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「リモートワーク→出社」で人生計画が激変…コロナ禍で郊外に"夢が詰まったマイホーム"を買った夫婦の後悔

プレジデントオンライン / 2024年11月28日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

家を買うときに気をつけるべきことは何か。ファイナンシャルプランナーの高山一恵さんは「コロナ禍で郊外に家を買ったものの、住み続けることが難しくなり、売却できずに困る人が出てきた。事情が変わる可能性があるなら、再販性を加味した家選び、家作りを考えた方が安全だ」という――。

※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。

■リモートワークの影響で郊外への移住を検討

“コロナ禍”という誰も経験したことのないパンデミックを経て、ここ数年でライフスタイルを大きく変化させた家族がいます。人生で一番大きな買い物、マイホーム購入に踏み切った彼らが今、悩みを抱えていました――。

イベント会社で働く大津広明さん(39歳/仮名)。コロナ禍で一気に仕事の形態が変化し、リモートワークが主流となったことから、郊外への移住を考えるようになりました。

大津さんはすでに小学生と幼稚園児のお子さんがおり、家族4人で家賃13万円の賃貸マンションで暮らしていたのですが、スペースにも限界を感じていました。リモートワークで在宅時間が増えたものの、60平米に満たない2LDKでは自分の仕事スペースを確保することも難しく、成長していく子どものプライベートスペースを作る必要も常々感じていたのです。

当時の大津家の収入は、夫・広明さんの年収500万円と、月3万円の妻のパート代のみ。都内に家を買えたらベストでしたが、貯金も300万円しかない状況で、マイホームは夢のまた夢と考えていた最中、あのコロナ禍がやってきたのです。

■無理のないローンで「夢のマイホーム」を実現

まず、リモートワークとなったことで通勤時の利便性を考えずにすむようになったことから、隣接県で物件を探せるようになりました。おかげで自分たちの身の丈にあった価格帯の物件も見つかり、2020年、大津さんは中古の一軒家を1500万円で手に入れます。築30年の物件だったこともあり、リノベーションには800万円を投じました。

親からの援助を受け頭金を300万円入れ、残りの1200万円は変動金利0.5%ほどで30年ローンを組み、返済額は月3万6000円くらい。リノベーションは別のローンとなり、金利1.5%、10年ローンで毎月の返済額は月7万2000円ほど。2つのローン返済額を合わせると、住居費用としては月11万円程度となり、大津家の財政的にも問題ない範囲で夢のマイホームを持つことができたのです。……が、それから3年。大津さんはこの一軒家を手放そうとしていました。

■部署異動でリモートワークから通勤必須に

きっかけは、大津さんの部署異動でした。それまでリモートワークでも問題なかったディレクター業務から営業へ異動となったことで、連日のように会社に行かなければいけなくなってしまったのです。隣接県から通勤している人も多くいますが、大津さんの家は、最寄り駅から徒歩35分の距離。バスを利用していますが、行きも帰りもラッシュが凄まじく、会社に着く頃には疲労困憊だと言います。

ビジネスマンの群衆
写真=iStock.com/AzmanL
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AzmanL

そんな状況では体も壊しかねないと売却を検討したところ、なんと不動産会社から出された査定金額は800万円。大津さんの家の市場価値は、購入時の3年前と比べて半分近くになっていたのです。そして現在のローン残高は、住宅ローン約1000万と、リフォームローンの約550万円。大津家には今現在約1550万円の借金がある状況ですが、家を売ったとて残債はカバーしきれず、700万円以上の借金だけが手元に残ることが判明したのです。

なぜここまで査定金額が低くなってしまったのでしょうか。実はそこには、はっきりとした理由があったのです。

まず、立地です。値崩れを起こしにくい物件はほぼすべて徒歩10分圏内であり、「徒歩35分」の物件は、はじめから売却をしない=終の棲家としての選択肢と言っていいと思います。もちろん大津さんもそのつもりでいたわけで、なかなか人生はままならないわけですが……。

