「命綱の82歳老母の年金がもうじき入らなくなる」20年以上無職の50歳息子が一転、月収20万円になれた裏技
プレジデントオンライン / 2024年11月17日 10時15分
■20年以上稼ぎがない50歳息子…82歳母亡き後、自分はどうなる?
埼玉県在住の佐々木雅彦さん(仮名、50)は1年前に父親を亡くした後、母親(82)と二人で生活をしています。雅彦さんはうつ病を抱え長年ひきこもり状態にあるので、親子二人の生活費は年金収入だけが頼りです。
「いつまでも母親の年金収入をあてにすることはできない。もし自分一人になったら、生活費はどのように工面すればよいのだろうか?」
そのような不安を覚えた雅彦さんは、母親と二人で筆者に相談することにしました。
■家族構成
母親(82)年金生活者
雅彦さん(50)無職 障害厚生年金3級を受給
※兄弟姉妹はいない
■収入(月額)
母親 17万円(老齢年金および遺族年金)
雅彦さん 5万1000円(障害厚生年金 3級)
合計 22万1000円
■支出(月額)
基本生活費 16万円
自宅の固定資産税 8000円
※上記以外に使途不明金や特別支出が年間50万円程度ある
※雅彦さんの国民年金保険料は、雅彦さん自身が支払っている
■財産
母親 預貯金 3600万円
自宅土地 2500万円 母親名義
雅彦さん 預貯金(会社員時代の収入から) 500万円
雅彦さんは大学を卒業するまで、特に大きな問題もなく過ごしてきました。大学卒業後は大手電気メーカーに就職し、それを機に一人暮らしを始めました。
仕事は営業で、家電量販店の各店舗に行くため車を使用していましたが、移動距離が100kmを超える日も多く1日7時間以上車で移動することもあったそうです。高速道路での移動も3時間から4時間近くになることもあり、運転中はずっと緊張状態を強いられていました。
営業先では邪険に扱われてしまうことが続き、雅彦さんはすっかり萎縮してしまって成績はなかなか伸びません。そのため上司から厳しい言葉を浴びせられることも数多くあったそうです。仕事が終わった後もイライラした気分が解消されず、当時付き合っていた女性に八つ当たりを繰り返すようになり、それが原因で別れることになってしまいました。
仕事でもプライベートでもうまくいかない事が続いたためか、雅彦さんは「自分は周りに迷惑をかけるだけの人間なんだ。必要のない人間なんだ」と責めるようになってしまったそうです。
次第に、不安な気分が一日中続く、よく眠れない、食欲がない、吐き気といった状態に陥り、仕事中に嘔吐してしまうこともありました。体調が優れず仕事に支障が出てくるようになったため、雅彦さんは休職することにしました。休職をするためには病院の診断書が必要だったので、この時(24歳)に初めて精神科を受診。受診の結果、抑うつ症状があると診断されました。
■「母が認知症になって成年後見人がついたら母の預貯金は使えない」
その後、雅彦さんは自宅で静かに休んでいましたが、仕事に復帰することを考えるだけで不安が大きくなる、落ち着きがなくなる、体が震える、涙が出てくるといった状態になり、復職は不可能と判断。そのまま退職することにしました。
退職後は実家に戻り、両親と一緒に住むことになりました。両親は雅彦さんの状態に理解を示していたため、実家で静かに過ごす雅彦さんに対して口うるさく言うことはなかったそうです。
実家で養生していてもなかなか仕事に復帰できなかった雅彦さんは、医師の勧めで障害年金の手続きをしました。その結果、障害厚生年金の3級を受給することができました。
障害厚生年金の3級は月額換算で約5万円。年金収入があるのはありがたいのですが、月5万円では心もとないと思った雅彦さんは再就職をすることも考えました。
しかし、いざ再就職に向けて具体的な行動を起こすようになると、動悸が起こる、不安で眠れなくなる、食欲が落ちる、何をしても楽しくない、当時の職場での嫌な思い出がフラッシュバックしてしまい体が震えるといった状態に陥ってしまうのでした。
そのような状態が改善されないため、雅彦さんはいつしか仕事をすることを諦めてしまいました。その後、外出する頻度もめっきり減り、ひきこもりのような生活を20年以上も続けてきたそうです。
そこまで話が進んだところで、雅彦さんはお金の不安を語り出しました。
