金髪も、ツーブロックもNGだった…潰れかけた福岡の私立高校が「昭和の校則」をやめた意外な結末
プレジデントオンライン / 2024年11月21日 16時15分
※本稿は、古賀賢『学校を楽しくすれば日本が変わる』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■「大人の先回り」が子供の可能性を奪う
僕が全校朝礼でしつこいくらいに「世界一」「日本一」「世界初」「日本初」を言い続けているのは、その言葉が生徒たちの刺激になると信じているからです。
また、テニス部やダンス部など、日本一という結果を出した生徒には積極的に全校生徒の前に出て、その経験や考え方を話してもらっています。絶校長よりも自分に近い存在の同級生の言葉によって、「次は自分も」となってもらえたら大成功。思い込みのフタが外れたとき、子どもたちは本人も驚くような変化を遂げます。
ノミにはすごい脚力があるのに、箱に2日間閉じ込めておくと、フタの高さまでしか跳ばなくなる……。これは前にも述べました。
この箱を「教育」や「常識」、「情報」に置き換えると、僕たち大人がよかれと思い、先回りして子どもたちの可能性を奪ってしまっているのかもしれません。また、僕たち大人も、知らず知らずのうちに自分の力の天井にフタをしてしまっているのではないでしょうか。
箱に閉じ込められたことのないノミといっしょにいると、跳べなくなったノミはすぐに自分が本当は跳べることを思い出します。箱のフタの高さなんか関係なく、高く跳ぶ。子どもたちの意識を日本一、世界一に向かわせるのも同じことです。
■“世界”を身近に感じてもらう
横に誰を置くのか。
毎朝、明るくハイタッチしてくる絶校長、日本一を経験した同級生、社会に出て日本一、世界一を目指している大人たち。こういった人たちを彼方にいる存在ではなく、間近で、真横にいると感じられる環境をつくること。それも学校の大きな役割です。
「自分は跳べるんだ」
「自分はこれだけできるんだ」
「自分はこんなに跳んでいいんだ」
「自分の意見を出していいんだ」
「人と違っていても、全然いいんだ」
僕は高校生活の3年間が、1人ひとりのグレートジャーニーだと思っています。
だから、柳川高校では常に世界を意識できる環境を用意しています。グローバル教育は日本の教育界にとってマストアイテムです。世界で誰も経験していない超少子高齢化に直面している日本の人口は、2048年に9913万人と1億人を割り込み、2060年には8674万人にまで減少すると見込まれています。
今後、日本の国家運営にはイギリスやアメリカのようにいろいろな国々の人の力が必要となってくるはずです。
そんな時代を生き抜く子どもたちにとって、世界は身近でなくてはいけません。そこで、僕たちは2016年にグローバル学園構想を立ち上げたわけです。
フラッグシップとして日本の学校として初めて現地のタイ人学生用の附属中学校を設立。その後、世界13カ所に事務所を設置しました。今後は全校生徒の3分の1が世界から集まる学校にしようと計画しています。
■“昭和の教育観”は子供にマイナス
同じクラスに世界各国から集まってきた同級生がいること。このこと1つとってもワクワクする柳川高校の環境は、小中学生時代に備わってしまった箱のフタを取っ払っていきます。
その結果、生徒たちは大きく変わるのではなく、本来、持っている力に気づいていく。横にいる誰かの経験を自分のものにしながらグレートジャーニーを続けていくことで意識が変化し、本人が自らの可能性を広げていくのです。
しかし、日本の教育現場では子どもたちの可能性にフタをするような言葉をよく耳にします。
「おまえはだからダメなんだよー」
「ここはこうしなきゃ失敗するんだよー」
「そのやり方でうまくいったところ見たことないぞ」
現場には、ダメダメなアプローチ、マイナスなトークで、子どもたちに接している大人がたくさんいます。
特にスポーツの指導者の中には、昭和のまま教育観の更新が止まっている人が少なくありません。叱り飛ばさなきゃ「選手はピリッとしない」「精神が強くならない」「そうじゃないと根性を養えない」と。
でも、教育は子どもたちに夢を与えるものです。責めて、叱って、表面上ピリッとさせた先、18歳からも続く人生に何のプラスがあるのでしょうか。
ここで、「人は育てられたようにしか、人を育てることができない」と諦めてしまうのは簡単です。でも、まず大人側が意識を変えていきましょう。
■“前にならう”必要はない
日本の教育は今、言葉の岐路に立っているように思います。例えば、学校行事での「前にならえ」。生徒を並ばせて、「気をつけ、前にならえ、休め」は、日本の学校の定番です。しかし、一斉にやみくもにする「前にならえ」は、思考停止ではないでしょうか。
