初潮を迎えた日から、父は何度もレイプし、母は傍観した…実父の性加害を顔出し実名で告発し続ける理由
プレジデントオンライン / 2024年11月24日 17時15分
■逃げても逃げても追いかけてくる「父は悪魔ではなく、鬼畜」
「近親相姦」。それは、父と娘、母と息子、兄と妹、姉と弟などといったごくごく近しい関係性での性行為であり、相手が合意していない場合はもちろん犯罪である。
しかも多くの加害者は、被害者である娘、息子、妹などが幼くて「その行為が何なのか?」を認識できず、体力的に抵抗できない年齢の時期を狙う。卑劣極まる行為だ。
そして、そのような子どもへの性加害が年々増えている。
厚生労働省の「令和4年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)」によると、2010年度には1405件だった性的虐待の相談件数が、2022年度には2451件まで増加。
しかしこれは氷山の一角にすぎないだろう。
先述のとおり、被害を受けている子どもが、何がわが身に起こっているのかを把握できていない、加害者から「誰にも言うな」と口止めされた、そして被害として認識し始めたとしても誰にも相談できないケースが多々あるからだ。
なお、加害者になるのは血のつながりのない継父や養父かと思いきや、全体件数の中で実父が40%にものぼり、実母が4%ほどいる。
それでも、以前は家庭内で揉み消された性虐待について、被害を受けた子どもが勇気を出して告発するケースがほんの少しずつ増えている。
■初潮が来た日にケーキで祝い、そのまま娘をレイプした父
塚原たえさん(52歳、以下たえさん)も、実父から壮絶な性虐待を受け、実名で告発に踏み切った一人だ。彼女は親の愛情をしっかりと受けるべき幼い時期から、ありとあらゆる虐待を受けて育った。
長距離トラックの運転手だった父は、帰宅すると、たえさんと息子(たえさんの弟)に殴る・蹴るだけでなく、風呂の水の中に沈める、頭に尿をかける、裸にして外に放置するといった狂気の虐待を行った。
そしてたえさんが初潮を迎えた12歳のとき、父はそれを待っていたかのように娘を何度もレイプした。「その日、父親は妙にウキウキしていたんです。しかも普段は滅多に食べないケーキを家族で食べました」
そのケーキは祝いのためではなく、地獄の儀式への捧げ物だったのだ。
こともあろうに、母親はレイプを止めるどころか、父娘のそばで、その行為を見ていたという。「何してんの?」と、笑いながら……。
■近所の住民は報復を恐れて知らんぷり
このような地獄はたえさんが16歳になるまで続いた。
家の近所でも、たえさんと彼女の弟が父親から虐待に遭っているのは評判になっていたはずだ。
なぜなら、きょうだいが裸にされて、父に外に引きずられていく姿が度々見られていたからだ。しかし「カンジ(父の名)は、怖い」と、みな遠巻きに見ていただけ。
昭和期は、近所で児童虐待があったとしても児童相談所に通報するのは、まだまだハードルが高かった時代。何より、“短気なカンジ”の報復を恐れていたのだろう。
たえさんもただ黙っていただけではない。少し成長すると警察に駆け込み、父親から虐待やレイプ被害に遭っていることを訴えたこともあった。
「でも、父が『これは性教育の一環だ』と言い張ったので、それ以上当時の警察は踏み込んできませんでした。また、『お父さんを逮捕することができても、3年ほどで出てくるけど仕返しとか大丈夫?』と言われたこともありました。そう言われると、私にはそれ以上なす術がありませんでした」
■『人間失格』を読んだ後に、子どもたちを犯した父
こんな恐ろしいことをしながらも、彼には知能的、精神的に異常性があると診断されたことはなかったらしい。もっとも、たえさん曰く「非常に口の上手い男で、外見も彫りの深い顔立ち。ちょっとインテリな部分もあったから、一見異常だとは思われなかったのかも」。
なぜか太宰治の『人間失格』が愛読書で、よく読んでいたそうだ。「あんた自身が人間失格でしょ?って感じなのに……」とたえさんは失笑する。
人間失格の世界に耽溺した後に、子どもたちを裸にして並べて、彼らが気を失うまで暴力をふるい、そして犯し続けた。父は息子にも口淫・肛門性交を行い、性欲の捌け口にして歪んだ支配欲を発揮したのだ。
筆者が「彼がやったことは悪魔の仕業ですね」と問うと、
