「ペットボトルの蓋」で70代女性は人生に絶望した…ピンピンした人が突然「メンタル不調」になる意外な原因
プレジデントオンライン / 2024年11月21日 18時15分
※本稿は、マイナビ健康経営のYouTubeチャンネル「Bring.」の動画「大切な人やペットの死、離婚、突然の解雇…。深い悲しみから立ち直るために知っておきたい5ステップ」の内容を抜粋し、再編集したものです。
■「グリーフ」が訪れるタイミングは死別に限らない
【澤円】「グリーフケア」という言葉に馴染みがないという人も多いかと思います。まずは、そもそもグリーフケアとはなにか、その概要を教えてください。
【中島輝】「グリーフ(grief)」は、「悲嘆」という意味を表す英単語です。一般的には、大切な人を失ったときに訪れる、悲しみをも超える深い悲嘆を指します。そうしたグリーフに陥った人に対するメンタルケアのことを、グリーフケアと呼ぶのです。
ただ、グリーフが訪れるタイミングは、死別に限らないとわたしは考えています。わたしはグリーフの定義を広く考えているのですが、ペットとの別れもグリーフのきっかけになり得るものですし、他にも、離婚や恋人との別れ、リストラによる失業、大切にしていたものを失ったことなどもグリーフに陥るきっかけになるでしょう。
それだけでなく、親や自分自身が大病を患ってしまったとか、転職先が期待していたような会社ではなかったときだって大きな悲しみを感じることがありますよね。
■高齢化で高まるグリーフケアの重要性
【澤円】そのグリーフケアに、中島さんが着目したきっかけはあったのですか?
【中島輝】わたしが「グリーフケア心理カウンセラー講座」を始めたのは、約8年前に遡ります。そのきっかけは、社会の高齢化が進んできたことでした。高齢者が増えれば、死別に直面する人が必然的に増えますし、それ以前にも親が認知症になったことなどがきっかけで、グリーフに悩む人が増えてきていると感じていたのです。社会の高齢化はこれからさらに進んでいきますから、グリーフケアのニーズや重要性は、今後ますます高まると見ています。
■ペットボトルが開けられず、人生に絶望した高齢女性
【澤円】中島さんが実際に出会った、グリーフに直面した人の例を教えていただけますか?
【中島輝】70歳ほどの女性がグリーフに陥ったきっかけは、「ペットボトルの蓋を開けられなくなった」ことでした。それまでは元気に仕事も家事もこなせていたのに、あるとき突然、固く締まっているペットボトルを開ける力がなくなっていたそうなのです。それをきっかけに、「この先、自分の人生はどうなってしまうのか」と大きな悲しみを感じたといいます。
【澤円】死別のような、ある意味でわかりやすいきっかけではありませんが、できたことができなくなるということには、確かに大きな喪失感を覚えそうです。そのグリーフに向き合うときに、ベースとして持っておいたほうがいい意識のようなものはありますか?
【中島輝】まず大事なのは、「グリーフは、誰にでも必ず訪れるもの」と認識しておくことです。一般的な寿命で見た場合、親は自分より先に亡くなりますよね? 犬や猫といったペットだって、よほどの高齢者の飼い主でない限り、飼い主よりも長生きすることはないでしょう。
会社都合で、いきなり失職する可能性だってあります。要するに、グリーフは必ず訪れるものであり避けることはできないのですから、心の準備をしておくことは大切であると思います。そういった、認識や覚悟があるだけでも、悲しみは少し軽減されるはずです。
■寄り添ってくれる人の存在が救いになる
【中島輝】わたしも、可能な範囲で澤さんのグリーフについてお聞きしてみたいです。その悲しみをどのように受け止め乗り越えたのですか?
