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「エラくなるとエラい目に遭う」昇進しても給料しょぼい…管理職のなり手が不足して登場した"上司代行"の正体

プレジデントオンライン / 2024年11月22日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

部下をどうマネジメントすればいいかわからない。そうした悩みを持つ人が増え、管理職になりたい人も減っている。そんな中、一部の上司の業務を外部の人材に依頼する「上司代行」という新しいビジネスが話題になっている。人事ジャーナリストの溝上憲文さんが現場を取材した――。

■部下との関係に神経を擦り減らす管理職

部下をどう指導したらよいのかわからない――。部下の育成などマネジメントに頭を抱えている管理職が増加している。

「企業の管理職研修の際、元上司が今は部下になっているという管理職が3割程度いた。年上の部下のマネジメントやリモートワークによる物理的に離れた環境で部下の業務を把握し、部下を育てていかないといけないという困難に直面し、非常に悩んでいる管理職が多い」

こう語るのは管理職研修を手がけるALL DIFFERENT(本社:千代田区)の事業開発推進本部シニアマネジャー・根本博之CLM(最高育成責任者)だ。

同社のラーニングイノベーション総合研究所の「管理職意識調査」(2024年5月20日~7月17日調査)によると、課長クラス以上の管理職の悩みで最も多かったのは以下の通りだった。

「部下の育成」(55.2%)
「部下とのコミュニケーション」(30.4%)
「部下の評価・フィードバック」(27.4%)

部下に関する項目が上位を占めている。

では、部下育成のために管理職はどんな努力をしているのか。同調査の結果はこうだ。

「部下と業務時間に積極的にコミュニケーションをとる」(46.8%)
「部下からの意見に積極的に耳を傾ける」(44.3%)
「部下に期待や役割を伝える」(42.3%)

同シニアマネジャーは「部下に寄り添うことに意識的に努力している傾向がうかがえる。何か注意するにしても、ハラスメントと思われないように言葉を選ぶときの難しさを感じている。あるいは指摘しても本当に自分の思いが届いているかがわからず、確認するために良くも悪くも寄り添わざるをえない状況にある」と語る。

部下を育成・指導するために涙ぐましい努力をしている管理職の姿が浮かび上がる。

■ベテラン管理職ほど部下へのフィードバックに躊躇する理由

同調査では管理職を新任管理職(1~3年目の課長クラス)とベテラン管理職(4年目以上の課長クラス)に分けて調査している。

ベテラン管理職に悩みを聞くと……。

「部下の育成」(56.0%)
「部下とのコミュニケーション」(36.2%)
「部下の評価・フィードバック」(23.3%)

部下とのコミュニケーションは新任管理職の25.5%に比べて10ポイント以上高くなっている。

また、部下の間違いを正しく伝えるフィードバックは不可欠であるが、部下へフィードバックする際、ためらったことがあると回答した管理職が53.2%にのぼっている。ベテラン管理職も53.2%いるが、ためらった理由について聞くと、「部下の反応に対して不安があるから」と回答した新任管理職は47.8%であるが、ベテラン管理職はそれを上回る55.9%もいた。また「適切な伝え方がわからなかった」が45.8%と、新任管理職の38.8%よりも多かった。

ベテラン管理職ほどフィードバックするのに躊躇しているのはなぜなのか。

同シニアマネジャーは「新任管理職は若手社員や中堅の部下が多いのに対して、ベテラン管理職の部下は、経験を長く積んでいる人、部長であれば課長が対象になり、その道のプロとして自負を持っている人が多いからではないか。相応のこだわりを持っている人に対し、指導する際にこれで正しいのかと、熟慮して伝える必要があり、フィードバックの難易度が上がる」と説明する。

腕を組んで仁王立ちの3人がこちらを見つめている
写真=iStock.com/lenets_Mikolay
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lenets_Mikolay

もう1つは部長クラスなど上位の管理職になると、DXなどの新しい事業領域に取り組む必要があり、しかも何をすべきかを自ら判断し、実行することが求められる。

「自分にとって未知の領域に対してフィードバックする必要があり、本当にこれでいいのかと悩むケースが多いのではないか」(同シニアマネジャー)

