「出品者の泣き寝入り」を無視し続けたツケである…「#メルカリ詐欺」の炎上に油を注いだ"メルカリの大悪手"
プレジデントオンライン / 2024年11月19日 7時15分
■メルカリ「返品トラブル」が大炎上
フリマアプリサービス「メルカリ」が大炎上している。きっかけは、11月11日、ある出品者のX(旧Twitter)への下記のような投稿だった。
さらに、この出品者がメルカリの事務局に相談をしたところ、「購入者が正しい商品を返送したと言っている」という理由から、同社は補償をせず、サポートも打ち切られ、取引は強制的にキャンセル扱いとされたという。このやり取りがSNSに投稿されると、他のユーザーからも同様の被害に遭ったとのコメントが相次いで寄せられ、炎上状態に。「#メルカリ詐欺」がトレンド入りするに至った。
■後手後手の対応も「手のひら返し」と批判
この炎上を受け、メルカリ側は出品者に対して補償を行ったが、もはや手遅れで「手のひら返し」との批判を受けた。さらに、メディアの取材に対して、メルカリ側は「個別の出品物に対する受け止めや対応方針等については、本件にかかわらずコメントは差し控えさせていただいております」と回答して、さらに人々の不信感を募らせる結果となった。
筆者自身、メルカリには何度も購入、出品をしてきたが、大きなトラブルは起きたことはなかった。ヘビーユーザーではないが、便利なツールとして利用してきただけに、今回のトラブルは個人的にも残念に思っている。
メルカリの対応は非常にマズかったと思うのだが、今回のトラブルは、現代ならではのものであり、どの企業、さらにはどの個人にも起きかねないものだ。メルカリの例を「他山の石」としてわれわれが学ぶ点は多い。
■「小さなトラブル」が「企業の不祥事」に
リスク発生時の企業の広報対応においては、
① 問題への対応
② 広報対応(主にメディア対策)
の2つは車の両輪であり、両者を同時対応するのが鉄則だ。
これは従来言われてきたことだが、SNSとネットメディアの普及によって、以前よりも迅速かつ丁寧な対応が求められるようになっている。
以前は、問題が発生しても、深刻な事案でなければメディアが報道しないことも多かったし、メディアが報道するまでにはタイムラグがあり、企業側が対策を立てる時間的な余裕もあった。
現在においては、問題に対して企業側が不適切な対応を取った場合、SNSに投稿する例が増えている。それに触発されて、他のSNSユーザーが相次いで投稿し、「炎上」が起きると、ネットメディア、スポーツ新聞、週刊誌が取り上げ、さらに多くの人々が知ることとなり、炎上が加速していく。
今回のメルカリの例のように、「自分もトラブルに遭った」といったことが次々と投稿されると、収拾がつかなくなり、最終的には企業活動に大きなダメージを及ぼすことになってしまう。
今回のメルカリのトラブルは、この一連のプロセスによって、出品者と落札者のトラブルが、企業と出品者のトラブルに発展、さらに複数顧客とのトラブルが発覚し、「企業の不祥事」として広く認知されるに至った。
■メルカリ「対応ミス」が招いた悪循環
この悪循環が止められなかったのは、それぞれのプロセスでのメルカリ側の対応の不手際がある。
1.顧客への対応方針が不完全であったこと
2.顧客への対応が誠実でなかったこと
3.出品者のSNSへの投稿を防げなかったこと
4.メディア対応が不適切だったこと
それぞれの過程について、より詳しく見ていきたい。
1は説明するまでもないのだが、最初にトラブル報告をXに投稿した出品者だけでなく、他の利用者からも相次いで不満が投稿されたことは、企業のクレーム対応の方針に不備があったことは間違いない。
メルカリの「個人間の取引には関与しない」という方針は、これまではリスク回避策であったかもしれないが、詐欺行為が蔓延し始めている現在では、その方針自体がリスクを誘発するに至っている。
今回のトラブル、およびそれに触発されて多くの人が不満を吐露しているトラブルは、真っ当な利用者間の紛争ではなく、詐欺行為によるものである。「個人間の取引には責任は負わない」ということで済まされる問題ではない。
上記のようなことを考えると、サポートを途中で打ち切り、補償をしないという対応を取ったことも悪手だった。「当事者間での解決が不可能」と考えた出品者が、SNSに投稿するに至った。上記の2の対応が、3を招いてしまったのだが、これによって第三者も巻き込んでいく結果となってしまった。
メルカリ側が出品者に対して誠実な対応を取っていれば、ここには至らなかったはずである。
■「個別事案の責任は負わない」は許されない
批判を受けてメルカリ側が補償を行ったことは「対応を改善した」と言えるのだが、出品者も納得はできていないし、多く人が「手のひら返し」と受け取っている。事ここに至って求められているのは、個別事案の対応ではなく、顧客との向き合い方の改善であり、不正行為への厳格な対応であるから、それで沈静化しないのも当然と言えば当然である。
