人は話の「2割」しか記憶できない…「ロジカルなのになぜか伝わらない人」がハマっている落とし穴
プレジデントオンライン / 2024年11月26日 17時15分
※本稿は、石田一洋『あなたの話はきちんと伝わっていますか?』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
■友人、デート、医療機関…私たちの日常は「説明」でできている
あなたは、「説明」する場面というと、どのようなシーンをイメージしますか?
真っ先に思い浮かぶのは、プレゼンや会議、スピーチなど、複数の人の前で「自分一人が話す場面」ではないでしょうか。
「どんな話を聞かせてくれるのか、お手並み拝見といこうじゃないか」
と、まるで周囲の人が全員自分を審査しているような、とてつもないプレッシャーを感じる場面をイメージするかもしれません。実際、そのようなプレッシャーが苦手で、いつしか説明そのものに苦手意識を持ってしまう人は少なくありません。
ただ、プレゼンやスピーチだけが説明というわけではありません。
仕事だけではなく、次のように日常のあらゆる場面で「説明」は行われているのです。
・友人との会話→最近話題になったニュースや趣味の会話など
・家族との会話→今日あった出来事や、明日の予定を伝えるときなど
・明日のデート→飲食店へのリクエストや、自分がどんな人間か伝えるときなど
・医療機関にて→医師に症状を伝える、治療法を聞くときなど
日頃意識することはないと思いますが、このように私たちの生活は「説明」によって成り立っているのです。
■なぜ新しい家電の取扱説明書を最後まで読まないのか
あなたは、“取扱説明書”を最初から最後まで読んだことはありますか?
スマートフォンや家電などを新しく購入したときに同梱されていますが、実際に読んでいるのは、使用するのに最低限必要な情報だけではないでしょうか?
新しい家電製品を使い始めるときを思い出してみてください。
ワクワクしながら箱を開け、早く使いたい気持ちでいっぱいでしょう。
初期設定で分からないことがあれば、すぐに取扱説明書を開いて一生懸命読むはずです。
一方で、いま使わない機能の説明ページは、必要になったときに読めばいいやと思いながら、説明書は棚の中へポイ。そのまま存在が忘れ去られることはよくあります。
せっかく買った商品なのに、なぜ取扱説明書をじっくり読まないのか。
この問いに対する答えが、そのまま「説明」がうまくなるためのヒントになっています。
■人間の脳は必要な情報しか受け入れられない
人間の脳は、余計なことに容量を使いたくないため、必要な情報のみにフォーカスするようにできています。
逆に言えば、いま必要なことだけ説明されれば、人は満足するということでもあります。
ところが、多くの人は、たくさんの情報を伝えたほうが聞き手のためになると勘違いしてしまっています。
すでに分かりきった話を一から説明したり、めったに生じない事例を長々説明したりと、とにかく多くの情報を盛り込んでしまいます。
しかし、聞き手が求めているのは「いますぐ必要な情報」だけです。
そのほかは、また必要になったら話してくれればいいのです。
余計なことを伝えれば伝えるほど、本当に必要な情報は埋もれていきます。
たくさんの情報を伝えようとすると、もしあなたが説明の中で有益な情報を伝えていたとしても、「余計な話ばかりする人」という印象を持たれてしまうかもしれません。
■一方通行の会話は相手のやる気を削ぐことになる
説明というと、聞き手に向かって一方的に伝えるようなイメージがありますが、実際は「双方向のコミュニケーション」です。
聞き手が本当に納得しているのか、理解しているのか注意を払いながら進めなければ、一方通行の会話になり、実は全く伝わっていなかったということにもなりかねません。
説明の苦手意識を克服するために、ぜひ知っておいてほしい心の機能があります。
それは、「心理的リアクタンス」と呼ばれるものです。
人が自由を奪われたときに発生する心理作用のことで、1966年にアメリカの心理学者ジャック・ブレームによって提唱されました。
心理的リアクタンス理論によると、「人は自分の考えに沿って行動したい」という欲求があり、誰かに指示された通りに行動することに抵抗するようにできています。
実際に、行動をいちいち指示されてやる気がなくなった経験はありませんか?
「伝票は溜めずに早く提出してくださいね!」
このように一方的に指示されると、どのように感じるでしょうか?
おそらく、
「こっちはほかにもやることがあるんだよ……。そっちの都合だけで言わないでくれよ」
というように、反論したくなるでしょう。
■相手に考える余地を残し、相手主体で行動させる
一方で、
と、考える余地をある程度残した状態で聞かれたらどうでしょうか?
これなら、多少は動いてあげてもいいかな、という気になるでしょう。
心理的リアクタンスは、その話の有益性は関係なく、他人に行動を指示された瞬間に作用します。
そのため、どんなに相手のためを思って伝えたとしても、行動を促せば促すほど、相手の心の中には抵抗感が生まれてしまうのです。
これを説明に当てはめて考えてみると、良かれと思って一から十まで説明するよりも、聞き手に考える余地を残しておいて、自主的に行動してもらうほうがよいということです。
うまく説明するには、「たくさん喋らないといけない」「完璧に指示しなければいけない」と思い込んでしまいがちです。
しかし、そうやって自分にプレッシャーをかけても、相手はそこまでの説明は求めていません。この認識のズレこそが、お互いにとって不幸なストレスを生み出しているのです。
■人は話の「2割」しか記憶できない
説明をするとき、「論理的な伝え方を磨けばしっかり伝わるだろう」と考える人がいます。間違いではありませんが、論理的な伝え方を磨く前に知っておいてほしいことがあります。
それは、人は話の「2割」しか記憶できないということです。
これは、聞く気がある、聞く気がないという意味ではありません。
話を聞く気持ちがあっても、その内容を次の瞬間には忘れてしまうのです。
私たちの脳は、生きていく上で不要だと判断した情報は次から次に消去されるようにできています。
そのため、どんなに重要なことであっても、聞き手の脳が必要と判断したこと以外は記憶できないのです。
諸説ありますが、脳科学の世界では、短期記憶(一時的に脳に記憶される情報)で覚えていられるのは、平均すると7項目程度とされています。時間にして30秒が限界ともいわれています。
例えば、携帯電話の番号を口頭で伝えられて、どのくらいの間記憶していられると思いますか?
おそらく、10秒前後が限界ではないでしょうか。
このように考えてみると、そもそも、脳の仕組みからして話したことの全てを覚えてもらうのは無理というわけです。
つまり、説明は、「断片的にしか覚えられない」という前提を理解すること。
その上で、「要点だけは確実に記憶してもらう」ことが求められます。
これからは、「説明が全部伝わらなかった……」と悩むのも、「私はちゃんと説明したのに、なんでこの人は話を覚えていないの?」と腹を立てるのもやめましょう。
話したことの全てを受け取って、実践してもらうのはそもそも無理なのです。
まずはこの前提を受け入れるだけで、説明上手に一歩近づくことができます。
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関西テレビ放送アナウンサー
広島県出身、2002年早稲田大学商学部卒業。RKB毎日放送を経て2014年から現職プロ野球日本シリーズや、競馬G1、大阪国際女子マラソンなど全国ネットのスポーツ中継のほか、番組MCやリポーター、ニュース、ラジオパーソナリティ、ナレーション、司会と幅広く担当。アナウンスメントやドキュメンタリー制作のコンテスト優勝、受賞歴多数。第10回全国講師オーディションではグランプリを獲得。学校や企業研修では、「伝わる説明の技術」や「人を動かす伝え方」を中心に、「アサーティブコミュニケーション」「獲れる採用説明会の作り方」などを指導している。
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(関西テレビ放送アナウンサー 石田 一洋)
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