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騙されるのは「情弱だから」ではない…大勢の被害者を見てきた弁護士が指摘する「詐欺師に狙われる人」の共通点

プレジデントオンライン / 2024年11月19日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

詐欺や投資トラブルに巻き込まれやすい人にはどんな特徴があるか。詐欺事件を専門的に扱っている杉山雅浩弁護士は「情報に疎い人が騙されると思われがちだが、それは違う。『自分は騙されない』と思い込んでいる人ほど注意してほしい」という。ライターの黒島暁生さんが聞いた――。(前編/全2回)

■被害を立証するのは意外と難しい

“詐欺撲滅”を掲げて活動する弁護士がいる。スピネル法律事務所(東京都豊島区)代表・杉山雅浩氏だ。これまで多くの詐欺事件の民事裁判において、詐欺師たちを追い詰めてきた。

日常会話において私たちは簡単に「それは詐欺だ」などと口にするが、構成要件に該当することを立証するのは意外と難しいと杉山氏は話す。詐欺事件解決の難しさと、被害を回避するための方法を聞いた。

――投資家9000人から計850億円を集めた投資会社「エクシア」が10月に東京地裁から破産開始決定を受けました。杉山弁護士は、エクシアの代表に契約解除を求めた訴訟で、6億円の被害額を取り戻したと聞いています。投資トラブルにおいて、被害を受けたことを立証することは難しいと言われていますが、なぜでしょうか。

簡単に言えば、証拠をすべて揃えるのが難しいからです。たとえば投資詐欺であれば、加害者が「あなたから預かった金を×××という会社で運用して、その利益のうちマージンを引いてだいたいいくらをバックします」と約束したとします。

その場合、被害者から加害者にお金が流れていることまでは立証できたとしても、その後の経緯などすべてを立証できないと、証拠として不十分になってしまうんです。つまり、本当に×××という会社は存在するのか? 本当に運用はしたのか? という点を全部洗う必要があります。いま単純化して説明しましたが、現実はより複雑です。

■6億円の被害額を取り戻すことに成功

たとえば、エクシアの事案では、私はまずエクシアの代表に対して被害者とエクシアとの契約解除を求める民事訴訟を起こし、勝訴しました。

エクシアの定款には「社員権の払戻金について、代表の裁量によって払戻を拒否できる」という規定がありました。簡単に言えば、被害者が出資したお金の払い戻しを要求したとしても、代表の権限で拒否できるというものです。エクシアの代表はこの規定を使い、出資金の払い戻しを拒否するようになったのです。つまり、被害者は自分のお金を取り戻せない状態が続いていたということです。

民事訴訟では、この規定自体の無効、裁量権の逸脱を主張し、このことが裁判所から認められました。その結果、エクシアの口座にあった6億円を仮差押えすることができたのです。その次に代表の自宅の動産執行をし、執行官の方と直接乗り込んで、家財道具の一式を差し押さえました。

ただ、構造の複雑さでいえば、エクシアの事案も非常に複雑なものでした。たとえば末端の社員などを捕まえたとしても、「代表がやっていたので、運用していたのかどうなのか、本当に知りません」となってしまう。巨大な組織になればなるほど、細分化されてしまって全体像を見ることはできなくなってしまいます。

また、一般的に騙される人は「まさか自分が騙されるとは思っていなかった」と驚いていますから、やり取りを録音するなど、証拠を保全することは非常に稀です。そもそも相手の話を録音するほど警戒している人なら、詐欺には引っかからないですからね。

翻って、騙す側は当然「カモにしてやろう」という意識で近づきますから、足のつくような真似はしません。そもそものスタートラインにおいて、差があることがおわかりになるかと思います。

仮面を持つ男性
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■金を受け取った「動機」と「使い道」が重要

――被害者が加害者にお金を振り込んだ、などの事実だけでは証拠とならないわけですね。

そうです。AさんがBさんにお金を振り込んだことは事実として認定されるとしても、それがどのような意図で行われたのかを完全に立証するのは容易ではありません。極論をいえば、騙し盗られたのではなく厚意で差し上げた可能性も否定できないですよね。

