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大谷翔平「憧れるのを、やめましょう」は脳科学的に正しい…「能力があるのにダメな人」と「結果を出す人」の違い

プレジデントオンライン / 2024年11月22日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

仕事や勉強で結果を出せる人と、出せない人の違いはどこにあるのか。脳神経外科医で、日本大学名誉教授の林成之さんは「誰もが持っている潜在能力を最大限に発揮すればいい結果を出すことができる。大谷翔平選手の『憧れるのを、やめましょう』という言葉は脳科学的に効果的だ」という――。

※本稿は、林成之『運を強くする潜在能力の鍛え方』(致知出版社)の一部を再編集したものです。

■「苦しい」「辛い」「もう無理」は脳に悪影響

潜在能力を発揮するために必要な条件について改めて触れておきたいと思います。これは当然、育脳にも関わってくることです。

その第1番目に来るのは、本書(『運を強くする潜在能力の鍛え方』)で何度も言うように「否定語を使わない」ということです。否定語は、潜在能力にとっての大きな弱点です。

脳の情報処理の過程についてお話ししましたが、脳が情報を処理する第2段階でマイナスの感情を抱くと、第3段階の前頭葉の働きを鈍らせてしまいます。

皆さんも経験したことがあるかもしれません。スポーツの練習でも、試験勉強の途中でも、全力を投じているときに「苦しい」「辛い」「もう無理かも」といった後ろ向きの考えが浮かぶと、脳は新しい情報にすぐに反応してマイナスに機能してしまうのです。

たとえば、年齢を重ねると体の機能が変わってきます。若いときと同じように動かないことを感じると、つい「年を取った」という言葉が口をついてしまいます。

しかし、「年を取ったから」というのは、潜在能力にとって一番の禁句です。できる人は決して年齢を理由にしません。年のせいにするのは、「自分を守るため」に言っているのです。

■“厳しい指導”は逆効果

潜在能力はいくつになっても尽きるものではありません。年を取ったからといって衰えるものではないのです。そう考えると、潜在能力というのはつくづく凄い言葉だと思います。日本中の人たちが潜在能力の本当の意味を理解すれば、日本は桁違いに進歩すると思います。

だから、潜在能力を発揮する第1の条件は「否定語を使わない」ことなのです。否定語を話すことはもちろん、頭にも浮かべない。大変難しいことですが、いたずらに練習や勉強にエネルギーと時間を費やすより、これを徹底するほうが効果的と言ってもいいと思います。

立派な人間に育てるために子どもを厳しく指導するという人がいますが、これも逆効果です。

厳しくされるほど、子どもは嫌になります。強制されたからやりたくないと考えるのが普通の反応なのです。だから、「そうだね」「なるほど」と言って肯定するところから始めなくてはいけないということなのです。「そうだね」は、子どもの潜在能力を引き出す魔法の言葉です。「こういう魔法の言葉が必要なんです」と、私は学校の先生にも言っています。子どもの意見を大切にして、「そうだね」「なるほど」と肯定してあげれば、全員が優等生になります。

■頼まれたら「2秒以内に行動」

潜在能力を発揮するための第2の条件は「頼まれたら2秒以内に行動を起こす」ことです。本書で「2秒の法則」(編集部注:間をおかず、考えるよりも先に動くこと)ということをお話ししましたが、そのことです。

私は脳外科という仕事柄、行動がすごく速いのです。遅れると患者さんの命にかかわるので、すぐに行動を起こす大事さが身にしみてわかっています。

「先生のところに相談に行くとすぐに答えが返ってくる」とみんなが言いますが、「すぐに行動する」ことによって、私は潜在能力を発揮しているのです。「後でしよう」というのでは力は出ません。「いつやるか? 今でしょ!」という林修さんのフレーズはまさにその通りで、潜在能力を発揮するための金言です。

これを子どもに習慣づけたら、間違いなく優等生になります。脳の仕組みを子どもが知らなくても、すぐにやるという行動を身につけてしまえば放っておいても立派な人間になっていきます。

走っているスーツの男性
写真=iStock.com/paylessimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paylessimages

