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だから「国保加入者」「65歳以上」はメタボ率が上がる…高すぎる国保料が生みだされる"負のスパイラル"

プレジデントオンライン / 2024年11月22日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

医療費を下げるにはどうすればいいのか。ジャーナリスト・笹井恵里子さんの新著『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)より、一部を紹介する――。(第3回/全3回)

■保険診療を減らすべきか?

さて国保の制度維持が厳しいというと、財源への指摘の一方で、支出の面である「命にかかわらない診療は“保険の対象”から外すべきだ」という指摘がしばしばなされる。Yahoo!のコメントでもよく見かけるし、私のブログにもそういった声が寄せられる。しかし長友氏はこれを否定する。

「アメリカの医療費はものすごく高いでしょう。あそこは高齢者や障害者、低所得者以外は公的な医療保険がありません。つまり日本における“診療報酬”がなく、“医者の言い値”なのです。ある治療を医者が10万円といえば10万円になる。風邪薬や湿布薬なら保険診療から外せばいいのではないかという声がよくありますが、自由診療が増えるほど医療費が膨らむのです。公的医療保険があり、診療報酬制度があるから、医療費がコントロールされている。軽症段階で病院に気軽にいけるから、重症化しない。“保険診療のほうが医療費がかかる”というのは幻想です」

■出産費用だけが高騰していく理由

自由診療が増えるほど医療費が膨らむというのは、「出産費用」がそれに近い様子を表していると思う。

日本では病気ではないという概念から、妊娠・出産費用が保険適用ではなく、その代わり出産した者には出産育児一時金が支給される。しかし、出産育児一時金が増額されれば、医療機関の価格改定がされ、またさらに出産費用が吊り上がるという循環に陥っている。実際、出産育児一時金制度がスタートした30年前は、30万円の支給額。私もおよそ20年前に2人の子どもを出産しているが、30万円台前半の額で出産が可能だった。当時と比べて今の出産にまつわる環境が劇的に変化したわけではないのに、出産費用だけが高騰していく状況に違和感を覚える。

もし日本で自由診療がどんどん増えていき、一方で低所得者が医療を受けられない状態になれば、さすがに国は何もしないわけにはいかない。公費を投入することになり、その額がどんどん膨らんでいき、医療費が今よりも高くなる可能性がある。保険診療があるからこそ医療費がコントロールされているのは、まさしくその通りだ。だから私たちが支払う保険料をこれ以上上げないためにも、「保険診療」は維持したほうが良いのだ。

■「自分で病気を予防していく」という意識が重要

けれども、それを踏まえたとしても、私たちが「医療の無駄」を感じやすいのは、薬を処方されているのに決まった通り服用していない人や、病院にたむろする高齢者を目にしているからだろう。だが見方を変えれば、一見元気そうな高齢者が病院を受診していたとしても、早期発見・早期治療のほうが医療費はかからない。また日本の医療制度設計の問題もある。検査や薬の処方をしなくても、医師から患者へ口頭で医学的指導をする時も診療報酬が加算されるような制度になれば、「無駄」が減る。

患者に症状を説明する男性医師
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

そして個人としては信頼できる医師のところで診察や治療を受け、自分で病気を予防していくという意識が重要だ。皮肉な話だが、日本のような皆保険制度がない海外では、治療費が高くなるのを防ぐため、患者が進んで健診を受け、病を予防する意識が高い。一方で、保険診療がある日本は、安く治療を受けられることでかえって予防に対する意識が低くなってしまう。そういった医師の声がとても多い。私も実際、普段医療健康の記事を書いていて「予防」の記事は読まれないと感じる。

