半導体バブルはいつまで続くのか…今さら聞けない「エヌビディア、TSMC好調のワケ」
プレジデントオンライン / 2024年11月26日 8時15分
■半導体バブルは「一過性」のものなのか
【後藤】近年のホットトピックである半導体業界を取り上げましょう。
半導体と聞いてもなじみのない方も少なくないと思います。しかし、近年のAIの進化と盛り上がりを深く理解するうえで半導体の存在を無視することはできません。コンピュータが自動で大量のデータを解析し、データの特徴を抽出する技術ディープラーニング(深層学習)において、半導体が必要不可欠となります。
国内外の半導体関連の注目企業の株価の動きを一見すると、株価そのものは過熱していたように見えるかもしれません。ただし、こうした動きに比例してAIが世界を変えているのは事実です。
エヌビディアを見ても、PERは40倍程度。もちろん世の中の全体的な対比では高いかもしれませんが、「すでに高い利益を稼いでいる」という意味では、2000年代のドットコムバブルのような状況と異なります。
AIが一過性のブームで終わるのではなく、経済や社会に大変革をもたらすのであれば、その技術の中心を担う物理的な素材である半導体業界の盛り上がりも、一過性の「ブーム」ではないと見ていいでしょう。
■TSMCは業界の覇権を握り続ける
【堀江】一口にAIや半導体といっても、各社その内実はさまざまである。エヌビディアは工場を持たないファブレスの半導体設計の会社であり、TSMC(図表1)は半導体の製造を行っている会社だ。つまり、各社は水平分業をしている。各社の株価を考える際にも、こうした業界の構造を理解しておく必要がある。
とりわけ、すでに半導体製造のシェアを押さえているTSMCは今後も強いポジションを維持し続けるだろう。TSMCは、車載用の古いタイプのCPU(後述する)をはじめ、あらゆるタイプの半導体を製造している。
■TSMCには豊富なノウハウと資金がある
現在、半導体製造プロセスは分子レベルに近づいてきている。分子レベルということは、それ以上は物理的に細かくはできない状態だ。いまのCPUやGPUの世界はそれを立体積層にし、さらにそれをマルチコア化(1つのプロセッサの中に複数のCPUコアを内蔵すること)している。
そういった技術を応用して「MEMS(メムス)」といわれる微小な電気機械システムも作られている。センサーといえば昔は機械的なものだったが、いまでは半導体のプリント技術により、マイクロマシン化している。スマホ、ドローン、人工衛星などあらゆる製品の高付加価値化を支えるデバイスとしてMEMSが活用されているのだ。
とはいえ、TSMCが担っている半導体の製造において、すぐに破壊的ディスラプションが起こるかといえば、その可能性は低いだろう。すでにある技術を進化させていくような状況であり、「無の状態から有を生み出していく」ような状態ではないからだ。
しかし逆にいえば、TSMCにはノウハウの蓄積と豊富な資金があるので、政治的リスク以外では、容易に揺るがないポジションを築いているといえるだろう。
■エヌビディアの牙城を崩すのは容易ではない
半導体業界を語るうえで外せない企業に、エヌビディア(図表2)がある。
一時はアップルやマイクロソフトを抜いて時価総額が世界一になったこともあり、日本でも連日連夜、その名前を耳にするようになった。そんなエヌビディアの売上の8割超がAI関連だ。ここでは簡単に、エヌビディアがなぜ強いのかを解説しておこう。
CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)という言葉を聞いたことがある人は多いだろう。CPUは汎用プロセッサであり、コンピュータで扱われるデータはCPUを通して制御・計算を行う。
一方、GPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)はゲームや自動運転の開発用に、多次元のグラフィックを高速処理するため、行列計算に特化して作られたプロセッサだ。最近では生成AIで計算処理をする際にも必要となる。AIの処理とGPU計算処理が似たものであった(高度な計算を一箇所で行うのではなく、単純な計算を並列で大量に行う)ことから、AIにGPUが使用されることになり需要が伸びている。AI以前にも、仮想通貨のマイニングの計算がGPUに適していることから需要があった。
エヌビディアは早い時期からグラフィック処理のニーズに合わせてGPUの開発に着手し、業界をリードしてきた。またその間、エヌビディアはGPUを使うためのCUDA(クーダ)と呼ばれる、統合開発環境とランタイムライブラリをデファクトスタンダードとして育ててきた。
プログラマーはグラフィック処理以外の汎用の計算用途でも、CUDAを用いてプログラミングを行うのが当たり前になっている。その意味で、いまとなってはCUDAが「インフラ」となっており、エヌビディアの牙城を崩すのは容易ではない。
■半導体業界は分業が進んでいる
【後藤】なぜここまで半導体が騒がれているのでしょうか? ここで半導体そのものの説明もしておきましょう。
簡単に説明するなら、半導体は電子機器の「頭脳」といえます。パソコン・スマホはもとより、自動車やあらゆるデジタル家電に組み込まれています(図表3)。加えて、近年では先ほども触れたように、AI用のデータセンターでも重要な役割を果たしています。
半導体は読んで字のごとく、「半」分だけ、電気を「導」く素材のこと。鉄や銅は電気をよく通すので「導体」、ゴムやガラスは電気を通さないので「絶縁体」です。