加えて、条文(*1)にも「人を欺いて」とあることから、Bさんに詐欺の意志があったのかどうかを証明できなければ、詐欺事件とは認められないわけですね。

(注)
(*1)刑法第246条
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の拘禁刑に処する。
前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

■必ず書類やメールに取引を記録すべき

そして、BさんがAさんから受け取ったあと、その金をどのように取り扱ったのかを立証する必要があります。本当に運用して利幅をバックしようと思っていた場合は、やはり詐欺にならないですよね。

すべての証拠をこつこつ積み重ねて、事件全体の概要が初めて「詐欺である」と断定できるんです。

――被害者から相談を受けた事案のなかで、「これは立証が無理だ」と判断したケースはあるでしょうか。

ありますよ。たとえば、すべて口頭で行われていて、証拠がまったくないケースの場合は、残念ながら依頼を受けてもお断りしています。金銭授受も手渡して、契約書の類も一切ない場合は、手出しができません。ですから、どれほど相手を信頼していても、やり取りを書類やメールに残すなど、取引を記録することは非常に重要なんです。

■詐欺は「投資詐欺」と「副業詐欺」が大多数

――「これは詐欺ではないか」と気づくポイントになるようなものがあれば、教えてください。

近頃は、投資詐欺と副業詐欺が非常に多くなっています。おおよそこの2つに大別できると言っても過言ではありません。「投資に興味ないか?」「副業を始めてみない?」と誘われたら、少し警戒したほうがいいかもしれません。

特に多いのは、SNSを通じて、知らない人から投資などの案件を持ちかけられることです。このように言うと「そんな馬鹿な。まさか引っかかるわけない」と考える人は多いと思います。しかし、現実には多くの人たちが引っかかっているんです。

詐欺師たちは巧みに被害者を騙します。共通するのは、SNSなどで高級車の写真をあげていたり、札束を載せていたり、とにかく“羽振りのよさ”をアピールすることです。そして、自分が成功したという実績を見せつけたうえで、被害者を勧誘します。

その際、「自分の言う通りにお金を動かせば必ず儲かる」という趣旨のことを吹聴します。また、必ず「教材費」などの初期投資が必要となってくることも特徴ではないかと思います。

インターネットで詐欺をする男
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■加害者は「息をするように嘘をつく」

――具体的に、SNSを通じて詐欺が行われるというのはどのようなものがあるのでしょうか。

Facebookなどで、まったく知らない人から友達申請がくることはありませんか? しかも多くの場合、非常に容姿が魅力的な女性だったりする。友達申請を許可してしまうと、メッセージが来ます。最初は他愛もない話をするのかもしれませんが、徐々に「こんな儲け話がある」という方向に誘導されるんです。

あるいは、恋愛感情を抱かせて、「お金が足りなくて」というような話を打ち明ける“ロマンス詐欺”と呼ばれるものも存在しますね。

――いままで多くの加害者と対峙してきたなかで、彼らに共通する態度のようなものはあるのでしょうか。

息をするように嘘をつく、というのは共通しているかもしれません。それはどのような場面でも同じで、たとえば裁判所の証言台などのような一般的に厳かな場所においても、平気で嘘をつきます。調査し尽くされているような事実であっても、簡単に否定します。「(被害者とは)面識がありません」「詐欺を働いた事実はありません」「記憶にございません」など、まったく顔色を変えることなく述べます。

あとは身なりが非常に派手で、金があることをアピールする傾向は強いと思いますね。もっとも、それとは反対に質素な身なりをしていて、油断させて騙すタイプの詐欺師も存在します。

■駆け出し弁護士時代に600万円をだまし取られる

――ところで、なぜ“詐欺撲滅”を掲げて活動するようになったのでしょうか。

私は大学卒業後、会社員をしていた時期があります。ただ会社にあまり馴染むタイプではなく、人間関係が煩わしいと感じる場面すらありました。そこで何かひとりでものんびりできる仕事をしたいなと思い、弁護士として独立開業すればよいのではないかと思い、司法試験に挑戦することにしたんです。

弁護士になって数年が経ったころだと思いますが、昔から知る友人から連絡がありました。簡単に言うと事業に対する投資をしてみないかということでした。月利5%くらいで運用しようという話ですね。しかしそうした事業の実態はなく、結論を言えばその話そのものが詐欺だったんです。金額で言うと、私は600万円近くを失うことになりました。

