歯磨きのあとに口をゆすいではいけない…毎日磨いているのにむし歯になる人がやっている「誤解だらけの習慣」
プレジデントオンライン / 2024年11月25日 6時0分
※本稿は、前田一義『歯を磨いてもむし歯は防げない』(青春新書インテリジェンス)の一部を再編集したものです。
■歯磨きをするのはむし歯を防ぐためではない
むし歯になるのは歯磨きをさぼったせい
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歯磨きの目的は食べカスを落とすためではない
むし歯予防というと、多くの人がまず思い浮かべるのが歯磨きでしょう。そこから、むし歯になると「歯磨きをさぼったから」と後悔する人も少なくありません。あるいは日頃から真面目に磨いていて、「あんなに歯磨きしていたのに、まだ足りなかったのか」とショックを受けるかもしれません。
でも、むし歯になるのは、口の中のpHが5.5以下の状態が長く続いたときです。歯磨きの目的は、むし歯予防よりも、歯周病を予防するためです。むし歯が歯が溶ける病気であるのに対し、歯周病は歯茎(はぐき)が炎症を起こしたり、歯の周りの顎(あご)の骨が溶ける病気です。歯は顎の骨によって支えられています。歯周病が進んで顎の骨が溶けると、最後は歯を支えられなくなり、歯が抜けることになります。
歯周病の原因は、歯の表面に付いたプラーク(歯垢)です。プラークはバイキンの塊かたまりで、白くネバネバしています。このプラークは、口をゆすいだり薬品を使うことでは取れません。お風呂や台所のヌルヌルした汚れをイメージすると、わかりやすいでしょう。これはバイオフィルム(菌膜)と呼ばれ、やはり薬品や洗剤などでは落ちません。
ブラシなどでゴシゴシこすって、物理的に落とすしかありません。こすることで塊になっていたバイオフィルムがバラバラになり、こうなれば薬品や洗剤で死滅させることができます。
■水流圧洗浄機ではプラークは取れない
プラークもバイオフィルムの一種で、落とすには歯ブラシでこするしかありません。
ちなみに近年、「プラークを完全に取り除く」といった触れ込みで、ウォーターピックが注目されています。直訳すると「水のつまようじ」で、水流で口腔内を洗浄する装置です。なかには1万円以上するものもありますが、プラークは水を当てただけでは取れません。
「プラークの除去能が最も低いのは水流圧洗浄器(細菌は水流で取り除けない)」というのは、歯科医師の国家試験にも出てくるほど常識で、かつ間違えやすい問題でもあります。水流で食べカスを取ることはできても、プラークは落とせません。使うと口の中がスッキリすることでも人気のウォーターピックですが、歯周病予防のためには歯磨きと併用して使うようにしてください。
歯周病予防では物理的にプラークを落とすことが大事
■フッ素濃度の高い歯みがきを使ったほうがいいが…
歯磨きのあとは、しっかりゆすいで口の中のバイキンを吐き出す
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歯に取り込んで強くするためにフッ素成分を残しておくことが大事
前項で歯周病予防には歯ブラシでプラークを落とす、つまり物理的作業が大事と述べました。一方、むし歯予防で大事なのは、フッ素の活用です。
市販の歯磨き粉に「フッ素配合」と表記されたものがあります。このフッ素が大事で、フッ素には、歯を強くして同じpHでも溶けにくくなる作用があります。一方で、再石灰化の働きを促す作用もあり、フッ素を取り込むことによって、歯の表面が「ハイドロキシアパタイト」から「フルオロアパタイト」に変わります。それによって歯が強くなり、むし歯リスクを大きく減らすことができるのです。
近年はフッ素が歯を強くすることが知られ、フッ素配合の歯磨き粉を使う人も増えています。前項で歯磨きの目的は歯周病予防と述べましたが、フッ素配合の歯磨き粉を使うなら、歯磨きでむし歯予防もできます。
むし歯予防効果のある歯磨き粉のフッ素濃度は1500ppmなので、これに準じる濃度の歯磨き粉を使うことが大事です。ただ、ここで残念なのがフッ素配合の歯磨き粉で、せっかくフッ素を使ったのに、その後、口をゆすぐことでフッ素を洗い流す人が多いことです。
■歯磨き後に口をゆすいではいけない
歯磨きのあと、水で口をゆすぐのは常識と思われがちです。口の中が歯磨き粉まみれでは気持ち悪いと感じる人は多いでしょう。口の中のバイキンを出すためにも、口をゆすぐことは大切と思っているかもしれません。
これは日本人特有の感覚で、海外では歯磨きのあと口の中をゆすがない人も少なくありません。とくにフッ素の効能を子どもの頃から教えられているスウェーデン人は、フッ素を洗い流すことはしません。せいぜい口の中の余分な歯磨き粉を吐き出す程度です。
フッ素配合の歯磨き粉による歯磨き効果を求めるなら、口の中はゆすがないほうがいいのです。どうしても気持ち悪い人は、ペットボトルのキャップ1杯程度の水でゆすげば十分です。最初はもの足りないかもしれませんが、慣れればこれで十分になります。
歯磨き後のゆすぎは、ペットボトルのキャップ1杯分の水で十分
■「歯を磨く時間が長いほうが良い」は間違い
歯磨きは時間をかけて丁寧に磨く
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磨きすぎは知覚過敏のもと
歯磨きについて日本では、昔から「3・3・3運動」が推奨されています。「食後3分以内に3分間、1日3回磨く」というものです。子どもの頃から、この習慣を守っている人も少なくありません。
