何かと「大谷翔平のような」とたとえるのは三流の行為…そのとき一流が例に挙げる"鉄板事例"の共通項
プレジデントオンライン / 2024年11月21日 15時15分
※本稿は、鶴野充茂『上手に「説明できる人」と「できない人」の習慣』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■大谷翔平を例にあげても伝わらないことを想像できるか
できない人は有名人を例にする。
自分の気持ちを伝えるとき、有名人を例にあげてその人が体験した時の様子を使って表現する人が少なくありません。
しかし、ここに伝達ミスの落とし穴が潜んでいるのです。
たとえば、大事なプレゼンが目前に迫ってきた様子をこう伝えたとします。
伝えた本人としては、大谷選手がメジャーリーグの舞台に立つために、小さい頃からプライベートの時間をすべて練習にあてるほどの努力をしてきた様子をありありとイメージしています。
おそらく、「こんなにも今回のプレゼンに対して、努力をしてきたんだ!」
という思いをわかってもらいたいから、大谷選手を例にあげたのでしょう。
しかし、話を聞いている相手が必ずしも大谷選手に関心を持っているわけではありません。
大谷選手のことを知ってはいるものの、大谷選手に対して特別な思い入れがなく、メジャーリーグに挑戦するまでの過程など、想像すらできないという人も多いでしょう。人によって思い入れには大きな差があります。
また、特定の芸能人やスポーツ選手に関しては、人によって好き嫌いが分かれやすいということも見逃してはなりません。
あまり関心のない人のことを例にとってあげられても、鮮明にイメージすることはまず不可能ですし、人によってはストレスに感じることもあるでしょう。
説明が下手な人はわかりやすいと思って有名人の名前を出したことが、かえって相手を困らせる結果になっていることに気づかないのです。
■多くの人が人生の中で一度は経験したことは鉄板の共通項
一方、説明が上手な人は誰にでも体験したことがありそうなものか、イメージしやすいものを例に使います。
たとえば、先ほどの例をあげると、次のような感じです。
今までの人生の中で、面接をしてこなかったという人は、ほとんどいないのではないでしょうか?
特に初めての面接は、緊張のあまり、普段の自分を出せなかった人も多いでしょう。緊張したことがないという人でも、実際に面接の場で他の人が緊張している様子を見たことがあるかと思います。
多くの人が人生の中で一度は経験したこと、つまり「あるあるネタ」を例に使うと、鮮明に想像してくれるでしょう。好き嫌いなどの感情が入ることもまずありません。
■「あるあるネタ」は漫才やコントでもよく使われる
「宇宙飛行士の野口聡一さんが地球に無事帰還した時のような安堵感だろう」というのは、相手が野口さんについての情報を詳しく知っていないと通じません。
一方で、「ゲリラ豪雨に見舞われたとき、折りたたみ傘がカバンの中に入っていたことに気づいて、ホッとする感じだよ」というのはいかがでしょう。
「あるある」「わかる!」と感じ、どのくらい安心したのかを共感してくれるでしょう。
「あの時は置き傘していて、助かったよな」と場合によっては、個人的なエピソードを思い出してくれるかもしれません。少なくとも状況をイメージすることができるので、聞き手にストレスを与えずに共有できるはずです。
また、この「あるあるネタ」はビジネスシーンや日常会話だけではなく、漫才やコントなどのお笑いでもよく使われています。つい日常でやりがちなものの、冷静に考えたらおかしな行動などを「あるあるネタ」にして、笑いをとっている様子をよく見ます。
「つい、そうしてしまうんだよね」「なんかそんな人、見たことがある」など、ありありとイメージができるところが面白さ、そして伝える上での便利さの秘訣でもあるのです。
説明上手になるためにも、日頃から「あるあるネタ」を収集していきましょう。
■「アジェンダ」は議事録でも予定でもない
できない人はカタカナを使う。
「今日のミーティングのアジェンダをまとめてくれた?」
「いえ、まだです。少々お待ちください。」
部下は、質問をすることなく、その日の朝に行われたミーティングの議事録を、皆に誤解が出ないよう丁寧にまとめて上司に提出しました。
ところが、「これはアジェンダじゃない」と上司から一喝。
部下はなぜ上司に叱られたのかがわからず、ただ呆然とするだけです。
あなたの職場でこういった伝達ミスが起こることはありませんか?
