ユニクロ・柳井正氏はやっている…ユーモアでも声量でもない「聞き手の心をグッとつかむ話し方のコツ」
プレジデントオンライン / 2024年11月28日 7時15分
■ユニクロ柳井氏のリーダーシップの秘密
2024年10月、ユニクロを展開するファーストリテイリングの2024年8月期決算は、売り上げ3兆円を超え営業利益も5000億円を超える過去最高となりました。広島市にユニクロ1号店を開店してから、ちょうど40年。世界的なアパレル企業に成長させた柳井正会長兼社長のリーダーシップの秘密は何か。本稿では、「話し方」の視点から考えます。
柳井正氏の「話し方」。
そう聞いて、登壇している場面や話し方をすぐに思い浮かべることができるでしょうか。なかなかイメージがわかない、という方も多いかもしれません。
それは無理もないことで、柳井氏は講演依頼を断ることが多いと言われています。
ユニクロについて記したノンフィクションによると、実は彼は「生まれ持ってのどもり症」であるといいます。「紙に書かれた文章を読み上げようとすると不思議とすぐに言葉に詰まってしまう」とのこと。「柳井のどもりは、実は今も残っている。講演などで原稿を用意して話す時に突然言いよどみ、同じ言葉を繰り返す事が度々だ」と記されています(『ユニクロ』杉本貴司、日経BP、2024年)。
■弱点を逆手にとる
吃音(どもり)などの発話障害を克服して世界的リーダーになった人物は他にもいます。例えば、「言葉で国民を鼓舞する政治家」といわれた元英国首相、ウィンストン・チャーチル。「世界のCEOが選ぶもっとも尊敬するリーダー」(2013年PwC Japan調べ)にも選ばれた、世界のトップリーダーです。
吃音を持っていたともいわれる彼は、人前ではまったくその片鱗を見せませんでした。彼は議会の何日も前から想定される野次への切り返しや受け流しなどの練習をしていたといわれています。連日の練習があってこそ、原稿なしで堂々としゃべっているように見えたのです。
では、同じように柳井氏も練習によって「生まれ持ってのどもり症」を克服したのでしょうか。これは私の推測でしかありませんが、柳井氏の話し方の特徴を分析すると練習によって修正したというよりは、その弱点を逆手にとってうまく活用しているように見えます。その特徴は、短い一文を一息でいいきることです。
2024年3月に行われたファーストリテイリング入社式における柳井氏の新入社員にむけたメッセージをみてみましょう。
■低い声で一文を短く話す
「皆さんこんにちは、柳井です。」
会場に集まった270人の新入社員にむけて、柳井氏は低めの声で淡々と話し始めます。
「こうやって見ると壮観ですね。一人ずつ全部顔が違うっていう。当たり前のことなんですけど。」
つかみとして笑顔をみせながら冗談を言ったあと、以下のように続けます。
「我々、企業理念をやはり1番大事にしております。ですから企業理念に共鳴してください。これを自分の方針にしてください。仕事する上で正しい考え方を持ってください。」
柳井氏はこのあとも終始一文が短いリズム感を崩さず話し続けます。
言いよどみ、そして緊張による話しづらさを治すには、息のコントロールが重要となります。息は、一文がより短い方がコントロールしやすくなります。さらには、低い声の方が望ましいとされています。「低い声で一文を短く話す」という柳井氏の話し方は理にかなっているといえるのです。
もしあなたも人前で話すと緊張して声が出づらい、頭が真っ白になるという悩みをお持ちであれば、柳井氏の話し方を真似ることで堂々と話すことができるようになるでしょう。
■一文あたりの平均文字数はおよそ24.5字
私がかつてキャスターを務めていたNHKでは、「一文短く」話す目安として一文を50文字以内にすることを推奨していました。一つの文、つまりはじまりから句点「。」までが50文字を超えると長いということです。
改めて柳井氏のメッセージの文字数をみてみましょう。
我々企業理念をやはり1番大事にしております。(21文字)
ですから企業理念に共鳴してください。(17文字)
これを自分の方針にしてください。(15文字)
仕事する上で正しい考え方を持ってください。(20文字)
このように約20分のスピーチで、文章全体の一文あたりの平均文字数は、およそ24.51文字でした。
■最も伝えたい内容は13文字以内で
一文を短くするほうが伝わりやすくなるのは、話し言葉だけでなく書き言葉も同じです。
ユニクロでは、自社のSDGsに関連した取り組みについてこのような短い日本語で13文字、英語で4語で表現しています。
THE POWER OF CLOTHING 4語
「よい服をつくり、よい服を売ることで、世界をよい方向へ変えていくことができる」という自社の立場、どのような社会貢献につながるのかというメリットも明確です。一文が短いメッセージの好例です。
日本語の場合、目安は13文字です。NHKでは、私が仕事をさせていただいていた当時は原則として一つのニュースのタイトルは13文字以内とされていました。
その他の放送や映像、新聞やインターネットメディアもタイトルは全角12文字から15文字設定が多くなっています。これらは、表示される画面の横幅による制限でもあります。