「父は悪魔ではありません。鬼畜です。最初から自分の欲望を満たすために、子どもをもうけたとしか思えない。私はあの男の死を願う一方で、社会的な制裁を受けるまでは死んでほしくないという、相反する気持ちを抱いて毎日を過ごしています」
と、至極冷静に語る。彼女はどれだけ酷い体験を語る瞬間であっても、決して感情的にならない。そうしないと彼女の心が壊れてしまうからかもしれない。
■初めての妊娠は、父の子の可能性が高かった
たえさんが15歳になると、生まれ育った山口県から、東京へ出稼ぎに行く父に無理やり一緒に連れて行かれることに。父のレイプを放置していた母は、不倫の末家を出て行った。弟は児童養護施設、末っ子の妹は祖母の家に預けられるなど、家族はバラバラになった。
「出稼ぎ先の建設会社で私も働かされることになりましたが、そこの作業員で私に好意を持つ男性がいたんです。それを知って奴は怒り狂いました。私を“自分の女”だと思っていたんですよ。そのうち、今の夫と知り合って逃げるように彼の家で同棲すると、父は私をラブホテルに拉致して、避妊もせずに私をレイプ。また、『男二人(父と夫)を手玉に取って楽しいのか?』とわけのわからないことを言ったり、私を無理やり自分の元へ連れ帰ろうとしたりしました……」
その後たえさんは妊娠。そして流産した。
「夫の子なのか、父親の子なのか、わからなかったのですが、夫の子だと信じて産もうと決意したんです。流産した時の担当医にレイプされたことを打ち明けたところ、胎児の週数からいうと父親の子の可能性が高いと。染色体異常によって流れたのではないかとの見立てでした」
■孫にも己の欲望の矛先を見せ始めた鬼畜
そんな不幸を乗り越え、たえさんは結婚。やっと鬼畜から離れられたかのようにみえた。しかし、父はたえさんを“俺の女”、または所有物だと勝手に思い込んでいたので、どこまでも追いかけてくる。娘への執着心を隠そうとしなかった。
「家にやってきて、私の下着をあさったり、そのうち私の娘にも欲望をのぞかせるようになったりしたんです。このままでは大変なことになると思い、完全に離れることを決めました」
その後しばらく父とは音信不通だったが、心が決壊するような事件が起きる。
■「弟は死んでもいい」その言葉に張り詰めていた糸が切れた
それはどんな事件だったのか――。
「ある時、見知らぬ名前の男から手紙が来たんです。3回目の結婚をして姓も変わっていたので気づかなかったのですが、父親からでした。そこには『子どもの遺産意思の確認がしたく』と書いてあって。相続の意思などないと怒りの気持ちが湧き上がり、父親に電話したんです。そしたら『俺1回心臓が止まったんよ。だから手術した。俺の家は広いから旦那と子どもを置いて帰ってこい』と。どうやら私に自分の介護をしてほしいらしいんです」
そこで、たえさんは、弟が29歳の時に自死したことを父に告げた。音信不通だったため、父は弟の自死を知らなかったからだ。
「するとこともなげに『正寛(弟の名)君が死んだのは構わない。でもたえちゃんが死ぬのは嫌だよ』と言い放ちました。その言葉で、私の中で張り詰めていた糸がぷつんと切れたんです」
たえさんと弟は運命共同体のようなもの。いつもきょうだい一緒に虐待を受け、それを乗り越え、それぞれ結婚。やっと幸せをつかんだかのようにみえた。しかし、たえさんの夫と姑はすべての事情を受け止めて彼女を慈しんでくれたが、弟はそうではなかったらしい。妻にも誰にも虐待の事実を告げることができず、精神を病んだ挙句に自死を選んだ。その時、弟は実母と一緒にいたはずだが、母はパチンコに出かけていて、弟の自殺を止められなかった。
たえさんもまた、現在、複雑性PTSD(心の傷を繰り返し持続的に受けた結果、発症するPTSD)に苦しむ。パニック障害で電車に乗れない、悪夢にうなされる、父に風呂に沈められたことがトラウマになり風呂に入れない、無気力になり一日中体が動かないなどといった症状に襲われている。もちろん、原因は度重なる性加害だ。
「被害者である弟が自ら命を断ち、私がPTSDに苦しめられているのに、なぜ加害者は罪の意識を持たずに、のうのうと生きていられるの? こんな理不尽なことはありません。絶対に父親を許すことはできないと思い立ち、Xで実名で告発したのです。レイプをそばで笑って見ていた母には『恥さらし』と罵られましたが」
Xの投稿から火がついていくつかのメディアにたえさんのインタビューが掲載された。きょうだいが受けた恐ろしい性被害の記事は大きな反響を呼ぶ。その後、たえさんの叔母である女優の藤田三保子さんも、兄(たえさんの父)から性加害を受けそうになったこと、たえさんと弟を兄から引き離そうとしたが失敗したことを告発した。