「将来、母が高齢者施設に入居したとします。すると母の年金のほとんどは施設利用料などに充てることになると思います。自分の収入は障害厚生年金だけなので月に約5万円。これだけではとても自分自身の生活費はまかなえません。仮に一人になった後の生活費を月10万円だとすると、月の赤字額は約5万円。1年間で約60万円になります。自分の預貯金は500万円くらいですから、それを取り崩すといっても8年くらいしか持ちません」
「そうなると、お母様の預貯金(3600万円)を雅彦さんの生活費に充てることになるでしょう。場合によっては、ご自宅を売却して住み替えることも検討しなければならないかもしれません」
この筆者の発言に対し、雅彦さんは鋭い視線を向けてきました。
「もし母が認知症になって成年後見人がついたら、母名義の預貯金は自分(雅彦さん)の生活費に充てることはできなくなりますよね? また、万が一、障害厚生年金の更新がうまくいかずに支給停止されてしまったら自分は無収入になってしまうので、預貯金はあっという間になくなってしまいます。『考えすぎ』と言われてしまえばそれまでなのですが、どうしてもそのようなことが頭から離れず、不安でいっぱいになってしまうのです。欲を言えば自宅は売却せずにそのまま住み続けたいと思っています。そのような不安を解消するための対策を早めに実行し、少しでも安心したいのです」
雅彦さんは切実な表情でそう訴えました。横にいる母親も心配そうに雅彦さんを見つめています。
「なるほど……。事情はよく分かりました」
■相談を受けたFPが提案した「相続時精算課税」での贈与
雅彦さんから一通りお話を伺った筆者は、次のような提案をすることにしました。
「まずはお母様の預貯金の一部を雅彦さんに一括で生前贈与することも検討してみましょう。贈与したお金の名義は雅彦様になるので、仮にお母様に成年後見人がついても雅彦さんの生活費に充てることができます」
すると雅彦さんは疑問を口にしました。
「現金を一括で贈与するとなると、贈与税がかなりかかるのではないでしょうか?」
「確かに通常の贈与であればかなりの贈与税がかかってしまいます。そこで今回検討する贈与は『相続時精算課税』のほうになります。ざっくり言うと、1年間に一括で2610万円までの贈与ならその時に贈与税はかからず、相続時に税金精算をするといった制度です。条件や概要は次の通りです」
■条件 贈与者(今回のケースでは母親)が贈与の年の1月1日時点で60歳以上であること。受贈者(今回のケースでは雅彦さん)が贈与の年の1月1日時点で18歳以上で、かつ、贈与時において贈与者の直系卑属である推定相続人または孫であること。
※母親も雅彦さんも上記の条件をクリアできるので、相続時精算課税を利用することができます。
■概要 令和6(2024)年1月1日以降に相続時精算課税を選択して贈与を受けた場合、1年間のうち贈与により取得した財産の価額から110万円の基礎控除額を控除します。110万円を超える金額の贈与を受けた場合、さらに累計で2500万円までの特別控除額が控除できます。これらの控除をした後に残額があれば、その残額に20%の税率を乗じた贈与税を支払います。
これを言い換えると「1年間のうちに母親から現金を一括で2610万円まで贈与を受けても、その時に贈与税を支払う必要はない」ということになります。
ただし、相続時精算課税を利用して受けた贈与財産は、相続時に相続財産として加算され税金精算することになっています。
そこまで確認したところ、雅彦さんはさらに質問をしてきました。
「相続時精算課税を利用した場合、自分は相続税がかかることはないのでしょうか?」
「雅彦さんの場合、相続税に関してはそこまで心配しなくても大丈夫だと思います。なぜなら相続財産からは基礎控除額を差し引くことができるからです。相続人は雅彦さんお一人なので基礎控除額は3600万円になります。つまり3600万円までの財産を相続するのであれば相続税はかからないということです。仮に相続時精算課税で2610万円の贈与を受けていても3600万円の基礎控除額の範囲内に収まります」
「自宅の土地も相続することになるのですが大丈夫でしょうか?」
「相続したご自宅の土地は小規模宅地等の特例が使えます。330平方メートルを限度として評価額を80%減額してもらえます。仮に土地の相続税評価額が4500万円だった場合、900万円の評価額にしてくれるのです。以上のことから、相続税に関してはそこまで不安になる必要もないでしょう」
