「自分の時間がなくなるのが耐えられない」子どもができても実家に入り浸る「子ども部屋夫」の身勝手さ
プレジデントオンライン / 2024年11月26日 9時15分
■荷物が極端に少なく、週末不在になる夫
地方に住む会社員のA子さん(32歳)は、友人の紹介で知り合った7歳年上の東京在住の会社員の男性と遠距離恋愛で関係を深めて、1年後に結婚をしました。
夫は年上で頼り甲斐がありそうだったこと、年収も安定していて落ち着いた生活を送れそうなところに魅力を感じたことが結婚の決め手になりました。
また、夫の実家は都内にあるものの、「親とはあまり仲がよくない」と言っていたため、面倒な義実家との付き合いがなさそうな点も好印象でした。
結婚してA子さんは上京し、夫のマンションで一緒に暮らし始めましたが、どうも様子がおかしいことに気がつきました。夫の荷物が極端に少ないのです。
最初は、必要最小限の物だけで暮らす“ミニマリスト”かと思ったのですが、そうではなさそうです。たとえば夫の着る服はその季節のものだけが家にあり、季節ごとに入れ替わります。夫は趣味でゴルフをしていたり、漫画やフィギュアを集めてSNSにアップしたりしていますが、ゴルフ用品も漫画もフィギュアも、家の中には見当たりません。
もう一つ気になるのが、夫は週末になると「ちょっと出かけてくる」「仕事に行く」と言って長時間不在にすることでした。
■週末は“疎遠”のはずの実家に
不倫をしているのか、別宅があるのかと怪しんだA子さんがある日後をつけていくと、夫は疎遠だと言っていたはずの実家に入っていきました。
不倫でないことにほっとしたものの、嘘をつかれていたことはショックでした。
帰宅した夫に、荷物のことや週末不在にしていることを詰め寄ると、「荷物はこちらの家をきれいに使いたいからあっちに置いている」「実家に通っているのは親の体調が悪いから」と言われ、それ以上反論ができなくなってしまいました。
■子どもが生まれ、ますます実家に入り浸りに
モヤモヤを抱えたまま暮らしていましたが、やがてA子さんは妊娠しました。すると夫が、「実家の近くに家を建てよう」と言い出しました。詳しく聞いてみると、義実家のほぼ真向かいという近さです。
A子さんと義実家は全く行き来がないので、「そんなに実家に近いのはさすがに……」と言いましたが、夫は「親戚が持っている土地で安く譲ってもらえるからコスパがいい」など、あれこれと理由を付けて説得してきました。
結局、「安く上がるのなら」とA子さんが折れて、家を建てることになりました。
出産はしたものの、子育てが大変になって手助けが必要になると、ますます夫は義実家に入り浸るようになりました。
A子さんも我慢の限界が来て、夫に「そんなに実家がいいのだったら、そっちで暮らせばいいじゃないの」と言うと、夫は義実家に行ったきり、家に帰ってこなくなってしまいました。
メールやLINEを送っても無視され、義実家に行ってインターホンを押しても、義両親が出てきて「息子は会いたくないと言っています」と言われるのみです。
なすすべがなくなったA子さんは、私の法律事務所に、夫が帰ってこないという相談にいらっしゃいました。
■結婚してもメインの家は実家
私は事情を聞いて、「この夫は親離れができていないのではないか」と考えました。
これまで、母親とべったりのタイプのマザコン男性や、成人しても自立せずずっと自宅にいる「子ども部屋おじさん」が話題になってきました。
しかし最近は、一応結婚はするものの、その後も実家に軸足がある、いわば「子ども部屋夫」が存在していて、A子さんの夫はまさにこのタイプだと考えました。
実家と行き来があること自体は問題ありませんが、結婚しても本人はメインの家は実家だと考えていて、夫婦生活にあまり向き合わないことが特徴です。
A子さんから依頼を受けて、夫に対して「家に戻ってきてほしい、戻ってこないなら離婚したい」と連絡をしました。
しばらくは無視されましたが、返答がない場合は調停を出す旨を連絡すると、慌てたのかすぐに返事が来て、夫は事務所にやってきました。
夫は、「A子さんのことは嫌いではないが、24時間他人と一緒にいるのは無理だと思う」と話しました。
■妻とは「一緒にいると疲れてしまう」