アジェンダは本来、「議題」という意味で、「議事録」のことでも「予定」「スケジュール」のことでもありません。
つまり、上司はそもそもすでに終わった朝のミーティングのことを言いたいわけではなく、これから後に予定されているミーティングが円滑に進むために、そのミーティングの「議題」をいくつかまとめておいてくれと言いたかったのです。
こういったカタカナ言葉は、学校教育で教えてもらえるものではありません。多くの人は、辞書で調べたわけでもなく、なんとなく「こういう意味だろう」と捉えていることかと思います。
■簡単なカタカナ言葉で大誤解を生む可能性も
説明が下手な人は、カタカナ語は厳密な意味を伝えにくい面があると知らず、相手がそのカタカナ語を誤解していることに気付きません。
その結果、「伝わらなかった」という余計なストレスを抱えることになるのです。
・「クレーム」という言葉は、本来「不満や苦情を申し立てること」という意味だが、顧客からの要望や問い合わせのことを「クレーム」と表現している人もいる
・「コンセンサス」という言葉は、関係者間で意見が一致すること、合意のことを言うが、多数決や多数派の意見を「コンセンサス」と認識している人もいる
・「リスク」という言葉は、本来の「危険性」「不確実性」ではなく、「問題」や「課題」という意味で捉えている人もいる
「クレーム」など、簡単なカタカナ言葉だから相手もわかるだろうと思っていても、実際は誤解している可能性がゼロではありません。
■説明上手が使う「ことわざ」の効果は絶大
そこで、説明上手になるには、なるべくカタカナ語を避けて、「ことわざ」をうまく使いましょう。「ことわざですか?」と驚くかもしれませんが、効果は絶大です。
↓
○「このプロジェクトは、先を見据えて、継続的に発展できるようにしなければなりません。急がば回れ、です。」
×「チームメンバー間のコミュニケーションとコラボレーションを促進するために、定期的なタッチポイントを設けましょう。」
↓
○「チームメンバー同士の意思疎通と協力を深めるために、定期的に顔を合わせる機会を作りましょう。三人寄れば文殊の知恵、と言いますから。」
確かに、カタカナ語ならば端的にイメージが伝わりやすいと思うかもしれませんが、そのカタカナ語を相手も同じようなイメージで理解しているかはわかりません。
一方、ことわざは、慣用句でありつつ、その前後に別の表現が来やすいため、受け取る側も前後の文脈から意味を確認しやすい面があります。長く残る言葉には理由があるのです。
自分が思っていることを正確に伝えることに注意を払いましょう。
■遅刻したら端的に相手が聞きたいことをまとめて報告する
できない人は言い訳から入る。
あなたは新入社員で、始業の時間から30分遅れて、会社に到着したとします。
「なぜ、遅刻したんだ」と上司に問われたとき、どのように説明するでしょうか?
「実は今日、目覚ましが鳴らなかったんです。それで、家に出るのが遅くなり……申し訳ありません、遅刻してしまいました。」
もし、このように言い訳を伝えようと考えるとしたら、説明が下手と思われる可能性が高いので、違う言い方を考えることをオススメします。
上司からすれば、もちろん言い訳を聞きたいわけではありません。聞きたくもない話を聞かされるのはストレスしかなく、うんざりされる可能性があります。
この場合、上司が聞きたいのは「遅刻の理由」と「今後遅刻しないための改善案」ではないでしょうか。
したがって、
「申し訳ありません、今日は家を出遅れて遅刻してしまいました。今後は余裕を持って行動し、遅刻のないようにいたします。」
このように、端的に相手が聞きたいことをまとめて報告することが適切です。
■相手が聞きたい情報とは、間違いなく「結論」
仕事をしていると、何かやむなき事情で進捗が滞ることがあります。上司に仕事の進捗が遅れていることを伝えるとき、つい、言い訳をして自分をかばいたくなる気持ちもわからないでもありません。
しかし、言い訳は相手が聞きたい情報ではないのです。
説明が下手な人は、仕事の進捗がなぜ遅れているかを延々と説明して、無意識のうちに相手をイライラとさせてしまいます。
一方、説明上手な人は、相手が何を聞きたいかに意識を向けて、相手が聞きたい情報から話します。
相手が聞きたい情報とは、間違いなく「結論」です。相手は、結論を待たされている時間は無駄だと考えています。仕事の進捗が遅れているのなら、遅れている現状をまず説明するといいでしょう。
説明上手な人は、仕事の進捗報告として「今、どんな状況なのか」から話を始めます。聞き手がどんな反応をするかもわかっていますから、その流れで、そうした状況になっている「理由」と、この後どうするかという「対応策」を語ります。
あくまで説明を受けた聞き手が次の手を判断できるよう、材料を提供することを心がけているのです。
たとえば、任されたプロジェクトに自信がないとしましょう。
×Aさん「このプロジェクト、私にはあまり経験がないんです。だから、完璧にはできないかもしれません。でも、頑張ります。」
■聞き手が何を聞こうとしているのかに集中する
このように説明してしまうと、聞き手に「経験がないから完璧にできないと言い訳をしているんだな」と思われかねません。
一方、次のように説明するとどうでしょう。
○Bさん「このプロジェクトに取り組むにあたり、まだ経験が浅い部分もありますが、しっかりと調査・研究を行い、最善を尽くしてまいります。ご指導のほど、よろしくお願いいたします。」
経験がないことを伝えつつも、調査と研究をすることと指導してもらいたいという「対応策」を伝えています。
プロジェクトを任せる人としてもAさんよりもBさんのほうが、やりとりがスムーズに運びそうだと感じるのではないでしょうか。
聞き手が何を聞こうとしているのか、まずはそこに集中して説明をしましょう。
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ビーンスター 代表取締役、広報アドバイザー
社会構想大学院大学客員教授、日本広報学会常任理事。コミュニケーションの専門家として、国内外数百社の経営者や政治家、医師・弁護士など専門家向けに広報アドバイザー、トレーナーとして活動するほか、東京理科大学オープンカレッジなどで説明力や文章力を高める講座を提供するなど広くビジネスパーソンに向けてコミュニケーションを教えてきた。東日本大震災後に国会内に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)でデジタル・コミュニケーションを統括、全国がん登録制度の発足時にはPR責任者を務めるなど、全国規模のコミュニケーションプログラムやPRキャンペーンにも携わる。水循環基本法フォローアップ委員会委員。公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会(PRSJ)元理事。筑波大学(心理学)、米コロンビア大学院(国際広報)卒。
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(ビーンスター 代表取締役、広報アドバイザー 鶴野 充茂)
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