「相続ではいろいろな制度が使えるのですね。でも……」
■リースバック物件を購入すれば生き延びられるのか
雅彦さんの不安は尽きません。
「まとまった現金が手元にあるのはよいことなのですが、現金は使ったらその分減っていきますよね。日々現金が減っていく恐怖を味わいながら『あと何年もつのだろう?』と考えて生きていくのもしんどいです。せっかくまとまったお金が手に入るので、それを活用した対策は何か立てられないものでしょうか?」
「現金を別の形に変えて、資産の減少を緩やかにする方法もあります。それは『お母様から贈与された現金で雅彦さんが賃貸物件を購入し、その家賃収入を雅彦さんの生活費に充てる』といったものです。ですが、予算の範囲内でそれが実現できるかどうかは今ここでは判断がつきません。私の知人に、働くことが難しいお子さんに理解のある不動産業者がいます。物件の説明は無料ですので、次回の面談でお話を聞いていただき、その後、実際に物件を購入するかどうかを検討してみるのはどうでしょうか」
「分かりました。ぜひ説明を聞いてみたいです」
雅彦さんはそう言い、母親も同意するように頷きました。
雅彦さん親子との面談後、筆者は不動産業者のT氏に事情を説明。雅彦さんのニーズに合うような物件を探してもらうよう依頼しました。
その後、T氏からよさそうな物件が見つかったとの連絡が入ったので、雅彦さんと2回目の面談を実施することになりました。
雅彦さん親子とT氏がそれぞれ自己紹介を終えた後、さっそくT氏は机の上に資料を並べていきました。
「今回ご紹介する物件は、こちらのリースバック物件になります」
すると雅彦さんは不思議そうな顔をしました。
「リースバック物件とはどのようなものなのでしょうか?」
「リースバック契約とは『不動産の所有者が自分の物件を売却したあと、家賃を払いながらその物件に住み続ける契約』をいいます。よくあるケースは『自宅を売却して現金を得た家主が、家賃を支払っている間は引き続き売却した自宅に住み続ける』といったものです。このような契約を結んだ物件をリースバック物件と呼びます。リースバック物件を購入することの主なメリットは次のようになります」
・すでに入居者(もともとの物件の持ち主)がいるので、募集費用やリフォーム費用がかからない
・物件を購入したら、購入者(雅彦さん)はすぐに家賃収入が得られる
・居住者はもともと自分の自宅だったので長く住むケースが多い。
つまり退去リスクが通常の賃貸物件に比べて低いことが多い。
・物件の修繕費用やリフォーム費用は家主が負担する。
つまり雅彦さんがそれらの費用を負担することはない。
・リースバック物件は市場価格よりも安く購入できる可能性が高い。
・仮に家主が退去した場合、その物件は売却をすることになるのだが、購入費用が安かった分、売却益を得られる可能性が高い。
メリットを確認した雅彦さんは首をかしげました。
「リースバック物件はなぜ安く買えるのでしょうか?」
■3つの物件を計2070万円で買い、手取り家賃は月計20万1000円
「その理由は『家主が住み続けている間、物件の購入者(雅彦さん)はその期間は自由に活用ができない』といったデメリットがあるからです。不動産を購入する場合『購入した物件をリフォームして付加価値を高め、売却して利益を得る』ということを目的にすることも多いです。ですがリースバック物件では、家主がいる間はそのように付加価値を高めて売却することはできません。そのような縛りがあるので、市場価格よりも安く購入できる可能性が高いのです」
ただし、とT氏は続けました。
「リースバック物件であれば何でもよいわけではありません。物件の選定が重要です。将来、家主が退去した場合、すみやかに売却してその資金で新しいリースバック物件を購入することが望ましいです。ですが、すみやかに売却できるかどうかは事前にしっかりと市場調査をしておく必要があります。とはいえ、物件の選定や市場調査は弊社が責任をもって行いますのでその点はご安心ください。以上のことから、購入費用を抑え、できるだけ長い間安定した収入を得たい雅彦さんにとって、リースバック物件はぴったりだといえるでしょう」
T氏の説明を一通り聞いた後、物件データを確認することにしました。
表を見た雅彦さんはやや興奮気味に言いました。