A子さんとならうまくやれそうだと思って結婚したが、いざ一緒に暮らしてみると、生活やお金のことを話し合うのが大変だし、家事を手伝ってほしいと言われるし、いざこざが面倒なので週末はできるだけ実家で過ごすようになった。
一緒にいると精神的に疲れてしまうから、自分としては円満な夫婦関係を続けるための回避策だった……」
夫はそんなことを話しました。
荷物のことを聞くと、実家には夫の部屋がそのまま残されているということでした。
結婚前は一人暮らしをしていましたが、それも婚活のために部屋を借りただけで、基本的に荷物はずっと実家の自分の部屋にあるそうです。
家を出たくないなら結婚しなければよかったと思うのですが、夫が言うには、年齢のこともあって、親からも「結婚してほしい、孫の顔が見たい」と言われて、物分かりの良さそうなA子さんを選んだとのことです。
夫は「決してA子のことが嫌いなわけではない」と何度も言うのですが、「ではどうしたらいいと思いますか」と聞いても、沈黙するだけでした。
■「夫と子育てをしていける可能性は低い」と離婚
以上の面談の結果をA子さんに伝えました。
夫の思いや、自分が嫌われているわけではないこともわかって安心していましたが、「現実問題として、夫と子育てをしていける可能性は低そうですね」とおっしゃいました。
このまま別居をして夫婦を続けるか、離婚するかを考えてもらった結果、A子さんが出した答えは離婚でした。
A子さんは、「やはり一緒にいなければ結婚した意味がない。夫が自分と過ごせないということであれば修復は無理でしょう」とおっしゃいました。
夫は一度は離婚に抵抗しましたが、離婚後はA子さんが家を出て実家に帰るプランであること、たまに子どもを会わせるために東京に来ることを伝えたところ、納得して離婚に応じました。
こうしてA子さんは離婚できました。
■親離れできず、結婚しても自立できない
昔はマザコン夫や嫁姑問題が大きく取り扱われていましたが、近年はそういった言葉は死語になりつつあります。大人になっても仲がいい親子が当たり前の存在になったためです。
結婚しても義実家とコミュニケーションを取れると、家族の孤立を防ぐことができる、子育てに協力してもらえるというメリットがあります。
その反面、A子さんの夫のように、無自覚に親離れできず、結婚しても自立できないというケースも存在するのです。
■本人に「親離れできていない」自覚がない
自立には、経済的にも精神的にも苦労を伴います。
年齢的に、また社会的にも結婚をしなければならないと思って結婚はするものの、その後も、経済的にも精神的にも楽でいられる実家に軸足を置いたままで、「家族は実家の両親だけ。結婚相手は本当の家族ではない」と考える人がいるようです。
この事例では夫の側でしたが、「妻が結婚後も毎週末実家に帰るために、まともな夫婦生活が送れない」といった事例もよく見られます。
先ほども述べた通り、近年は親と仲がいいのは普通のことになっています。そのため、本人に「親離れができていない」という自覚がなく、話し合っても「親に助けてもらって何が悪いんだ」といった意見に終始してしまい、すり合わせが難しい場合が非常に多いです。
いつまでも両親の庇護のもと何不自由がなく生活できていると、自立するのは難しいことなのかもしれません。しかし、結婚生活というのは自立した家庭を築いていくことです。結婚してもまだ両親の子どもでいることと、夫や妻、そして子どもの親であることは両立できません。自分自身が子どもでいることの方が心地よいままだと、夫婦が不和になり、取り返しのつかないことになってしまいます。
結婚する場合は実家からは自立する、自立したくない場合は結婚しない。「結婚しなければいけない」という体面を先に考えるのではなく、自分は自立したいのか、それともしたくないのかを出発点にして考えてほしいと思います。
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弁護士
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。
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(弁護士 堀井 亜生)
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