冬は血管がドロドロになりやすい…「絶対に放置してはいけない脳卒中」リスクが急増する"危険な場所"
プレジデントオンライン / 2024年11月21日 18時15分
※本稿は、平松類『老いた親はなぜ部屋を片付けないのか』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。
■要介護になる原因は男女で異なる
親の様子に変化が見られるようになってきたら、そこから「介護のリスク」がどれくらいあるのかを見極めることが大切です。そのためには、日本の高齢者がどのような原因から介護が必要な状態になったのかについて、まず知るといいでしょう。
2022年の厚生労働省による「国民生活基礎調査」の結果をもとに、介護が必要になった主な原因を性別ごとに見てみましょう。男性の1位は脳血管疾患(脳卒中)、2位は認知症、3位は高齢による衰弱、4位は骨折・転倒、5位は心疾患(心臓病)となっています。
それに対して女性の場合は、1位が認知症、2位が骨折・転倒、3位が高齢による衰弱、4位が関節疾患、5位が脳卒中です。
男女によって傾向が違うということが分かりますよね。父親か母親かによって、介護のリスクの内容が違うということを押さえておきましょう。
■生活習慣病を放っておいてはいけない
多くの人が心配する認知症は、男女とも介護が必要になった原因として、やはり大きな割合を占めています。それ以外では、男性は脳卒中が多く、女性は骨折・転倒や関節疾患が多い、ということが分かります。なぜこのような傾向の違いがあるのでしょうか。
脳卒中には、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3つの種類があります。いずれも、脳の血管が詰まったり破れたりして、脳に障害が起きる疾患です。
その背景には、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病があります。会社の健康診断で血圧や血糖値が高いといわれた人は、放っておくとそれが積もり積もって脳の血管にダメージを与え、脳卒中のリスクが上がるのです。
■筋肉量が少ない女性が注意すべきこと
男性に脳卒中の割合が多く、女性に少ないのは、「内臓脂肪」の蓄積も原因の1つだと考えられます。男性は、内臓脂肪が30代〜40代ごろから蓄積し始める人が増えます。内臓脂肪は一定量以上になると、血圧や血糖などを上げる効果があり、それが脳卒中のリスクにつながってしまうのです。
一方女性は、内臓脂肪がたまり始めるのが閉経後の50代ごろからと遅めである場合が多く、結果として介護につながるような脳卒中になる人の割合が少ないというわけです。
それでは、女性はなぜ、骨折・転倒や関節疾患が多いのでしょうか。女性はもともと男性に比べて筋肉量が少なく、それに加えて、加齢に伴って下半身の筋力が衰えてくるため、転んで骨を折ったり、関節を傷めたりするケースが増えてくるのです。
また、閉経によって女性ホルモンが減少し、骨がもろくなる骨粗しょう症になることでも、骨折のリスクは高くなります。
さらに、関節の疾患としては、膝の関節や股関節が変形していく病気が多いのですが、いずれも筋力が不足することで関節にかかる負担が大きくなり、軟骨がすり減ってしまうことで関節が変形していきます。
■親の食事から分かる「フレイル」の兆候
ところで、先ほどの介護が必要になった原因のうち、男女とも3位にランクインしている「高齢による衰弱」とは何でしょうか。これは、「フレイル」とも呼ばれ、現在大きな問題になっているものです。ニュースなどで聞いたことがあるかもしれません。
フレイルとは、加齢とともに心身の活力が低下し、自分の力だけでは生活を送れなくなったり、死亡リスクが高くなってしまった状態のこと。筋力などが低下して身体能力が衰えてしまう「身体的フレイル」、認知機能が低下したりうつ病になる「精神的フレイル」、外出して人と会うのがおっくうになって孤立する「社会的フレイル」などの種類があります。
つまり、フレイルとは、転倒・骨折や認知症のリスクが非常に高くなっているケースだといえます。心身の活力が低下している状態とは、要するにやる気がなくて元気がないということです。
例えば、高齢者が「歳をとったから粗食でいい」と、食事を簡単に済ませてしまうことはよくあるのですが、それがやがてフレイルにつながる恐れがあります。人間の体は食事で摂取するエネルギーが足りないと、筋肉を分解してエネルギーとして使ってしまうので、筋力がどんどん衰えてきます。すると、足腰が弱って転倒のリスクが高まったり、外出するのがおっくうになってしまうのです。
