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エミン・ユルマズさん「損を取り返そうとしてはいけない」…投資の世界から静かに退場していく人たちの共通点

プレジデントオンライン / 2024年11月24日 6時15分

木原直哉氏(左)とエミン・ユルマズ氏 - 写真提供=KADOKAWA

投資で資産を増やすにはどうしたらいいのか。エコノミストのエミン・ユルマズさんと、東大卒プロポーカープレーヤーの木原直哉さんの著書『「確率思考」で市場を制する最強の投資術』(KADOKAWA)から、マーケットとの向き合い方を紹介する――。

■「理不尽な負け」は必ず訪れる

株とポーカーの共通点:正しい行動をしても報われないことがある

【エミン】ポーカーでは勝つ確率が最も高いプレーをしても、たまたま確率が低いことが起こって負けることがあります。しかも、そんな不運が何度も続くことも少なくありません。要はスランプというものが誰にでもあって、木原さんのような世界トップレベルのスキルを持っていても、負け続ける時期があるはずです。そこをどう耐えるかもスキルのひとつだと思いますが、これは株も同じなんですよね。

リーマンショックなんてその最たる例で、投資家のスキルや行動にまったく関係ない理由で株価が暴落しました。今だって、エヌビディアやネットフリックスのようなスター銘柄の株価が、将来半値以下になったり、9割下がったりする局面が来ないとは言い切れません。

株価が10倍になってもおかしくないと確信できる銘柄であれば、それが信じられる限り保有し続ければいいわけですが、テンバガーというゴールに到達するまでには、それなりの試練があります。

どんな優良企業でも、マクロ環境で逆風が吹いていれば株価は下落しますし、外部環境に問題がなくても一時的な要因で損失を出すこともあります。株価が成長する銘柄ほど、ボラティリティは大きく、それに耐える精神的なコストを支払わなければならないのです。

■正しい行動で負けることは仕方がない

最近であれば、ニトリホールディングス(9843)ですね。同社は上場前から36期連続、1989年の上場後33期連続となる増収増益記録を達成しており、ポーカーでいえばエーシーズ(Aが2枚のハンド)のような超優良企業です。しかし、2024年3月期の決算で連続記録は途絶えてしまいました。

ポーカーをする人の手元
写真=iStock.com/AlbertoChagas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlbertoChagas

海外で製造した商品を日本で売るビジネスモデルである以上、急激な円安が進行していた環境下ではどう頑張っても業績は伸ばせないからでした。手元に強いハンドが来たのに、場に開いた3枚のカードとはまったくかみ合わなくて戦えない状態のようなものですね。

【木原】そもそも、参加したゲームに必ず勝たないといけないわけじゃない。裏目に出るゲームがあるのは当然で、いちいちくよくよしていたら身が持たないですよ。正しい行動をして負けてもそれは仕方がないことで、それでも期待値が最大になる確率的に正しいプレーを続けていれば、長期的には勝てます。

■しなくてもいい「悪い反省」

【エミン】株式投資でもしっかりリサーチして、株価が上がるまでのストーリーを描いて投資しても、うまくいかないときもある。それで損したからといって、それだけで自分の投資を否定するべきじゃないよね。もしそれで大損しちゃったのであれば、それはロジックが悪いのではなく、リスク管理の方に問題があったと反省すべきでしょう。

株式投資の損切り
写真=iStock.com/Passakorn Prothien
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Passakorn Prothien

【木原】正しいプレーをしているのに、負けたという結果だけを見て後悔する人もいますね。たとえば強いハンドを持っていて、場のカードを見ても勝率が高いと判断して強気にベットし続けたのに、たまたま対戦相手がもっと強い役を引いて最後にまくられたような人が、「どこかで降りればよかったかなあ」と悔やむということはよくあるんですよ。そんな必要全然ないのに。

有利なときにポット(参加しているプレーヤーによって集められたチップの総数のこと)を膨らませることができたのなら、最後にまくられたというのは結果論ですから、そこを後悔するのは悪い反省です。

■勝った時こそ反省点は多い

【エミン】運の要素は一定程度あるんだから、そこは淡々と受け入れる必要がありますね。

【木原】株でも、予測できない外部環境の変化や災害、事故のようなことで大きな損失を出すこともありますからね。最近だと小林製薬(4967)の紅麹問題がありましたが、あんなケースを事前に予測して回避するなんて不可能です。それで損失を被ったとしても不運だったというしかないと思います。

