なぜ「怪しい投資話」にカネを出してしまうのか…「ロレックス詐欺」の詐欺師が使った"人を信じ込ませる手口"
プレジデントオンライン / 2024年11月19日 9時16分
■資産がない人には借金をさせてお金を振り込ませる
(前編から続く)
――投資をめぐる詐欺事件やトラブルが発生しています。こうした事件は、経済力のある人が狙われるのでしょうか。
もちろん、投資詐欺に遭った人のなかには資産家もいます。ただ、全体の傾向としては、資産がある人がターゲットになっているのではなく、ごく普通のサラリーマン、学生、専業主婦などが被害に遭っています。
なぜなら詐欺師は「借金をしてでもこの投資のチャンスを逃すな」と刷り込むんです。詐欺師からすればお金を受け取れればいいので、被害者が借金をして作った金であっても関係ないのです。したがって「自分には資産がないから狙われることはない」と思うのは間違いで、借り入れなどによって詐欺の被害に遭うことがあると覚えておくといいでしょう。
――前編では投資詐欺、副業詐欺が増えているとのお話がありました。詐欺のトレンドはあるのでしょうか。
基本的に“流行り廃りはない”と私は考えています。ただ近年、モノとしての商品ではなく、権利・役務を売る「モノなしマルチ商法」が増えてきた印象があります。有名なところでは、暗号資産で資産運用をしてあげると持ちかけられる話です。
このときに、「誰かを紹介すれば報酬が得られる」「商品を売った人がさらに新たな人に売ると、追加で報酬がもらえる」という、いわゆる使い古されたマルチ商法の手法が取り入れられているものは詐欺なので注意してください。
■計75億円が騙し取られた「ロレックス詐欺」
――杉山弁護士のもとには「ロレックス詐欺」の被害者が多く相談に訪れたと伺いました。どのような事件だったのでしょうか。
高級腕時計の転売を持ちかけて購入させ、だまし取っていたとして、とあるウェブサイト運営会社の社長らが警視庁に詐欺容疑で逮捕された事件です。2019年年8月から2024年3月にかけて、40都道府県の約600人に腕時計計約3000本を購入させ、被害総額は約75億円に上ると報道されています。
手口としては、「中国に流通ルートを持っている」とする加害者らが「元金と利益の半分を支払います」と持ち掛け、被害者にロレックスを購入させたうえで預かり、そのまま逃げたというものです。被害者のほとんどが、友人からの紹介で「時計ブローカー」を名乗る加害者を紹介されていたため、安心して投資してしまったのでしょう。
たしかに、私の事務所には発覚している被害者の3分の1にあたる200人くらいが相談に来ました。これは、同じ手口で被害に遭った人たちが被害者の会のようなものを作っていて、その団体のトップが私のところに相談に来たのです。被害者の多くは被害金額でいうと数百万円ほどで、10人に1人くらいは1000万円ほどの被害金額だったと思います。まれに、被害金額が億単位に上る人もいました。
この事件の加害者は組織化されており、リーダー格が手下のブローカーをまとめあげて被害者たちに話を持ち掛けていました。被害額が大きくなったのも、このような組織だった動きがあったからだと言えます。
■ほぼすべての被害者が借金をして時計を購入していた
この事件は中国に流通ルートがあるという話はまったくのデタラメで、実際には国内の時計店などに転売していたため、被害者の購入したロレックスのシリアルナンバーを全部調べて照会をかけて……という手順で証拠を成立させることができました。
詐欺の背景に円安などの経済状況が絡んでいるのかについては、確定的なことはわかりません。ただ、投資に踏み切る被害者の心理として、「海外の市場」という言葉が魅力的に映った部分はあるのかもしれません。
加害者が被害者を誘うときの文句としては、常套句と言っていいもので、「俺を信頼しろ。そうすれば月利◯%で増やしてやる。もちろん、元本保証だから安心しろ」という趣旨のものです。
ほぼすべての被害者がやはりローンを組んでロレックスを購入しており、そのなかには自己破産を検討している人もいました。
■事件化されていない投資トラブルも
――運営されているYouTubeチャンネルでは、事件化されていない投資トラブルについても警鐘を鳴らしていますよね。
はい、注意喚起のために、実際に調べてかなり確度の高いと思われる案件については、動画配信をすることにしています。
たとえば、ある投資会社は、「某有名会社の主幹事証券会社がついてるので、すぐに上場する」という趣旨のことを持ちかけ、多くの人に投資をさせたまま、まったく上場する気配がありません。要するに、今株を購入しておけば、近い将来において価値が何倍にもなる、という含みを持たせた投資案件ですね。