半導体はその中間に位置づけられます。ある条件では電気を通し、別の条件では電気を通しません。この半導体ならではの特性が電子情報の処理や保存に役立つわけです。
半導体を取り巻くのは急速に進化し続ける、複雑な工程です。そのため、1社が設計から製造までフルラインナップで行うのは大きなコストとリスクを伴います。大まかに分けると、「設計・開発」「半導体製造」「製造装置メーカー」で分業が進んでいます。以下に代表的な企業をまとめました。
●製造:TSMC、サムスン、インテルなど
●製造装置メーカー:ASML、アプライド・マテリアルズ、ラムリサーチ、東京エレクトロン、レーザーテックなど
すでに堀江さんが解説してくれたように、エヌビディアは工場を持たないファブレス企業です。自ら設計・開発したGPUの製造は、主に台湾のTSMCに外注します。それにより、大きな製造設備を持たず、高度な製造に向けた研究開発を負担しなくてすむのです。
TSMCはエヌビディア以外にもアップルやソニー、あるいは任天堂といった企業を顧客に持ち、高いシェアでの半導体製造を担っています。顧客の層が多様であるため、需要の波が分散されます。また、「規模の経済」により大規模な投資や研究開発拠点の集約ができます。
■日本の半導体企業は「補完」の関係性
図表4のように、半導体の製造工程にはいくつかの複雑なステップがあります。
半導体の性能向上にあたっては、「成膜」や「検査」など、それぞれの分野で高い技術が要求されます。近年ではAIやIoT、あるいは自動運転において、膨大なデータの高速処理が求められ、半導体自体も高性能化がますます求められるようになっています。
こうした前提を押さえたうえで、株式市場で活況の国内5社を、得意分野ごとに並べてみましょう。一部重なる領域もありますが、各社には役割があり、競合というより補完の関係にあります。たとえるなら、ラーメン業界において「ずんどう」「製麺機」「ガスコンロ」「食洗器」が競合しないのと、似ています。
●アドバンテスト:最終検査
●ディスコ:ウェーハの「切る・削る・磨く」
●レーザーテック:フォトマスク(原版)の欠陥検査
●スクリーン:洗浄
図表5は2021年3月期からの営業利益の推移です(2025年度の予想も入っています)。収益規模としては東京エレクトロンが圧倒的であるものの、他の4社も増益傾向です。
近年の半導体株ブームはとかくAIと関連づけられますが、IoTや自動運転ほか、伝統的な電気機器の需要回復期待もあります。「世界で半導体市況が盛り上がれば、この5社にも追い風が吹く」との期待が、近年の株価高騰をもたらしているといえます。
■半導体株の最大のリスク
さて、盛り上がり続ける半導体株ですが、リスクはないのでしょうか。くり返し述べているように、半導体の盛り上がりはAIの進化と同時並行です。そのため、AIブームの行き先が読めないことが半導体株にとって最大のリスクでしょう。
もちろんこのまま技術的発展を遂げ続け、数年後には予想をはるかに超えるとてつもない世界を実現する可能性はあります。しかし同時に、世界の巨大企業が「あまりにも高い値段でエヌビディアのGPUを買うのはやりすぎだった」と、現在の熱狂を振り返ることになる可能性も否めません。そうなれば、過剰な投資の反動で、市況が冷え込む恐れもあります。
また、米中対立などの地政学リスクも大きなポイントでしょう。先ほど説明したように、半導体の世界ではグローバルな水平分業が進んでいます。各国の間で貿易摩擦が強まれば、半導体のサプライチェーンが寸断され、あらゆる産業でドミノ倒し的に問題が波及する恐れがあります。
いずれのシナリオも、過去の経験則から導けるリスクではありません。過度に不安をあおるつもりはありませんが、熱狂的な株高が起こっているときも、こうしたリスクは頭の片隅に置いておきたいものです。
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実業家
1972年、福岡県生まれ。ロケットエンジンの開発や、スマホアプリのプロデュース、また予防医療普及協会理事として予防医療を啓蒙するなど、幅広い分野で活動中。また、会員制サロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」では、1500名近い会員とともに多彩なプロジェクトを展開。『ゼロ』『本音で生きる』『多動力』『東京改造計画』『将来の夢なんか、いま叶えろ。』など著書多数。
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経済ジャーナリスト
1980年生まれ。2022年に日本経済新聞社の記者をやめ、独立。経済ニュースを「わかりやすく、おもしろく」をモットーに、SNSを軸に活動中。経済や投資に馴染みのない人を念頭に、偏りのない情報の発信を目指している。国民の金融リテラシーの健全な向上に少しでも貢献できればと思っている。テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』レギュラーコメンテーター。X(旧Twitter)フォロワー数72万人、YouTubeチャンネル登録者数31万人、note有料会員は2.9万人。
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(実業家 堀江 貴文、経済ジャーナリスト 後藤 達也)
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