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玉木雄一郎氏よ、ありがとう…あなたのおかげで政治家にとって"本当に大切なもの"が明らかになりました

プレジデントオンライン / 2024年11月19日 7時15分

街頭演説で謝罪する国民民主党の玉木雄一郎代表=2024年11月11日、東京・有楽町

これから日本の政治はどうなるのか。ジャーナリストの鮫島浩さんは「政治家が不倫スキャンダルで失脚する光景を何度も見せつけられてきたが、今回はやや様相が違う。『不倫より減税』という擁護論がSNSで広まった。舞台回しを担った党ナンバー2の榛葉幹事長の存在が光る」という――。

■「不倫より減税」という擁護論が圧倒

政界の主役に躍り出た国民民主党の玉木雄一郎代表が、不倫スキャンダルでいきなり転んだ。総選挙で手取りを増やす「減税」を掲げて躍進し、公約の実現を自公与党に迫る矢先、冷や水を浴びせられた格好だ。

玉木氏が総選挙前の7月に元グラビアアイドルと高松市のホテルで密かに落ち合う様子や、総選挙直後に東京・新宿で密会する一部始終をカメラで捕らえた週刊誌の不倫スクープはたしかに衝撃的だった。玉木氏は即日に緊急記者会見をして事実関係を認め謝罪する一方、所得税を課せられる「年収103万円の壁」を「178万円」に引き上げて手取りを増やすという目玉公約を実現させる決意を改めて表明し、代表に踏みとどまった。

東京育ちの妻を地元・香川で自らの両親と同居させたうえ、選挙区でも奔走させてきたのに、それを裏切る背信行為に批判が噴出したのは当然だろう。まして総選挙前後の重要局面である。停滞する自公政権を突き動かす新たなスターの誕生に期待した多くの有権者を落胆させたのは間違いない。

総選挙で議席を4倍に増やして政界のキャスティングボートを握った国民民主党が玉木氏の不倫スキャンダルで失速すれば、過半数割れした自公政権に与党でも野党でもない立場から次々と政策を要求してのませていく新たな政策決定システムはあっけなく崩壊してしまう。

政治家が不倫スキャンダルで失脚する――。これまで何度も見せつけられてきた光景が再び繰り返されるのか。

ところが今回はやや様相が違う。たしかに玉木氏の不倫にはマスコミを中心に風当たりが強い。けれどもネットでは若者・現役世代を中心に「不倫より減税」という擁護論が圧倒し、世論は真二つに割れているのだ。

■「政治家としての責務」か「プライベートなスキャンダル」

玉木氏は総選挙後、「103万円の壁」を「178万円」へ引き上げる公約について「100%これをのまないと1ミリでも変えたらダメだという気はない。交渉ですから」と柔軟な姿勢を示していた。これを受けて自民党には140万~150万円程度への引き上げで折り合う妥協案が浮上していた。ところが玉木氏は不倫スキャンダル発覚後、一転して「譲るつもりはまったくない」「必死の交渉が始まっていく」と態度を硬化させた。公約実現を理由に代表に踏みとどまった以上、一歩も引けなくなったのだ。

103万円が178万円へ引き上げられれば、年収300万円の人で手取りが11.3万円増える。年収600万円なら15.2万円増だ。30年以上にわたる日本経済の低迷にあえぐ今の若者・現役世代が政治家に求めるのは、倫理観よりも実現力なのだろう。

玉木氏が不倫スキャンダルを乗り越え、「178万円」への引き上げを実現して勢いを取り戻せば、「政治家の不倫史」に新たな1ページを刻むことになる。政治家に求められる「男女関係の倫理基準」は大幅に緩和され、「政治家としての責務」と「プライベートなスキャンダル」を切り分ける「新たな判例」となるかもしれない。