第3の条件は「考えを一つに絞って勝負する」ということです。集中力は前向きな気持ちから生まれます。いろいろ考えるから、雑念が起こって失敗するのです。

スポーツでも勉強でも、「ここが勝負だ」というときには「きょうは自分の日だ」と考えて、勝負に勝つという一点に集中する。それによって、潜在能力を発揮して桁違いの力が出るのです。

優等生というのは、「失敗しないように」と考えてしまいます。そのため、練習でも勉強でも守りの練習、守りの勉強になっています。自己保存の本能で恥をかくのが嫌だから、失敗しないことを第一に考えるのです。

■「自分は優等生ではなく、タダの人」と認める

勝負に勝つためには攻めなくてはいけないのですが、優等生は基本的に守りに徹して勝負をしません。だから、自分を超えられないのです。確かに失敗しないから優等生と言われるわけですが、それを超えたら、もっと凄い能力を発揮できることを知りません。

私は競泳の日本代表チームに、この「優等生は勝てない」という話をよくしました。では、どうすればいいのですかと聞かれたので、「今の練習の仕方は間違いだと自分で言いなさい」とアドバイスしました。「自分はただの人間じゃない。優等生は守りの練習をするけれど、自分は違う」と、はっきり口に出して言うことが大切なのです。

優等生というのはある環境にいるときに優等生なのであって、本当はタダの人です。それを素直に認めることが大事です。自分がタダの人だと認めるからこそ、桁外れの練習ができるようになるのです。

人間というのは、ある面では謙虚でいないといけませんが、ある面では自信を持ってやらなくてはいけません。威張り散らすというようなことではなくて、人間は正直に生きなくてはいけないと思います。その場だけの優等生になろうとするのではなくて、自分はタダの人だと思って桁違いの努力をする。それによって潜在能力が鍛えられて、本当に凄い人になれるのです。

■“その場ですぐに直す”が自発的に勉強する子を育てる

第4の条件は、「同期発火」(編集部注:「これはこうだ」と考えたことが相手の脳にも伝わっていくこと)をうまく利用することです。

私はかつてある予備校の先生から相談を受けました。そこに通う生徒の親から「うちの子は全然勉強しない。どうしたらいいですか」と言われたというのです。その子の偏差値は30だそうです。どこを受験するのかと聞くと、有名校の名前を出しました。

そのとき私がアドバイスしたのは、毎日10問ずつ問題を出して、間違ったら目の前ですぐに直す習慣をつけていくということです。後から直すのではなく、その場ですぐに直す。

そういう習慣をつけたところ、30の偏差値が69まで上がり、東大でも受かるのではないかと評判が立つほどになりました。その子も自信がついて、自分で参考書を買いに行くようになりました。それを知った親が驚いて、「うちの子、参考書を買いに行ったんですよ」と言ったそうです。お母さんにしたら、参考書を買いに行ったこと自体が驚きだったのです。

ポイントは、目の前ですぐに直すということ。後からというのは許さない。家に帰ってから、というのもだめです。そうしたら、子どもがなかなか正解できないので夜の10時になっても家に帰れないと音を上げた先生もいました。確かに、いつ成功するかわからないわけですから先生には根気が必要です。

しかし、できた子の手を取って先生が感謝をしたら、勉強する子だらけになったそうです。これは先生と子どもで同期発火が起こった結果です。そういう中から偏差値69の子どもが生まれてきたのです。

子どもの勉強に付き添う母親
写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

■“正確なイメージ”を描けるように訓練を重ねる

第5の条件は、「正確なイメージが潜在能力を発揮させる」ということです。自分が思う通りに能力を発揮するためには、そのイメージを強く持つことが非常に効果的なのです。

問題は、正確なイメージはどうやったらつくれるかということです。私たちは物事のありのままを記憶するのではなく、その物事のイメージを頭の中でつくり上げ、それを記憶しています。これを「イメージ記憶」と言いますが、人間の記憶はすべてこのイメージ記憶によって行われています。

