「富裕層向けビジネスで優位性がある」高島屋の"金融サービス"がメガバンクや証券会社の脅威になりうるワケ
プレジデントオンライン / 2024年11月22日 8時15分
■高島屋が提供する個人向けの金融サービス
大手老舗百貨店の高島屋が、個人顧客向けに様々な金融サービスを提供しているのをご存じだろうか。専門員から資産運用の相談を無料で受けられるほか、高島屋独自のネット銀行もある。
2020年と2021年には、高島屋の旗艦店でもある東京・日本橋、大阪、横浜の3店舗にファイナンシャルカウンターを設置。資産運用や相続などについて、高島屋のFP(フィナンシャルプランナー)から、無料で相談を受けることができる。また、SBI証券との金融商品仲介により、新NISAや投資信託だけでなく、個別株や外国証券などにもアクセスすることができるという。
百貨店内にあるため、買い物ついでに気軽に利用でき、銀行や証券会社よりも身近に感じられることから、顧客にも好評だという。
■商業施設での金融サービスといえば「イオン銀行」
商業施設での金融サービス展開というと、イオン銀行が真っ先に浮かぶ読者の方も多いのではないだろうか。イオン銀行は、862万口座を抱え、預金残高4兆6231億円、イオンカード有効会員数(国内)は3158万人に達している。また、マネックス証券と業務提携して2024年1月より金融商品仲介業務を開始したことにより、投資信託の取扱い本数が約300本から約1750本(2024年6月時点)に拡大しているという。
イオン銀行の店舗は全国に146カ所もあり、土日祝日は無論、年末年始やゴールデンウィークも含めて365日営業している。イオン銀行店舗は、イオンのショッピングセンターやターミナル駅近隣に展開しており、高島屋のケースと同様に、買い物ついでなど気軽に立ち寄ることができる(※口座数や店舗数などはすべて「ディスクロージャー誌2024」に基づく)。
現在、高島屋のファイナンシャルカウンターは3カ所しかないものの、ファイナンシャルデスクやWEBでの相談も行っている。顧客にシニア・富裕層が多い特徴があり、イオン銀行における「イオン経済圏」との関係と同じように、「高島屋経済圏」の一翼を担うべく、銀行・証券・保険・資産運用などの金融サービスの展開を進めているのだ。
■中核となるのが「高島屋ファイナンシャル・パートナーズ」
高島屋の金融事業の中核となるのが、2020年に高島屋クレジットと高島屋保険が合併し誕生した「高島屋ファイナンシャル・パートナーズ」である。出資比率は、高島屋69.5%、クレディセゾン30.5%である。
クレジットカード業務と保険代理店業務に加え、同年から金融商品仲介業と信託契約代理店業を開始しており、後述するように、2021年にはソーシャルレンディング事業に参入、2024年3月には不動産ファンドに出資している。
高島屋ファイナンシャル・パートナーズは、クレジットカード、保険、投資信託、信託、ソーシャルレンディング、法人向けサービスまでを手掛ける総合金融サービス会社となっているのだ。
■2022年に始まった「高島屋ネオバンク」
2022年06月には、高島屋は、住信SBIネット銀行といわゆるネオバンクである「高島屋ネオバンク(TAKASHIMAYA NEOBANK)」の提供を開始している。
ネオバンクとは、自らは銀行免許を持たず、既存銀行のインフラを利用し、金融サービスを主にスマホなどで提供するものだ。「高島屋ネオバンク」は、実態としては、住信SBIネット銀行「高島屋支店」となり、実際の預金の預かりや住宅ローンの貸付などは住信SBIネット銀行が行っている。銀行サービスを提供する住信SBIネット銀行側は、手数料収入と顧客層の拡大を得ることになる。
「高島屋ネオバンク」では、預金や振込などの銀行機能に加え、「友の会」のデジタル版にあたる「高島屋のスゴイ積立(スゴ積み)」で、年利15%相当の積立機能も提供している。顧客が1万円以上を毎月積み立てると、12カ月後の満期時には、高島屋各店で利用できる13カ月分の「お買い物残高」が付与されるもので、従来のシニア・富裕層顧客に加え、若年層にも利用者が広がっているという。
■高島屋が「金融事業」を強化する背景
