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豊田章男会長の戦略は正しかった…「パリ市内を走るタクシーの大半が日本のハイブリッド車」という衝撃事実

プレジデントオンライン / 2024年11月23日 7時15分

パリの街角に停車する「トヨタMIRAI」タクシー - 写真提供=筆者

10月、パリモーターショーが開催された。現地取材したマーケティング/ブランディングコンサルタントの山崎明さんは「市内を走るタクシーの変化に驚かされた。見た目の印象ではそのうち実に8割程度がトヨタのハイブリッド車なのだ。ここ数年EVシフトを強めてきた欧州メーカーはこれから大変な時期を過ごすことになる」という――。

■パリ市内を走るタクシーの多くがトヨタのハイブリッド車

2024年10月、パリモーターショーが開催されたので久しぶりにパリを訪れた。パリモーターショーを現地で見るのは2014年以来10年ぶりである。

パリの街を歩いていると、ある大きな変化に否応なく驚かされることになる。大都市ではどこでも街の景色の一部となる、タクシーの変化である。

パリのタクシーといえば、かつてはもちろんプジョーやシトロエンといったフランス車がほとんどだったが、今やフランス車のタクシーはほとんど走っていない。では何が多いのかといえば、現在パリ市内で走っているタクシーのほとんど(見た目の印象では8割ほど)はトヨタのハイブリッド車なのである!

フランス車だけでなく、ドイツ車のタクシーも少ない。これは後述するが現在ヨーロッパメーカーが直面する危機を象徴した出来事なのではないか。そして、2021年9月からトヨタの豊田章男会長がまったくぶれずに主張しているマルチパスウェイ戦略の正しさの証左でもある。

パリの大手タクシー会社G7の「カムリ」タクシー。同社は、運航する車両の85%以上がハイブリッドないしBEVであることを理由にサステイナブルな企業だとアピールしている。
写真提供=筆者
パリの大手タクシー会社G7の「カムリ」タクシー。同社は、運航する車両の85%以上がハイブリッドないしBEVであることを理由にサステイナブルな企業だとアピールしている。 - 写真提供=筆者

■RAV4、カローラ、カムリ、レクサスES……

車種的に最も多く感じられたのはRAV4で、次に目立ったのがカローラツーリング(ワゴン)である。それに続くのがカムリとレクサスESで、特にレクサスESは現地では6万ユーロ(約1000万円)と高価にもかかわらず、かなり頻繁に目にしたのは驚きだった。

トヨタが圧倒的に多いのは最も効率的なハイブリッドシステムを持っているからだと思われる。やはり使い勝手が良く、燃費性能が圧倒的に優れる点がハイブリッドの選ばれる理由だろう。

ガソリンさえ入れれば走れるという意味ではガソリン車と同じだし、燃費が良いのでガソリン補給のインターバルも伸びるし、そもそもガソリン代を節約できる。市内走行が多いタクシーには最適解なのだろう。それに環境に貢献しているというアピールもできる。

パリの大手タクシー会社G7はそのホームページで、車両の85%以上がハイブリッドないしBEVであることを理由にサステイナブルな企業であるとアピールしている。

■パリ市内にはなんと、トヨタMIRAIタクシーが1500台

トヨタの燃料電池車(FCEV)であるMIRAIのタクシーも、かなりの台数を目撃した。MIRAIは東京で見かける頻度より圧倒的に多い印象である。

これはパリオリンピックの公式スポンサーだったトヨタが500台のMIRAIを大会に提供したのだが、そのすべてをパリのタクシーに転用したのも一因である。

それ以前からトヨタは、フランスの水素供給業者と組んでMIRAIのタクシー整備を進めており、現在では1500台のMIRAIタクシーがパリを走っているという。

タクシーは毎日ほぼ同じエリアを走っているので、水素ステーションが使い勝手の良い場所にありさえすれば、水素ステーションの数はさほど問題にはならないのだろう。FCEVには航続距離の問題もなく、燃料補給も短い時間で済む。

■BEVタクシーが少ない当然の理由

ヨーロッパではここ数年、電気自動車(BEV)を普及させようと政府もメーカーも力を入れてきた。タクシーもBEV化を推進したはずなのだが、現在のパリではテスラのタクシーをたまに見かける程度で、BEVタクシーは非常に少ないという印象である。夏に訪れたミュンヘンでもBEVのタクシーはほとんど見なかった。

日本でも2010年に日産リーフが登場した時、国や自治体の補助金もあって東京、大阪、横浜などで相当数のリーフのタクシーが導入されたが、あっという間に淘汰された印象がある。

やはり航続距離に限界があり、充電に時間のかかるBEVはタクシーには向かないのであろう。

国策で強制的にBEV化を進めている北京のタクシーも、ドライバーの間では航続距離が短く充電に時間がかかるため不評だという(日経ビジネス記事)。

■伸び悩むヨーロッパBEV市場

タクシーだけでなく、最近多く報道されているようにヨーロッパのBEV市場は伸び悩んでいる。

フランスはドイツほど鮮明にBEVへの逆風は吹いておらず、BEVシェアの明確な低下傾向はないものの、2022年以降BEVシェアは15~20%程度の間で推移しており、増加の兆しは見えていない。

