東大首席卒業でも「天才」と思ったことはない…山口真由「私が1日19時間以上も勉強し続けた理由」
プレジデントオンライン / 2024年11月21日 7時15分
※本稿は、山口真由『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある。』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■「トップ合格」は求められていない
大人になってからこそ勉強を。
こういうことをいうと、次のような批判を受けることがあります。
「そもそも東大首席卒業など、頭の出来が違う。努力の必要がなくて羨ましい」
残念ながら、この批判は的外れです。
東大の入試にトップの成績で合格した人は、確かに「天才」かもしれません。天賦の才能と運に恵まれない限り、1番は難しい話です。
ただし、入試は、あくまで合格することが目的です。トップで合格することなど、ほとんどの人には求められていません。入試は、合否の試験であり、順位の試験ではないのです。もちろん私もトップで合格したわけではありません。
■合格者の枠に入れるかどうかが肝心
父から聞いた話ですが、昔は、入試の不合格者も、聞きに行けば成績を教えてもらうことができたそうです。父の友人は、大学の入試試験を受けて、あと1点足りなかったことで、不合格になってしまったそうです。
上位10番以内で合格しても、ぎりぎりの数百番台で合格しても、合格者であることに変わりはありません。
一方、最下位で合格した人と、父の友人のように1点に泣いた人の間には、合格者・不合格者という明確な違いがあります。
つまり、入試においていえば、とりあえず1番を目指す必要はなく、なんとか合格者のなかに滑り込める実力を身につけることが肝心なのです。
■東大を首席で卒業できたカラクリ
東大合格という“ゴール”の広さはどのくらいでしょうか。
私が東大の試験を受けたときの倍率はせいぜい3倍でした。要するに、受験者の上位3分の1に食い込めばよかったのです。
この3分の1という数字ですが、偶然にも、東大首席卒業にも大きく関係してきます。
東大の各科目には定期試験があり、評価は「優」「良」「可」「不可」の4段階に分けられています。この「優」も、じつは試験を受けた人の3分の1に与えられるようになっているのです。
私が入学する数年前までは、「優」の評価が厳しい教授とそうでない教授がいたらしく、「不公平だ」との批判を受けていたそうです。そのため、東大にはおおむね3分の1の受講生に「優」を与えるべきであるという「3分の1ルール」ができたのです。
私は東大を首席で卒業しました。これは、テストで1番を取った結果ではありません。そうではなく、成績で「優」を取り続けた結果なのです。
■「上位3分の1」は努力だけでも可能
1番を取るというのは、非常に狭いゴールを狙うことです。一方、じつは東大を首席で卒業というのは、常に上位3分の1に入るという目標を達成し続けただけなのです。
そして、この上位3分の1に入ることは、じつは努力だけでできてしまうのです。理系科目が得意でない私が、そういった科目でも「優」を取ったのだから、間違いありません。
そして、この上位3分の1に入ることは、学業だけでなく、その後の人生を成功させるためにも重要な意味を持ちます。
たとえば、現在、自分がついている職業で、得意な分野を考えてみてください。営業の数字をアップさせること、とにかく事務処理のスピードをあげること、精度の高い分析を行うこと、緻密な作業を正確に行うこと、斬新なアイデアを出すこと……。
それぞれの職業によって、いろいろあると思いますが、次の質問を見てください。
「あなたの職業のあなたが得意とする分野において、あなたは1番といえますか」
■ビジネスでも「3分の1ルール」が効く
この質問に何の迷いもなく「はい」と答えられる人はあまりいないはずです。なぜならば、1番というのは東大トップ合格と同じで、非常に狭いゴールだからです。圧倒的多数の2番手以下は、当てはまりません。1番は一人しかいないからです。
しかし、ビジネスにおいても、1番にならなくてはいけないものはそう多くはありません。たとえば、営業成績が毎月1番ではなくても、コンスタントに上位3分の1には入っている、と胸を張って言えれば、周囲から評価を受けることができます。
コンスタントにこの上位3分の1に入り続けることを目標にすると、評価や結果はおのずとついてきます。そして、上位3分の1に入ることは、努力で勝ち取れる、「努力圏内」の目標なのです。
■合格率2%の狭き門に合格したが…
「よく頑張るよね」
私は、この言葉に軽い揶揄を感じてしまいます。努力をせずになんでも軽々とこなす人に比べて、必死に努力する人には、やや痛々しさを感じるからでしょうか。
しかし、私はそれでも努力すべきであるという強い信念を持っています。
私が人生で一番勉強したのは、大学3年生のときに受けた司法試験の口述試験の前でした。論文試験を受けた私は、受かったという確信がありませんでした。
「こんな状況下で口述試験の勉強なんて始めたら、そういう準備をしているときに限って、結局、論文試験にも受からないに違いない」