「3つの物件の購入総額は2070万円で、手取り家賃は月計20万1000円になるのですか。すごいですね!」
雅彦さんの発言に対し、筆者は念のため注意を促すことにしました。
「確かにこの表の手取りは計20万1000円ですが、家賃収入を得ることにより、国民健康保険料が増額し、新たに所得税と住民税が発生します。それらを引いた残りが手取り収入になると考えたほうがよいでしょう。それぞれの金額を正確に計算するのは難しいのですが、大まかな金額であれば試算してみることは可能です」
筆者はそう言い、手取り額を概算してみました。すると月額で約15万5000円になることが分かりました。
その試算結果を見た雅彦さんは満足そうに頷きました。
「それでも月15万5000円になるのですね。これだけあれば十分です。仮に障害厚生年金が停止されてしまっても何とか生活できると思います。ぜひこちらの物件でお願いしたいと思います」
すると、今まで黙って話を聞いていた母親が不安そうな表情で質問をしてきました。
■ずっと無収入だった50歳息子に定期収入ができて老母も一安心
「家賃収入を得られるのは母親としても安心できますが、不動産管理については、息子は素人です。はたして大丈夫なのでしょうか?」
この質問に対しT氏は次のように答えました。
「家賃の回収、家賃を雅彦さんへお振込み、入居者とのトラブル対応は全て弊社が行います(※)。物件購入後、雅彦さんが何かすることはありません。また、不動産購入後もご不明な点や気になることがありましたらいつでもご連絡ください。すみやかに対応いたします」
※どこまでの業務をお願いできるかは、それぞれの不動産業者次第。
「そうなのですね。それは安心しました」
母親もほっとした表情を浮かべました。
面談の最後に「母親からいくらの現金贈与を受けるのか?」も話し合うことにしました。
母親の老後資金を確保する必要もあるので、母親からの贈与は2100万円とし、諸経費分など足りない費用は雅彦さんの預貯金から出すことになりました。
面談後、母親から現金の贈与を受けた雅彦さんはリースバック物件の売買契約を結び、無事3つの物件を購入することができました。
雅彦さんに初回の家賃が振り込まれてからしばらくしたのち、雅彦さん、T氏、筆者の3人はお祝いを兼ねて食事会をすることになりました。
その席で雅彦さんは次のように言いました。
「おかげ様で毎月の収入も得られるようになったので一安心です。現在の親子二人の生活費で足りない部分は障害厚生年金でカバーできているので、家賃収入のほうは貯蓄することにしました。今回の対策で将来の備えもできましたし、とても満足しています」
リースバック物件にも一定のリスクはありますが、今後の人生の算段がついた雅彦さんの嬉しそうな顔を見たT氏と筆者は笑顔で頷き返しました。
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社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー
平成23年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本『第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え』を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことからひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりのお子さんをもつご家族のご相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりのお子さんに限らず、障がいをお持ちのお子さん、ニートやフリータのお子さんをもつご家庭の生活設計のご相談を受ける『働けない子どものお金を考える会』のメンバーでもある。
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(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田 裕也)
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