週休2日、子育てしながら月商300万円…寝袋を持って修行→24歳で独立したラーメン店夫婦のしたたかな戦略
プレジデントオンライン / 2024年11月20日 17時15分
■大学入学から1カ月で「ラーメン屋で働いてみたい」
京王線柴崎駅北口から徒歩4分。甲州街道沿いに手打ち麺が人気の行列店がある。「手打麺祭 かめ囲」だ。
2022年6月にオープン。「食べログ」では3.84点を誇り、2022、2023年と2年連続で「百名店」にも選ばれている(2024年11月10日現在)。店主の亀井康太さんと妻の朱蘭さんで切り盛りしている。
店主の康太さんは高校2年生の頃からラーメンの食べ歩きをしていた。
高校では陸上部に所属していて、横浜で試合の帰りに食べた油そばに衝撃を受け、各地の油そばを食べ歩き始めた。その後、ラーメンにもハマって食べ歩きするようになった。
高校3年の頃には、大学に進むかラーメン屋になるか迷うほどラーメンに夢中だったが、とりあえずは受験をして大学に行くことになった。
いざ大学に行くも入学して1カ月で「ラーメン屋で働いてみたい」と親に相談した。
さすがに止められて家族会議になるほどだったが、亀井さんは今まで食べ歩いた中で一番美味しかった「煮干しつけ麺 宮元」(大田区蒲田)に修行に行くことにした。
■平日は授業、金土は店の2階で寝袋生活
「『宮元』の濃厚なつけ麺に衝撃を受けました。食べ終えてから住んでいた小田原までの帰り道、ゲップをするとそのゲップまで旨かったんです。高校時代からよく通っていたので、店主の宮元さんは顔を覚えていてくれました。何をやっても成功しそうなオーラに包まれた宮元さんにいつも元気をもらっていました。
将来ラーメン屋をやりたいと伝え、独立前提で『宮元』に入れていただきました」(康太さん)
こうして大学1年の5月から「宮元」での修行が始まった。
平日は授業があるのでシフトを入れず、金曜の授業が終わった後に入って土日も働くという日々だった。金曜日、土曜日は店の2階に泊まらせてもらい、寝袋で寝るという生活だった。夏休みは缶詰めで働き、アルバイトという名の修行生活だった。
2年間アルバイトをした後に、親を説得して1年休学して正社員になり、そのまま大学を辞めて計6年間「宮元」で修行をした。
最初の2年で仕込みなどはすべて学ぶことができ、その後限定で自分のラーメンを作るなどして4年間を過ごしてきた。いよいよ22歳の頃に「独立したい」と伝えるも「まだ全然だろ」と言われ、悔しい思いをした。
その後も技術や自分の味を磨きつつ、1年後にもう一度相談するとOKが出て、そこからの1年間はお店の営業していない時間を利用して間借りで「手打中華蕎麦 亀庵」を営業し、独立に向けた最後の勉強をした。
■「このブームは長く続くだろう」
康太さんは濃厚なつけ麺ではなく、自分の味で独立したいと考えていた。
限定ラーメンなどで味づくりをしながら自分の道を探しているうちに、「手打ち麺」の面白さに気づいた。手打ちで自分だけの麺を作ることで、オリジナルの一杯ができると考えたからだ。康太さんは手打ちうどんのお店で製麺を学ぶなど、その精度を上げていった。
「ブームがピークを迎えるものをやりたいと思い、『手打ち麺』をチョイスしました。スープよりも麺が注目され始めた頃で、このブームは長く続くだろうと考えました」(康太さん)
地元・小田原の近くで独立したかったがなかなか物件が見つからず、坪数と家賃の条件の合うところで調布市柴崎の物件を見つけた。先輩の店主に相談をし、背中を押してもらったので、ここを借り「手打麺祭 かめ囲」は2022年6月にオープンした。
「亀庵」時代からのお客さんが駆けつけてくれて、オープン日からたくさんのお客さんが集まった。
麺は打ちたて切りたてで提供している。店頭で麺を打っているのが実にそそる。注文を受けてから打ってくれる麺は何物にも代えがたい旨さとありがたさだ。
うどん粉「麺祭」に薄力粉「かめ特上」など数種を配合し、2日間かけて仕上げた麺。加水率は58%で、都心でも屈指のツルツルモチモチの自家製麺だ。この麺を求めて毎日行列のできる人気店になった。
■妻は1.5kgをペロッと食べる大食い客