親がいつも食事を簡単に済ませていたり、かつての好物なのにあまり食べないような様子を見たら、フレイルを心配したほうがいいというわけです。
■脳卒中は前ぶれなく、ある日突然起こる
症状が現れたらできるだけ急いで病院に行ったほうがいいのが脳卒中です。
脳梗塞では、片側の手足が動かなくなる片麻痺やしびれ、顔のゆがみ、言語障害などの症状があります。脳出血では、手足の片麻痺や頭痛、意識障害など。そしてくも膜下出血では、これまで経験したことがないような激しい痛みのある頭痛や、意識障害などが典型的な症状です。
いずれも、ほぼ前ぶれなく、ある日突然起こります。これらの症状が出たら、一刻も早く病院に行くことをお勧めします。「朝まで様子を見よう」とか「救急車を呼ぶまでもない」などとためらう人もいるのですが、早く治療を行えば後遺症なく治せる場合があります。できるだけ急いでください。
ただ、前ぶれなく突然症状が起こるのであれば、親と同居していなければ気づけないのではないかと思うかもしれません。しかし、まめに連絡をとっていれば、異変に気づくことができる場合もあります。
■発症時の判断がその先数十年を左右する
例えば、母親が友人とのランチをとても楽しみにしていたのに、当日になってこれまで経験したことがないほど頭が痛くなり、泣く泣くキャンセルしたという場合を考えてみましょう。社交的な性格で外食も好きな母が予定をキャンセルするなんて珍しいな……と思ったあなたは、「頭がすごく痛いからしばらく横になって寝てるわ」と言う母親に向かって、「できるだけ早く、脳外科のある病院に行って!」と提案できるはずです。
経験したことがないほどの頭痛というのは、くも膜下出血のサインです。脳動脈瘤が破裂し、くも膜下腔という隙間に出血する病気で、このときに激しい痛みを伴った頭痛が起きます。
脳卒中の後遺症には、運動障害や感覚障害、失語症などさまざまなものがあり、数十年も治療しなければならない場合もあります。また、脳卒中を何度か繰り返したのちに要介護状態になってしまう人もいます。
できるだけ早く病院に行けるかどうかが分かれ道になるということを覚えておきましょう。
■本当はこわい「目の血管の病気」
脳卒中のうち、およそ4分の3を占めるのが、脳の血管が詰まる「脳梗塞」です。ただ、血管が詰まるのは何も脳だけではありません。心臓や目の血管が詰まることもあります。
心臓の血管が詰まり、心臓を動かす筋肉である心筋に血液が届かなくなるのが「心筋梗塞」です。突然、胸に大きな痛みが襲い、押しつぶされるような圧迫感が生じます。血液が届かなくなった心筋は酸素不足で壊死してしまうので、一刻も早く治療を開始しなければなりません。
目の血管が詰まる病気は「網膜静脈閉塞症」と呼ばれます。脳梗塞や心筋梗塞に比べれば、目の血管の病気は命にかかわらないし、大きな問題はないと思われがちです。しかし目の血管の詰まりは、それがわずかであっても視力低下をきたします。
目の血管は他の臓器の血管と比べて非常に細く、場合によっては1mm2程度の詰まりであっても目にとっては深刻で、視力が0.1以下に下がるような状態になってしまいます。
脳や心臓、目の血管が詰まる背景には、動脈硬化があります。血管の壁の中にコレステロールが入り込み、プラークと呼ばれるコブができることで血管内が狭くなることで詰まりやすくなります。また、プラークが破れて生じた血栓(血液の塊)が脳の太い血管をふさいで脳梗塞が起きることもあります。
■水分が不足する冬は血管が詰まりやすい
そして、血管が詰まりやすくなる季節といえば冬です。冬は乾燥しており、体の水分が不足して血液がドロドロになりやすいのです。夏は熱中症を心配してこまめに水分をとったりしますが、冬はつい水分摂取をおろそかにしがちです。さらにお酒を飲む機会も多くなります。お酒には実は脱水作用があるために、むしろ水分が足りなくなってしまうのです。
冬のように空気が寒いとき、人間の体は血管を収縮させて血圧を上げます。そうやって血流を維持して体を守っているのですが、血圧が上がると血管には負担がかかります。そして急に寒いところから温かいところに移動すると、血管が広がって、血管の中にある血栓がはがれて目や脳、心臓などの血管を詰まらせてしまうことがあります。
特にもともと高血圧がある人、中性脂肪やLDL(悪玉)コレステロールが高いなどの脂質異常症がある人、メタボ体形の人などは、血管が詰まりやすい素因を持っているので要注意です。さらにはタバコを吸っている人も、血管がより詰まりやすいと言えます。