■香川2区の玉木氏、1区の小川淳也氏

香川2区選出の玉木氏は、隣の香川1区選出である立憲民主党の小川淳也幹事長と、とかく比較されてきた。玉木氏は財務省出身、小川氏は総務省出身。年齢は玉木氏が二つ上、初当選は小川氏が先。まさに水と油。民主党時代からお互いに強烈なライバル心を秘めてきた。

小川氏は、大島新監督のドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』『香川1区』で、清濁をあわせ呑めない誠実で潔癖な理想家タイプの政治家として描かれ、全国的な知名度を上げた。とくに高齢世代を中心としたリベラル層に人気を広げた。今年9月の立憲民主党代表選への出馬を探ったが、推薦人を集めることができずに見送ったところ、党の刷新感を求める野田佳彦代表に一本釣りされて幹事長に抜擢された。

玉木氏は、先輩を押し退けても主役をとりに行く「ワンマンプレー」が時として反感を買い、立憲の野田代表や枝野幸男元代表ら「上の世代」に睨まれてきた。国民民主党の大半が野党第一党の立憲民主党に合流した際も、袂を分かって国民民主党に居残った経緯がある。小川氏が香川1区で敗れて比例復活を重ねたのと対照的に、玉木氏は初当選後は香川2区で勝ち続けている。選挙基盤の強さなら玉木氏に軍配があがる。

国会議事堂
写真=iStock.com/CHUNYIP WONG
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CHUNYIP WONG

■公約を実現できなければ…

ちなみに私は香川県立高松高校で小川氏と同級生だった。小川氏の妻も秘書も同級生である。彼は当時から堅物だった。玉木氏は高松高校の2つ上の先輩で、私の姉と同学年だった。姉によると、当時から相当な自信家で「玉キング」と呼ばれていたそうだ。

政治記者としても同郷の知人としても、初当選以来、双方を長く眺めてきたが、ふたりの相性はお世辞にも良いとは言えない。民主党時代から衝突を避ける「大人の対応」を続けてきたが、一方は野党第一党の幹事長に就任し、もう一方は野党第三党の代表として、ともに自公過半数割れの難解な政局に立ち向かう今、二人の政治観の違いは覆い隠し難くなっている。

その重要局面で玉木氏を直撃した不倫スキャンダル。仮にこれが誠実さを売りにする小川氏だったら一撃で失脚だったろう。

玉木氏が今後、不倫スキャンダルをかわし切れるかどうかは見通せない。最終的には来年夏の参院選で有権者の審判が下る。とりあえず、一撃でノックアウトの事態は回避した。少なくともネットの若者・現役世代の多くは政治家に対し、私生活での潔癖さよりも自分たちの手取りを増やしてくれる実現力を期待している。この公約を実現できなければ、期待は一瞬にして失望に変わり、不倫スキャンダルへの批判が再燃する可能性もある。

玉木氏がこれを乗り越えて公約を実現し、打たれ強い政治家として大成していくのか。小川氏が誠実路線をさらに磨いて出世していくのか。二人の政治家の行く末は、日本の有権者が期待する政治家像を映し出しているといえ、とても興味深い。

■「趣味は玉木雄一郎」榛葉氏の危機管理対応が光る

政界に敵が多い玉木氏の唯一無二の側近が、2歳年上の榛葉賀津也幹事長だ。今回の不倫スキャンダルで一発退場を免れたのも、榛葉氏の危機管理対応が奏功した結果といえる。

榛葉賀津也氏
榛葉賀津也氏(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

榛葉氏は参院静岡選挙区で当選4回。県内の高校を卒業した後、米国やイスラエルへの留学を経て帰郷し、民主党公認で参院議員になった。野党再編のなかで国民民主党に残り、諸先輩に疎まれてきた玉木氏の最側近の座をいつの間にか射止めていた。「趣味は玉木雄一郎」と公言する一方、静岡の自宅ではヤギを飼っている。変わり種の政治家である。

国民民主党の大半が立憲民主党に合流した後、党内では前原誠司元外相や古川元久元経済財政相らベテラン勢が幅を利かせていた。そのなかで代表の玉木氏が最も信頼を寄せたのが榛葉氏だった。前原氏が玉木氏に代表選で敗れて離党した後、榛葉氏の党内基盤はますます強固になっていった。