多くの人は結果ばかりを重視して、負けたときに反省するんですが、むしろ勝ったときのほうが反省すべき点は多いと思いますよ。ポーカーでも、負けたゲームを振り返っても実はそんなに悪いプレーはしていなくて、逆に勝ったときの方がまずいミスをおかしていることは多いんです。

僕自身も、勝ちはしたものの、もっと多くのポットを取れたはずだとか、たまたま運に恵まれて勝てたけれどあれはよくなかったと思えるプレーはたくさんあります。取れるべきものを取り逃すということは、回避できた損失を回避できなかったこととまったく同じことなのですが、多くの人は勝ちという結果にとらわれて、振り返ることをしないんです。

■「損切り」のほうが長期的には正しい時もある

株とポーカーの共通点:理不尽に負けないメンタルが必要

【木原】ポーカーをやっていると正しいプレーをしたのに負けてしまうだけならまだしも、雑なプレーをする対戦相手がラッキーを引き続けて独り勝ちするような理不尽な場面にも遭遇します。こういうときには経験豊富な人であっても腹を立てたり、イライラしたりすることはありますが、強くなるにはそういう理不尽にも慣れないといけませんね。

【エミン】FXでも、買った途端に下落して慌てて損切りしたのに、そのとたんに上がるという往復ビンタを食らうというのはよくあるよね。逆に、損切りできずにオロオロしているうちに値を戻してきて助かった、っていうパターンもある。でもこの場合は、損切りして損失を確定させたトレーダーの行動が圧倒的に正しい。正しい行動をしたのに、損を確定させられるんですから、理不尽ですよね。

【木原】こういう場合、損切りできずにたまたま助かった人は、自分の読みが当たったと思っちゃうんですよね。ポーカーでもよくありますよ。チップを大幅に減らしてしまった人が無茶なプレーをして、運良くチップを回復させるパターンが。でも、49対51の49側を待つようなプレーをする人はトータルで負けるんです。

【エミン】こういうときこそ、焦って取り戻しに行くのではなく、より慎重にリスクを抑えるべきです。正しい判断をしたのにたまたま負けてしまったというなら、時間が解決してくれますから。

■次の判断に影響を与えないメンタル構築が必要

【木原】本来は勝っているときなら少しリスクを上げてもいいし、負けているときは慎重になるべきなんですが、逆をやっちゃう人が多いんですよね。

【エミン】一か八かみたいな大勝負に出て損失を取り戻そうとしてしまうんだよね。「これで損失を取り戻す、そうしたらもうやめる」なんて言うけど、そういう人に限って取り戻したとしても絶対にやめない。

【木原】その日はやめても、次の日は知らん顔して帰ってきますね(笑)。こればかりは経験を積んで、スキルを上げていくしかありません。正しく勝つ経験を積み上げていくことで、ひとつの不運な負けに執着したりムキになることが減り、メンタルも安定しやすくなると思います。

エミン・ユルマズ、木原直哉『「確率思考」で市場を制する最強の投資術』(KADOKAWA)
エミン・ユルマズ、木原直哉『「確率思考」で市場を制する最強の投資術』(KADOKAWA)

【エミン】損切りできずにいるうちにたまたま助かった人も、ポーカーで無茶なベットをして勝った人も、間違った成功体験を積んでしまったことになるので、同じような局面が来たらまた同じことをしてしまいます。どちらも、いずれは大敗して退場させられることになります。

損切りしたトレーダーやフォールドしたプレーヤーは、そのときは損失を確定させることになるけれど、この正しい行動を続けている限り生き残ることができます。

勝ち負けにとらわれてプロセスをないがしろにする人は、遅かれ早かれ退場させられるんですよ。正しく負けたなら、そこは深く考えてはいけないし、次のトレードで損を取り戻そうとしてはいけない。そういうこともあるのだと受け流して気持ちを切り替え、次の判断に影響を及ぼさないようなメンタルを維持することが重要です。

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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年から2024年まで複眼経済塾の取締役・塾頭を務めた。2024年にレディーバードキャピタルを設立。著書に『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)などがある。

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木原 直哉(きはら・なおや)
プロポーカープレーヤー
1981年、北海道名寄市出身。2001年に東京大学理科一類に入学。在学中は将棋部に所属し、バックギャモンやポーカーなどの頭脳ゲームに熱中していく。10年かけて東京大学理学部地球惑星物理学科を卒業し、翌2012年WSOP $5000 Pot-Limit Omaha 6-Handedで優勝し、日本人初のブレスレットホルダーに。ポーカーの戦略やメンタル面についての教育活動や国内大会での解説など日本国内外でポーカーの普及に努めている。

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(エコノミスト エミン・ユルマズ、プロポーカープレーヤー 木原 直哉)

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