■管理職になりたくない人の増加で登場した「上司代行」とは

もちろん管理職の仕事は部下の指導・育成だけではない。

部門の戦略立案、予算の執行・管理、部下の業務管理、他部署との連携・調整から最近はパワハラなどハラスメント防止を含む労務管理まで多岐にわたる。

しかも日本の管理職は自ら現場の業務をこなすプレイングマネージャーが9割超を占めるなど、多忙を極めている。

こうした業務遂行の難しさもあり、管理職になりたい人が不足する中、「上司代行サービス」という新たなビジネスも登場している。

階段を上る3人のビジネスパーソン
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

社外のプロフェッショナル人材が若手人材を育成するサービスで、管理職に代わって仕事に対するアドバイスや個人のキャリア面談などを行う。

サービスを運営するHajimari(本社:渋谷区)の高橋睦史・メンタープロパートナーズ事業責任者は経緯を説明する。

「当社自身、事業が停滞しているタイミングで、現役の経営層として活躍されている方々と業務委託契約を結び、プロジェクトや事業の立ち上げを支援してもらったところ事業も成長した。それをきっかけに事業部長候補や役員候補に上司代行をつけて育成したところ非常に効果が高いことがわかり、2022年から部下や幹部候補の育成の部分を中心に上司代行サービスをスタートした」

上司代行を担うのは、年商200億円の企業に育てた創業経営者をはじめ大手企業子会社の社長や役員、部長を歴任した30~50代のプロフェッショナル人材だという。

同社に登録する10万人のフリーランスのうち、厳選された2500人の登録者が部下育成や事業責任者を代行する。大手企業からの依頼も多く、この2年間で100社と契約している。

「次世代の経営層を育成したい、管理職のレベルを上げたい、あるいは新規事業を生み出す力を管理職につけたいために上司代行を利用したいといったニーズが増えている」(高橋事業責任者)

たとえば、川崎重工では、新事業の分野に詳しい社外ビジネスメンターを新任の事業部長につけて、新事業への挑戦と人材育成を同時に推進している。

上司代行といっても四六時中張り付くわけではない。月に10~30時間程度の業務委託契約で、部下との育成面談や事業のミーティングに参加したり、管理職の役割を代行したりする。上司代行サービスの依頼が増える背景について同社の木村直人社長はこう語る。

「管理職は、組織マネジメントと事業の両方を背負っているが、ビジネスの変化のなかで上司1人では賄いきれない課題がさまざま出てきていると思う。事業の寿命が短くなり、違う領域からライバルが出てくるなど変化が激しい状況のなかで、それを担えるリーダーを育成していくことが難しくなりつつあるのではないか。そこに外部から上司代行の人がきて、マーケティングの部分や部下育成の面を代行するなど、いろんな役割のニーズが増えている。管理職の役割そのものが以前に比べて難易度が上がっていることもニーズの背景にある」

■「就任半年間は黒い便が出た」「エラくなるとエラい目に遭う」

管理職といえば昔は経営幹部の登竜門として誰もがいち早くなりたいポストだった。しかし、今や年功序列が崩壊し、年上の部下を含む部下のマネジメントに加え、経営から事業環境の変化に応じた判断と成果が求められ、仕事そのものが複雑化・高度化している。

ところが、それに見合った対価は少なく、中国や韓国企業の管理職より報酬は低いといわれている。業務量の多い割にインセンティブが低い処遇に、近年では管理職を目指すより、専門職を志向する若手・中堅世代も増えている。

SNS上には、

「肩書が上がっても残業手当はつかなくなり、プラスされる報酬も微々たるもの」
「責任が重大で就任半年間は黒い便が出た」
「エラくなるとエラい目に遭う確率が高まる」
「さっさと定時で帰って副業したほうがよほど稼げる」
「社内政治に引きずり込まれたらたまらない」

など、管理職はむしろつらいだけだと考える層の愚痴コメントがあふれている。

管理職の位置づけも、日本のメンバーシップ型の“何でも屋”のプレイングマネージャーから外資系流の戦略の立案と組織マネジメントに徹したプロマネージャーへの転換を図る企業も出てきている。

今のままでは企業の中核となるべき管理職が疲弊し、企業の成長を危うくする事態になりかねない。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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