加熱式たばこへの切り替えは一つの選択肢になりえるのかもしれませんが、まだまだ研究データは少なく、その影響を評価するための十分な根拠はありません。
「COPD診断と治療のためのガイドライン(2022)」においても「加熱式や電子たばこが紙巻たばこより、健康被害が低いという証拠はなくその喫煙や使用は推奨されていません」と記載されており、やはり医師としては加熱式タバコを含めて禁煙を推奨したいと思います。
■インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種を推奨
現在COPDを根本的に治療する方法はありません。禁煙が最も有効な治療法と言われていますが、早期に治療を開始することで、健康な人と変わらない生活を送ることができます。また、COPD患者が感染症に罹患すると重症化しやすく、COPD自体の増悪原因になるとも言われています。
これを防ぐために、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されています。インフルエンザワクチンの接種によりCOPDの増悪頻度が減少することはよく知られています。また、2年間にわたりインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを併用したグループとインフルエンザワクチンのみを接種したグループを、感染性急性増悪の観点から比較した試験があります。この試験では、インフルエンザワクチン単独の場合に比べ併用グループの方がCOPDの感染性増悪の頻度が減少することが明らかになりました[Akitsugu Furumoto et.al “Additive effect of pneumococcal vaccine and influenza vaccine on acute exacerbation in patients with chronic lung disease” Vaccine. 2008 Aug 5;26(33):4284-9.]。
COPD患者においては、インフルエンザワクチンは毎年、肺炎球菌ワクチンは年齢も考慮しながら定期的に接種できると良いでしょう。また感染リスクを下げるという観点から、患者のみならず、ご家族や介助者の方にも接種をおすすめしたいと思います。
COPDは日常生活に大きな影響を与える病気ですが、適切な管理と治療によって生活の質を維持することができます。早期診断と治療、そして禁煙が重要です。もしCOPDの症状に心当たりがある場合は、早めに医療期間を受診し、COPDの影響を最小限に抑えましょう。
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産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。
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(産業医 池井 佑丞)
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