だがめげずに、最後は個人の健康を守る術を記したい。それが最終的に医療費を、国保料を下げることにつながっていくからだ。

■国保加入者・65歳以上はメタボ率が上がるワケ

以前、全国の救急医療を取材していた時、飯塚病院特任副院長で救急科の鮎川勝彦医師は「救急はかなりの部分で予防可能である」と話していた。

「交通事故も平成の始まりと比較すると半分以下に少なくなっていますが、病気も起こり得ることを予見して早めに対応すれば防げることが多い。例えば熱中症もそうですが、初期の対応で重症化を避けられる。もちろん年を取って発症する病気はどうしようもない部分もありますが、それさえも食事や運動、規則正しい生活で遅らせることができるんです」

救急と同様、慢性疾患もそうだろう。糖尿病やがんなどの生活習慣病は、その名の通り、生活習慣でリスクを下げられる面がかなりある(もちろんそれだけではない。私の母は規則正しい健康的な生活を送っていたが、24歳という若さでがんのため死亡した。一方、喫煙者で100歳まで生きる人もいる)。確率の問題なのだが、長く健康的な生活を送っている人ほどやはり病にはなりにくい。

筆者居住地の区役所・K職員からこんな話を聞いた。

「我々の区では国保健診の40歳以上から64歳以下の結果は、メタボ(メタボリックシンドローム:動脈硬化のリスクを高める)比率が東京都平均より低いのです。が、65歳以降にはぐっと高くなります」

なぜだろうか。

「要因のひとつとして、退職を迎えて被用者保険(組合健保や協会けんぽ)から国保に加入してくる人たちがその比率を上げてしまうようです。被用者保険に加入している時には不摂生をしつつも病にはならなかった。しかし国保に加入する時点でリスクが高くなり、メタボ状態。すると加入中に実際に病気になってしまう人もいるでしょう。糖尿病などは長い時間をかけて体を蝕んでいくといいますから」

■「今までの血糖値」がどれほど高かったか

例えば6年間高血糖状態が続いた人たちが7年目から血糖コントロールを始めても、最初から血糖コントロールを行った人と比べて30年後の死亡率が高いと報告されている。昭和大学医学部教授の山岸昌一医師も、「今までの血糖値がどれほど高かったかが将来の寿命の決め手」と述べている。

「ケアしなければいけないのは、血糖値の高さだけではなく、血糖値が高い状態がどれくらいの時間続いたか、なのです。時間の枠で考えると、例えば血糖値300mg/dlは良くない数値ですが、それが5日で済むのであれば、200ml/dlの血糖値が5年続くよりもマシということです」

今現在、どんな健康保険に加入している人であっても、今一度自分の生活を振り返ってほしい。検査結果の数値には出てこなくても体調の変化がないだろうか。

芝田教授は、「『国民健康・栄養調査』によれば、所得が低いほど病気になりそうな生活習慣を送っている」と指摘する。

「所得の低い人ほど喫煙率が高い傾向にあります。タバコ代がかかるのに理由は正確にはわかりませんが、簡単にストレス解消ができる方法なのかもしれません。また、所得の低い人のほうが栄養バランスが悪いですし、1日の歩数も低所得者のほうが少ない。所得が高い人は、主食・主菜・副菜を組み合わせて食べ、1日の歩数も多い傾向にある。お金があることで、自分の健康に気を配る余裕があるともいえるでしょう」

タバコのパケット
写真=iStock.com/mariusFM77
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mariusFM77

■「負のスパイラル」ではないか?

所得が少ないと健診の未受診が増えることもわかっている。健診を受けることは、その内容よりも、自分の体に目を向けられ健康診断の結果を受け止められる生活を送っていることの表れだと私は思う。

改めて国保加入者は年齢層が高いというだけでなく、所得が低いことからも病気になりやすい人が多いといえる。そして保険料が高いために支払いに苦しみ、ますます貧困が進み、病院にかかれず、早期発見ができないのでは負のスパイラルではないか。実は私も20代の頃、その日に食べるものにも困るような貧困生活を送っていたことがあるので、お金がない、生活に余裕がない、だから「将来への投資」(=ここでは健康のことだ)ができない状況はよくわかる。