しかし、あくまでもイメージを記憶しているため、自分の記憶は絶対間違っていないと思っていたのに、実は勘違いだったということも起こりえます。

たとえばゴルフというのは、大体間違ったイメージでやっていることが多いスポーツです。ですから、なかなか上達しないわけです。このような場合、正確なイメージをつくるためには、何度も繰り返し同じ作業を重ねていくことです。正確なイメージを描けるようになるまで訓練することが大事なのです。経験を積めば積むほどボールの軌道の記憶が蓄積されていきます。その中から成功したときのイメージ記憶を蓄えていくことによって、正確性が高まっていきます。

■一流は“成功のイメージ”を蓄積している

難しいパッティングでも、脳がイメージしたような形でパッティングの成功を積み重ねていくと、カップとボールを見ただけでカップインが予測できる脳が生まれてきます。

逆に、「入りそうにないな」と感じた場合は、手もそのように動きますから失敗する確率が高くなります。こうした場合は、必ず動作を中止して仕切り直すべきです。

これはスポーツに限りません。一流のプロという人たちは、同じ作業を繰り返すことによって成功のイメージ記憶を蓄積し、それをいろいろな場面に当てはめています。だから、成功する確率が高まるのです。

また、多くの失敗をすることによって「これはうまくいかないな」と思ったときは強引に進めず、一歩引いて冷静に現状を見直すこともできるようになります。それによって失敗する確率を低く抑えることもできるわけです。

つまり、経験を蓄積することによって正確なイメージを描けるようになるのです。それゆえ、諦めずに続けることが潜在能力を発揮する脳を作るためには必要です。潜在能力を発揮するためには、とくに以上挙げた五つの項目をチェックするといいでしょう。

■潜在能力が最も引き出される原点は「人のため」

これらを考慮したうえで、潜在能力を最大限に高め、発揮するには何が大切なのでしょうか。

私の考えをひと言に凝縮すれば、「原点に従って全力投球する」ということになります。原点とは何でしょうか。人が目標に向かうとき、そこには原点があるはずです。○○という大会で優勝する、△△の試験に合格するといった目標に対して、そうしたいと思う大本が原点です。

人は往々にしてこの原点を外れ、自分の都合がいいように書き換えてしまいます。この相手に絶対に勝ちたい、このテストで周りよりいい点を取りたい、というように。しかし、既に述べた理由で、これでは脳の多様な領域が連動しなくなります。

潜在能力が最も引き出される原点にあるのは、「人のために生きる」ということです。具体的には「誰かに勝ちたい」ではなく「観た人が感動する勝ち方をしたい」と願うことです。

WBCの優勝トロフィーを手にする大谷=2023年3月22日(日本時間)、米マイアミ
写真提供=共同通信社
WBCの優勝トロフィーを手にする大谷=2023年3月22日(日本時間)、米マイアミ - 写真提供=共同通信社

2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)では侍ジャパンがこの通り、野球を通して感動を与えることを掲げて大会に臨み、見事世界一を掴みました。その極めつきは、大谷翔平選手が、決勝戦開始直前、チームメートに放ったひと言です。誰もが憧れる名選手揃いのアメリカ代表を相手にして、彼は何と言ったでしょうか。

■大谷翔平は“損得抜きで全力投球だった”

「憧れるのを、やめましょう」
「憧れてしまったら、超えられないので。僕らはきょうトップになるために来たので。きょう1日だけは、彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう」

これはまさに原点でものを見ている人の言葉です。原点に従って努力することで得られるものは、潜在能力を発揮するチャンスだけではありません。そういう人は誰からも愛され、運もよくなっていくことは明らかでしょう。

人のためになる原点に従って、損得抜きで全力投球する。全力投球を要する目標を掲げることもまた大切です。

30年前の医局での出来事は、絶対に患者さんを助けるという原点の下、桁違いの目標を共有したことがよかったのです。

かくいう私がこの大切さを痛感したきっかけは、3年前、82歳から立て続けに重病を患ったことでした。初めに心筋梗塞、次いで鬱血性心不全、腎不全、前立腺がん、糖尿病、そして眼底網膜出血。一度は心臓が止まり、なんとか意識が回復しました。