調べていくと、同一の加害者から私以外にも複数の被害者がいたことがわかったんです。そのとき、詐欺事件が横行している事実を知り、「これ以上、被害者も加害者も作ってはいけない」と考えたんです。弁護士として、詐欺を撲滅する活動をしたいと思い、現在の方向にシフトしています。

スピネル法律事務所代表の杉山雅浩弁護士
撮影=黒島暁生
スピネル法律事務所代表の杉山雅浩弁護士 - 撮影=黒島暁生

■“勝ち組”も被害者になっている

――一般的なイメージとして「詐欺に引っかかるのは情報に疎い人間」という印象がありますが、杉山弁護士のような人でも被害者になるケースはあるのでしょうか。

たしかに、一般的にそのような印象はあると思います。ただ、私の場合のように信頼していた知り合いから持ちかけられたりすると、判断力を失ってしまうケースも少なくありません。

相談に来る人のなかには、たとえば会社経営者、医師、弁護士、警察官などのように社会的に“勝ち組”とされるような人も相当数います。つまるところ、詐欺事件の被害者になるかどうかを考えるうえで、社会的地位や学生時代の偏差値のような指標はまったく判断材料にならないのです。状況次第では、誰しもが詐欺に引っかかる可能性があると私は考えています。

以前、詐欺師のトップリーダーから直接話を聞いた際にも「社会的な地位が高い“勝ち組”ほど騙しやすい人種はいない。『自分は騙されない』と思い込んでいるから、騙しやすい」と言っていましたからね。騙す側としても、社会的地位や学歴などはまったく関係ないどころか、むしろターゲットにしやすいのでしょう。

■「ラクにたくさん稼ぎたい」という欲につけこんでくる

――詐欺被害に遭う人にはどのような共通点があるのでしょうか。

被害者にはさまざまな共通点があるので断言はできませんが、おおよその傾向はあると思います。一例ですが、社会的地位や収入にかかわらず、「今よりも楽をして金を稼ぎたい」と潜在的に思っている人は、詐欺師の口車に乗りやすいと思います。現状の仕事に辛さを感じていて、もっと楽に金を稼ぐことができるなら……という思いが判断を鈍らせることはありますよね。

それから、健全な投資ではなく特殊な種類の投資に興味を持っている人も、少し注意したほうが良いかもしれません。さっき申し上げたこととつながるのですが、王道を避けて違うルートで稼ごうとする場合、やはり詐欺師の話に耳を傾けやすいのは事実だと思います。

あるいは、「人の誘いを断れないタイプ」もまた注意が必要です。詐欺師は騙そうとして近づいてきますから、少々強く押されて受け入れてしまう人は被害者になりやすいのではないでしょうか。

総じて、人を信頼しやすく、大金であっても預けてしまうような人は、人間としては優しさがあるのかもしれませんが、詐欺師に付け込まれるスキがあるとも言えるでしょう。(後編に続く)

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杉山 雅浩(すぎやま・まさひろ)
弁護士
1978年生まれ。静岡県出身。上智大学法学部法律学科卒業後、弁護士法人V-spirits法律事務所代表弁護士を経て、東京、仙台に支店を持つ弁護士法人ワンピース法律事務所を開業。同社、代表役員弁護士として活躍中。離婚問題、残業代請求、相続問題、交通事故、企業法務、起業家支援など多岐にわたる。セナー事件、ジュビリーエース事件、OZプロジェクト事件等多くの有名投資詐欺事件の首謀者逮捕や被害金の回収に実績あり。詐欺撲滅YouTuberとして、活動中。詐欺に詳しい弁護士として、NHK、千葉テレビ、フジテレビ、日本テレビのスッキリ他、多数のメディアに出演。著書に、『身近に潜む詐欺 あなたはもう騙されている』(みなみ出版)がある。

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黒島 暁生(くろしま・あき)
ライター、エッセイスト
可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。

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(弁護士 杉山 雅浩、ライター、エッセイスト 黒島 暁生 聞き手、構成=ライター・黒島暁生)

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