■水分は一気に飲むのではなくこまめに飲む
では、どうすれば血管が詰まるリスクを下げることができるでしょうか。
もちろん、高血圧や脂質異常症、糖尿病などがある人は、きちんと受診し、治療を受けなければなりません。さらに、特に冬でも水分を十分に摂取することが大切です。アルコールだけでなく、コーヒーなどのカフェイン入りの飲み物にも脱水作用があるので、カフェインの入っていないお茶や水を意識してとるようにしてください。
また、水分をとるときは一気に飲むよりはこまめに飲むことをお勧めします。500mLのペットボトルを一気飲みすると、目の圧力が上がりやすいことが分かっています。コップ1杯程度の水分をこまめに飲むようにしましょう。
■特に気を付けるべきは「冬のお風呂」
室内での寒暖差を少なくすることも大切です。暖かい場所から急に寒い場所に行くと、血管が収縮します。反対に、寒い場所から急に暖かい場所に移ると血管が拡張します。急激な変化は血管に負担を与えるため、普段から血管が弱っている人ほどダメージを受けます。
特に要注意なのはお風呂です。冬は浴室が冷え込んで寒い一方で、お風呂は熱々にしているということがよくあります。裸で寒い浴室に入って血管が一気に収縮した後、湯船に入って血管が拡張し、風呂上がりには寒い脱衣所で再び血管が収縮する、といった具合に、血管の状態が激しく変化します。その結果、血管が詰まりやすくなるのです。
こうした寒暖差をできる限り少なくするためには、暖房を使う、お風呂のふたを開けたり、シャワーで湯張りをすることで浴室も温かくする、という工夫が必要になってきます。
また、冬に実家に帰ったとき、脱衣所などが寒くて驚いた経験はないでしょうか。古い家は断熱性能が低く、どうしても部屋の温度が下がりがちです。電気ストーブなどを入れれば改善できますが、いっそ思い切ってリフォームして断熱効果を高めるのも手です。そうすれば、夏は冷房の効きが良くなって、熱中症の予防にも役立ちます。
■運動不足の人はまずウォーキングから
ほかに、運動不足もよくありません。冬は寒いからといって動かないでじっとしていることも、血管が詰まるリスクを高めます。運動したりして体を動かしていれば、それだけ血流が活発になります。長時間動かないでいると、血流が滞って血栓ができやすいのです。
特に、乗り物などで、長時間座った体勢を維持して動かないのは要注意です(ロングフライト症候群、あるいは旅行者血栓症と呼ばれます)。どうしても体を動かせないのならば、足を動かしてみる、伸びをしてみる、などで少しでも血流を良くすることがお勧めです。
一方で、急に思い立ってランニングを始めるのは危険です。箱根駅伝などを見て、急にやる気になって、冬場に走り始める人はけっこういます。毎日走っている人がいつも通り走るのはいいのですが、それまで運動経験があまりない人が急に走ると、心臓や血管に大きな負担がかかります。
寒い時期の運動は、最初はウォーキングなど簡単なものから始めて、徐々に運動強度を上げていくようにしましょう。
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眼科医 医学博士
愛知県田原市生まれ。二本松眼科病院副院長。「あさイチ」、「ジョブチューン」、「バイキング」、「林修の今でしょ! 講座」、「主治医が見つかる診療所」、「生島ヒロシのおはよう一直線」、「読売新聞」、「日本経済新聞」、「毎日新聞」、「週刊文春」、「週刊現代」、「文藝春秋」、「女性セブン」などでコメント・出演・執筆等を行う。Yahoo!ニュースの眼科医としては唯一の公式コメンテーター。YouTubeチャンネル「眼科医平松類」は20万人以上の登録者数で、最新情報を発信中。著書は『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』『老人の取扱説明書』『認知症の取扱説明書』(SBクリエイティブ)、『老眼のウソ』『その白内障手術、待った!』(時事通信出版局)、『自分でできる!人生が変わる緑内障の新常識』(ライフサイエンス出版)など多数。
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(眼科医 医学博士 平松 類)
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