康太さんは20歳の頃に月単位での目標を決めていて、「21歳で味を決める」「22歳で味を伸ばす」「24歳で独立」とメモに書いていたが、実際その予定通りに事が進んでいった。
奥さんの朱蘭さんとは修行中の21歳の頃に出会った。朱蘭さんは「宮元」の系列店「ラーメン 宮郎」の常連客で、女性には珍しく1.5kgのラーメンをペロッと食べる大食いのお客さんだった。
「大学を辞めてニートになって、二郎系のラーメンにハマって食べ歩いていました。
『宮郎』によく通っているうちに、一緒に食事に行くようになりラーメンを食べ歩いたりして1カ月ぐらいで付き合うようになりました。
彼の夢を応援しようと思い、他のラーメン店で2年ぐらいバイトをした後に『亀庵』を手伝うようになり、独立後もついていくことにしました」(朱蘭さん)
こうして2人は「かめ囲」のオープン直前に入籍をする。
朱蘭さんは意外にも不安はなく、康太さんへの信用と尊敬に溢れていて、「この人なら大丈夫」という自信があった。
■奥さんがいないと「寂しくて…」
「かめ囲」は何といってもその麺が自慢だが、もう一つの目玉として極厚の「メンマ」がある。このメンマは朱蘭さんが作っている。
もともとメンマが好きではなかった朱蘭さんは、自分が食べたいと思う美味いメンマが作れないものかと試作を始め、「亀庵」時代から形がオリジナルの大きなメンマを提供し始めた。これが「かめ囲」の人気のひとつになり、今ではメンマ目当てでお店に来る人も増えている。
「夫婦でお店をやっていると、まずは気が楽ですね。人件費がないので、苦しい時もなんとか耐えられるというのも大きいです。
今は子供がいるため奥さんが週2しか出勤しないので、いない時の沈黙に耐えられず、寂しくてスマホで音を流しながら仕込みをしています」(康太さん)
オープン2周年の2024年6月24日当日に第一子が誕生した。これまでは喧嘩も多かった2人だが、「子はかすがい」で夫婦仲は上手くいっているという。
■競合が少ないからこそ今の働き方ができる
何より手打ち麺は体力勝負になるが、お客さんの10割が手打ち麺を楽しみに来てくれている。今は体力的に問題ないので、やっていけるうちはこのスタイルでやっていきたいという。
逆に手打ち麺は商売にあまり向いていない分、今後もお店の数がそれほど増えないだろうと考え、1日の売る杯数をしっかり決めながら店を運営している。
店は週2日定休で、1日100杯を提供している。打ちたての手打ち麺は、麺が余っても翌日に持ち越せないため、提供できる杯数は自ずと決まってくる。
月商は250万円から300万円。これ以上麺を打つことはできないため、今は従業員をとらず、これまで通り朱蘭さんと2人で切り盛りしていく予定だ。
「『手打ちに飽きないの?』『しんどくない?』と言われたりしますが、創業前からかなりの覚悟を持ってやっているので、そういう次元ではありません。手打ち麺には並々ならぬこだわりがあるんです。
原材料の高騰もあるし、仕込み量も多いですが、奥さんと原価などを都度計算しながら進めています。今の一杯の精度を上げて、お客さんにさらに満足してもらえるように頑張りたいと思います」(康太さん)
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ラーメンライター、ミュージシャン
全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。東洋経済オンライン、AERA dot.など連載のほか、テレビ番組出演・監修、コンテスト審査員、イベントMCなどで活躍中。自身のインターネット番組、ブログ、Twitter、Facebookなどでも定期的にラーメン情報を発信。ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。
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(ラーメンライター、ミュージシャン 井手隊長)
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