見ず知らずの女性を襲った男は遺体を風呂場に運び…犯人のデジカメに残っていたあまりにおぞましい行為
プレジデントオンライン / 2024年11月22日 18時15分
■「島根女子大生殺人事件」のまさかの結末
そのニュースを知ったとき、ああ、なんでこんな結末になってしまったのか、と愕然とした――。
遺体が発見されてから約7年後となる2016年12月のことだ。
〈直後に事故死の男が関与か〉として、この事件の犯人であるYという男がすでに死亡していたことが報じられたのである。
ここで出てくる犯人Yについては後述するが、「島根女子大生殺人事件」と称されるこの事件は、09年11月6日に広島県北広島町にある臥龍山(標高1223m)の8合目崖下において、そこから直線距離で約25キロ離れた、島根県浜田市にある島根県立大学1年生・Mさん(当時19歳)の、切断された遺体が発見されたことから始まる。
同年10月26日の夜に、島根県浜田市のアルバイト先を出たのを最後に、行方がわからなくなったMさんについて、島根県警が公開捜査を行っており、広島県内で発見された遺体のDNA型鑑定によって、それがMさんだと判明したことから、直ちに島根県警と広島県警による合同捜査本部が設置された。
■「傷つけられかたが尋常ではなかった」
なお、遺体は一度に全部が発見されたわけではなかった。キノコ狩りのために山に入った男性によって、6日にまず頭部が発見され、その後の警察による捜索により、7日に左大腿骨の一部が、8日に四肢の切断された胴体部分、9日に左足首が見つかる。そして19日に右足の親指の爪1点と爪とみられる破片4点、それに肉片と骨片が発見されている。
当時、広島県警担当記者は次のように語っていた。
「遺体の顔には激しく殴打された痕跡があり、首には紐状のもので絞められた痕が残っていました。その他、大腿骨部分は肉がそぎ落とされ、胴体部分は火に焙られたような痕があるなど、遺体の傷つけられかたが尋常ではなかった。そのため犯人については、猟奇性のある人物との見方がされています」
遺体が女子大生のMさんであると判明したことを受けて、彼女が行方不明となった島根県浜田市に入った私は、アルバイト先のショッピングセンター、住んでいた大学からさほど離れていない寮、遺体発見現場の臥龍山という3カ所を中心に回る。
■アルバイト先の友人の証言
当初は遺体の損傷がひどいため、Mさんに対して“怨みを抱く人物”ではないかとの見方もされていたが、それに該当する状況や相手はいない。また、当日の彼女が帰宅するため通るルートに防犯カメラは少なく、彼女を捉えた最後の画像は、10月26日21時15分に、アルバイト先のショッピングセンターの従業員出入り口から出ていく姿だった。
Mさんがアルバイトをしていたのは、このショッピングセンター内のアイスクリーム店である。行方不明となった日に同店で彼女と2人きりで勤務していた、同じ大学の女子大生Aさんに、私は話を聞いている。
Aさんによれば、その日、Mさんの様子にとくに変化はなく、帰るときも、誰かと待ち合わせているような様子はなかったという。また、Mさんから交際相手がいるとの話は聞いていないと語った。
捜査の進捗状況について目ぼしい話が出てこないなか、11月30日には大学の寮に近い側溝で、Mさんのものとみられる左足の靴が発見される。現在、この靴はMさんのものだとは確認されていないとの説明に変わっているが、当時はMさんのもので間違いないと、捜査員が島根県警担当記者に語っており、発見場所が彼女の行方不明直後に捜索された場所であったことから、犯人が捜査のかく乱を狙って、後になってそこに置いたものでは、という話になっていた。こうした変遷からも、当時の捜査がいかに迷走していたかということが窺える。
■猟師? 医師? ロシアの特殊部隊?