同様のことは他のプラットフォーム事業者でも起こっている。闇バイトの募集が多数掲載されている疑惑が浮上したスキマバイトサービスの「タイミー」にも、掲載前のチェックを怠っているという激しい批判が巻き起こった。また、著名人になりすましたSNS偽広告による投資詐欺に関し、FacebookやInstagramを運営するメタ社が集団提訴されるという事態も起きている。
プラットフォーム企業の利用者の管理や利用者間のトラブル対応の甘さが相次いで露呈しているが、それに対して十分な対応が講じられているとは言いがたいのが現状だ。
メルカリ同様、詐欺行為が横行する中で、「自分たちは仲介しているだけだから、利用者間の取引には責任を負わない」という態度は許容しがたい。
■「コメントは差し控える」という誤った回答
メディアからの取材対応は、広報部門における重要な仕事だ。取材依頼を断ったり、質問への回答を控えたりするほうが適切な場合もあるが、今回「コメントは差し控える」という回答をしたことが適切であったかは疑問だ。
コメントができない場合も、「プライバシーの保護のため」「事実関係が明らかではないため」といった理由が示されているのであれば、多少なりとも納得できるのが、そうでないと「何か隠しているのではないか?」という疑いを持たれかねない。個別案件についてはさておき、「対応方針」についてもコメントを控えるというのは、さすがに不誠実という印象を与えてもやむを得ないだろう。
事実関係が明らかになっていない、あるいは公表できないとしても、「現在、調査中です」「事実関係が明らかになり次第公表します」「(当事者とは)現在個別にやり取りを行っております」といった程度のことは言えるはずだ。
さらに、具体的な対策は現段階で言えないとしても「再発防止策を講じる」「被害を受けた方には補償を検討する」といった意思表明はできたように思う。そうすれば、炎上は多少なりとも収まったのではないかと思う。
メディアの批判は、報道に先んじて間違ったことは謝罪をし、対応策を発表することで、封じることができる。実際、国民民主党・玉木雄一郎代表は不倫報道を受けた直後に記者会見を行い、事実を認めて謝罪をしたため、批判を最小限に抑えることに成功している。
■「スタートアップの呪縛」から抜け出すべき
メルカリは2017年にも大きなトラブルに直面していた。現金や電子マネーが相次いで出品され、額面以上の金額で取り引きされていることで大きな批判を浴びた。盗品や規約違反の商品の出品も相次いでいた。同社は人員が不足する中で、監視と削除を行った。
メルカリは同年夏に東証への上場を申請したが、同年末に予定していた上場が半年遅れる結果となった。その後、トラブルも減り、業績も順調に拡大し、2022年6月にはマザーズ市場から東証プライム市場に移行した。
今年の9月にはNHKの「新プロジェクトX」において、「日本発!革命アプリ世界へ 巨大フリーマーケット誕生」というタイトルで、メルカリのグローバル市場への挑戦が紹介されている。
筆者自身、この番組を観て胸が熱くなった視聴者の一人なのだが、今回のトラブルをみていると、急速な成長にガバナンスが追い付いていない企業の姿が見えてくる。
社会に対する影響力が大きくなっているにもかかわらず、業績拡大に邁進するあまり、足元のリスク対応が疎かになる。これはメルカリに限らず、多くの企業で起こっていることだ。
ライブドア、ペッパーフードサービス、コインチェック、ビッグモーターなど、トラブルによって企業が危機に陥った事例は枚挙にいとまがない。
■「社会的企業」として担うべき役割
11月17日、メルカリは顧客に対する謝罪と、体制の見直し・強化を発表した。
過去にトラブルを乗り越えて大きな成長を果たしたメルカリは、自浄作用があるように思えるし、おそらく、復活できなかった多くの企業と同じ轍を踏むこともないだろう。
メルカリが、再び困難を乗り越えて、さらなる成長を遂げると同時に、「社会的企業」としての役割を担っていくことを期待したい。
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マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。
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(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)
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