同様に、プラグインハイブリッド車(PHEV)のシェアもほとんど増えておらず10%未満にとどまっている。

価格が依然として高価なこと、自宅で充電できる人が限られること、急速充電スタンド整備がなかなか進まないことがBEVの普及がある一定以上進まない理由である。

電気自動車の充電ケーブル
写真=iStock.com/Mykola Pokhodzhay
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mykola Pokhodzhay

■急速充電スタンドの普及が進まない現実

特に急速充電スタンドは電気代に設備の設置・維持費用と業者の利益を乗せざるを得ないため、充電コストは家庭用の電気代より遥かに高くなってしまうという問題がある。そうである以上、BEVユーザーは極力自宅外での急速充電スタンドは使わないようにするため、需要が広がらないのである。

急速充電スタンドでの充電費用が嵩(かさ)むなら、自宅で充電できない人のBEV購入メリットはほとんどない。

Chargemap.comというサイトの情報によれば、現在パリには2833カ所の充電スタンドがあるが、ほとんどが7kW以下の普通充電器で、43kW以上の急速充電スタンドはたった75カ所しかないのである。

GoGoEVというサイトによれば、東京都には現在40kW以上の急速充電器が556カ所あるので、東京と比べてもかなり見劣りのする数である。

■「ビジネスとしてまったく成り立たない」

普通充電器の設置コストは安いが充電には丸一晩かかるため、自宅以外での充電目的では実用的ではない(旅先でのホテルでの充電くらいか)。

一方で、30分の充電で300km以上走れる程度の充電が可能な150kW級の高性能充電器の設置には日本円で千万単位のコストがかかるため、現状の利用状況ではビジネスとしてまったく成り立たないのである。

結局、自宅で充電でき、その電気の範囲でのみ車を使う、というユーザーしかBEVは選べないため、20%程度のシェアで頭打ちになっているのだ。

■ガソリン車、ディーゼル車が減って、ハイブリッド車が増えた

一方、フランスでは通常のガソリン車とディーゼル車の販売も減少し続けている。

2020年には50%近かったガソリン車は30%程度に、30%程度だったディーゼル車は10%以下にまで減少している。パリ市は2024年にディーゼル車の通行を禁止(これは2025年に延期された)、2030年にガソリン車の通行を禁止する方針をとっているので当然の成り行きではある。

それでは何が増えているのか。

2020年から現在までの間で圧倒的に増えているのがマイルドハイブリッドも含めたハイブリッド車で、今やフランス最大シェアを誇っているのである。

■PHEVではなくハイブリッド車である理由

ところで、ハイブリッドより環境に良いとされ、ガソリンで走ることもできるPHEVの普及がなぜ進まないのかと疑問を感じる方もいるだろう。

PHEVにも致命的な欠点がある。PHEVは「プラグイン」というだけあって充電しなければその環境性能を十分発揮することができないのだ。

もちろんハイブリッドモードで走ることはできるが、重いバッテリーを搭載しているためハイブリッドモードでは通常のハイブリッド車より燃費が悪化してしまうのである。

つまりPHEVを買って意味ある人は自宅での充電が可能という、BEVと同じ条件を満たす人に限られるのだ。

パリ市内を走る「レクサスES」タクシー
写真=iStock.com/MarioGuti
パリ市内を走る「レクサスES」タクシー(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/MarioGuti

■欧州メーカーの冬の時代は続く…

総合的に考えると、BEVやPHEV、FCEVも少しずつは増えるだろうが、しばらくの間は現状のインフラでもCO2の削減が確実に可能なハイブリッド車が市場のメインを占めることになるだろう。一気にすべてをゼロエミッション化するのは不可能だから、現実に即した最適解を地域やニーズに合わせてマルチで提供していくというトヨタをはじめとする日本メーカーの判断は圧倒的に正しかったのである。

この事実にようやく気がついた欧州メーカーは、これから大変な時期を過ごすことになるだろう。BEVに開発資源を集中すぎた欧州メーカーの多くはまともなハイブリッド技術を持っていないのだ。

現在、トヨタやホンダのハイブリッドに対抗できる性能のハイブリッド技術を市販化できている欧州メーカーはルノーだけで、他社は簡易的な48Vマイルドハイブリッドに留まっている(そのため欧州製PHEVの車種は多いが、ハイブリッドモードの燃費は通常のガソリン車と大差ないものが多い)。

パリモーターショーでは今までBEV一本槍だった中国メーカーも日本メーカーに近いレベルのフルハイブリッド技術を搭載したPHEVを展示していた。これから欧州メーカーがどれだけ巻き返せるか、注目である。

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山崎 明(やまざき・あきら)
マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)

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