ちなみに主幹事証券会社とは、企業が新規株式公開(IPO)を行う際に証券業務を中心的にサポートする役割を担う証券会社のことで、簡単にいえば大手証券会社の“お墨付き”のことです。しかしここで名前の挙がった大手証券会社は、公式の声明において、そうした事実がないことを明言しています。
■口座を凍結し、10億円の回収に成功
この投資会社に対しては、口座凍結のあと、民事裁判で争って勝訴判決を取り、預金を差し押さえる手法で戦いました。
具体的には、依頼主からの話を総合的に判断した結果、私はトラブルになっている投資会社が詐欺を行っている可能性がかなり高いと考えました。そこで、すぐさま口座凍結の申し立てを行いました。
口座を確認すると、関連会社を含めて合計10億円の資金がプールされていたことが確認できました。投資会社からは口座凍結について抗議され、凍結について損害賠償を請求する旨の連絡がありましたが、きちんと筋道を立てて口座凍結の理由を説明したところ、先方も納得した様子で、まったく連絡が来なくなりました。その後、凍結した口座の差押えを求める民事訴訟を起こして勝訴し、無事に10億円を回収することができました。
■本当に儲けられる案件なら、他人に勧めたりはしない
――詐欺の被害に遭わないためには、どのようなことに気をつけるべきでしょうか。
徹底すべきなのは、「他人に自分のお金を預けない」ということです。その原則を貫けば、たいていの詐欺からは身を守ることができると思います。
月利3、4%などという高利をうたう投資話を信用しないようにしましょう。私のところに相談に来た方のなかには、月利10%という投資話を持ち掛けられたケースもありました。そもそも本当にそんなに美味しい商売なら、話を他人に持ちかけたりせずに自分でやるはずなんです。だから、基本的に世の中に美味しい話はないということを理解することが大切ですね。
それから、信用できそうな投資話だと思っても、投資会社のライセンスの有無を確認することが鉄則です。この際、海外のライセンスではなく、日本国内のライセンスを持っているか必ず確認するようにしましょう。
■将来に不安がある人こそ、冷静に判断してほしい
――なぜ被害者は自分の資産を他人に預けてしまうのでしょうか。
よく言われるように物価は上昇しているのに、30年以上給与水準は変わっていません。税負担は重くなり、国民年金や社会保険に対する不安感が増大しています。したがって、自分の将来に不安を感じた方が、個人で資産形成するために投資をしよう――と考えるのはよく理解できます。
そして、それが健全な会社が行う投資であれば、損をすることはあり得るものの、当然ながら資産を増やせる可能性もあるわけです。
しかし投資詐欺の場合は、そうではありません。最初からあなたの財産を狙って仕組まれたスキームですから、確実に損をします。経済的な情勢が不安定な今だからこそ、冷静に物事を見極め、客観的な視点でその投資話がおかしくないか点検していただきたいです。
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弁護士
1978年生まれ。静岡県出身。上智大学法学部法律学科卒業後、弁護士法人V-spirits法律事務所代表弁護士を経て、東京、仙台に支店を持つ弁護士法人ワンピース法律事務所を開業。同社、代表役員弁護士として活躍中。離婚問題、残業代請求、相続問題、交通事故、企業法務、起業家支援など多岐にわたる。セナー事件、ジュビリーエース事件、OZプロジェクト事件等多くの有名投資詐欺事件の首謀者逮捕や被害金の回収に実績あり。詐欺撲滅YouTuberとして、活動中。詐欺に詳しい弁護士として、NHK、千葉テレビ、フジテレビ、日本テレビのスッキリ他、多数のメディアに出演。著書に、『身近に潜む詐欺 あなたはもう騙されている』(みなみ出版)がある。
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ライター、エッセイスト
可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。
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(弁護士 杉山 雅浩、ライター、エッセイスト 黒島 暁生 聞き手、構成=ライター・黒島暁生)
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