榛葉氏は押しが強い。記者の質問に猛然と反論してやり込める毒舌の記者会見は永田町界隈では知られていたが、一般の知名度は決して高くはなかった。その榛葉氏が株を上げたのが、玉木氏の不倫スキャンダルへの対応だった。瀬戸際に追い詰められた玉木代表を守る兄貴分の幹事長として、俄然注目を集めたのだ。

■「逆風下で代表を守る幹事長」として称賛される

不倫スキャンダルが報道された日、榛葉氏は玉木氏にただちに謝罪会見を開かせて、代表を続投するかどうかは「仲間の意見を聞いて決める」と言わせた。榛葉氏は記者団を集め、玉木氏から事前に不倫スキャンダルを聞かされて「何をやっているんだ。この大事なときに、しっかりしてほしい」と叱責したと明かす一方、「党のために、私自身が玉木氏を今は支える時だ」と続投の流れをつくった。

その夜、東京・有楽町の街頭に玉木氏とともに現れ、我が事のように神妙な表情で頭を下げる一方、玉木氏の肩を両手でパンパンと叩いて励ましながら釈明演説を促す動画がネットで拡散し、「逆風下で代表を守る幹事長」として称賛された。

有権者に頭を下げる玉木氏・榛葉氏
有権者に頭を下げる玉木氏・榛葉氏(国民民主党YouTubeより)

玉木氏の続投が党内で了承されると、党の倫理委員会に不倫スキャンダルの調査を委任。調査中、代表権限は制限されるのかと記者会見で追及された時も「本人は相当反対しているから、少し自主的に静かになるのではないか。役職としては、なんら制限はない」と巧みにかわしたのである。

今回の総選挙躍進も玉木氏と榛葉氏が二人三脚で進めたユーチューブ戦略が最大の勝因であろう。国民民主党は大企業系労組の組織票に支えられてきたが、全国の比例票を前回の2.4倍の617万票まで飛躍させた最大の原動力は、玉木氏が自ら政治や政策を解説する『たまきチャンネル』(11月18日現在で登録者数約45万人)が若者・現役世代に支持を広げたことだ。

■YouTuberとして開花

私もユーチューブ『SAMEJIMA TIMES』(登録者数12.7万人)で政治解説を連日配信しているが、ユーチューバーの視点からみても『たまきチャンネル』はとてもわかりやすい。政治家のSNSは自分の主張を一方的に流して退屈な内容が圧倒的に多いのだが、玉木氏は視聴者が何を知りたいのか、何に悩んでいるのかを吸い上げ、その疑問に明快に答えていくスタイルが確立している。

自分が言いたいことを一方通行で発信するのではなく、常にスマホを手にネット世論に耳を傾け、ネットユーザーのニーズをつかみ、それを自らの番組に反映させていく。だからこそ登録者数が鰻登りに増えたのだ。街頭演説に立っても、街ゆく若者に「チャンネル登録してね」と気さくに声をかける姿勢も好感度を高めている。政治家より先にユーチューバーとして飛躍したといってよい。

所得税減税で手取りを増やすという公約も、机上で考えた経済理論ではなく、ユーチューブを通じて「大衆の願い」をつかんだ結果といえる。だからこそ総選挙で爆発的に支持を広げたのだ。

ちなみに今回の総選挙で躍進したもうひとつの野党・れいわ新選組も、カリスマ党首の山本太郎氏のもと「減税」を掲げ「ユーチューブ戦略」に力を入れた。自民党と立憲民主党の二大政党がともに「増税志向」とみられ、テレビや新聞など既存メディアを中心とした広報戦略を進めたのとは対照的だ。