絶対的な間違いとはいえませんが、問題はこれを過大評価して、「歯磨きをすればするほど、むし歯になりにくい」、ひいては「歯磨きにかける時間は長いほどいい」と誤解している人が多いことです。
「私はむし歯になりやすいから、歯磨きには10分以上、時間をかけています」などと言う人もいます。磨くだけでは手持ちぶさたなので、テレビを見ながら、あるいはお風呂に入りながら30分かけて磨く人もいます。これは明らかに磨きすぎです。
スウェーデンのイエテボリ大学が考案した歯磨き効果を最大限に引き出すイエテボリ法では、歯磨き時間は2分としています。しかも、実際にスウェーデン人が歯磨きにかける時間を調べたところ、45〜50秒というデータもあります。45〜50秒でも、きちんとした定期検診を受けていれば、むし歯にも歯周病にもならないのです。
■歯を磨く時間は2分で十分
長すぎる歯磨き時間は、むしろ弊害のほうが多くなります。10分も歯磨きに時間をかければ、どうしても注意が散漫になります。ほかのことをしながらなら、なおさらです。自分では磨いているつもりでも、同じところばかり磨いているなど、磨き残しが出やすくなります。
もう一つの弊害は、知覚過敏になりやすいことです。磨きすぎて歯が削れ、歯の根元の象牙質が剝き出しになってしまうのです。象牙質には、神経につながる無数の穴があいています。歯に対する刺激は、この穴を通して神経に伝わります。そのため磨きすぎて象牙質が剥き出しになると、冷たいものやブラッシングなどの刺激で神経が刺激され、強い痛みを感じるようになるのです。
私のところに「むし歯で歯が痛い」と駆け込んでこられた方がいて、よく見ると磨きすぎによる知覚過敏だったケースが少なくありません。このような方は、使っている歯ブラシが硬めのことも多く、軟らかい歯ブラシを使うことをお勧めしています。
知覚過敏は一過性なので、時間が経たてば痛みはなくなります。とはいえ露出した象牙質から、むし歯になることもあります。磨きすぎかどうかは、見た目でもわかります。下の歯なら歯茎が下がり、上の歯なら歯茎が上がり、歯が長くなったような見た目になります。
また、象牙質の部分は茶色いので、茶色い部分が見えたら磨きすぎだとわかります。このような状態になったら、治すには歯茎の移植手術しかありません。そうならないためには、長時間の歯磨きはしない。イエテボリ法にあるように、むし歯を防ぐには2分も行えば十分です。
歯磨き時間は2分で十分
■「起床後の口の中はバイキンだらけ」は正しいが…
朝起きて、すぐ歯を磨く
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食前の歯磨きは酸蝕症になりやすい
歯磨きに関するもう一つ多いカン違いに、「朝起きて、すぐ歯を磨く」というものがあります。
寝ている間に、口の中はバイキンだらけになっている。気持ち悪いから朝起きたら、すぐに磨いてバイキンを追い出すというわけです。テレビの健康番組などで推奨することもあるようですが、歯の健康を考えるとお勧めできません。
朝起きたとき口の中にバイキンがたくさんいるというのは、間違いではありませんが、そもそも口の中には、つねにバイキンがいます。むし歯の原因となる、むし歯菌もいます。歯周病の原因となる歯周病菌もいます。とはいえ朝起きてすぐの歯磨きは、別のリスクを高めます。
■「歯が弱い状態」で朝食をとることになってしまう
ふだん歯の表面は、ペリクルで覆われています。ペリクルとは唾液によって生じるタンパク質の薄い膜で、酸で歯が溶けるのを抑制する働きがあります。歯磨きをすると、このペリクルが取れてしまいます。朝起きてすぐ歯を磨き、そのあと朝食をとると、ペリクルが落ちた状態で食事をすることになります。
その状態で酸味の強いものを食べたり飲んだりすると、酸で歯が溶ける酸蝕症になりやすいのです。ペリクルは歯磨きをしてから30分もすれば、再び歯の表面を覆います。歯磨き後、30分経ってから食事をするなら、酸蝕症のリスクはなくなります。そんなに待てないという場合は、朝起きてすぐの歯磨きはやめて、口の中をゆすぐ程度にしてください。それだけで口の中はスッキリします。
ゆすぐだけでは歯に付いたプラークは落ちませんが、朝起きた状態でそこまでこだわる必要はありません。食後の歯磨きで落とせば、十分です。そもそも口の中には、バイキンがつねにいます。どんなに歯磨きしても、ゼロにはなりません。バイキンと共存しながら、いかに効果的な口腔ケアをするかが重要なのです。
歯磨き後は30分あけてから食事する
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歯科医
1976年生まれ。日本歯周病学会認定医。2003年日本歯科大学を卒業。仁愛歯科クリニック副院長を経て、現在、医療法人社団康歯会 理事長、前田歯科医院 院長をつとめる。歯周病治療の第一人者・岡本浩氏、竹内泰子氏に師事。歯科世界最高峰であるスウェーデンのイエテボリ大学をはじめ、海外での研修を定期的に受講して最新の治療法を学び、世界標準の歯科治療に精通している。著書に『歯を磨いてもむし歯は防げない』(青春新書インテリジェンス)がある。
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(歯科医 前田 一義)
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