せっかく一生懸命に伝えても、相手が内容を覚えていなければ意味がありません。
トップリーダーは、話を聞かせるだけでなく、その内容を相手の記憶に刻み込ませることができます。聞き手がメッセージを覚えられるためにも、短い言葉でまとめる必要があります。「服のチカラを、社会のチカラに。」のように最も伝えたい内容を13文字以内でまとめましょう。
■トランプ大統領もやっている
英語の場合、5語以内が理想と言われています。
2024月11月に行われた米大統領選は、拮抗するという予想を大きく裏切りトランプ氏が圧勝。返り咲きを果たしました。
トランプ氏の有名なスローガン「Make America Great Again」(アメリカを再び偉大に)は4語。今回の選挙戦で彼が立つ演台に掲げられていたキャッチフレーズは「TRUMP WILL FIX IT」(トランプが解決する)4語でした。
5語以内とは心理学的にいうと、一度にそれだけしか相手の頭に残らないという長さの限界でもあります。認知心理学では、こうした人が短期間で一度に記憶できる情報量の単位を「チャンク」と呼んでいます。アメリカ・ハーバード大学の心理学者ジョージ・ミラーが提唱した概念です。
ヒトがワーキングメモリで一度に覚えられるチャンク数は7±2つまり5~9が限界だとされています。その後、アメリカ・ミズーリ大学の心理学者ネルソン・コーワン博士は4±1つまり3~5とさらに少ない報告をしています。
ちなみにユニクロの「THE POWER OF CLOTHING」で使われている「THE POWER OF ●●」は、覚えておくと便利なフレーズです。良く使われるキャッチコピーの型のひとつです。
THE POWER OF ●●
あなたが伝えるとしたら●●には何がはいるでしょうか? 自分が一番伝えたいことを●●の中に当てはめてみましょう。こうした短い言葉の型を知っておくことも、「伝わる人」への近道となります。
■「何を言ってるかわからない人」にならないために
一般的に、街頭演説をすることが多い政治家は一文短く話すことが多いものです。
なかでも小泉純一郎氏、進次郎氏は一文が短く、切れのよい演説に定評があります。私の研究室で分析した小泉純一郎氏のあるスピーチが、一文の長さが34文字であったことと比較しても、柳井氏の一文の短さ(およそ24.5字)は際立っているといえるでしょう。
一文が長い文章は、ピントがボケてしまいます。そのため聞き手にも、最悪の場合は話をしている本人も何を言いたいのかわからなくなってしまいます。一文が短い文章は、伝えたいことが明確になります。歯切れがよく力強い印象を与えます。
柳井氏のメッセージがどれくらい短く、力強く伝わるか、引き続き入社式の具体例をみてみましょう。
店の収益が上がってみんながもっと良い収入を得られる。(25文字)
より良い社会になる。(9文字)
そのために何したらいいのか。(13文字)
自分の頭で考えてください。(12文字)
行動してください。(8文字)
実行ですよ。(5文字)
世界中の店舗で最高のチームを作ってください。(21文字)
自分が最高のチームを作って行かないと誰かが最高のチーム作ってくれることはないですからね。(43文字)
自分から作っていく。(9文字)
それをお願いします。(9文字)
私たちのファンを増やしてください。(16文字)
そういう仕事を期待します。(12文字)
皆さんの活躍を確信してます。(13文字)
心から楽しみにしてます。(11文字)
■読書をするからこそ身につく力
柳井氏がこのように一文短く話すことができるのは、読書家でいらっしゃることと無関係ではないでしょう。口語といわれる「話し言葉」は、ついつい一文が長くなってしまうことが多いものです。とくに、考えながら話すと「~で」「~して」と、どんどん長くなってしまうのが日本語の特徴です。
一方、文語といわれる「書き言葉」は、文章や改まった場面で使われる言葉です。主語に対して述語が合っていない主術のねじれを起こさないためにも一文を短くまとめられています。
そのため、口語でも一文を短く話せるようになりたい場合は、たくさんの文章を読むとよいでしょう。とくに書籍を声に出してよむ音読は、自分の身体に短文のリズム感を覚えさせることができるためおススメです。
出典
時事通信映像センター.(2024年3月1日).ノーカット柳井正会長兼社長の新入社員へのメッセージファーストリテイリング.https://www.youtube.com/watch?v=3M4zX7J8q_o
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スピーチコンサルタント/長崎大学准教授
NHKキャスター歴17年。心理学の見地から「他者からの評価を高めるスピーチ」を研究し博士号取得。政治家、経営者やビジネスパーソンに信頼を勝ち取るスピーチやコミュニケーションを伝授。著書に『最高の話し方』(KADOKAWA)など。
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(スピーチコンサルタント/長崎大学准教授 矢野 香)
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