この「前にならえ教育」がずっとあって、子どもたちの意識も大人のそれにならっていってしまう。前の人といっしょでいるのは楽ちんです。けれど、これからの時代、学校教育は新しいことを築き上げられる人を育てていかなければいけません。
そのためには、子どもたちが「自分を信じる力」を養える学校であることが大切です。
テレビ番組が柳川高校を取材しに来てくれたとき、「未成年の主張」というコーナーをやりました。校舎から張り出した屋根の上に立ち、集まった生徒たちが学校生活などで思うそれぞれの主張をするというコーナーです。
そこで、ある女子生徒が前に出て「先生、トイレが古いので、きれいにしてくだい!」と言うと、他の生徒たちも納得顔で肯いていました。僕はとっさに「OK、わかった!」と応え、翌日から改修の準備を開始しました。
ちょうど、「宇宙修学旅行」を発表した頃だったので、「トイレを新しくするだけじゃなくて、宇宙にしよう」と。1カ月後には、最新式のトイレ+壁紙が宇宙柄のトイレへのリフォームが完成しました。
■“大人側”がスピード感をもって対応する
また、最近ではドイツからの学生が「学食でラーメンが食べられたら、最高なのに」と言って、これまた生徒たちからの賛同があったので、絶校長はすぐに動きました。
旧知である一風堂のオーナーに相談したところ、番組をちょうど見てくれていて、ぜひ協力したいと言ってくれました。そしてなんと1週間後には世界中に支店を持つ一風堂さんが初めての学食への出店を決めてくれたのです。
本当にラッキーでしたが、こうやって子どもたちの本気には大人たちも本気で返して、事態が動き出すのを見せていきたい。
「どうせ、言っても変わらない」
柳川高校を卒業していく子どもたちには、訳知り顔でそんなふうに言う疲れた大人にはなって欲しくありません。スピード感を伴って自分たちの言ったことが実現していく状況を目の当たりにし、自分たちの持っている可能性を狭めることなく成長していってもらいたい。
僕は柳川高校から1人でも多くのゲーム・チェンジャーを輩出したいと考えています。ゲーム・チェンジャーとは、革新的な新しいものを生み出せる人。だから、平均的に物事を考えるのではなく、頭の広い子を育てていく。そのためには大人側から意識を変えていく必要があります。
■「校則」を生徒に託したら、教員が猛反発した
柳川高校では、3年前から生徒会が中心となって校則を生徒たちがつくっています。
子どもたちに校則を託すに当たって、猛反発したのは大人たちでした。昭和から続く現状にまったく合っていないブラック校則は、変われない教育現場の象徴のようなものです。僕はそれを変えていくのも学校改革の重要なステップだと考え、臨時の職員会議を開きました。
「これから生徒たちに校則を託したいと思う。これはブラック校則が話題になっているからやるのではなくて、学校が変わっていくために必要なステップであり、生徒たちが大きく成長するチャンスだから取り組んでいく。今日はその具体的な手順を話し合っていきたいと思います」
冒頭で僕がそう言うと、職員会議は大荒れ。司会役の教頭は蜂の巣状態になりました。
「そんなことをやったら学校がぶっつぶれる」
「めちゃめちゃな学校になります」
「自由奔放になりすぎて、統制が取れなくなりますよ」
教員からの厳しい声を教頭は「ですね」「ですね」と受け止めて、不安や不満がほとんど出尽くしたところで、僕はこう言いました。
■“生徒たちに考え、試行錯誤してもらう”
「先生方の学校に対する思いからくる意見はよくわかりました。僕はあえて哲学的な話をしたいと思います。
人間の持っている時間って有限ですよね。誰もが自分の残りの時間が少なくなっていく中で生きています。そんななか次にあれをやれ、これをやれと時間を制限され、決められると、それを破って解放されたい、自由になりたいと思います。
だけど、いざ解放され、自由になっても、人には時間通りに生きていける本能があります。朝、日が昇ったら起きて、朝ご飯を食べて、生活を組み立てていく。
厳しい校則、時代遅れのブラック校則も同じです。自由がない、狭苦しいと思うから、反発し、ここから出ていこうとする。でも、自由に自分たちでルールをつくれるとなったら、子どもたちは自分で自由について考え、柳川高校にちょうどいいルールを組み立ててくれます。僕らはそれを信じて、見守りましょう」
「皆さん、校長室に飾ってあるゴルバチョフさんとの写真を知っていると思います。僕はゴルバチョフさんがペレストロイカをやったのと同じ気持ちで、柳川高校の校則を子どもたちに託そうとしています。ゴルバチョフさんはペレストロイカを実行したら、痛みを伴う変化が生じるとわかっていて踏み出したと言っていました。