そこでこれまで長年、医療健康情報を取材執筆していた経験から、お金や時間がなくても今すぐできること、しかも健康への効果が大きい2つについて次に記したい。

■科学的根拠が確かな健康になる2つの方法

「朝食摂取」と「歩くこと」は、単なる流行りの健康情報ではない。世界中で驚くほど膨大な研究報告があるのだ。

(1)朝食摂取

健康のために最低限やらなければいけないことといったら、「朝食摂取だけ」といってもいいほど、その効果は大きい。

朝食
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

東北大学加齢医学研究所の調査では朝食習慣のある学生のほうが志望する大学、それも偏差値の高い大学に入ったことがわかっている。さらに就職した会社、年収も、朝食摂取と関係がみられる。毎日朝食を摂取する人ほど第1志望の企業に就職し、年収が高いグループになるほど、小学生から朝食を毎日食べていた人の割合が高い。

なぜこのようなパフォーマンスの違いが起きるかというと、これには「体内時計」が深く関わる。

「体内時計とは主に約1日(24時間)周期、すなわち昼夜に合わせて体温やホルモン分泌など体内環境を変化させる機能の総称です」

と、明治大学農学部の中村孝博教授が説明する。2017年にノーベル生理学・医学賞の受賞理由にもなった「体内時計」は、地球上に住むほぼすべての生物がもつ生命の根本現象。そのため医学、薬学、理学、農学をはじめ、最近は情報科学系などの専門家も加わって、さまざまな方面から研究が進められている。世界規模では毎日新しい論文が発表されているといわれるほどだ。

■体内時計のリセットに欠かせない「光と朝食」

「人体のあらゆる細胞――内臓器官、胃や腸、膵臓などをはじめ、皮膚や筋肉、血液に至るまで――には時計遺伝子が存在しています。そして日中に活動状態となり、夜は自然と眠くなるような1日周期のリズムを時計遺伝子が司っているのです」(中村教授)

時計遺伝子が作り出す体内時計はいつも正確に時を刻んでいるわけではなく、放っておくと徐々に時間がずれていく。そのため毎日、時計の針をリセットしなければ、正確なリズムが刻めなくなる。リセットに欠かせないのが、「光と朝食」だ。

脳には、体内時計の司令塔(中枢時計)が存在する。中枢時計が光(主に太陽光)を感じて時計を合わせると、臓器などに存在する時計遺伝子(末梢時計)へ時刻情報を伝える。末梢時計は中枢時計からの時刻情報に加えて、「食事」や「運動」などの刺激によってリセットされ、24時間のカウントを始める。このリズムが規則正しく刻めると、臓器の働きやホルモン分泌など、体の生理機能が働くべき時に十分機能する。

すなわち、その人のパフォーマンスが高まるのだ。

■朝はツナサンド、魚肉ソーセージ、ヨーグルトのいずれかでOK

早稲田大学名誉教授で広島大学医系科学研究科の柴田重信特任教授は「朝食を摂取しないことは、体に朝の時間を教えないこと」と話す。

「例えば朝起きて光だけ浴びて、昼まで何も食べないとすると中枢時計と末梢時計の足並みがそろわず、体内にズレが生じやすい。海外旅行に行かずして時差ぼけになっている状態。1週間の中で同じ時間に“光と朝食”をセットにした生活が増えるほど正しいリズムが刻めます」

体内時計はパフォーマンスだけでなく、健康にも大きく影響する。朝食欠食者は肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症のリスクが高くなることが明らかなのだ。

朝食の内容は脳のエネルギー源となる糖質(主食)と、体温を上げて、筋肉量を維持するタンパク質(卵、魚、納豆、肉など)のセットが望ましい。主食はごはんでもパンでもOKだが、魚油が体内時計をリセットする効果が高いことがわかっている。

お金も時間もなければ、朝はツナサンド、魚肉ソーセージ、ヨーグルト(できればバナナかキウイをプラスしたい!)のいずれかでもある程度のバランスが取れる。

ツナサンドイッチ
写真=iStock.com/EasyBuy4u
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EasyBuy4u