【澤円】いくつかの経験があります。ひとり暮らしをしていたときから飼っていた犬が、結婚して2年を過ぎた頃に死んでしまったときと、父が亡くなったときなどは、強い悲しみに襲われました。そのときは、ずっと妻がわたしをサポートしてくれました。
もうひとつ、僕にとって強烈だったのが、仕事上の関係がかなり近かった人が、自殺をしてしまったことです。先の覚悟の話でいうと、前日まで普通にコミュニケーションをとっていたその人が自殺するとは思えませんから、覚悟などはまったくできていませんでした。
とても動揺して、感情を処理できなくなったのです。そして、「彼に対するマネジメントのなかで、僕がなにかミスをしてしまったのではないか……」など、自分を責めるようにもなりました。
そのとき、僕を救ってくれたのは、親しい仕事仲間の存在でした。動揺している僕を見て、「澤さん、自分を責めてない?」「自殺という結果になったけれど、それが彼にとってはベストの選択だったという見方もできるよね」といわれたのです。その言葉によって冷静に事実を受け止められるようになり、「僕が関与してどうこうなる問題ではなかったのかもしれない」と思えるようになりました。
【中島輝】グリーフが訪れて絶望感に包まれているとき、寄り添ってくれる人の存在はとても大切なものですよね。
■立ち直るための5つのステップ
【澤円】中島さんは、グリーフから立ち直るための5つのステップを提示されています。それぞれのステップがどのようなものなのか教えてください。
【中島輝】①ショック期、②喪失認識期、③引きこもり期、④再生準備期、⑤再生期――が、グリーフに陥った人がたどる5つのステップです。順を追って解説しましょう。
①ショック期
人によって期間の長さに違いはありますが、大きなショックを受けて心がパニック状態となり、どうしていいかわからなくなります。
②喪失認識期
「あの人はもういなくなってしまったんだ」と、徐々に事実を受け入れられるようになりますが、このときにも強い悲しみを感じています。
③引きこもり期
悲しみによって、「外に出てアグレッシブに行動しよう」「ポジティブに考えて前に進もう」とは思えず、「ああすればよかった」「こうすればよかった」と自分を責め、引きこもります。
④再生準備期
ようやく立ち直りに向かって徐々に前進し始めます。時間とともに、自分を責めて引きこもる状態を脱し、「自分を責めても事実は変えられないのだから、前を向こう」と、新しいことや未来に目を向ける心のゆとりが生まれます。
⑤再生期
「失ってしまったものはしょうがない」と事実をようやく受け止め、「これからどう生きていこうか」と新しい想像ができるようになり、グリーフから立ち直ることができます。
■そっと見守ったほうがいいタイミングもある
【澤円】こうして明確にステップを示されると、個人差こそあれ、多くの人がこのステップを踏んで徐々に立ち直っているのではないかと考えられます。このようなステップがあると知っておくことだけでも、グリーフへの対応が有効なものになりそうです。
【中島輝】そうですね。「自分はいまどのような状態なのか」「そうか、引きこもり期なのだから、自分を責めてしまうのも当然なんだ」と客観的に考えられるようになりますから、完全にグリーフに飲み込まれることを避けることができるでしょう。
そして、このステップを知っていることで、グリーフを感じている他者に対しても適切な働きかけができるようになります。例えば、引きこもり期にある人の心には、「ポジティブに前を向こう」といった言葉はまず響きません。でも、5つのステップを知っておくことで、「引きこもり期なのだから、いまはそっと見守っておこう」というように、ステップごとの適切な寄り添い方が見えてくるのです。
■そのグリーフにどんな意味があるのかを考える
【澤円】「⑤再生期」について、もう少し深掘りさせてください。強い悲しみや絶望から立ち直って新しい一歩を踏み出すには、どのような行動や考え方が必要になるでしょう。
【中島輝】ヴィクトール・フランクルというオーストリアの心理学者が提唱した、「逆説志向」というものが有効だと思います。逆説志向とは、本人が不安や恐れを感じることを、自ら積極的に望んだり行ったりすることを意味します。
強いグリーフに襲われたとき、人間は悩み苦しみます。でも、逆に考えれば、「グリーフに悩み苦しむからこそ人間だ」ともいえますよね? ですから、グリーフが訪れたときは、そこから逃げるのではなく、あえて悩み苦しむのです。
そうして悩み苦しむうち、例えば「ペットの死は、自分にどのような意味があったのだろう?」「これから生きていくうえで、なにか大切なことを教えてくれたのではないか?」といったように、ペットの死というネガティブな出来事にあるポジティブな側面に目を向けられるようになり、立ち直っていけるのです。
【澤円】確かに、「身近な人やペットの死」といったものがなければ、日常のなかで死について深く考えることはあまりありませんからね。
【中島輝】愛する人やペットが亡くなったという事実は、言葉では言い表せないほど悲しいことでしょう。でも、いくら自分を責めたり後悔したりしてもその事実を変えることはできません。そういった悲しい出来事が、自分に与えてくれた意味を考えるきっかけとしてほしいと思います。
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心理カウンセラー
自己肯定感アカデミー代表、トリエ代表。困難な家庭状況による複数の疾患に悩まされるなか、独学で学んだセラピー、カウンセリング、コーチングを10年以上実践し続ける。「奇跡の心理カウンセラー」と呼ばれメディア出演オファーも殺到。著書に『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる自己肯定感の教科書』『書くだけで人生が変わる自己肯定感ノート』『自己肯定感diary 運命を変える日記』(すべてSBクリエイティブ)、『1分自己肯定感 一瞬でメンタルが強くなる33のメソッド』(マガジンハウス)、『習慣化は自己肯定感が10割』(学研プラス)などがある。
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圓窓 代表取締役
1969年生まれ、千葉県出身。株式会社圓窓代表取締役。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て、1997年にマイクロソフト(現・日本マイクロソフト)に入社。情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」を受賞した。現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学専任教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2020年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。主な著書に『メタ思考』(大和書房)、『「やめる」という選択』(日経BP)、『「疑う」からはじめる。』(アスコム)、『個人力』(プレジデント社)、『メタ思考 「頭のいい人」の思考法を身につける』(大和書房)などがある。
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(心理カウンセラー 中島 輝、圓窓 代表取締役 澤 円 構成=岩川悟(合同会社スリップストリーム) 文=清家茂樹)
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