高島屋は、百貨店業、商業施設開発業に次ぐ第3の柱として金融業を強化しており、2027年2月期の金融事業の営業利益を、クレジットカード取扱高の増加や金融事業領域の拡大により、2024年2月期比15%増の53億円にする目標を掲げている。
なぜ、高島屋が金融事業を強化しているのだろうか。確かに足元では、三大都市圏にある店舗を中心に、高島屋をはじめ大手老舗百貨店は、インバウンドや国内外の富裕層による高額消費が追い風となっている。高島屋でも、2027年2月期の連結営業利益は2024年2月期比25%増の575億円を目指している。
しかしながら、国内市場は人口減少や少子高齢化の影響に加え、デジタル化などによる消費者志向の変化も進んでいる。実際、百貨店は、ネット通販、ファストファッション、ショッピングモールやアウトレット、家電量販店との競争にさらされている。そもそも「百貨店で買いたいモノがない」という声もあったりする。
こうした状況下、高島屋は、国内の百貨店業績を強化するだけでなく、中長期には、百貨店以外の商業開発や金融事業も強化するとしているのだ。計画では、営業利益に占める百貨店事業の割合は、2024年2月期の61%から2032年2月期には53%に縮小する予定だ。
■ソーシャルレンディング事業で業務提携
このため、高島屋の金融事業の拡大は続いており、2023年10月には、高島屋ファイナンシャル・パートナーズとバンカーズが、ソーシャルレンディング事業で業務提携し、名称新たに「高島屋ファンディング」として、より多くのファンドを組成し、個人顧客に販売している。
「資金調達をしたい企業」と「資産運用したい投資家」を結びつけるサービスであるソーシャルレンディングは、少額から投資ができるミドルリスク・ミドルリターンの金融商品であり、高島屋ファイナンシャル・パートナーズでは、2021年7月にはソーシャルレンディング事業を開始している。これまでに6本のファンドで累計約3億円を運用、全て正常に償還している(2023年10月時点)。
貸付先は「上場企業」もしくは「上場企業に準ずる会社」を厳選しており、例えば、2024年9月に募集していた「【高島屋ファンディング】サンセイランディックファンド第1-2号」の予定分配率(年率)は2.6%、期間6カ月、募集金額5000万円であり、借手は、東証スタンダード上場の不動産会社サンセイランディックで、資金使途は不動産売買事業に係る事業資金となっている。既に先着順で完売し、現在運用中だ。
■ヘルスケア不動産への投資、富裕層向けIFA会社を子会社化
2024年3月には、高島屋は、グリーンエナジー&カンパニーの子会社で介護施設や医療施設の不動産開発を行うFantaとの間で資本業務提携を結んだ。2024年内にヘルスケア施設を投資対象とする不動産ファンドを創設、保有不動産の資産規模約500億円を目指すという。
また、将来的には両社によるヘルスケア施設特化型の投資法人の設立にも取り組むという。高島屋はヘルスケア不動産への投資事業で、配当収入だけでなく、将来的には高島屋の顧客向けにREITなどの金融商品を販売することなどにより、金融収益をさらに広げることを目指している。
2024年6月には、高島屋は、大阪に本社がある富裕層向けの資産運用助言会社であるヴァスト・キュルチュールを子会社化した。
ヴァスト・キュルチュールでは、独立系金融アドバイザー(IFA)として、特定の金融機関に属さず、中立的な立場から富裕層向けに資産管理を助言しており、金融商品売買時に証券会社から得る仲介料が主な収益源となる。
子会社化により、高島屋の顧客に対しては、ヴァスト・キュルチュールのオーダーメイドの富裕層向け資産運用・資産管理サービスを提供できる一方、ヴァスト・キュルチュールの顧客に対しては、高級ブランド品や美術品など高島屋が取り扱う様々な富裕層向け商品やサービスを提供することが可能となる。
■メガバンクが富裕層ビジネスを強化
長らく続いた金融緩和による、保有する株式や不動産価値の増加などもあり、日本における富裕層は増加している。スイスの大手金融機関UBSの「グローバル・ウェルス・レポート2024」によると、日本の富裕層(100万ドル以上の資産を持つ成人数)は、282万人に達している(2023年)。
