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〈M-1グランプリ〉結成6年目であの域に達した芸人は見たことがない…元王者ノンスタ石田が絶賛する若手コンビ

プレジデントオンライン / 2024年11月28日 18時15分

撮影=プレジデントオンライン編集部

12月22日に「M-1グランプリ」決勝が放送される。昨年は結成6年目の若手コンビ・令和ロマンが優勝した。2008年「M-1」王者であるNON STYLE石田明さんは彼らの漫才を「とにかく堂々としていて、危なっかしいところがない。結成6年の芸歴で、あの域に達しているのは末恐ろしい」という――。

※本稿は、石田明『答え合わせ』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです。

■漫才というおもちゃで遊び抜いた令和ロマン

2023年のM-1で優勝した令和ロマンには、あらゆる点で驚かされました。トップバッターで優勝したのは、2001年、第1回M-1の中川家以来、22年ぶりでした。何より、結成6年目で初めて立ったM-1決勝という大舞台で、漫才というおもちゃであれだけ遊び抜いたのが、すごかった。

寄席ならともかく、はっきりと点数をつけられる賞レースでは、通常、ボケの量を調整しながら戦います。

1つウケた。2つウケた。もうツッコミは終わっているけど、もっとボケたい。3つまでは行けるか。4つはやりすぎだから、3つまでやって止めておこう――わずか4分ですが、ギリギリの調節をしながらネタを作っているんです。

でも、2023年のM-1決勝での令和ロマンは、こうした抑制や調整をいっさいしていないように見えました。

■登場直後に相方のヒゲをいじり続けたことの意味

賞レースでは、無駄撃ちになるかもしれないボケは入れないほうが得策なのに、そんなことは気にしていないがごとく、くるまくんがダダダーッとしゃべり続けた。それはステージに登場して一発目、「相方の(松井)ケムリくんのヒゲ」について、つかみにしては長すぎるくらい話したところからそうでした。

あまりにも人間っぽいナマ感が強い漫才を見せられてしまったので、その後に続く漫才が作り物っぽく見えてしまったくらいです。

特に2番手、敗者復活戦で勝ち上がったシシガシラは、令和ロマンの直後ということもあって自分たちの空気を作り切れませんでした。彼らのハゲネタは悪くなかった。

でも令和ロマンの突き抜け方には追いつけなかった印象です。

3番手のさや香は、いつもながらの激しいぶつかり合いで加熱していく見事な漫才でした。そうなると、さらに後のコンビはやりづらくなる。結果、4番手のカベポスターも、実力を出しきれないエアポケットに落ちてしまいました。

■結成6年目であの領域に達しているのは末恐ろしい

ボケのパンチ力だけを見れば、一番強かったのは、その次の出順だったマユリカやと思います。ただ、マユリカのパンチ力をもってしても、最初の令和ロマンの鮮烈な印象を消し去ることはできなかった。それだけ令和ロマンがすごかったということでしょう。

M-1決勝常連の真空ジェシカは、彼ら本来の漫才を少しわかりやすいほうに寄せていたように感じました。

戦略としては正しかったのかもしれません。でも2023年はヤーレンズという、本当にバカバカしくてわかりやすく、それが最高に笑えるというコンビが先に出ていたことで、少し狙いが外れてしまったんかな。

令和ロマンの勝因は、所作や展開を通じて、大胆さや余裕、いい意味で場を「舐めている」感、漫才を「おもちゃにしている」感、人間を見せている「生っぽさ」が出たことです。ただひょっとしたら、そういうふうに見せたほうが笑ってもらえるだろうという計算に基づいたブラフかもしれませんが。

それにしても、すべての所作がスムーズで、ちょっと生意気そうやのにお客さんを味方につけるのも上手い。とにかく堂々としていて、危なっかしいところがない。結成6年の芸歴で、あの域に達しているのは末恐ろしいとすら思いました。

■サンパチマイクと身体の位置関係にもコツがある

2023年のM-1後に、僕のSNSには「令和ロマンのくるまさんに、石田さんっぽさを感じました」という声がいくつか届きました。ただ僕自身は、そこまで似てないんちゃうかなと思っています。

まず、くるまくんのほうが、圧倒的に能力値が高い。いかにも「芸人」という感じの野心もある。何を取っても僕とは全然違います。

あと、くるまくんは、ものすごい勉強家でもあります。以前、僕がお笑いについて語ったり、若手のネタにアドバイスしたりするトークライブをやったんですが、くるまくんは忙しいなか見に来てくれました。それだけではなく、楽屋にまでやってきて、いろいろ質問をしてくれました。そのときは、漫才の「身体論」について話した記憶があります。