■玉木氏と榛葉氏の「とぶネット選挙」

玉木氏とユーチューブ戦略をともに練り上げたのが榛葉氏である。榛葉氏も「趣味は玉木雄一郎」というように動画で短いフレーズの言葉を連発し、視聴者の興味を一瞬でつかむのが巧みだ。ふたりでどんな動画が拡散するのか、分析を重ねたに違いない。

かつては選挙区を駆けずり回る「どぶ板選挙」が当選への必須条件だった。今はスマホを手放さず、ネットの世界を駆け巡る「とぶネット選挙」の時代だ。ネットから有権者のニーズをいち早く汲み取り、公約に反映させ、広報活動を展開する。

数年前までユーチューブでの影響力は選挙の得票に結びつかないと言われた。しかし今夏の東京都知事選挙で石丸伸二氏が大躍進し、ユーチューブでの影響力が得票に直結するとの見方が一気に広がった。9月の自民党総裁選の第一回投票でトップだった高市早苗氏も、自民党内で当初は泡沫候補扱いされたが、ユーチューブなどネット戦略を大展開して党員投票で躍進し、あとから国会議員票が乗ってきたのである。

11月17日投開票の兵庫県知事選で、マスコミから「パワハラ知事」「おねだり知事」と批判され、県議会に全会一致で不信任決議案を可決され失職した斎藤元彦氏が、ユーチューブなどネットで支持を広げて大逆転勝利したのも、「どぶネット選挙」時代の到来を印象づける出来事だった。

永田町の多数派工作よりもユーチューブを駆使して総選挙の躍進につなげた玉木氏と榛葉氏は「新世代の代表・幹事長コンビ」といえるだろう。

■他党にはない「二枚看板体制」

自民党は総裁が首相に就任するため、ナンバー2の幹事長が選挙や国会、人事、政治資金などの党務全般を取り仕切る。総裁と幹事長はライバル関係にあることも少なくない。岸田文雄前首相と茂木敏充前幹事長はまさに犬猿の仲だった。その代わりに内閣の要である官房長官に首相最側近が就くことが多い。

玉木代表と榛葉幹事長の関係は「首相と官房長官」に近いといえる(石破茂首相は党内基盤が極めて弱く、党内に幅広い人脈を持つ森山裕幹事長の尻に敷かれている。岸田前首相にも依存しており、岸田政権で官房長官を務めた岸田派ナンバー2の林芳正氏を続投させた)。

立憲民主党の野田代表は党執行部の刷新感を演出するため、誠実さを売りにする小川氏を幹事長に抜擢する一方、財務省出身で最側近の大串博志氏を代表代行(党務総括)兼選挙対策委員長に充てた。小川幹事長の役割はテレビ出演や記者会見に限定し、選挙や人事などの実権は渡さず、野田代表と大串代表代行が握っている。玉木代表と榛葉幹事長の関係とは大違いだ。

日本維新の会は総選挙惨敗で馬場伸幸代表が退くことになった。馬場体制を支えてきた藤田文武幹事長は連帯責任をとるとして後継を選ぶ代表選に出馬しない。馬場氏と藤田氏は16歳も離れており、主従関係は明確だった。

むしろ玉木代表と榛葉幹事長の関係に近いのは、維新を旗揚げした当初の橋下徹代表と松井一郎幹事長の関係だろう。橋下氏は大阪府知事として高い人気を誇ったが、党内調整や政界工作は自民党出身で5歳上の松井氏が担い、強烈なタッグを組んだ。橋下・松井体制で維新は一気に飛躍したのである。両氏が去った後の維新は坂道を転がり落ちるかのようだ。

国民民主党の一枚看板である玉木氏を不倫スキャンダルが直撃したことで、榛葉氏の存在感がにわかに増した。榛葉氏が今後、玉木氏を飛び越して「政局のキーパーソン」に躍り出る可能性もある。国民民主党は期せずして「二枚看板体制」を手に入れた。年末の予算編成・税制改正で「178万円」を勝ち取れば「災い転じて福となす」となるかもしれない。

上空から見た国会議事堂
写真=iStock.com/f18studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/f18studio

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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