そう思い、私なりの「験(げん)担ぎ」で、私は論文試験後に一切勉強しなかったのです。そしてその「験担ぎ」の成果か、結果はみごと合格。しかし、論文試験の合格発表から口述試験までは、たったの2週間しかありませんでした。
司法試験の論文試験は合格率2%程度の狭き門。それに対して、口述試験の合格率は90%程度。つまり、普通にしていれば受かる試験です。
それにもかかわらず、私は口述試験前に、自分こそが落ちる10%に入るに違いないと思っていました。
■簡単な試験だけ落ちる「変人」の烙印
合格率が低い試験のほうが、世の中には多いのです。司法試験の論文試験はその典型といえるでしょう。
それに対して、不合格率が低い試験、つまりほとんどの人が素通りできるものもあります。私がこれまで受けたなかでは、司法試験の口述試験と弁護士になる直前の二回試験が当てはまるでしょうか。
「不合格率」の低い試験に落ちる人は、変人とか残念な人というイメージが、人生につきまとうもの。それまで、医学部の入学試験や司法試験といった狭き門をくぐり抜けてきて、最後の最後にまさかのつまずきで、医師にも弁護士にもなれないなんて……(ただし、1年後にもう一度同じ試験を受けて、合格して医師や弁護士になる場合が多いのですが)。
話が横道にそれましたが、要するに司法試験の口述試験前の私は、自分にそんな烙印が押されることを直感したのです。
■19時間以上勉強し、自由時間は10分だけ
当時の私はその切迫した恐怖感から逃れるために、持てるすべての時間を勉強に費やしました。一日19時間30分の勉強。3時間の睡眠。そして20分ずつの朝昼晩の三度の食事。そして20分の入浴。
これで計23時間50分。そして、残りの10分、私は毎日親愛なる母に電話して、正気を保つように努めました。
机の下に氷水を張った洗面器を置き、そこに足を浸け、冷える体に耐えながら眠気を防ぎました。そして、こうした勉強を続けていたある日、母と電話していたときのことです。
♪蛍の光、窓の雪
どこからともなく「蛍の光」が聞こえてきました。そこで母にこう尋ねました。
「ねえ、聞こえる? 誰が歌っているのかしら? 『蛍の光』をこんな時間に……」
しかし、少し間を置いて、母は、ゆっくりと答えたのです。
「私には聞こえないわよ」
■面接前も口ずさんでいた「蛍の光」
私の耳にはずっと聞こえてくる「蛍の光」。しかし、冒頭の「蛍の光、窓の雪」の2フレーズだけが、ずっとリフレインする。これは何かおかしい。それで、「あぁ、これは幻聴なんだ」と気付いたのです。
しかし、その幻聴は消えることがありませんでした。いつも、どこからともなく、「蛍の光」が聞こえてくるのです。
それから口述試験が終わるまで、勉強をするときは、ずっと頭のなかをこの2フレーズが繰り返し流れていました。口述試験の面接室に入る前の「発射台」と呼ばれる狭い待合室で、私はずっと小さな声でこの2フレーズをついハミングし続けてしまうほどでした。
まわりから見たら、私の姿は「変人」に映ったに違いありません。
■天才ではないから、努力に人生をささげた
冒頭の話に戻ります。
「よく頑張るよね」
そういって努力する人を嘲笑する人たちは、往々にして、幼い頃に非常によくできた人たちです。スポーツも勉強も、大した努力をしなくても……。だから、大人になっても、自分が「本当の天才」に生まれてこなかったことを認められないのです。
私がここで言いたいことは、「天才」への憧れを捨てて、「努力すること」の価値を認めるべきだということです。
「天才」は滅多にいません。私は、人生の早い段階で、どうやら自分は「天才」には生まれてこなかったと認めざるを得ませんでした。でも、だからこそ、「天才」への憧れを潔く諦めて、残りの人生を「努力」にささげることができたのです。
目指すべきは「努力」型の人間です。脇目もふらずに、少しずつだが確実に前へと進む。天才ではない人が、社会で成功をつかむには、努力をするしかないのです。
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信州大学特任教授/ニューヨーク州弁護士
1983年生まれ。北海道出身。東京大学を「法学部における成績優秀者」として総長賞を受け卒業。卒業後は財務省に入省し主税局に配属。2008年に財務省を退官し、その後、15年まで弁護士として主に企業法務を担当する。同年、ハーバード・ロー・スクール(LL.M.)に留学し、16年に修了。17年6月、ニューヨーク州弁護士登録。帰国後は東京大学大学院法学政治学研究科博士課程に進み、日米の「家族法」を研究。20年、博士課程修了。同年、信州大学特任准教授に就任。21年より現職。著書に『「ふつうの家族」にさようなら』(KADOKAWA)などがある。
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(信州大学特任教授/ニューヨーク州弁護士 山口 真由)
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