ところが、自分の能力の低下に驚かされました。ボールを投げれば的の下に当たる、字を書けばどことなく曲がっている、風景を絵に描いても木々の枝が寂しくなる……。

初めは病気と年齢のせいと諦めかけましたが、これまでの体験と研究を振り返る中で、それは思い込みだと気を取り直しました。そして、「自己保存の本能を克服し、潜在能力の高め方をお伝えしたい」というように、人のために生きたいという原点に従って全力で仕事を始めると、衰えたと思った能力が随分回復してきました。これは新たな発見でした。

■「いい年だからできない」は禁句

先に述べたように、「いい年だからできない」「年を取った」は潜在能力を消す禁句なのです。

私の体験を通しても言えるのは、脳は前進を求めているということです。しかしそのためには、こころを鍛えないといけません。

こころとは、脳に入った情報に気持ちが動き、感情が加わってから生まれてくるものです。本書でご紹介した言葉や考え方で美しい本能を引き出し、ダイナミック・センターコアを絶えずプラスに機能させる。それがこころを鍛える、こころを磨くということです。

シニアカップル
写真=iStock.com/Tomwang112
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomwang112

このことは、何も個人にとって重要なだけではありません。

来る2040年代、人口減少に加えてAIが現在より格段に発達し、イノベーションの時代が訪れると言われる中、次世代を担う子どもたちを、頭がよく誰からも愛され、運の強い素晴らしい子に育てることは急務です。そのための潜在能力を引き出す育脳がますます重要になってくるでしょう。変化の激しい時代ですが、失敗を恐れていては決して前進できません。失敗は当然と考え、原点に立ち返り、失敗をカバーするほどの全力投球をすれば潜在能力は高まっていきます。

■本当の優しさは「弱点を見つけ指摘すること」

子どもに潜在能力を生み出すためには、なんとしても全力投球の重要性を教えなくてはいけません。

そうしないと、本能に負けてすぐに手を抜いてしまいます。何度も言うように、潜在能力というのは、いざとなったら出てくるものではなくて、日常の何事にも全力投球することによって出てくるものなのです。

振り返ってみると、私の恩師の森安信雄先生(編集部注:筆者が日本大学医学部へ入学後に師事した当時の教授)が「自分に厳しく、人に厳しく」と言っていたことは確かな指摘でした。私はずっと「人に厳しく」というのは何かの間違いではないかと思っていたのですが、「人に厳しく」することは人に期待することなのです。

林成之『運を強くする潜在能力の鍛え方』(致知出版社)
林成之『運を強くする潜在能力の鍛え方』(致知出版社)

期待するからこそ、弱点を見つけ指摘してあげることができるのです。それが本人の潜在能力を高めることにも繋がります。それこそが本当の優しさと言っていいのかもれません。そういう優しさを持ちながら、未来を担う子どもたちを1人でも多く育てていきたいと思うのです。

人間の気持ちと本能が作用すると「こころ」が生まれる。パリオリンピックでは、美しい演技を提唱する選手が現れてきました。美しい気持ちと美しい本能は、美しい「こころ」を生み出してきます。美しいこころを持った人は、誰からも好かれ、素晴らしい運を掴むことになります。

オリンピックは、4年の一度の世界一を決めるスポーツ大会です。その中で、美しい演技で、美しいこころを生み出し、素晴らしい運をもたらすことは、最高のパフォーマンスです。

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林 成之(はやし・なりゆき)
日本大学名誉教授
昭和14年富山県生まれ。日本大学医学部、同大学大学院博士課程修了。マイアミ大学医学部、同大学救命救急センターに留学。平成3年日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター部長に就任。27年より同大名誉教授。脳科学をスポーツに応用し、北京オリンピック競泳日本代表の北島康介選手らの金メダル獲得に貢献した。著書に『〈勝負脳〉の鍛え方』(講談社現代新書)、『脳に悪い7つの習慣』(幻冬舎)など。

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(日本大学名誉教授 林 成之)

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