さらに、2028年には28%増の362万人になると予想されており、こうした富裕層をターゲットに、メガバンクや大手証券会社などが、資産運用を中心とした富裕層ビジネスを再び強化してきている。
もっとも、「『何度トライしてもソッポ向かれる』日本のメガバンクの富裕層ビジネスが全然刺さらない3つの残念な理由」(プレジデントオンライン)でも示したように、この先も、①そもそも富裕層は開示しない、②担当や組織がコロコロ変わるは論外、③時間泥棒が大嫌い、という富裕層の特性を理解した上で富裕層ビジネスを構築し対応しない限り、富裕層の心を掴むことは難しそうだ。
特に、20億円以上の金融資産をもつような超富裕層は、資産運用だけでなく相続・事業承継などにおいても、担当者・商品・サービスに対する要求水準も相応に高い。商品ラインナップ、人材育成、コストの観点から、対応できない場合も多くなる。
■「外商」というアドバンテージ
この点、高島屋をはじめ、三越伊勢丹や大丸松坂屋といった大手老舗百貨店には、「外商」の存在により、メガバンクや大手証券会社に対して、富裕層向けビジネスにおいて、アドバンテージがあるといえる。
外商とは、その名の通り、主に百貨店の外で行われる販売のことである。富裕層の特性を理解する経験豊富な外商担当者が、呉服、宝飾品、美術品、高級ブランド品、歳暮や中元などのギフトといった商品を中心に、富裕層宅や法人取引先まで出向いて商談をする。百貨店内にある「外商専用ラウンジ」の利用や、高級ホテルなどで行われる展示会やイベントもある。
高島屋においても、外商担当者が、富裕層顧客に高島屋で取り扱う商品やサービスの全てを対象にコンサルティング提案を行うだけでなく、顧客との信頼関係を構築し、高島屋ファンを拡大することも目的としている。なお、外商ラウンジ、外商プレミアムラウンジが、日本橋高島屋東館4階に用意されている。また、ポイントタイプ、割引タイプなど外商お得意様クレジットカードも発行されている。
景況感に影響されにくく、今後も増加が見込まれる国内シニア・富裕層は、営業基盤の確保の上でも重要だ。実際、各百貨店の外商は、売上高の20~30%を占めており、利益率も高いとみられる。高島屋をはじめ大手百貨店にとって、外商ビジネスのさらなる強化は必然といえる。
■メガバンクや大手証券会社の脅威となる
金融を百貨店・商業開発に次ぐ第3の柱とする高島屋では、外商により得られたシニア・富裕層の顧客基盤と経験値を生かしながら、資産運用や資産管理などの金融サービスを提供し囲い込みを進めている。
一方、新興富裕層といわれる30代から40代の都心に住むキャッシュフローリッチや、既存富裕層の次世代にあたる若年富裕層だけでなく、デジタルネイティブ世代など若年層の取込みが課題となっている。このため、スゴ積みやネオバンクなど独自の金融サービスを提供することで、顧客の利便性や満足度を高めて顧客を囲い込むことに加え、金融事業からの収益拡大を進めている。「消費から投資への社会」が進むなか、メガバンクや大手証券会社など既存の金融機関にとっても、高島屋の金融サービスの拡大は脅威となろう。
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株式会社マリブジャパン 代表取締役
金融アナリスト、事業構想大学院大学 客員教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。2013年に金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『いまさら始める?個人不動産投資』(きんざい)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社)、『地銀消滅』(平凡社)など多数。
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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)
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