彼女の交友関係についての捜査が早々に手詰まりとなったことで、捜査本部は遺体の解体方法などから、犯人が猟奇的な趣向を持つ人物であるとのプロファイル結果をもとに、それに近しい人物を中心に探していた。
元捜査関係者は語る。
「周辺のレンタルビデオ店で“ホラー映画を借りた人物”や、刃物店やホームセンターで“鋭利な刃物を購入した人物”を捜すようになりました。浜田市内から臥龍山に向かう途中にあるNシステム(自動車ナンバー自動読み取り装置)に記録されていた車両の持ち主への捜査はもちろんのこと、遺体があまりにも鮮やかに解体されていたため、犯人は土地勘があって解体方法を知る“猟師”や、解剖の知識に長けた“医療関係者”、さらにはロシアの“特殊部隊関係者”説まで出ていました。そんな思い込みが捜査の偏りを生み、犯人に辿り着けなかった要因との指摘があります」
そして事件発覚から7年を経た16年の夏頃のこと。約40万件といわれるNシステムの記録を細かく解析していた、島根県警の捜査員が、Mさんが行方不明になった時期の前後から、浜田市内を頻繁に出入りする車両があることに気付くのだ。
■急浮上する男の正体
調べを進めていくと、山口県下関市にある住宅設備会社で働いていたYという男に辿り着いた。Yは事件発生の09年当時、実家のある下関市を離れ、浜田市に隣接する島根県益田市にある一軒家を、勤務先の社宅兼事務所にして住んでいた。
ただ彼は、Mさんの遺体が発見された2日後の09年11月8日に、山口県の中国自動車道で単独事故を起こして、同乗していた母親とともに死亡していたのである。享年は33歳だった。
Yについての調べを進めたところ、彼には性犯罪の前科があることが判明する。28歳だった04年8月に、東京都杉並区の路上で連続して2人の女性をナイフで脅して押し倒しており、その半年前にも福岡県北九州市で、通行中の女性に刃物を突き付けて体を触るなどしていた。これら計3件の強制わいせつ事件の罪に問われ、懲役3年6月の実刑判決を受け、服役した過去があったのである。
関係先への捜査が行われるようになったのは16年の夏頃からで、Yの勤務先の本社などには捜査員が赴いていた。
さらに、同年の初秋には、Yが住んでいた益田市にある一軒家が、異例ともいえる10日間以上の家宅捜索を受けており、この段階で彼の容疑は固まっていたとみられる。そのことは近隣のガソリンスタンドに、捜査員がYの写真を持って現れ、給油記録の閲覧を求めていたことからも明らかだ。
■デジカメに残されていたデータ
16年12月20日に合同捜査本部が置かれていた島根県警浜田署で開かれた記者会見では、Yのものだとされるデジカメと、2ギガバイトのUSBメモリーが関係者により任意提出されていたことが説明された。
それらのなかに残されていたデータはともに静止画で、デジカメに38枚の画像と、USBメモリーに19枚の画像の計57枚の画像が入っており、そのうち重複分を差し引くと、異なる40枚の画像が存在するとのことだった。
画像はいずれもすぐには見られない状態になっていたとの説明から、データの復元、もしくは暗号化キーの解読がされたものだと推測される。
それら40枚の画像には、09年10月26日深夜から翌27日未明にかけて、約1時間半の範囲内で撮影された、Mさんの遺体の損壊前後の写真が収められており、風呂場での解体の様子や、解体に使用した文化包丁、さらには解体作業をするY自身の足などが写り込んでいた。
そうしたことから、Yは26日21時半頃に帰宅途中だった“見ず知らずの”Mさんを、彼女の靴が落ちていた、寮に近い側溝付近で、待ち伏せに使った車内へと引きずり込んで殺害。その夜のうちに、彼女の遺体を当時住んでいた益田市の一軒家にある風呂場で、解体しながら撮影していたことが推測される。
■交通事故死の意味
ここであえて“見ず知らずの”としたのは、Yの周辺取材を重ねても、彼とMさんとの間に接点が見出せないからだ。そして靴が発見された側溝があるのは、夜になると薄暗く、車での待ち伏せが可能なバイパス脇の側道。そこと交差するMさんが利用する道は、街中から丘陵にある大学方面へ向かう際の、ショートカットのルートだった。つまり、大学の近くに住む学生が、多少暗くとも、街中から帰る際に利用する可能性のある道である。
ここで驚かされるのが、Yによる殺害の実行から遺体の解体に向かう決断が、短時間でなされたことである。しかも、解体の場面を画像に残すというのは、当初から撮影を目的としていたとすら考えられる行動だった。
死人に口なしであり、Yに犯行動機を尋ねることはかなわない。彼の死については、遺棄したMさんの遺体が早期に発見され、すぐに身元も明らかになったことから、自身に捜査の手が伸びるのを恐れたことによる、母親を道連れにした自殺とみられている。
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ノンフィクションライター
1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てノンフィクションライターに。「戦場から風俗まで」をテーマに北九州監禁殺人事件、アフガニスタン内戦、東日本大震災などを取材し、週刊誌や月刊誌を中心に執筆。著作に『完全犯罪捜査マニュアル』『東京二重生活』『風俗ライター、戦場へ行く』などがある。
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(ノンフィクションライター 小野 一光)
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