■「自分好み」の家にリノベーションしていた

さらに価値を下げてしまう要因となったのが、リノベーションです。築30年の家をリノベーションしたなら、値打ちが出るように思いますよね。しかし、大津さんの行ったリノベはただのリノベではなく、まさに“終の棲家”仕様になっていたのです。

実は大津さん、ご夫婦揃って大のロードバイク好き。賃貸マンションの狭さからずっと諦めていたそうですが、念願の一軒家を手に入れたことから、駐車スペースを“ロードバイク部屋”へと改造。さらに、アニメや特撮好きでもある大津さんは、これまで集めたフィギュアなどのコレクションを飾る棚もあちこちに設置しました。また、ペットが飼えるようになったことから猫を迎え、猫用の小さなドアを作るなど、これまで賃貸暮らしでできなかったあれこれを思う存分実現した、まさに“理想のリノベーション”を成し遂げていたのです。

ただ、このリノベーションは当然、“大津家仕様”のものであって、万人に広く受け入れられるものではありません。となると、再びリノベーションが必要になる可能性が高く、査定においてマイナスの一要因になってしまったのです。

■リノベーションが仇となるケースは少なくない

リノベーションの問題については大津さんに限らず、かなり、よく聞く話です。最近家を手放したいとご相談を受けているご夫婦は、古民家暮らしに憧れていた夫の希望で土間や囲炉裏を設置したのですが、数年暮らした結果、妻が飽きてしまって、離婚話まで出るほどに。ただ、この方の場合は資産をお持ちだったので、妻が家を出て二拠点(別居)生活となる可能性が高そうではあるのですが、普通のご家庭の場合、今ある家や資産を元手にして新たな物件を購入するケースが大半でしょうから、「家」にまつわることは注意が必要なのです。

畳の部屋
写真=iStock.com/Navamin keawmorakot
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Navamin keawmorakot

そして今、店舗経営でも似た話をよく聞きます。オーナーとしてはそのまま居抜きで貸し出しできればありがたいわけですが、テナントがこだわりのカスタマイズをしたが故に、次の借り手がつかない、という話です。「シンプルに事務所で使ってもらう方が、後が入りやすいから良かったのに」なんてボヤキをよく耳にします。個性的なお店が減ってしまうのはいち消費者として淋しいですが、オーナーさんの苦悩もわかるので、難しいところです。

大津さんの話に戻ると、家を売ったとしてもローンが残ってしまう状況のため、私からのアドバイスとしては、親などからお金を借りてローンを全額返済した上で、東京の賃貸暮らしに戻る手はあると思う、とお話をしました。大津さんは、「貯金をしつつ考えます」ということでした。

■これから郊外の土地が放出される可能性も

現在、全体的に物件価格は上昇傾向にありますが、それも基本的には都心・駅近といったもともと値崩れしにくいエリアの話であり、駅から遠いといったニーズの低い物件の場合、価格は下降傾向です。

同様に、「相続物件」で値崩れが起きつつあります。今、人口のボリュームゾーンである団塊の世代が物件を手放しつつあり、今後、郊外の土地が大量に市場に放出されるのではないか、といわれています。彼らの子どもたち=団塊ジュニア世代は50代前半のため、すでに家を所有しているケースも多く、郊外の親の土地の相続は放棄するだろう、という専門家の見立てです。売却する側にとっては厳しい話になるのですが、逆にこれから家を持とうと考える若者にとっては、安価で郊外の土地を手に入れることができるかもしれず、「慌てずにまだ待って」とアドバイスするファイナンシャルプランナーもいます。

ただ、口を酸っぱくして言いますが、生涯を通して住む場合には、エリアもリフォームも問いませんが、事情が変わる可能性が少しでもあるなら、再販性を加味した家選び、家作りを考えた方が安全でしょう。また、今後金利が上がるとより人々は慎重になり、リセールバリューや出口戦略を考えて家を買う人が多くなると思います。

コロナ禍といった社会の変化と共に、自分自身の人生をどのようにデザインしていくのか考えながら、家選びと向き合っていただけたらと思います。

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高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年前後のお金の強化書』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。

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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)

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