それはどういうことかというと、マイクと自分の位置関係についてなどです。

多くの漫才師は、サンパチマイクの高さを自分の口元あたりにくるようにします。

当然ですが、ちゃんと自分たちの声をマイクに拾ってもらうためです。また、カメラは真正面から自分たちを捉えているので、絵的にも、そのほうがいい。

だけど、客席は舞台より低いので、お客さんは下から自分たちを見上げる形になります。すると口元の前あたりにあるマイクが邪魔になって、お客さんからは自分たちの顔が見えづらくなってしまう。

劇場の赤いカーテンと座席
写真=iStock.com/3DMAVR
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/3DMAVR

漫才では、漫才師の表情や身体の動き、手の動きなども、すごく重要な笑いの要素です。お客さんから見たときに、それらが見えづらいというのは、笑いが起こるチャンスを損なうことにつながります。だからマイクは、多少声を拾いづらくなるとしても、少し低めにするという方法もあります。

■音声スタッフに「このコンビはよく動く」と思ってもらう

それから、ちゃんとすべての声を拾ってもらうために、僕は音声さんに「このコンビは動き回るぞ」と思ってもらうのも意識していますね。

サンパチマイクとピンマイク・ガンマイクを併用しているとき、音声さんは適時、マイクを切り替えています。たとえば、漫才師がサンパチマイクから大きく離れたときは、ピンマイクやガンマイクに切り替えて、音を拾えるようにしているんです。

サンパチマイクの前からあまり動かない漫才師の場合は、基本的にサンパチマイクを生かしておけばいい。でも、「いつ何時、どう動くかわからない」という漫才師の場合はずっと動きを追いかけてマメに切り替えなくちゃいけない。

「こいつは激しく動くぞ」と音声さんに思ってもらうことも、意外と漫才の出来を左右するもんやと思います。

■マイクを通さずに生の声を聞かせることの効果

マイクの話をずっとしてきましたが、「生の声」を聞かせたほうが効果的な場面もあります。ひとことでいえば「本心を語っている場面」は、「作られた感」を出さないために生の声のほうがいい。たとえば怒っているときは、マイクの前でワーワーやらずに、生の声を聞かせる。

2023年のM-1では、くるまくんが、マイクから離れて座り込んでお客さんに直に話しかける場面がありました。これなんかは、完全に生の声を聞かせることの効果を理解したうえでやってるなと思いました。

頭では理解できても、実際にやるとなると難しいものです。くるまくんは僕が話したことを理解してくれたうえで自分の考えも入れて、効果的に漫才に反映させている。やっぱりすごいなと思います。

■「ホームの劇場ではウケる」という落とし穴

また、2023年のM-1前のいつだったか、くるまくんから相談を受けました。「試しにツッコミのケムリに変なことをさせたら、劇場でウケた。だから今度のM-1はその感じで行こうと思う」というようなことを言われたので、僕は反対したんです。

石田明『答え合わせ』(マガジンハウス新書)
石田明『答え合わせ』(マガジンハウス新書)

彼らのホーム劇場である神保町よしもと漫才劇場やったら、たしかに、そういうことをしてもウケるでしょう。でも、なまじホームという小さな島で「ウケてしまった」ことで自信をつけ、その形をM-1に持っていくのはよくないんやないかと感じました。「神保町だけでウケる」という落とし穴にハマってしまうかもしれないと思ったんです。

M-1で決勝に行き、ひいては優勝まで狙うのなら、絶対に、くるまくんが面白いほうがいい。令和ロマンはボケで笑いをとるほうが向いているから、元の形に戻したほうがいいと伝えました。

そして蓋を明けてみれば、令和ロマンはストレートで決勝に進出し、ファイナルラウンド3組に残り、さらには優勝してしまった。1本目でも2本目でも、くるまくんがボケ倒して爆笑をとっていたのを見て、本当によかったなと思いました。

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石田 明(いしだ・あきら)
芸人
1980年2月20日生まれ。大阪府大阪市出身。お笑いコンビ「NON STYLE」のボケ、ネタ作り担当。中学時代に出会った井上裕介と2000年5月にコンビ結成。NHK「爆笑オンエアバトル」9代目チャンピオン、「M‐1グランプリ2008」優勝など、数々のタイトルを獲得。「M‐1グランプリ」では2015年に決勝の審査員を、2023年には敗者復活戦の審査員を務めた。2021年からNSC(吉本総合芸能学院)の講師を務め、年間1200人以上に授業を行っている。

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(芸人 石田 明)

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