■「気持ちいいことをしてくれた親に感謝しろ」のコメントに体が震えた
しかし、虐待を生き抜いたたえさんを応援する人がたくさんいる一方、SNSには心無いコメントが書かれ、“セカンドレイプ”=二次被害を受けることに。
「気持ちいいことをしてもらったのだから、親に感謝しろ」と書かれた時には、体が震えたそうだ。当然ながら、気持ちいいなどと思ったことは一度もないし、気持ち悪さと痛みで、毎回拷問の連続でしかなかった。
また、たえさんは7人の子どもに恵まれているが、子沢山であることで「お前の夫は多産DVだ!」とか、「子どもがいるのだから過去のことは忘れろ」とか、「被害者なら被害者らしくシオらしくしろ」といったコメントにも深く傷ついた。
「子どもをたくさん欲しがったのは私のほうです。決して夫が妊娠を強要したわけではありません。それに7人の子どもたち全員が愛おしくてたまらない存在です。私が母の立場ならば、父親を殺します。時間が経つに連れ、怒りが増幅しているので、忘れることなんて絶対にできませんよ」
■友人にも魔の手を伸ばした可能性もある
現在、父は海のそばで暮らしているらしく、それもたえさんの気がかりになっている。
「表向き、自分の子どもにだけしか手を出していないと言っています。が、一度、家に私の女友だちを泊めたことがあって……。その翌朝、父親は『あの子はぴくりとも動かずに寝ていた』などと言っていました。しかも彼女とはその日以来、連絡が取れなくなってしまい。もしかしたら、父は友だちを襲ったのかもしれません。もしそうだとしたら、謝っても謝り切れない……。そして今も水着姿の子どもたちを狙っているのではないかと、心配でたまらないのです」
一度Xで父の名や住所を曖昧につぶやいたことがあったので、それを読んだ誰かが彼の家に嫌がらせに行ったことがあったそう。性的異常者が住んでいることへの注意喚起もあったが、彼女は自分で父に制裁をくだそうとは思っていない。
たえさんや弟が受けた心の傷に対しての報いを父に受けさせるため、これ以上被害に泣く子どもを増やさないために、父を告訴しようと思い立つ。
■立ちはだかる時効の壁に、民事でも戦えない
しかし、ことはそう簡単には運ばない。
まずは時効の壁。18歳未満で性被害に遭った場合、不同意性交等致傷罪は18歳になってから20年、不同意性交等罪は15年、不同意わいせつ罪は12年で時効となる。一方、民法の規定では、子どものころに受けた性被害の場合、被害者が加害者を知ってから5年経つと時効によって裁判で加害者の責任を問うことができなくなる。また、不法行為から20年行使しないと、損害賠償請求権も消滅してしまうのだ。
被害に遭ってから時間が経てば経つほど、証拠の散逸などが起こるため、できるだけ早く警察などに相談すべき。しかし、幼い子どもにそんな判断ができるだろうか――。
「私の場合、とっくに時効がきていますから、民事でも父親を告訴することができません。繰り返しになりますが、どうして被害を受けた側がずっと苦しみ続け、加害者側は何の罰も受けないだなんて、こんなおかしな話はないです」とたえさんは憤りを隠せない。
ちなみにアメリカでは2022年に「子どもの性被害については、時効を適用しない」とする特別法が制定された。
しかし、日本では亀の歩みの如く、法改正が遅々として進まない。
そんな中、たえさんの活動をサポートし、法改正に向けて尽力する弁護士がいる。カルト宗教への裁判弁護などで知られる紀藤正樹さんだ。
紀藤さんは、たえさんを「ジャンヌ・ダルク」と呼ぶ。なぜなら、たえさんのような性虐待のケースがボトムアップし、その結果第二、第三のたえさんが声を挙げれば、時効撤廃などへの動きが加速する可能性が高いからだ。そのムーブメントが発端となって法が改正されるかもしれない。
(後編に続く)
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ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。
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(フリーランスライター・エディター 東野 りか)
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