■「ただ歩く」だけで健康効果が期待できる

(2)毎日8000歩以上歩く

ジムに通ったり、厳しいトレーニングをする必要はなく、「ただ歩く」だけでかなり多くの健康効果が望める。

アメリカ国立がん研究所の研究グループが「1日の歩数と死亡率の関係」を調べたところ、歩数が多いほど死亡率が低いことがわかっている。しかし1万歩以上はそれほど大きく死亡率に変化がない。逆に過度な疲労は免疫力低下のおそれがある。だから最大でも1万歩までがいい。

また食べたもの(摂取カロリー)は変わらなくても、消費カロリーは加齢とともに低下しやすく、年を取ると太りやすくなる。消費カロリー(正しくは「消費エネルギー」という)とは基礎代謝量(生命活動を維持するためじっとしていても消費されるエネルギー)と活動量を合わせたもので、摂取カロリーが消費カロリーを上回れば体重増に。管理栄養士の望月理恵子氏によると、

「体重60キロの男性の場合、1日の基礎代謝量の推定値は20代で1422キロカロリー、50代になると1308キロカロリーになります。若い頃と同じものを食べていると、日々あまったカロリーが積み重なって、およそ7000キロカロリーで体重1キロ増に。つまり、この男性の場合なら単純計算で61日で1キロ太ります。ですから年を取るほど動くことを意識し、活動量を上げていきましょう」

日々の余分なカロリーを消費し、メタボを予防するためにも歩くことが勧められるというわけだ。

1万歩はゆっくり歩くと100分かかる。時間がとれない人は「こまめに動く」のがお勧め。

■1日の歩数が多ければ多いほど「睡眠の質」が良好

日本呼吸器学会指導医で、池袋大谷クリニック院長の大谷義夫医師は「できれば“食べたら歩く”を意識するといいでしょう。食後に血糖値が急上昇する状態が長く続くと病気や不調を招いてしまいますが、食後すぐに歩けば血糖値が急上昇しないことが報告されています」と説明する。大谷医師も朝食後の診察前に2000歩、昼食後の休憩時に3000歩、夕食後に4000歩を心がけているそうだ。また1日1万歩がベストだが、まずは8000歩くらいを目標にすると継続しやすいかもしれない。

笹井恵里子『国民健康保険料が高すぎる!』(中公新書ラクレ)
笹井恵里子『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)

それでも十分にさまざまな良い効果がある。

歩くことは死亡率低下やカロリー消費にとどまらず、全身の健康に貢献する。なんとがんや糖尿病、認知症の発症を予防し、腎機能の低下をゆるやかにするのだ。大谷医師は世界中からの論文を根拠に、ウォーキングのメリットや歩き方を著書『1日1万歩を続けなさい』(ダイヤモンド社)にまとめている。

同書ではそれぞれの根拠となる論文も示されている。個人的に驚いたのが、「睡眠と歩数の関係」だ。大分大学が平均年齢73歳の男女860人の毎日の歩数と睡眠について分析したところ、1日の歩数が多ければ多いほど「睡眠の質」が良かったという。また1日の歩数が多い人は夜中に目が覚める時間と回数が少なく、高齢者の睡眠障害の予防にも有効だと結論づけている。

歩く時間帯は「朝」がいい。体内時計がリセットされ、幸せホルモンといわれるセロトニンが分泌されるからだ。

早速明朝から始めよう。そして健康保険証を使うリスクを下げよう。医療にかからないとますます「保険料が高い」とブツブツ言いたくなるが、幸せに元気になると、「仕方ない。がんばるか」という意欲がわいてくる。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。本名・梨本恵里子「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)、『老けない最強食』(文春新書)など。新著に『国民健康保険料が高すぎる! 保険料を下げる10のこと』(中公新書ラクレ)がある。

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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)

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