僕も同じことを先生方に言います。僕ら昭和に生きてきた人間は校則を子どもたちに託すなんて経験をしたことがありません。実行したら、どうなるかわからない。はっきり言ってすごい髪型にしてくる子が出てくるかもしれない。とんでもない格好で登校する子も現われるかもしれない。
でも、先生。ガタついてもいいじゃないですか。ガタついても1年、1年と進むうち帳尻が合ってきて、それが柳川高校の校風となっていく。だから、子どもたちが考え、試行錯誤しながらつくっていく校則が必要です。一歩目を踏み出しましょう」
■大人は「子供たちを心底信じていこう」
教員全員が納得するまで意見を言い合って、議論を深めていったとしても、スタート地点に「校則は変えたくない」という感情があります。この場合、ソフトランディングまでには途方もない時間がかかります。
だから、校則を生徒に託すことについてはハードランディングで突破しました。
その後は生徒会を中心に生徒たちが話し合って、少しずつ校則を変えていっています。例えば、髪型に関するルール。以前は「染めてはいけない」「ツーブロックはダメ」など、細かな取り決めがありました。
でも、今は自由です。それで学校が荒れたかと言えば、そんなことはまったくありません。金髪にしたい子は金髪に、黒髪がいい子は黒髪に、部活の後、水道でざーっと頭を流したい子は短髪ですし、ダンスで髪の動きを見せたい子は長髪です。
それぞれにそうする理由があって、それを校則が邪魔しないだけ。やってみれば、当たり前のことです。
今はメイクについて生徒たちが話し合っています。どういうふうに決まっていくのか。僕たち教員は、生徒会に任せています。僕が子どもたちのためにやれたことは、大人側に「子どもたちを心底信じていこうよ」と伝えることだけでした。
■「自由」の“本当の意味”を考えてもらう
今年の1年生は入学時点から自由な校則になっています。そこで、入学式ではこんなことを話しました。
「柳川高校は、これからみんなでつくっていく学校です。だから、ちょっとだけ自由について話したいと思います。僕らが当たり前に使っている『自由』という言葉は誰が考えたでしょう?
答えは、みんなが大好きな1万円札の肖像にもなった福澤諭吉さん。福澤諭吉さんが若い頃にアメリカに渡り、現地の政治、経済、人々の暮らしを見て『これからの日本をどうしようか』と考えたとき、一般人が大統領になれる選挙制度に衝撃を受けて、その根底にある『リバティ』や『フリーダム』という言葉に関心を持ちました。
この言葉から感じる、なんとも言えないワクワクする感覚は何だろう? 日本語で表現するとしたら、どんな言葉になるだろう? と考えたわけです。そして、帰国した後、その感覚を『自由』という言葉で表現しました。
今、僕たちが使っている自由と福澤諭吉さんが持ち帰ったときのワクワクする感覚は一致しているでしょうか?
自由という漢字を書き下すと『自らを由とする』となります。これは『自分の意志を肯定する』と言い換えてもいいでしょう。でもここにはもう1つ『自らに由る』『私に原因がある』という意味もあります。
自由には責任が伴います。自分のやりたい放題やればいいという意味で使われる言葉ではありません。自由であるということは、何が起きても、どんな結果になっても、自分に原因があるということ。それを頭に置いて、僕たちは自由な柳川高校をつくっていこう」
こうやって1年、1年、変化を続け、全員が良いと思えるものが定着し、「これが柳川高校だよね」という校風ができあがっていくのだと思います。
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学校法人柳商学園 柳川高等学校 理事長・校長
1968年8月4日福岡県柳川市出身。英国国立ロンドン大学を卒業後、95年4月に柳川高等学校 国際科科長、98年4月同校副理事長を経て、2002年に同校理事長に就任し、09年からは同校校長を兼任。生徒自身による校則改定を実施し、「グローバル学園構想」「スマート学園構想」「宇宙修学旅行」を推進。少子化時代にもかかわらず、生徒数増を実現した。著書に『学校を楽しくすれば日本が変わる』(祥伝社)がある。
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(学校法人柳商学園 柳川高等学校 理事長・校長 古賀 賢)
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